児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

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被告の職員である原告が,同じく被告の職員である女性に対し,セクハラ行為をしたことを理由として,処分行政庁から,停職6月の懲戒処分を受けたことについて,原告と当該女性職員は交際関係にあったことから懲戒理由となったセクハラ行為は存在しないこと,本件処分の手続には告知・聴聞の欠如及び懲罰委員会規程に定める手順の不履践等の違法があるとして,本件処分の取消しを求めたが、職場における上司・部下等のその地位を利用した関係に基づく影響力を用いて,本件女性職員の意に反し強いて性的関係を結んだ事実は認められず,本件処分は処分


「本件女性職員は,本件性的関係を結んだ後,原告に対し,前記1(9)認定に係る日常的なやりとりのメール,病院への送迎や金銭の交付を求めるメール,さらに原告の来訪や原告との身体的接触を求めるメールを送信していること,殊に,原告から関係の解消を提案された後も,前記1(11)認定のとおり,原告の来訪や原告との肉体関係を求めるメール及び原告との交際関係の継続を望み,原告への強い愛情を表すメールを毎日大量に送信しているのであって,当該メールの内容は,原告と本件女性職員との交際が,本件女性職員の自由な恋愛感情に基づくものであることを如実に示すものであって,当該メールの内容からは,本件女性職員が,心ならずも肉体関係を持ってしまったことを正当化して,本件性的行為を強いられた自分を納得させる女性特有の心理作用に基づいて原告との交際を継続したなどということは到底うかがえず,他に被告の上記主張を認めるに足りる的確な証拠はない。」という判示がある

【文献番号】25560790

懲戒処分取消請求事件
長野地方裁判所平成28年(行ウ)第8号
平成30年6月29日民事部判決
口頭弁論終結日 平成30年2月7日

       判   決

原告 a
同訴訟代理人弁護士 伊藤浩平
同 伊藤奈々子
被告 駒ケ根市
同代表者兼処分行政庁 駒ヶ根市長 b
同訴訟代理人弁護士 長谷川洋二


       主   文

1 被告に所属する駒ヶ根市長が平成25年9月20日付けで原告に対してした停職6月の懲戒処分を取り消す。
2 訴訟費用は,被告の負担とする。


       事実及び理由

第1 請求
 主文と同じ。
第2 事案の概要
 本件は,被告の職員である原告が,同じく被告の職員である女性に対し,セクハラ行為をしたことを理由として,処分行政庁から,平成25年9月20日付けで,同年9月20日から平成26年3月19日まで停職6月の懲戒処分(以下「本件処分」という。)を受けたことについて,原告と当該女性職員は交際関係にあったことから懲戒理由となったセクハラ行為は存在しないこと,本件処分の手続には告知・聴聞の欠如及び懲罰委員会規程に定める手順の不履践等の違法があるとして,本件処分の取消しを求める事案である。
1 関係法令等の定め
(1)地方公務員法29条
ア 1項
 職員が次の各号の一に該当する場合においては,これに対し懲戒処分として戒告,減給,停職又は免職の処分をすることができる。
1号 この法律若しくは57条に規定する特例を定めた法律又はこれに基く条例,地方公共団体の規則若しくは地方公共団体の機関の定める規程に違反した場合
3号 全体の奉仕者たるにふさわしくない非行のあった場合
イ 4項
 職員の懲戒の手続及び効果は,法律に特別の定がある場合を除く外,条例で定めなければならない
(2)駒ヶ根市職員の懲戒に関する条例(昭和29年12月27日条例第33号。以下「本件条例」という。)
ア 1条(目的)
 この条例は,地方公務員法29条2項及び4項の規定により,職員の懲戒の手続き及び効果に関し規定することを目的とする。
イ 5条(停職の効果)
1項 停職の期間は,1日以上6月以下とする。
2項 停職者は,停職の期間中もその職を保有するが,職務に従事しない。
3項 停職者は,停職の期間中いかなる給与も支給されない。
