児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

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貸室の賃貸人である原告が、被告に対し、被告が、貸室で違法な撮影を行い、警察による家宅捜索がなされるなどしたため、貸室の新たな賃借人が決まらないなどして、不法行為に基づく損害賠償及び民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案(東京地裁H29.11.30)

被告は、本件貸室において、違法撮影をしたことや違法な児童ポルノDVDが押収されたことを否認しており、本件貸室において家宅捜索が行われたことから、違法な児童ポルノDVDが大量にあったと推認することはできず、本件貸室から違法な児童ポルノDVDが押収されたことを裏付ける客観的な証拠はない。その他、原告が指摘する点を考慮しても、被告が、本件貸室において、違法な撮影行為を行っていたことを認めるに足りる証拠はない。また、被告が、本件貸室の使用に当たり、違法行為を行ったことを裏付ける具体的な証拠はなく、本件貸室で警察による家宅捜索がなされたことや被告が逮捕されたこと自体、違法な行為とは認められない。とのことです

文献番号】25550504
賃貸契約違法行為による損害賠償請求事件
平成29年11月30日民事第13部判決
口頭弁論終結日 平成29年10月12日
       判   決
原告 a
被告 b
同訴訟代理人弁護士 白川久雄
       主   文

1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。


       事実及び理由

第1 請求
 被告は、原告に対し、433万5120円及びこれに対する平成29年5月18日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
1 本件は、貸室の賃貸人である原告が、被告に対し、被告が、貸室で違法な撮影を行い、警察による家宅捜索がなされるなどしたため、貸室の新たな賃借人が決まらないなどして、不法行為に基づく損害賠償及び民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
2 前提事実
(1)原告は、平成18年2月、有限会社cとの間で、東京都渋谷区α△丁目△△-△所在のd△△△号室(以下「本件貸室」という。)の賃貸借契約を締結し、有限会社cに本件貸室を引渡した(甲2の1)。
(2)有限会社cは、平成18年6月15日、株式会社c(以下「c」という。)に商号変更した(甲9)。
(3)cは、平成28年7月30日、本件貸室を退去した。
3 争点及び当事者の主張
(1)被告の違法行為
【原告の主張】
ア 被告は、本件貸室を写真撮影スタジオに改造し、平成18年3月ころから平成22年4月ころまでの4年間にわたり、違法撮影(アダルトビデオ・DVD等)を行っていた。
イ 平成28年5月、本件貸室を含めた3室において、警察による家宅捜索が行われ、本件貸室内において大量の違法な児童ポルノDVDが発見された。これに関連して、被告やcの代表取締役eは、逮捕勾留され、上記事件は、新聞・雑誌などで報道された。これらの経緯等は、インターネットで検索することができる。
ウ cは、平成28年7月30日、本件貸室を退去し、近くのスタジオに移転した。
エ 原告は、平成28年8月から、本件貸室のテナント募集を行っていたが、同年12月中旬ころまで、賃借人が決まらなかった。
オ 平成28年12月21日、本件貸室の入居者が決まり、原告は入居予定者と賃貸借契約を締結した。入居予定者は、平成29年1月13日に入居する予定であったが、同月12日、原告に対し、解約通知をして入居せず、原告との間の賃貸借契約を解約した。入居予定者は、年商30億円を超える会社であったが、本件貸室に関連する上記事件を知って、対外的な信用も考慮し、本件貸室に入居することを断念し、解約するに至った。
カ 平成29年5月に至っても、本件貸室への賃借人は未だ決まらず、その見込みもない。
【被告の主張】
ア 被告は、本件貸室において、平成18年3月から平成22年4月までの間、違法撮影をしたことはない。被告は、当時、芸能プロダクションを経営し、撮影やDVDなどの作品製作は一切していない。
イ 本件貸室で、大量の違法な児童ポルノDVDが摘発されたことはなく、押収されたのは、パソコンや所属モデルの書類などであった。
(2)原告の損害
【原告の主張】
ア 本件貸室の賃料は、月額36万1260円である。
イ 被告の違法な行為により、本件貸室の新たな賃借人から解約されるに至り、未だ、本件貸室への入居者が決まらないことから、原告は、平成29年1月分から同年12月分までの合計433万5120円(36万1260円×12か月分)の損害を被っている。
【被告の主張】
ア 株式会社タガミサンビューティ(以下「タガミ」という。)が本件貸室の賃貸借契約を解約した理由が、本件貸室での平成28年6月の一連の騒動であったとしても、一般的に、本件の一連の騒動は、それを知った借主が賃貸借契約を解約するに至るまでの理由とはならないというべきであり、同社による賃貸借契約の解約による損害は、被告が労働者派遣法違反被疑事実により逮捕されたこととの間に因果関係はない。
