児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

今井將人「強制わいせつ及び強姦の犯行状況を隠し撮りしたデジタルビデオカセットが「犯罪行為の用に供した物」に該当するとして没収した事例最高裁平成30年6月26日決定(裁判所ウェブサイト登載)」捜査研究2018年9月号p2

 撮影行為はわいせつ行為、児童ポルノ製造はわいせつ行為で、観念的競合でどうですか?
 強制わいせつ罪(176条後段)と児童ポルノ製造の判例では、強制わいせつ行為(176条後段)と撮影行為とは通常伴わないと言われています。次にさわって撮影という強制わいせつ罪(176条後段)を受けたら、単一性欠くという主張しますよ。

今井將人「強制わいせつ及び強姦の犯行状況を隠し撮りしたデジタルビデオカセットが「犯罪行為の用に供した物」に該当するとして没収した事例最高裁平成30年6月26日決定(裁判所ウェブサイト登載)」捜査研究2018年9月号p2

(2) また,第一審判決で, 「このような被告人による隠し撮りは, Bら4名に対する実行行為そのものを構成するものでなく, もとより被告人がこうした隠し撮りを行ったことをもって訴追されたわけでもない」とされているように,本件では,撮影行為自体は実行行為の一部とされていなかった。
しかし,事案によっては,わいせつ行為等を撮影する行為自体も,強制わいせつ等の実行行為の一部として評価し,公訴事実に含めることが可能であると考えられるところであり9),例えば,直接身体に触れなくても,被害者を裸にして写真を撮る行為が,わいせつな行為に当たるとした裁判例(東京地判昭和62年9月16日判例時報12糾号143頁),被害者の寝姿をビデオ撮影しながら自慰行為を行い着衣に精液をかけた一連の行為について準強制わいせつ罪の成立を認めた裁判例(福岡地判平成13年10月17日警察公論第58号第1巻59頁。),婦人科医が,患者3名に対して, 同人らが治療に必要な診察のみを受け,それ以外の行為を受けることはないと誤信して抗拒不能の状況にあるのに乗じ, 同人らにわいせつな行為をしようと考え,診察室において,看護師の立ち会いのない診察時に,下半身の衣類を脱いで, 同室の内診台に仰向けに寝て開脚し,抗拒不能の状況にある同人らに対し, 同人らの同意なく,無断でその陰部をデジタルカメラで撮影した行為について,準強制わいせつ罪の成立を認めた裁判例(東京高判平成21年4月30日・公刊物未登載)などが参考になると思われる。
その上で,撮影行為自体が実行行為の一部と認められる場合には,撮影に用いたデジタルカメラ等は, 「犯罪行為の用に供し」た物であり,撮影されたデジタルビデオカセット等の記録媒体は,刑法19条1項3号の「犯罪行為により生じ」た物であるとして, これらを没収することができると考える余地もあり得ると思われる'0)。
9) 前掲中村・149~152頁は,撮影行為と強制わいせつ罪・強姦罪の犯罪行為との関係について詳述しており,本件についても,隠し撮りをする行為について,その他の被告人による一連の行為と相まって強制わいせつ罪におけるわいせつ行為と評価し得るものに至っているものとして,審判の俎上に載せる余地があったことなどを指摘しており,実務上参考となると思われる。
10) 前掲中村・156頁参照。

中村功一「強姦・強制わいせつの犯行状況等を隠し撮りして録画されているデジタルビデオカセットについて、犯罪行為の用に供した物として没収した事例〔宮崎地方裁判所平成27年12月1日判決・控訴中・公刊物未登載〕」警察学論集69巻2号p1451 撮影行為と強制わいせつ罪・強姦罪の犯罪行為との関係(1)刑法第19条第1項は、第1号において、犯罪行為を組成した物(犯罪組成物件)、第2号において、犯罪行為の用に供し、又は供しようとした物(犯罪供用物件)、第3号において、犯罪行為によって生じ(犯罪生成物件)、若しくはこれによって得た物(犯罪取得物件)又は犯罪行為の報酬として得た物、第4号において、第3号に掲げる物の対価として得た物を、それぞれ没収の対象として規定している。
本判決は、被告人が撮影して録画された本件各デジタルビデオカセットについて、犯罪供用物件にゝl`たるとして没収を認めたものであるが、没収の対象となるか否かを検討する前提として、まず、撮影行為と強制わいせつ罪・強姦罪の犯罪行為との関係を考えてみることとする。
(2)強制わいせつ罪や強姦罪の犯人が、被害者に対するわいせつ行為や姦淫行為を撮影しつつ、被害者に対し、抵抗するなどしたときは撮影した画像をばらまくなどと申し向けたような場合には、その撮影行為は、強制わいせつ罪や強姦罪における脅迫行為の一部であるとも言い得る。