(3)駒ヶ根市懲戒処分等の指針(以下「本件指針」という。)
ア 基本事項
 本件指針は,職員の非違行為等の懲戒処分又は指導上の措置の量定の標準例をその別表に掲げたものである。
イ 懲戒処分等の種類
懲戒処分
 地方公務員法29条及び本件条例により職員の非違行為に対して懲罰として行う処分。
(ア)免職 勤務関係から排除する処分
(イ)停職 1日以上6月以下の間,職務に従事させない処分
(ウ)減給 6月以下の間,給料の月額の10分の1以下に相当する額を給与から減ずる処分
(エ)戒告 非違行為に係る責任を確認させ,その将来を戒める処分
ウ そして,本件指針の別表では,「1 一般服務」の「(13)セクシュアル・ハラスメント」について,その「非違行為内容」は,「暴行若しくは脅迫を用いてわいせつな行為をし,又は職場における上司・部下等のその地位を利用した関係に基づく影響力を用いることにより強いて性的関係を結び,若しくはわいせつな行為をした」ものとされ,その場合の,「懲戒処分又は指導上の措置の量定の標準例」は,「免職又は停職」と規定されている。
2 前提事実等
 以下の事実は当事者間に争いがないか,括弧内掲記の証拠(以下,書証の枝番号は省略する。)及び弁論の全趣旨により容易に認めることができる。
(1)当事者
ア 原告は,昭和62年4月,被告に採用され,以後,被告職員として,秘書広報課,区画整理課などに所属し,平成22年7月当時は,企画財政課企画振興係長であった。
イ 駒ヶ根市長(処分行政庁)は,原告に対する懲戒処分の処分権者である。
(2)原告に対する本件処分
ア 処分行政庁は,平成25年9月20日,原告に対し,地方公務員法29条1項1号及び3号の規定により,平成25年9月20日から平成26年3月19日まで停職するとの懲戒処分(本件処分)をした。
イ 原告が処分行政庁から交付された処分説明書によれば,本件処分は,原告が,平成22年7月24日,KOMA夏ダンスパレードに参加した際,当時,緊急雇用創出事業による同課臨時職員であった女性職員(以下「本件女性職員」という。)に対して,自宅アパートまで送ると言って,本件女性職員の自宅アパートに上がり込み,本件女性職員に対し性的行為を行い(以下「本件性的行為」又は「本件性的関係」という。),その後,平成23年11月に原告の妻の知るところとなるまで不適切な関係を継続していたものであるが,当該行為は,本件女性職員に対する,職場における上司・部下等のその地位を利用した関係に基づく影響力を用いて,本件女性職員の意に反し強いて性的関係を結んだものと認められ,本件指針のセクシュアル・ハラスメントに関する非違行為の免職又は停職事由に該当するところ,情状酌量の余地もあることから,免職に次ぐ重い処分として,地方公務員法29条1項1号及び3号の規定により,停職6月を課すこととするというものであった(甲2)。
(3)原告の審査請求と駒ヶ根市公平委員会の裁決
 原告は,平成25年11月13日付けで,駒ヶ根市公平委員会に対して審査請求をしたが,同委員会は,平成27年10月27日付けで,原告の審査請求を棄却する旨の裁決をした。
(4)本件訴訟の提起
 そこで,原告は,平成28年4月25日,本件処分の取消しを求めて,本件訴訟を提起した。
3 争点
(1)本件処分の処分理由の有無
(2)本件処分の手続の違法性の有無
4 争点に対する当事者の主張
(1)争点1(本件処分の処分理由の有無)について
〔原告の主張〕
ア 原告は,平成22年7月当時,企画財政課の企画振興係長であり,本件女性職員は,企画財政課の情報推進係であり,係が異なっていたため,原告と本件女性職員は,上司,部下の関係にはなく,実際,原告が,本件女性職員に対して,職務上の指示,命令等をしたことはなかった。また,原告が,本件女性職員の採用等について,被告に対して意見等を述べたことはない。そもそも本件女性職員は,緊急雇用創出事業により被告に雇用されており,同事業は,法令により雇用期間が最大1年と定められているから,平成21年9月1日に採用された本件女性職員は,平成22年8月30日に退職とならざるを得ず,この点について,原告が何らかの影響を及ぼすことは不可能である。
