児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者性交・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録記録被告事件弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 hp@okumura-tanaka-law.com)

性犯罪・福祉犯(監護者性交罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

強制わいせつ罪で起訴されたときには、どんな行為についても弁論でいいから裁判所にわいせつの定義を聞いておこう

 乳房もむとか陰部弄ぶという典型的な行為についても、精液つける、用便中の姿態を凝視する、足嘗める、裸写真を撮影送信させるなどという非典型な行為についても、裁判所はわいせつの定義が決められないので、積極的にわいせつの定義を聞いて下さい。
 「わいせつとは、いたずらに性欲を興奮または刺激させ、かつ普通人の正常な性的羞恥心を害し、善良な性的道義観念に反するものをいう。(最判昭26・5・10刑集5-6-1026)」という有名な定義については、馬渡論文で否定されていますから、きょうびそんな判決は書けません。
 ■■■■■■のところに、わいせつの定義についての判示をコピーすれば、控訴理由が一個できるようにしてあります。
 「わいせつな行為とは,性的な意味を有し,本人の性的羞恥心の対象となるような行為をいう。」というのが山口厚最高裁判事の見解なので、山口判事に当たるまで、当面、山口説押しでいきます。

控訴理由 理由不備・法令適用の誤り 「わいせつな行為とは,性的な意味を有し,本人の性的羞恥心の対象となるような行為をいう。」というのが正解であるところ、原判決の「■■■■■■■■■■■■■■■■」では定義を誤っており、かつ説明不足であること
1 原判決
 原判決は、弁護人からわいせつの定義を求められて、「■■■■■■■■■■■■■■■■」と判示した。
 しかし、わいせつ行為の定義の中に「わいせつ」が入り込んでいるのは、一見して循環論法であって、定義の体をなしていない。
 わいせつの定義についての解釈ができないまま強制わいせつ罪(176条後段)について有罪にした点で、理由不備・法令適用の誤りがあるから、原判決は破棄を免れない
 さらには定義できないような罪名を適用した点で、罪刑法定主義違反の法令適用の誤りがあるから、原判決は破棄を免れない。

2 判例
(1) わいせつの定義についてわいせつとは、「いたずらに性欲を興奮または刺激させ、かつ普通人の正常な性的羞恥心を害し、善良な性的道義観念に反するものをいう。」という判例違反(最判s26.5.10 名古屋高裁金沢支部S36.5.2 東京高裁h22.3.1)
 わいせつの定義の点で、原判決は、「わいせつとは、公然わいせつ罪・わいせつ物頒布罪と同様に、いたずらに性欲を興奮または刺激させ、かつ普通人の正常な性的羞恥心を害し、善良な性的道義観念に反するものをいうとする判例最判昭26・5・10刑集5-6-1026)に反する。
 強制わいせつ罪の「わいせつ行為」についても「徒らに性欲を興奮又は刺戟せしめ、且つ普通人の正常な性的羞恥心を害し、善良な性的道義観念に反することをいうものと解すべき」とする判例(金沢支部S36.5.2 東京高裁h13.9.18 東京高裁h22.3.1)。にも反する。
 これは大法廷h29.11.29でも変更されていない。
名古屋高裁金沢支部S36.5.2*2
②東京高裁h13.9.18*3
③東京高裁h22.3.1*4

(2)性的自由侵害行為とする判例(大阪高裁H28.10.27 東京高裁h26.2.13 東京高裁h30.1.30)にも反する。
 これも大法廷h29.11.29でも変更されていない。

