児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者性交・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録記録被告事件弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 hp@okumura-tanaka-law.com)

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親告罪規定廃止の遡及適用の問題点

 非親告罪化が遡及するので、改正前の刑法の強姦罪・強制わいせつ罪について告訴無しで起訴されることもあります。非親告罪化は、遡及処罰(憲法39条)と、刑の変更(刑法6条)の関係で問題になりますので、控訴審で主張しています。

控訴理由第※ 法令適用の誤り・訴訟手続の法令違反~親告罪規定廃止の遡及適用について、改正刑法附則2条2項は憲法39条前段前半(遡及処罰の禁止)違反であり無効である。
1 附則2条2項は憲法39条前段前半(遡及処罰の禁止)違反であり無効である。

刑法
附 則 (平成二九年六月二三日法律第七二号) 抄
施行期日)
経過措置)
第二条 この法律の施行前にした行為の処罰については、なお従前の例による。
2 この法律による改正前の刑法(以下「旧法」という。)第百八十条又は第二百二十九条本文の規定により告訴がなければ公訴を提起することができないとされていた罪(旧法第二百二十四条の罪及び同条の罪を幇ほう助する目的で犯した旧法第二百二十七条第一項の罪並びにこれらの罪の未遂罪を除く。)であってこの法律の施行前に犯したものについては、この法律の施行の際既に法律上告訴がされることがなくなっているものを除き、この法律の施行後は、告訴がなくても公訴を提起することができる。

2 憲法39条前段前半(遡及処罰の禁止)違反からの問題点
 しかし、親告罪という訴訟法の改正について、犯罪後に被告人に不利に変更された場合でも、憲法の趣旨からは、遡及的に適用することは禁止されている。
①橋本公旦「憲法」p282
しかし、訴訟法の変更が重要なものであって、被告人に対して容易に有罪判決をもたらすような内容であるときは、前記条項の精神から見て、立法前の犯罪の裁判には適用できないと解すべきである。
②宮澤全訂日本国憲法p326
 強制わいせつ罪(176条)の親告罪性を失わせると、告訴が無い場合、公訴棄却から有罪(懲役10年)になるのであるから、著しく被告人に不利な結果となるので、憲法39条に違反することになる。
③野中俊彦・中村睦男・高橋和之・高見勝利 憲法Ⅰ第4版p428
④芦部「憲法Ⅲ人権2」p231
 芦部説では訴訟法でも無条件に不利益な変更は禁止されているという。
3 まとめ
 上記のとおり、附則2条2項は憲法39条前段前半(遡及処罰の禁止)違反であり無効である。
 にもかかわらず、遡及させて非親告罪として、告訴なく有罪とした原判決には法令適用の誤り・訴訟手続の法令違反があり、原判決は破棄を免れない。
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控訴理由第※ 法令適用の誤り~犯罪後に刑の変更(刑法6条)があったから、軽い方(親告罪)が適用され、告訴がないので、公訴棄却となること。
1 犯罪後の刑法改正であること
 強制わいせつ罪(176条)を非親告罪とした刑法改正はh29.7.13年施行であるから、変更後に刑法が改正されたことになる。

法律名:刑法の一部を改正する法律(平成29年法律第72号)
公布日等:平29.6.23公布 平29.7.13施行

2 刑法6条の適用
 親告罪規定の廃止も「刑の変更」であるから、刑法6条により、本件には軽い方(改正前の180条1項)が適用される。
第六条(刑の変更)
 犯罪後の法律によって刑の変更があったときは、その軽いものによる。

改正前の第一八〇条(親告罪
1 第百七十六条から第百七十八条までの罪及びこれらの罪の未遂罪は、告訴がなければ公訴を提起することができない。

改正後の第一八〇条(親告罪
削除

 これは、刑法施行法4条でも明らかにされていて、刑法の根本原理である。今回の改正でも6条が適用される。
刑法施行法4条明治41年法律第29号
「刑法施行前旧刑法又ハ他ノ法律ノ規定ニ依リ告訴ヲ待テ論ス可キ罪ヲ犯シタル者ハ刑法ノ規定ニ依リ告訴ヲ要セサルモノト雖モ告訴アルニ非サレハ其罪ヲ論セス」

①「刑法施行法評釋」(遠藤源六明治大学)p62
 刑法施行法4条は当然の規定であって、なくても、非親告罪化は遡及しないと説明されている。
「けだし,
(一)告訴を待って論ずることは,告訴の有無にかかわらず処断するよりも犯人に利益なること,
(二)告訴を待って論ずべき罪を犯したる者は告訴なき場合には法律上始めより罪とならざる行為をなしたるものと異ならず,故に新法においてこれを罪とするも,その施行以前の行為に遡及せしむるは不穏当なることの二理由による。そもそも,法律は特別の明文あるにあらざれば,その施行以前の行為に及ばざるを原則とす。したがって,刑法施行以前においては,告訴あるにあらざれば罰せざる行為を刑法において告訴の有無にかかわらず罪とし論ずる旨を規定するもこの規定をもって刑法施行以前の行為を論ずることあたわざるはもちろんなり。故に,本条の規定は理論上当然のことにして,特にこれを設くる必要なきがごとし」

②木村増太郎「刑法施行法大意」
 非親告罪化を遡及させることは刑法の原則に反すると説明されている。
 これは、刑法では通説である
③大塚仁「刑法概説総論4版」p71
 親告罪の変更は刑の変更にあたるとされる。
④植松正「全訂刑法概論Ⅰ総論」p84
⑤町野朔「刑法総論講義案1 第2版」p46
 非親告罪化は、刑の変更となる。

3 まとめ
 強制わいせつ罪(176条)の非親告罪化は刑の変更にあたるから、本件については、改正前の強制わいせつ罪(176条)(親告罪)が適用され、告訴がないので、公訴棄却とすべきである。
 しかるに実体判断をした原判決には法令適用の誤りの誤りがあるので、原判決は破棄を免れない。