 したがって,原告が,本件女性職員に対して,上司・部下等のその地位を利用した関係に基づく影響力を用いた事実は認められない。
イ 原告と本件女性職員が,平成22年7月24日に本件性的関係を持ち,その後,平成23年11月17日に原告の妻に発覚するまでの間,交際関係を継続したことは事実である。しかし,原告と本件女性職員との上記関係は,本件女性職員の自由な意思に基づく合意の上でのものであり,原告が,職場における上司,部下等のその地位を利用した関係に基づく影響力を用いることにより,強いて性的関係を結んだ事実はない。
ウ したがって,本件処分は,存在しない事実を理由としてされた事実無根のものであるから,明らかに違法であり,取消しを免れない。
〔被告の主張〕
ア 原告は,平成22年7月当時,企画振興係長の地位にあり,本件女性職員は,企画財政課の臨時職員という立場であり,直接的な職務関係という意味では,本件女性職員は原告の直接の指揮系統下にはなかった。しかし,原告は,当時,企画財政課の統括課長という立場にもあり,本件女性職員が所属する課をも統括する地位にあった。また,所属部署の実際の室内の配置においても,本件女性職員の席は,原告の席の隣に位置しており,原告は,常に本件女性職員の職務状況を監視監督し得る立場にあった。さらに,本件女性職員は,臨時職員であって,平成22年8月30日で雇用関係が切れるという極めて脆弱な雇用状況にあった。以上の事実関係に鑑みれば,原告は,本件女性職員に対して,上司・部下等,職場におけるその地位を利用した関係に基づく影響力を用いることのできる事実上の関係にあった。
イ 本件女性職員は,平成22年7月24日の夜,KOMA夏ダンスパレード後の懇親会が終了して帰宅し,トイレに行きたかったことから,自宅の玄関のドアをそのままにしていたところ,原告が勝手にドアを開けて部屋に入ってきて,両肩をつかまれながら,ベッド上に押し倒されたが,職場の上司であるため,かかる状況をきちんと把握できない混乱した中で抵抗したものの,原告から無理矢理に犯されることによって本件性的関係を持ったものである。
 したがって,原告は,本件女性職員の意に反して,強いて性的関係を結び若しくはわいせつな行為をしたことが認められる。
ウ 本件女性職員は,本件性的関係を結んだ後,約1か月後には,原告に対して好意を抱くようになり,原告との交際関係を継続し,原告から毎月4万円程度の金銭の援助を受けるようになった。
 しかし,これは,本件女性職員が,心ならずも肉体関係を持ってしまったことを正当化して,自分は原告から愛されているのだと自ら信じ込ませることによって,本件性的行為を強いられた自分を納得させるための女性特有の心理作用に基づくものであって,本件性的関係が本件女性職員の意思に反したものであることを否定する根拠とはならない。
エ 原告は,この点について,平成22年7月24日の原告と本件女性職員との本件性的関係は合意に基づくものである旨主張する。
 しかし,原告によれば,性的行為の前に本件女性職員はシャワーや風呂に入らなかったというのであるが,本件女性職員が原告に対して好意を抱いていたのであれば,汗にまみれた身体を洗い流すために必ず風呂又はシャワーを浴びるはずであり,これをしないことは性的行為を行う男女間の常識に反するものであり,このことは,原告が,無理矢理,本件性的関係を求めたことを推認させる間接事実である。また,原告によれば,性交直前に「本当にいいの?」と聞いたというのであるが,本件女性職員が原告との性的行為を望んでいたのであれば,原告がわざわざそのような確認をするはずがない。また,原告によれば,本件女性職員からはコンドームの装着等,避妊に関する話が全く出ていないというのであるが,合意に基づく性的行為の場合には,妊娠への不安感からコンドームの装着の要求がされるのが通常であって,本件女性職員から避妊に関する話が出なかったということ自体が,本件性的関係が本件女性職員の意思に反したものであったことを推認させる。さらに,原告によれば,原告は,本件性的行為の後,朝4時頃に帰宅する際に,ベッドにいた本件女性職員に対して鍵を閉めておくように言い,本件女性職員がこれを了解したというのであるが,初めて男女の関係になった女性であれば,好きな男性が部屋を出て行く際に,ベッドに入ったままでいるということは考えられない。