①大阪高裁H28.10.27
 大法廷h29.11.29の控訴審判決である。
「被害者の性的自由を侵害する行為」と定義づける
阪高裁H28.10.27
(2)ところで,強制わいせつ罪の保護法益は被害者の性的自由と解され,同罪は被害者の性的自由を侵害する行為を処罰するものであり,客観的に被害者の性的自由を侵害する行為がなされ,行為者がその旨認識していれば,強制わいせつ罪が成立し,行為者の性的意図の有無は同罪の成立に影響を及ぼすものではないと解すべきである。その理由は,原判決も指摘するとおり,犯人の性欲を刺激興奮させ,または満足させるという性的意図の有無によって,被害者の性的自由が侵害されたか否かが左右されるとは考えられないし,このような犯人の性的意図が強制わいせつ罪の成立要件であると定めた規定はなく,同罪の成立にこのような特別な主観的要件を要求する実質的な根拠は存在しないと考えられるからである。
 そうすると,本件において,被告人の目的がいかなるものであったにせよ,被告人の行為が被害女児の性的自由を侵害する行為であることは明らかであり,被告人も自己の行為がそういう行為であることは十分に認識していたと認められるから,強制わいせつ罪が成立することは明白である。
 以上によれば,強制わいせつ罪の成立について犯人が性的意図を有する必要はないから,被告人に性的意図が認められないにしても,被告人には強制わいせつ罪が成立するとした原判決の判断及び法令解釈は相当というべきである。当裁判所も,刑法176条について,原審と同様の解釈をとるものであり,最高裁判例(最高裁昭和45年1月29日第1小法廷判決・刑集24巻1号1頁)の判断基準を現時点において維持するのは相当ではないと考える。
・・・・・
②東京高裁h26.2.13
東京高裁h26.2.13
なお,本罪の基本犯である強制わいせつ罪の保護法益は被害者の性的自由であると解されるところ,同罪はこれを侵害する行為を処罰するものであり,客観的に被害者の性的自由を侵害する行為がなされ,行為者がその旨認識していれば,同罪の成立に欠けるところはないというべきである。本件において,被告人の行為が被害者の性的自由を侵害するものであることは明らかであり,被告人もその旨認識していたことも明らかであるから,強制わいせつ致傷罪が成立することは明白である。被告人の意図がいかなるものであれ,本件犯行によって,被害者の性的自由が侵害されたことに変わりはないのであり,犯人の性欲を刺激興奮させまたは満足させるという性的意図の有無は,上記のような法益侵害とは関係を有しないものというべきである。そのような観点からしても,所論は失当である。
・・・・・・
③東京高裁h30.1.30*5
東京高裁h30.1.30
 所論は,①低年齢児に対するわいせつ行為では一般人の性欲を興奮,刺激させない,②低年齢児には性的羞恥心がないので,法益侵害がないなどと主張する。
 しかし,①については,6歳未満の低年齢児でも殊更に全裸又は下半身を裸にさせて性器を露出させてこれを撮影するならば,一般人の性欲を興奮,刺激させるもの,言い換えれば,一般人が性的な意味のある行為であると評価するものと解されるから,強制わいせつ行為に該当する。また,②については,強制わいせつ罪の保護法益は,個人の性的自由であると解されるが,所論のように性的羞恥心のみを重視するのは相当ではなく,一般人が性的な意味があると評価するような行為を意思に反してされたならば,性的自由が侵害されたものと解すべきである。そして,ここで意思に反しないとは,その意味を理解して自由な選択によりその行為を拒否していない場合をいうものと解されるから,そのような意味を理解しない乳幼児については,そもそもそのような意思に反しない状況は想定できない。このことは,精神の障害により性的意味を理解できない者に対しても準強制わいせつ罪(刑法178条1項)が成立することによっても明らかである。本件では,生後4か月から5歳までの乳幼児に対し,性器を露出させるなどして,これを撮影したものであるから,同人らの性的自由を侵害したものと認められる。


3 わいせつの定義についての学説状況
 学説状況をみても、原判決のような見解はない。
 原判決が独創したものである。

4 わいせつの本質は性的羞恥心侵害であるから、「わいせつな行為とは,性的な意味を有し,本人の性的羞恥心の対象となるような行為をいう。」という定義が正解であること
 最近の学説では強制わいせつ罪の本質は羞恥心侵害と理解されている。

平野竜一「刑法各論の諸問題6」法学セミナー 第205号
強制猥褻罪を、性的自由に対する罪というだけでいいかも問題である。暴行・脅迫を用いたし場合は、たしかに自由に対する罪といいやすい。しかし、とっさに陰部にふれた場合、「陰部にふれられない自由」が侵害されたというだけでは、自由の内容があまりにも無内容である。性的な蓋恥感情・嫌悪感情が保護法益となっていると考えたとき、右の行為の犯罪性を理解できるように思われる
・・・
川端博 事例式演習刑法P40
本罪における保護法益は「被害者の差恥心」とするのが妥当だからである(平野一二八頁)。
・・
中森喜彦「刑法各論」63頁
端的に、人の性的羞恥心を害する行為をいうとすれば足りる(内田一五八頁、曽根六二頁)。