また、裸にして写真を撮影する行為が強制わいせつ罪におけるわいせつ行為に当たるとされた裁判例2.があるとおり、撮影行為が、強制わいせつ罪におけるわいせつ行為3)に当たることもあるものと考えられる。
ただ、強姦罪の犯人が、その犯行状況、すなわち被害者を姦浮する状況を撮影した場合、その撮影行為は、強制わいせつ罪におけるわいせつ行為に当たり得るとしても、強姦罪における姦淫行為に当てはまるとは言えないであろう。
もっとも、同一の被害者に対して接着して強制わいせつ行為と強姦行為が行われた場合には、両者を包括して強姦の一罪が成立すると解されること4りに照らすと、強姦罪の犯人が、その犯行状況、すなわち被害者を姦浮する状況を撮影した場合において、その撮影行為が強制わいせつ罪におけるわいせつ行為に当たるときは、「可―の被害者に対して同時に強制わいせつ行為と強姦行為が行われたものであって、撮影行為についても、これらを包括して成立すると解される強姦の一罪の犯罪行為の一部として、公判における審理・判決の対象とすることができると考えてよいように思われる。
実際に発生している強姦事案を見ると、姦淫行為に様々なわいせつ行為が伴うことが多いと思われ、実務上、姦淫行為に加ぇて他のわいせつ行為をした事実が認められる事案であっても、公訴事実や罪となるべき事実において、あえてこのようなわいせつ行為を摘示することまではせず、姦淫の事実のなを摘示する場合が多いと思われる。
これは、姦淫の事実のみを摘示し、その他のわいせつ行為は重要な情状として評価すれば、適切に量刑をすることができるとの考えからであると思われ、これrl体は、実務上の取扱いとして、今理的であって妥当であると思われるが、理論上は、姦淫行為が存在し、これが強姦罪に当たると評価されることによって、その同一の機会になされたわいせつ行為、とりわけ、姦淫行為に必然的に伴うものではなく、姦淫行為に包含されるとはいえないようなわいせつ行為について、犯罪行為として評価することができなくなるというわけではないと解される。
例えば、裁判の結論に影響するのであれば、そのようなわいせつ行為も、起訴状の公訴事実として記載して公判における審理の対象に含まれるものとして明示し、判決の罪となるべき事実にも摘示することが必要となる場合が、実務的にもあり得よう。
(3)問題は、本件のように、犯行状況を隠し撮りした場合、すなわち、被害者が撮影されていることを認識していない場合である。
被害者の裸体の単なる隠し撮りについては、一般に、強制わいせつ罪におけるわいせつ行為には当たらず、盗撮を禁止する地方公共団体の条例違反5'や、のぞき見を処罰する軽犯罪法違反6)に当たるとされている。
もっとも、人の心神喪失若しくは抗拒不能に乗じ、又は心神を喪失させ、若しくは抗拒不能にさせて行ったわいせつ行為については、準強制わいせつ罪として処罰することとされ(刑法第178条第1項)、被害者が、被害時(犯人の側から言うと、行為時)には、わいせつ行為の被害に遭っていることを認識していない、ないし認識することができない状態であっても準強制わいせつ罪が成立し得ることからすると、被害者の裸体の隠し撮りにおいて、被害者が撮影されていることを認識していないことは、わいせつ行為に当たらない根拠となるわけではないと思われる。
そうすると、仮に、被害者の裸体の単なる隠し撮りがわいせつ行為に当たらないとするのが正当であるとするならば、その根拠は、撮影行為のみでは、カメラという機械を通じてではあるし、画像という記録が残るわけではあるが、単に、既に裸体となっている姿を見るという範時にとどまる限り、この行為単独では強制わいせつ罪におけるわいせつ行為'1と評価されるにまでは至っていないからであるというところに求められると思われる8'。
そして、隠し撮りを含め、撮影行為は、着衣を脱がせて裸にするなどの他のわいせつ行為と併せて行われることによって、強制わいせつ罪におけるわいせつ行為に該当し得ることになるものと考えられるのであるり。
(4)もちろん、強制わいせつ罪や強姦罪の犯人がその犯行状況を隠し撮りをする行為が、強制わいせつ罪におけるわいせつ行為に者たるかどうかの判断に当たっては、強制わいせつ罪における性的意図の要否及びその内容についてどのような見解に立つかにもよるが、そのような隠し撮りをすることについての被告人の意図等についても、別途検討する必要があろう。