 したがって,原告と本件女性職員との本件性的関係が合意に基づくものであった旨の原告の上記主張は虚偽にほかならない。
(2)争点2(本件処分の手続の違法性の有無)について
〔原告の主張〕
ア 行政手続についても,憲法31条所定の適正手続の保障が及ぶところ,本件処分は,停職6月という重い処分であり,被処分者に甚大な不利益を与えるものであることから,原告に対して,告知と聴聞がされる必要があることは明らかである上,本件では,本件処分の処分理由とされる事実自体に争いがあったのであるから,本件処分に先立ち,原告に対し,予定される不利益処分の内容,不利益処分の原因となる事実(処分理由)及びその根拠について告知した上で,聴聞の機会を十分に保障すべきであった。
 しかるに,原告は,本件処分当日に,処分行政庁から,突然,停職6月の本件処分を告げられたものであり,告知と聴聞がされていないことから,本件処分は,手続的に違法であり,取消しを免れない。
イ 駒ヶ根市職員懲罰委員会規程によれば,同委員会は,駒ヶ根市職員の懲戒処分に関し公正な処理を行うため設置され,委員会の構成は,委員長1人,副委員長1人,委員7人以内とされ,委員長に副市長,副委員長に総務部長を充て,委員は,市職員のうちから市長が任命することとされている(同規程2条)。委員は,職員の服務規律と秩序維持及び職員の懲戒処分に関する事項について,任命権者の諮問により必要な事情調査及び審議に当たることとされ(同規程3条3項,6条),委員長は,必要に応じ関係職員の出席を求め説明又は意見を聴くことができるとされている(同規程7条)。
 しかし,本件において,懲罰委員会は,必要な事実調査をしていない上,2回目の懲罰委員会の開催後,3回目の懲罰委員会開催前に,懲罰委員会外で,本件処分の処分理由とされた事実を認定した。
 このように,本件処分は,駒ヶ根市職員懲罰委員会規程が定める手順を履践せずに行われたものであり,手続的に違法であり,取消しを免れない。
〔被告の主張〕
 否認ないし争う。
第3 当裁判所の判断
1 認定事実
 前記第2の2の前提事実等のほか,証拠(本文中に掲記)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
(1)本件女性職員(■)は,もともと神奈川県内に居住していたが,駒ヶ根市に転居し,平成21年9月1日に,被告に,緊急雇用創出事業にかかる企画財政課の臨時職員として採用された。
 原告は,当時,企画財政課の改革と協働のまちづくり推進室長として在籍し,本件女性職員と席が近かったことから,同人と言葉を交わすことはあったが,特に親しいということはなかった(甲11,23,原告本人)。
(2)原告は,その後,職場の飲み会などで,本件女性職員と,たまたま近くの席に座ることが何度かあり,当初は,世間話をする程度であったが,平成22年に入った頃からは,本件女性職員から,既婚男性と交際していることや,神奈川県から駒ヶ根市に来たのは,当該既婚男性から距離を置きたいとの考えもあったことなど,徐々に,個人的な話もされるようになった(甲11,23,乙27,原告本人)。
(3)原告は,平成22年4月頃からは,本件女性職員から,交際中の既婚男性のことや,駒ヶ根市での生活のことなど,プライベートな相談を受けるようになり,同年5月頃からは,職場の飲み会の際には,ほぼ毎回,本件女性職員が隣に座ってプライベートな話をするなど,次第に親しくなっていった(甲11,23,乙27,原告本人)。
(4)原告及び本件女性職員は,平成22年6月28日,職場の飲み会に参加した。
 飲み会が終了したのが午後11時頃であったことから,原告は,同じ課の男性職員とともに,本件女性職員を自宅まで送ったところ,上記男性職員が,本件女性職員の部屋を見たいと言い出し,本件女性職員がこれを了解したことから,原告及び男性職員は,本件女性職員の自宅に入って,10分程世間話をしてから,辞去した。