 さらに、刑法学者出身の山口厚判事の見解*6*7*8も同趣旨である。
 即ち、「わいせつな行為とは,性的な意味を有し,本人の性的羞恥心の対象となるような行為をいう。」。(山口厚刑法各論 第2版H28 p106)
 これが正解であり、原判決は誤りである。これが最高裁判例となるであろう。

 公開されている裁判例では、強制わいせつ罪(176条後段)の最年少は7歳であって、羞恥心侵害を理由としてわいせつ行為と評価している。

新潟地裁S63.8.26*9
 右認定事実によれば、右A子は、性的に未熟で乳房も未発達であって男児のそれと異なるところはないとはいえ、同児は、女性としての自己を意識しており、被告人から乳部や臀部を触られて羞恥心と嫌悪感を抱き、被告人から逃げ出したかったが、同人を恐れてこれができずにいたものであり、同児の周囲の者は、これまで同児を女の子として見守ってきており、同児の母E子は、自己の子供が本件被害に遭ったことを学校等に知られたことについて、同児の将来を考えて心配しており、同児の父親らも本件被害内容を聞いて被告人に対する厳罰を求めていること(E子の検察官に対する供述調書、B子の司法警察員に対する供述調書及びD作成の告訴状)、一方、被告人は、同児の乳部や臀部を触ることにより性的に興奮をしており、そもそも被告人は当初からその目的で右所為に出たものであって、この種犯行を繰り返す傾向も顕著であり、そうすると、被告人の右所為は、強制わいせつ罪のわいせつ行為に当たるといえる。
 従って、弁護人の主張は採用できない。

5 憲法違反~裁判所がわいせつの定義を示せないときは、刑法176条は罪刑法定主義違反となる。
 馬渡調査官の論稿によれば、わいせつは定義できないから最高裁は定義しないとされている。

馬渡香津子強制わいせつ罪の成立と行為者の性的意図の要否
最高裁平成29年ll月29日大法廷判決
ジュリスト 2018年4月号(No.1517)
(2)検討
 そもそも,「わいせつな行為」という言葉は,一般常識的な言葉として通用していて,一般的な社会通念に照らせば,ある程度のイメージを具体的に持てる言葉といえる。そして,「わいせつな行為」を過不足なく別の言葉でわかりやすく表現することには困難を伴うだけでなく,別の言葉で定義づけた場合に,かえって誤解を生じさせるなどして解釈上の混乱を招きかねないおそれもある。また,「わいせつな行為」を定義したからといって,それによって,「わいせつな行為」に該当するか否かを直ちに判断できるものでもなく,結局,個々の事例の積み重ねを通じて判断されていくべき事柄といえ,これまでも実務上,多くの事例判断が積み重ねられ,それらの集積から,ある程度の外延がうかがわれるところでもある(具体的事例については,大塚ほか編・前掲67頁以下等参照)。
 そうであるとすると,いわゆる規範的構成要件である「わいせつな行為」該当性を安定的に解釈していくためには,これをどのように定義づけるかよりも,どのような判断要素をどのような判断基準で考慮していくべきなのかという判断方法こそが重要であると考えられる。
 本判決が,「わいせつな行為」の定義そのものには言及していないのは,このようなことが考えられたためと思われる。もっとも,本判決は,その判示内容からすれば,上記名古屋高金沢支判の示した定義を採用していないし,原判決の示す「性的自由を侵害する行為」という定義も採用していないことは明らかと思われる(なお,実務上,「わいせつな行為」該当性を判断する具体的場面においては,従来の判例・裁判例で示されてきた事例判断の積み重ねを踏まえて,「わいせつな行為」の外延をさぐりつつ判断していかなければならないこと自体は,本判決も当然の前提としているものと思われる)。