本判決は、被告人が犯行状況を隠し撮りをした目的について、「録画を行った被告人の意図については、自己の性的興奮を高めることなど、検察官が主張するような事情も、可能性としてはあり得る」としたにとどまり、「被害者らとの間で後に紛争が生じた場合に、本件各デジタルビデオカセットをその内容が自らにとって有利になる限度で証拠として利用することを想定していた」との限度でのみ認定しており、隠し撮りをした行為について、「Bら4名に対する実行行為そのものを構成するものでなく、もとより被告人がこうした隠し撮りを行ったことをもって訴追されたわけでもない」としているとおり、公判における審理・判決の対象とはされなかったようである証拠関係を承知していない立場で軽々しく断ずることはできないが、本件において、被告人は、既に裸になった被害者を単に撮影したに過ぎないというにとどまらない。
本件犯行に当たって、被告人の指示により被害者を裸にさせて施術台に横たわらせ、アイマスクを着用させていた上、撮影行為とともに、被害者の乳房を直接もむなどのわいせつ行為や、姦淫行為に及ぶなどしていたのである。
そうすると、そのような隠し撮りをする行為について、その他の被告人による一連の行為と相候って強制わいせつ罪におけるわいせつ行為と評価し得るものに至っているものとして10'、審判の俎上に上げ、そのように認定する余地もあったように感じられる。
3 犯罪生成物件該当性について本件各デジタルビデオカセットは、犯罪供用物件として没収されたものであるが、これは、いわば、未だ犯行状況が録画されていないデジタルビデオカセットを撮影に用いたということであって、そこでは、撮影行為によって、犯行状況の画像が録画されたデジタルビデオカセットが存在するに至ったこと自体は、没収の対象となるか否かを検討する上で直接的に評価されたものとは言い難い。
そこで、撮影行為をも犯罪行為、つまり、強制わいせつ罪におけるわいせつ行為に当たるとした」で、犯罪行為たる撮影行為によって、犯行状況の画像が録画されたデジタルビデオカセットが存在するに至った犯罪生成物件として、当該デジタルビデオカセットを没収することはできないだろうか。
撮影行為によって、画像という電磁的記録(無体物)が生じているが、刑法第19条の規定による没収の対象は、有体物に限られるというのが、揺るぎなく確立された考え方であり、有体物であるデジタルビデオカセットそのものは犯罪行為の前後を通じて存在しており、犯罪行為によってデジタルビデオカセットという有体物が存在するに至ったものではない。
そして、強盗強姦罪の犯行において、犯人が姦浮する際の様子を撮影して記録されたビデオテープについて、犯罪生成物件として没収した原審の判断を否定して、犯罪供用物件として没収するとした東京高判平成22年6月3日判夕1340号282頁も、「〔刑法第19条第1項第3号〕の「犯罪行為によって生じ」た物とは犯罪行為によって作り出された物をいうものと解されるのであって、 上記各ビデオテープには強盗強姦の犯行がなければ撮影されなかった画像が記録されているものの、ビデオテープ自体は強盗強姦の犯行によって生じた物ではなく、同号に該当する物とはいぇないから、原判決には法令適用の誤りがある。
」としている。
しかしながら、犯罪行為によってデジタルビデオカセットという有体物が新たに存在するに至ったものではないとする上記の考え方を突き詰めていくと、犯罪生成物件に当たることについて争いのない文書偽造罪における偽造文書についても、その素材である有体物である紙そのものは偽造行為によって存在するに至ったものではないとして、犯罪生成物件に当たることが否定されてしまうことにもなりかねない。
そこで、犯罪生成物件の定義は、「当該物の存在ないしその現在の特性が、その作出を目的とした実行行為によって直接的に生じさせられたもの」とすべきであつて、前記東京高判におけるビデオテープが犯罪生成物件に当たらない理由について、強盗強姦罪は姦淫行為の録画を目的とする犯罪でないという直接目的連関性の欠如に求める見解がある(注17)。
たしかに、強盗強姦罪自体は、姦淫行為の録画を目的とする犯罪ではない。
また、撮影行為自体が犯罪行為とされていないのであれば、そもそも、録画された記録媒体について、「犯罪行為によって」生じたものということもできない。
しかしながら、被害者を姦淫する行為を撮影して記録媒体に録画する行為について、これをわいせつ行為という犯罪行為であると捉えた場合においては(注18)、文書偽造罪における偽造文書と同様に、デジタルビデオカセットのような記録媒体という素材に、犯罪行為たる撮影行為によって画像という電磁的記録を記録し、当該電磁的記録が記録された記録媒体という有体物を生じさせたとし、当該記録媒体を犯罪生成物件に該当するものとして没収することができると考える余地は、 上記東京高判を前提にしてもなお、未だ残されているように思われる。