 原告は,本件女性職員の自宅を辞去して上記男性職員と別れた後,本件女性職員ともう少し話をしたいと考え,再び,本件女性職員の自宅を訪ねたところ,本件女性職員は原告を招き入れた。
 原告と本件女性職員は,隣り合い,肩と肩が触れ合うようにして座り,飲み物を飲みながら,仕事のことや生活のことなどを話しているうちに,自然と,どちらからともなく接吻を交わした(甲11,23,乙27,原告本人)。
(5)前記(4)の接吻を交わした日以降,原告と本件女性職員は,それまで以上に話をする頻度が増すなど,親密さを深めていき,平成22年7月初め頃からはメールのやり取りもするようになり,原告が自宅にいる時間などにも本件女性職員からメールが入るようになった(甲23,原告本人)。
(6)原告及び本件女性職員を含む被告の職員は,平成22年7月24日,駒ヶ根市の市民夏祭りである「KOMA夏」のダンスパレードに参加し,パレード終了後,職場の飲み会が三次会まで行われたが,原告と本件女性職員とは,一次会の途中から三次会が終了するまで隣に座って話をしていた。
 三次会が午後11時頃に終了したことから,原告は,本件女性職員を自宅まで送ったところ,本件女性職員から,「寄っていきませんか」と自宅に招き入れられた。
 原告と本件女性職員は,身体が触れ合うように隣り合って座り,缶ビールを飲みながら話をする中で,どちらからともなく自然に接吻を交わし,その後,本件性的関係を持った。なお,原告は,妻子があることもあってか,本件性的行為をする前に,本件女性職員に対して,「本当に良いの。」と尋ねたが,本件女性職員はうなずき,本件性的行為を受入れた(甲11,23,乙10,27,原告本人)。
(7)原告と本件女性職員とは,本件性的関係を持った後,互いに,原告を「aくん」と,本件女性職員を「■」と呼び合うようになり,また,本件女性職員は,原告に対し,以前より頻繁にメールを送信するようになり,同年8月初旬以後は,日に数件,多いときには日に数十件のメールを送信するようになった。
 原告は,職場の飲み会や出張があるときなど,遅い時間に帰宅しても問題がない日を中心に,月に数回程度,本件女性職員の自宅を訪れ,性的関係を持った(甲6,11,23,原告本人)。
(8)本件女性職員は,平成22年10月,教育委員会に異動となり,原告と職場が離れ,原告のスケジュールが把握できなくなったことから,原告に対し,スケジュールを予め知らせるとともに,本件女性職員の自宅に寄れそうな日を知らせるよう求めるようになった(甲11,23,乙27,原告本人)。
(9)本件女性職員は,平成22年11月頃,前記(2)の交際中の既婚男性と別れたことから,原告に対し,いつでも本件女性職員の自宅に来てほしいからと述べて,自宅の鍵を渡した。
 原告は,本件女性職員の自宅の鍵を受け取ってからは,従前よりも頻繁に本件女性職員の自宅を訪れるようになり,その際は,ほぼ毎回性的関係を持った。
 また,原告は,本件女性職員を経済的に援助するために,毎月4万円ないし5万円程度の金銭を渡した。
 この間,原告と本件女性職員とは,平成23年1月には,安曇野方面に1泊2日の旅行をした。
 そして,本件女性職員は,原告に対して,〔1〕「朝ごはん食べ終わったよ aくんは今日は何をするの?」,「君に日本酒をかったよ」,「妻籠宿いいね aくんと一緒に行こうね」,「aくん,何してる?」,「■はaくんに甘えたいの」,「aくんも早く隣に来てね おやすみ」などと,日常的なやりとりのメール,〔2〕「3時に病院へ行くので迎えに来てくれる?」,「aくんはストーブ(判決注:原告の妻を意味する。)に贅沢させるためや手抜きして楽させるために,苦労して稼いだお金渡してるの?どぶに捨てた方がマシだよ」,「aくんはかつて2ヵ月も■に未納なんだからね ストーブを優先して。ストーブにはそんなに渡す必要がないのに。その分をストーブの方から引いといてください。年末に10万持っていかないといけないのだから。」などと,病院への送迎や金銭の交付を求めるメール,〔3〕「早く一緒に寝ようね」,「■…先に寝るけど 早くとなりに来てね」,「湯タンポ抱いて暖まっても暖まらないんだよ ■一人では 早くとなりに来てね」などと,原告の来訪や原告との身体的接触を求めるメールを送信するなどした(甲6,11,23,乙27,原告本人)。