 これでは、行為をもって行為を定義することになって、一般人の予見可能性がまったく失われることになる。罪刑法定主義違反(憲法31条)である。刑法176条は文面上無効である。
 実際、最高裁がはっきりしないので、下級審が定義できすに困っている。わいせつの定義がないと現場の裁判官はわいせつ性を判断できない。
 本件原判決の新定義もそういう混乱の一環であるし、東京高裁でも「一般人の性欲を興奮,刺激させるもの,言い換えれば,一般人が性的な意味のある行為であると評価するもの」としつつ性的自由侵害」ともする混乱した定義が示されている。

東京高裁h30.1.30
 所論は,①低年齢児に対するわいせつ行為では一般人の性欲を興奮,刺激させない,②低年齢児には性的羞恥心がないので,法益侵害がないなどと主張する。
 しかし,①については,6歳未満の低年齢児でも殊更に全裸又は下半身を裸にさせて性器を露出させてこれを撮影するならば,一般人の性欲を興奮,刺激させるもの,言い換えれば,一般人が性的な意味のある行為であると評価するものと解されるから,強制わいせつ行為に該当する。また,②については,強制わいせつ罪の保護法益は,個人の性的自由であると解されるが,所論のように性的羞恥心のみを重視するのは相当ではなく,一般人が性的な意味があると評価するような行為を意思に反してされたならば,性的自由が侵害されたものと解すべきである。そして,ここで意思に反しないとは,その意味を理解して自由な選択によりその行為を拒否していない場合をいうものと解されるから,そのような意味を理解しない乳幼児については,そもそもそのような意思に反しない状況は想定できない。このことは,精神の障害により性的意味を理解できない者に対しても準強制わいせつ罪(刑法178条1項)が成立することによっても明らかである。本件では,生後4か月から5歳までの乳幼児に対し,性器を露出させるなどして,これを撮影したものであるから,同人らの性的自由を侵害したものと認められる。

 混乱を収束させるためには、御庁がわいせつの定義を示さなければならない。

6 付言
 難しい問題だが、裁判所は定義を判示しなければならない。
 大法廷判決h29は性的意図を不要としたので、わいせつとは、いたずらに性欲を興奮または刺激させ、かつ普通人の正常な性的羞恥心を害し、善良な性的道義観念に反するものをいう。(最判昭26・5・10刑集5-6-1026)という定義も変更する必要に迫られ、弁護人も検察官も定義を捜したのだが、適当な定義が見つからなかったので、沈黙したのである。

①大法廷事件の検察官の弁論
なお,弁護人の所論は,判例を変更して犯人に性的意図を不要とした場合,わいせつな行為の範囲が極めて不明確になる,特に医療行為,乳幼児への養育行為及び身障者への介護行為が処罰対象になる,性的自由を観念できない乳幼児に対する強制わいせつ罪が成立しなくなりその保護に欠けるなどと主張する。
しかし,このように主張する所論は,いずれも失当である。
強制わいせつ罪にいう「わいせつな行為」の判断に当たっては,被害者の性別・年齢,行為者と被害者との関係,具体的な行為態様,周囲の客観的状況等を考慮し,通常人からみて,客観的に当該行為が「わいせつな行為」としで性的自由又は性的自己決定権を侵害する行為であるか否かを判断するべきものであり,かつ,これによって処罰範囲は十分に明確である。
すなわち,医療行為や養育行為,介護行為として,性器を露出させたり,性器に触れる行為があったとしても,被害者の性別・年齢,行為者と被害者との関係,具体的な行為態様,周囲の客観的状況等を考慮した上で,客観的に医療行為等として適切な行為であれば,わいせつな行為に該当しないことは明らかであるから,性的意図を不要としても,わいせつな行為の範囲が不明確になることはない。
た,所論は,乳幼児には性的自由を観念できないとするが,性的な事柄についての判断能力を有しない乳幼児であっても,他者から性的侵害を受けない自由という意味においで性的自由を観念することができ,この性的自由を保護しなければならないことは明らかである上,性的意図を不要とした場合であっても,行為者と被害者との関係,具体的な行為態様,周囲の客観的状況等を考慮した上で,客観的にわいせつな行為と認められるのであれば,乳幼児に対する強制わいせつ罪が成立するのであるから,その保護に欠けることはない。
・・・・・・
②大法廷事件弁護人弁論
第2 上告理由第1・第2(わいせつの定義)について
1 わいせつの定義は不可能であるから、立法により行為リストを列挙する方法で解決されるべきである。
 性的意図不要説に判例変更された場合、「わいせつ」の定義についても判例変更を試みるだろう。
 原判決は性的意図不要とした手前、わいせつの再定義を迫られ、また弁護人の控訴理由で権利侵害の定義では乳幼児の保護に欠けると指摘されたことから、短絡的に「わいせつ=客観的に性的自由を侵害する行為」と定義づけた。