イ 本件の一連の騒動について、当時のテレビやインターネットなどでの報道内容をみると、被告らが所属モデルに対してアダルトビデオへの出演強要をしたということをことさらに強調した内容であるところ、実際にはそのような出演強要の事実など一切ない。事後的にこのような報道などのためにタガミが賃貸借契約を解約し、仮に原告に損害が生じたとしても、相当因果関係はない。
ウ 原告は、タガミから賃料4ヶ月分の違約金を受領し、平成29年9月2日の時点で、本件貸室に新たな賃借人が入居していることから、原告に損害は発生していない。
第3 当裁判所の判断
1 証拠(甲1ないし14,乙1ないし4、枝番を含む。)及び弁論の全趣旨によると、次の事実を認めることができる。
(1)cは、芸能プロダクションの経営を目的とする株式会社であり、本件貸室を事務所として使用していた。
(2)平成19年10月12日、被告が代表取締役を務める株式会社f(以下「f」という。)が、本件貸室を使用するようになり、原告から、その旨の許可を得ていた(甲5)。
(3)平成28年5月中旬ころ、本件貸室、d○○○号室及び□□□号室において、警察による捜索差押が行われた。
(4)平成28年6月、被告やcの代表取締役のeは、逮捕された。被告の被疑事実は労働者派遣法違反であった。
(5)そのころ、被告が逮捕されたことに関して、所属モデルの女性をアダルトビデオの撮影に派遣したなどとの報道がなされた。
(6)cは、平成28年7月30日、本件貸室を退去した。
(7)原告は、平成28年8月から、本件貸室のテナント募集を行った。
(8)タガミは、平成28年11月ころ、店舗移転を計画し、物件を探していたところ、本件貸室を紹介された。
(9)原告は、平成28年12月21日、タガミとの間で、本件貸室を次の内容で賃貸する旨の賃貸借契約を締結した(甲6の1)。
ア 賃貸借期間 平成29年1月13日から平成31年1月12日まで
イ 解約予告 3ヶ月前
ウ 賃料 月額30万円(別途消費税)
エ 敷金 90万円
オ 償却 1年未満の解約時は賃料の1ヶ月分(別途消費税)
カ 特約条項
(ア)本契約開始日は平成29年1月13日であるが、賃料発生は平成29年2月1日からとする。ただし共益費と光熱費は平成29年1月13日より発生する。
(イ)初回契約期間未満にタガミの都合により解約・解除となった場合には、免除したフリーレント中の賃料相当額を違約金としてタガミは原告に支払うものとする。
(10)タガミは、平成29年1月初めころ、本件貸室の前の賃借人がfであり、平成28年6月ころの騒動の当事者であることを知って、社内で協議し、その騒動から日が浅いうちに本件貸室に支店を移転するのはどうかとの意見が出て、賃貸借契約を解約することとし、平成29年1月12日、原告に対し、解約通知をして入居しなかった(甲6の2)。
(11)原告とタガミは、平成29年1月12日、次のとおり、本件貸室の賃貸借契約について、次のとおり合意した(甲6)。
ア タガミの要望により、下記の精算明細にて即時解約を行うことを原告は承諾する。契約時に預託された敷金90万円は精算に充て、原告はタガミに返還しないものとする。タガミは、精算時不足金額12万8345円を平成29年1月20日までに原告の口座に振り込むものとする。
イ 敷金90万円
清算金102万8345円
内訳 3月分賃料 32万4000円(税込)
   3月分共益費 3万7260円(税込)
   4月1日から12日の賃料 12万9600円(税込)
   4月1日から12日の共益費 1万4904円(税込)
   早期解約による償却32万4000円(税込)
   フリーレント違約金 19万8581円(税込)
   ※1月13日から1月31日まで賃料相当額
不足額 12万8345円(税込)
(12)タガミは,平成29年1月20日ころ、前記(11)の合意に基づき、12万8345円を支払った。
(13)原告は、平成29年7月、本件貸室の賃貸借契約を締結し、賃借人が本件貸室に入居した。 
2 争点(1)(被告の違法行為)について
(1)原告は、被告が、本件貸室を写真撮影スタジオに改造し、平成18年3月ころから平成22年4月ころまでの4年間にわたり、違法撮影(アダルトビデオ・DVD等)を行っていたなどと主張し、本件貸室のあるビルの管理人であるgの陳述書(甲11)を証拠として提出する。その陳述書の内容は、平成28年5月23日に警察署の摘発があり、本件貸室で刑事の家宅捜索があり違法な児童ポルノDVDが大量に見つかり押収されるのを目撃したというものであり、前記認定事実によると、本件貸室において、家宅捜索が行われたことが認められる。
 しかし、被告は、本件貸室において、違法撮影をしたことや違法な児童ポルノDVDが押収されたことを否認しており、本件貸室において家宅捜索が行われたことから、違法な児童ポルノDVDが大量にあったと推認することはできず、本件貸室から違法な児童ポルノDVDが押収されたことを裏付ける客観的な証拠はない。その他、原告が指摘する点を考慮しても、被告が、本件貸室において、違法な撮影行為を行っていたことを認めるに足りる証拠はない。また、被告が、本件貸室の使用に当たり、違法行為を行ったことを裏付ける具体的な証拠はなく、本件貸室で警察による家宅捜索がなされたことや被告が逮捕されたこと自体、違法な行為とは認められない。
(2)そうすると,その余の点を検討することなく、原告の請求には理由がない。
3 結論
 よって、主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第13部
裁判官 西野光子