(10)ところが,平成23年11月17日,原告の妻が,原告の携帯電話のメールの内容を見たことから,原告の妻に原告と本件女性職員との関係が発覚した。
 原告は,本件女性職員に対し,原告の妻に本件女性職員との関係が発覚したことから,今後,関係を続けていくことはできない旨述べた。しかし,本件女性職員は,原告に対し,妻と別れて本件女性職員と一緒になるよう要求し,原告が妻と別れることはできないと回答すると,原告の自宅に行って原告の妻と話をするなどと述べた(甲11,23,乙10,27,原告本人)。
(11)本件女性職員は,原告から関係の解消を提案されて以後,精神的に不安定となって,そのような精神状態であることを原告に示したり,その原因が原告にあるとして原告を非難するなどした。
 その一方で,本件女性職員は,原告に対し,〔1〕「一緒に眠ってね 早く隣に来てさっきみたく抱きしめてね」,「aくん愛しています」,「aくん,■と一緒に寝てください。早く隣に来てね」,「■はaくんがいないと眠れないんだよ。ストーブは■があまりにも本気で、aくんも今までの浮気とは違ってaくんを取られそうで,今まで二人の関係をよくすることに何の努力もしてこなかったくせに,これからの生活のためにaくんにすがりつくストーブが許せない。」,「一緒に寝てほしい。一緒にいたい。何でもいつも話していたい。」,「一緒に暮らさせて。お願いします。」,「抱きしめてください」,「抱きしめてね 一緒に眠ってね」などと,原告の来訪や原告との肉体関係を求めるとともに,原告の妻を非難するメール,〔2〕「aくんと生きてきた時間が■の中で一番充実して輝いていた時間です」,「今,この時も一緒に居たいです。aくんのそばに…」,「ただ…ただ aくんの傍にいたいのです 一緒に居たいのです どうしてこんなにも一緒に居たいのかは自分でもわかりません。愛しているから…それは間違いのない変えがたい事実なのですが」,「aくんなしに,楽しいことはないし 幸せなんてないんだよ。一緒にいたい。」,「■も野尻湖にaくんと一緒に行きたかった ストーブとは会話やメールしないでね」,「本当のaくんでずっといてくれれば■に接してくれれば,こんなにならなくてすんだのにね 時々 現れる本当のaくんがもっとたくさんの時間になってほしいです。昨日と今日は きっと精一杯で対応してくれたのだと信じています。」,「aくんを 信じて 愛したのがそんなに悪いことだとは今でも思ってないよ。愛に満たされた素敵な時間だったよね」などと,原告との交際関係の継続を望み,原告への強い愛情を表すメール,〔3〕「一月の超詳細の予定表を作成ください。(一時間刻みの表) そして,10日くらいまではお手数ですが先にメールにて頑張ってうってください。■のことを大事に思ってくれてるというならそれくらい何でもないことでしょう。」,「予定表来ない」,「10日まではお手数ですが携帯メールで打ち込んで送ってくださいね」などと,原告の詳細なスケジュールを求めるメールを,毎日,大量に送信した(甲6,11,23,乙27,原告本人)。
(12)本件女性職員は,平成23年12月以後,3回程,原告の自宅を訪れ,裏庭に座り込んだり,原告宅に住むことを求めて居座ろうとしたり,原告の妻と離婚して本件女性職員との関係を継続することを要求したりするなどした。 
 また,本件女性は,平成24年1月28日及び29日の2日間に,原告の携帯電話に約80回電話をかけ,また,原告の妻の携帯電話や原告の自宅の固定電話にも,深夜から早朝まで電話をかけ続けたりするようになった(甲7,11,23,乙11,27,原告本人)。
(13)原告は,平成24年2月,原告訴訟代理人弁護士に対して,本件女性職員との関係について相談し,同弁護士は,同月8日,本件女性職員に対し,受任通知を発送し,今後は,原告への直接の連絡や訪問は差し控えるよう連絡した(甲8,11)。