 最近の学説をみても、学説は混沌としていて一致しない。「わいせつ=客観的に性的自由を侵害する行為」という原判決の定義は一般的ではない。
 しかも、いずれの見解でも、定義に加えて、現行の解釈でも「わいせつ」とされるいくつかの事例を紹介して、「このような行為が「わいせつ行為」である」との説明がされている。

前田雅英 刑法各論講義 第6版p95
本罪の実行行為は,わいせつな行為である.刑法上のわいせつ行為の意義は, 徒らに性欲を興奮又は刺激せしめ,かつ普通人の性的差恥心を害し,善良な性的道義観念に反すること とされているが、公然、わいせつ罪(174条),わいせつ物頒布罪(I75条)に閲するもので,本罪は個人の性的人格・身体を直接侵害する以上,別異に考ーえられ,キスする行為もわいせつ行為である.着衣の上からであっても,女性の臀部を手のひらでなで回す行為も「わいせつ行為」に当たる.いわゆる痴漢行為は,本条の要件に該当する場合がある(態様により,条例による処罰にとどまることもある)
必ずしも被答者の身体に触れる必要はない. 裸にして写真を撮る行為も含む
 このような定義+事例という説明は、定義ができていないということを示す。 

 原判決の「客観的に性的自由を害する行為」というのは、たまたま手元にあった注釈刑法の和田説を採用したと思われるが、和田説は続けて「客体が13歳未満の場合は別の検討を要する。性的蓋恥心を,年齢を無視した一般的判断に服せしめ,乳幼児の啓部を撫でる行為にまで本罪を認めるのは過剰であろう。逆に,性的差恥心を個別的に判断し, それを有しない幼年者を,たとえば性交類似行為からも保護しないのは妥当でない。」と説明されていて、「客観的に性的自由を害する行為」という定義では説明しきれていない。この見解でも、裁判例に現れたわいせつ行為を列挙して、定義+事例で説明しようとしている。
注釈刑法第2巻各論1(H28) p617 和田俊憲*10
強制わいせつ罪

 結局、「わいせつとは、いたずらに性欲を興奮または刺激させ、かつ普通人の正常な性的羞恥心を害し、善良な性的道義観念に反するものをいう。(最判昭26・5・10刑集5-6-1026)」という従前の定義にしても、原判決が採用する「客観的に性的自由を侵害する行為」にしても、他の学説にして、処罰すべき「わいせつ行為」を説明しきれていないし、処罰される行為の列挙が欠かせないのだから、定義としては無意味なものである。

 もはや解釈による定義付けでは犯罪・非犯罪を区別することができないのであるから、判例変更は諦めて、立法により、行為をリストアップする方法で解決すべきである。
 児童買春罪の定義や、外国の立法例を紹介しておく。
立法例
児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律2条2項
当該児童に対し、性交等(性交若しくは性交類似行為をし、又は自己の性的好奇心を満たす目的で、児童の性器等(性器、肛門又は乳首をいう。以下同じ。)を触り、若しくは児童に自己の性器等を触らせることをいう。以下同じ。)をすることをいう。

性犯罪の罰則に関する検討会第4回会議(平成26年12月24日)
http://www.moj.go.jp/keiji1/keiji12_00097.html
配布資料12 性犯罪に関する諸外国の法制に関する資料
ミシガン州性犯罪関連条文和訳(仮訳)
第 750.520a 条(定義)
(q)“性的接触”には,被害者若しくは行為者の恥部の意図的な接触,又は被害者若しくは行為者の恥部を直接覆う衣服の意図的な接触を含む。
 ただし,意図的な接触が性的興奮や満足を得る目的と合理的に考えられ,又は性的目的で行われたと合理的にいえ,又は以下の各号のために性的な態様で行われたものに限る。
(i) 復讐
(ii) 加虐
(iii) 怒り