文書偽造罪とは異なり、強制わいせつ罪において撮影行為は構成要件要素として明示されているものではないけれども、被害者を姦淫する行為を撮影して記録媒体に録画する行為がわいせつ行為という犯罪行為に当たることを認めることができるのであれば、記録媒体について、単に、犯罪行為の用に供したいわば素材としてではなく、わいせつ行為という犯罪の構成要件に該当する行為としての撮影行為によって、直接的に、画像という電磁的記録が記録された記録媒体を生じさせたものとして、これを没収することも、十分に考えられるのではないだろうかか5)例えば、東京都の公衆に若しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例第5条第1項第2号は、「何人も、正当な理由なく、人を著しく差恥させ、又は人に不安を覚ぇさせるような行為であって」、「公衆便所、公衆浴場、公衆が使用することができる更衣室その他公衆が通常衣服の全部若しくは一部を着けない状態でいる場所又は公共の場所若しくは公共の乗物において、人の通常衣服で隠されている下着又は身体を、写真機その他の機器を用いて撮影し、又は撮影する11的で写真機その他の機器を差し向け、若しくは設置すること」をしてはならないと規定し、その連反行為を処罰している。
6)軽犯罪法第1条第23′′は、「正当な理由がなくて人の住層、浴場、更衣場、便所その他人が通常衣服をつけないでいるような場所をひそかにのぞき見た者」を処罰するものとしている。
7)強制わいせつ罪におけるわいせつ行為の意義については、公然わいせつ罪等における「わいせつ」と同様に、徒らに性欲を興奮又は刺激せしめ、かつ、普通人の正常な性的差恥心を害し、書良な性的道徳観念に反する行為をいうものといわれているが、保護法益に照らし、端的に、人の性的自由、性的感情を害する性質の行為を対象とすると解すべきであるなどともいわれている(前掲亀山‐河村67頁参照).8)しかしながら、他人の裸体等を撮影し、その動画・静止画を記録媒体に記録するという行為は、その裸体等の姿がその人の意思に反して記録に残されるものであるから、単に日で見るだけという行為とは異なるのではないかという感が拭えない。
特に、性的なプライバシーの程度が最も高いといえる性交等を含めた性的行為をしている状況を相手方の意思に反して撮影して記録に残す場合には、その感が強い9)撮影行為についてわいせつ行為に当たるとされた前掲注2)に掲げた裁判例も、裸にする行為をも併せてわいせつ行為に当たるとしている。
また、個室使所の人口扉の施錠を外して開扉し、個室使所内で和式便器にしゃがみ込んで用便中であった女性の姿態を背後から見る行為や、女性宅に侵人し、就寝中の女性の寝姿をビデオカメラで撮影しながら自慰行あをして女性の身体に向けて射精し、女性の着衣に精液をかける行為について、わいせつ行為に当たるとされた裁判例(前者について釧路地判平成14年2月28日公刊物未登載、後者について福岡地判平成13年10月17日公刊物未登載)があるが、裁判所は、前者については、「人が個室使所で用便をする ためには、着衣を引き下ろしてド半身を露出する代わりに、その姿態が他人の日に触れるのを防ぐため個=便所の人「1扉を開め、さらに施錠をするものであるから、相手方が個宅使所内で用使中であろうとの認識のもと、その姿態を眺めて自己の性的欲求を満足させる目的で、相手方が施錠した個室使所人11扉を解錠してこれを開扉し、その用便中の姿態を眺め、相手方をしてそれを自己の眼前にさらすことを余儀なくさせる行為は、自己の性的欲求を満足させるため無理矢理相手方の着衣を引き下ろしてその姿態を眺める行為と同等のものと評価することができる。
」(傍点は筆者による。
)として、わいせつ行為に該当すると判示し、後者については、「遅くとも相手方の着衣に精液をかけるに至った段階においては、乳房等への接触や接吻と同様に、相手方の性的自由を侵害するものと考えられるから、準強制わいせつ罪にいうわいせつな行為慨遂)に該当すると解するのが相当である。
」とした上で、黙苺専即々でヽマたキ?t沐悴'く`そ|てヽ、然肯本で行″。
当時1:やでてヽ、押モ々々ヾ直ちに被告人の行為を認識し得る状況にあったか否かは、同罪におけるわいせつな行為の成否を左右するものではないと解すべき」(傍点は筆者による。
)と判示している。
両裁判例についての解説として、松F裕子・警察公論58巻1号59真参照18)この場合には、撮影して録画すること自体が、撮影対象者の性的自由、性的感情を害するものであって、犯罪の「I的となっているともいえるのではなかろうか。