(14)被告は,平成24年2月16日付けで,本件女性職員の母親から,本件女性職員が原告から力づくで肉体関係を結ばされたとの内容の書面を受領した。
 そこで,被告は,原告,本件女性職員,同人らの当時の同僚から事情を聴取した。
 原告は,当初から一貫して,本件女性職員とは,双方の自由な意思に基づく合意の上での性的関係であったと説明した。これに対して,本件女性職員は,原告から強引に本件性的関係を結ばれ,その後,何度も関係解消を提案したが,原告からはうまく関係を継続させられたなどと説明した。
 また,原告及び本件女性職員の当時の同僚は,「2人は間違いなくつきあっていたように見えた。2人でいる時は楽しそうにしていたので,関係があったことは薄々承知していた。二人には,やめたほうがよいと忠告していた。自業自得ではないでしょうか。」などと述べた(甲9~11,18,乙9)。
(15)本件女性職員は,平成24年9月頃,原告を被疑者として強姦罪の被害届を提出し,その後,刑事告訴をしたが,長野地方検察庁飯田支部検察官は,平成25年5月20日,原告に対する強姦被疑事件については,嫌疑不十分を理由として不起訴処分とした(甲5)。
(16)本件女性職員は,平成25年2月,原告を相手方として,原告の本件女性職員に対する本件性的行為が強姦又は本件女性職員の意思に反するものであることなどを理由として損害賠償を求める訴訟を提起した(長野地方裁判所飯田支部平成27年(ワ)第6号損害賠償請求事件)。
 同裁判所は,平成28年10月11日,本件性的関係を持った後の本件女性職員と原告の関係は,自由な恋愛感情による交際関係ということができ,本件性的関係についても,本件女性職員の意思に反してされたものではない旨判示して,本件女性職員の請求を全部棄却する旨の判決をし,同判決は,同月28日,確定した(甲21,22)。
(17)処分行政庁は,原告が,平成22年7月24日,KOMA夏ダンスパレードに参加した際,本件女性職員に対して,自宅アパートまで送ると言って,本件女性職員の自宅アパートに上がり込み,本件女性職員に対し本件性的関係を結び,その後,平成23年11月に原告の妻の知るところとなるまで不適切な関係を継続したが,当該行為は,本件女性職員に対する,職場における上司・部下等のその地位を利用した関係に基づく影響力を用いて,本件女性職員の意に反し強いて性的関係を結んだものと認められ,本件指針のセクシュアル・ハラスメントに関する非違行為に該当するとして,平成25年9月20日,原告に対し,平成25年9月20日から平成26年3月19日まで停職するとの本件処分をした(甲2)。
2 争点1(本件処分の処分理由の有無)について
(1)前記1認定の事実によれば,平成22年7月24日の本件性的行為及びその後の原告と本件女性職員との性的関係の継続は,いずれも原告と本件女性職員との間の自由な意思に基づく合意の上で行われたものというべきであるから,原告が,職場における上司・部下等のその地位を利用した関係に基づく影響力を用いて,本件女性職員の意に反し強いて性的関係を結んだものということはできない。
 したがって,本件処分は,処分理由を欠く懲戒処分であって,違法というほかない。
(2)被告の主張について
ア 被告は,本件女性職員は,平成22年7月24日の夜,KOMA夏ダンスパレード後の懇親会が終了して帰宅し,トイレに行きたかったことから,自宅の玄関のドアをそのままにしていたところ,原告が勝手にドアを開けて部屋に入ってきて,両肩をつかまれながら,ベッド上に押し倒されたが,職場の上司であるため,かかる状況をきちんと把握できない混乱した中で抵抗したものの,原告から無理矢理に犯されることによって本件性的関係を持ったものである旨主張し,証拠(甲10,11,13,乙3,7,9,12,20,22)中には同主張に沿う部分がある。