ニューヨーク州性犯罪関連条文和訳(仮訳)
第130.00条【性犯罪;定義】
本条においては,次の定義が適用される。
3.「性的接触」とは,いずれか一方の側の性的欲望を満足させる目的で,性器その他の人目につかない人体の部分に接触することをいう。これには,直接又は着衣の上からかを問わず,行為者が被害者に接触することのみならず,被害者が行為者に接触することも含まれ,また,被害者が服を着ているかいないかにかかわらず,行為者が被害者の体の一部に精液をかけることも含まれる。

 これは下級審に課せられた宿題であるから、本件にふさわしい定義を判示すべきである。

7 まとめ
 かつて、強制わいせつ罪の保護法益には風俗という社会的法益が含まれることから、わいせつとは、公然わいせつ罪・わいせつ物頒布罪と同様に、いたずらに性欲を興奮または刺激させ、かつ普通人の正常な性的羞恥心を害し、善良な性的道義観念に反するものをいうのが判例最判昭26・5・10刑集5-6-1026)であった。
 また最近の判例はわいせつ=性的自由を侵害する行為という。
 正解は「わいせつな行為とは,性的な意味を有し,本人の性的羞恥心の対象となるような行為をいう。」である。
 しかし、原判決は解釈を誤って、「■■■■■■■■■■■■■■■■」とわけのわからない判示した。
 この点で、原判決には法令適用の誤りと理由不備があるから、原判決は破棄を免れない

6

山口厚刑法各論 第2版H28 p106
わいせつな行為
「わいせつな行為」とは,性的な意味を有する行為,すなわち,本人の性的差恥心の対象となるような行為をいう(23)。これが, 13歳以上の男女に対しては,暴行・脅迫によって強要される場合に,その者の性的な自由が害されるのである(「わいせつな行為」それ自体に,概念内在的に,法益侵害性が備わっているわけではない)
本罪の「わいせつな行為」と公然わいせつ罪(刑174条)における「わいせつな行為」とは,保護法益が異なっており,その内容は異なる。前者は,本人の(自ら行うか否かについての)性的な自由の対象となる行為であるのに対して,後者は,他人の(他人が行うことを見るか否かについての)性的な自由の対象となる行為だからである。したがって,無理やりキスをすることは,現在のわが国においては,強制わいせつ罪の成立をなお肯定しうるであろうが(東京高判昭和32・1・22高刑集10巻l号10頁参照),公然わいせつ罪の成立を肯定することはできないと解されることになる。具体的には,乳房や陰部などに触れる行為,裸にして写真撮影する行為,男性に性交を行わせる行為24)などがそれにあたる。

7

山口厚 基本判例に学ぶ刑法各論2011
p18
2問題は,強制わいせつ罪が成立するためには,性的自由という法益の侵害があるだけでは足りず,本判決のいうように,「性的意図」がある場合に限られるのかということである。犯人の意図がいかなるものであれ,脅迫により裸にされて撮影されたAの性的自由が侵害されたことには変わりがない。「性的意図」といった法益侵害とは関係しない, しかも明文にない要件を要求する根拠があるかが問われることになろう。本判決に付された反対意見は,そうした処罰の限定に根拠がないとしているのである。これに対し,本判決は「性的意図」が要求される根拠について何も語るところがない
学説では,本判決と同様に,強制わいせつ罪について「性的意図」を成立要件として要求する見解は少数であり,多数の見解は,「性的意図」といった,被害者の性的自由という法益の侵害と関係のない要件を要求する理由はないと解している
本判決の後,女性を従業員として働かせる目的で同女を全裸にして写真撮影をしたという事案について,「強制わいせつの意図」があったとして強制わいせつ致傷罪(181条1項)の成立を認めた下級審裁判例があるが、そこでは.そのような意図はわいせつ行為の認識から肯定されている。これは,実質的には本判決の立場を否定したものであるといえよう。こうした裁判例や学説の動向を考えると,本判決に現在どの程度の先例的価値があるか疑問があるように思われる。

8

山口厚 刑法p243
(2) 構成要件
(i) わいせつな行為
わいせつな行為とは,性的な意味を有し,本人の性的羞恥心の対象となるような行為をいう。