 しかし,本件性的関係を持った経緯は,前記1(1)ないし(6)認定のとおりであって,前記1(7)認定のとおり,原告と本件女性職員とは,本件性的関係を持った後,互いに,原告を「aくん」と,本件女性職員を「■」と呼び合うようになったこと,前記1(9)認定のとおり,本件女性職員は,平成22年11月頃,いつでも自宅に来てほしいからと述べて,原告に対して,自宅の鍵を渡し,平成23年1月には,原告と安曇野方面に1泊2日の旅行に出掛け,その間,本件女性職員から原告に対して,前記1(9)認定に係る日常的なやりとりのメール,病院への送迎や金銭の交付を求めるメール,さらに原告の来訪や原告との身体的接触を求めるメールを送信していること,さらに,前記1(11)認定のとおり,本件女性職員は,原告から関係の解消を提案された後も,原告の来訪や原告との肉体関係を求めるメール及び原告との交際関係の継続を望み,原告への強い愛情を表すメールを毎日大量に送信しており,これらの事実は,本件性的関係が本件女性職員の意思に反することとはそごするものというべきである。この点を考慮すれば,被告主張に沿う上記証拠部分は,反対証拠(甲10,11及び18のうち原告供述部分,乙10,11及び27のうち原告供述部分,甲23,原告本人)に照らして措信し難く,他に被告の上記主張を認めるに足りる証拠はない。
イ 被告は,本件女性職員は,本件性的関係を結んだ後,約1か月後には,原告に対して好意を抱くようになり,原告との交際関係を継続し,原告から毎月4万円程度の金銭の援助を受けるようになったが,これは,本件女性職員が,心ならずも肉体関係を持ってしまったことを正当化して,自分は原告から愛されているのだと自ら信じ込ませることによって,本件性的行為を強いられた自分を納得させるための女性特有の心理作用に基づくものであって,本件性的関係が本件女性職員の意思に反したものであることを否定する根拠とはならない旨主張する。
 しかし,本件女性職員は,本件性的関係を結んだ後,原告に対し,前記1(9)認定に係る日常的なやりとりのメール,病院への送迎や金銭の交付を求めるメール,さらに原告の来訪や原告との身体的接触を求めるメールを送信していること,殊に,原告から関係の解消を提案された後も,前記1(11)認定のとおり,原告の来訪や原告との肉体関係を求めるメール及び原告との交際関係の継続を望み,原告への強い愛情を表すメールを毎日大量に送信しているのであって,当該メールの内容は,原告と本件女性職員との交際が,本件女性職員の自由な恋愛感情に基づくものであることを如実に示すものであって,当該メールの内容からは,本件女性職員が,心ならずも肉体関係を持ってしまったことを正当化して,本件性的行為を強いられた自分を納得させる女性特有の心理作用に基づいて原告との交際を継続したなどということは到底うかがえず,他に被告の上記主張を認めるに足りる的確な証拠はない。
ウ 被告は,本件性的関係が原告と本件女性職員との合意に基づくものであれば,本件性的行為の前に本件女性職員がシャワーや風呂に入らないはずがないこと,原告が性交直前に「本当にいいの?」とわざわざ確認するはずがないこと,妊娠への不安感のため本件女性職員から避妊に関する話が出るはずであること,本件性的行為の後,原告が部屋を出て帰宅する際に,本件女性がベッドに入ったままでいるということは考えられないことから,原告と本件女性職員との本件性的関係が合意に基づくものであった旨の原告の主張は虚偽である旨主張する。
 しかし、原告主張に係る上記の各点は,いずれも,本件性的行為が,原告と本件女性職員との間の自由な意思に基づく合意の上で行われたことと必ずしも矛盾・そごするものではなく,ひいては,本件性的行為が本件女性職員の意思に反するものであることを推認するに足りる事情ということもできない。 
エ したがって,被告の前記アないしウの各主張はいずれも採用することができない。
(3)以上によれば,原告が,職場における上司・部下等のその地位を利用した関係に基づく影響力を用いて,本件女性職員の意に反し強いて性的関係を結んだ事実は認められず,本件処分は処分理由を欠く違法なものである。
 したがって,その余の争点について検討するまでもなく,本件処分は取消しを免れない。
3 結論
 よって,原告の本訴請求は理由があるから,主文のとおり判決する。
長野地方裁判所民事部
裁判長裁判官 田中芳樹
裁判官林由希子及び裁判官有本祥子は,転勤のため,署名押印することができない。
裁判長裁判官 田中芳樹