児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者性交・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録記録被告事件弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 hp@okumura-tanaka-law.com)

性犯罪・福祉犯(監護者性交罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

被告人が強姦及び強制わいせつの犯行の様子を隠し撮りした各デジタルビデオカセットが刑法19条1項2号にいう「犯罪行為の用に供した物」に当たるとされた事例(最決h30.6.26)

 児童ポルノ製造の関係では高裁レベルで1号説・3号説で分かれていますが、
 撮影行為はわいせつ行為として起訴されてない場合が2号になるとされました。
 

 1審では「これらの隠し撮りが被告人の当該性犯罪と並行して行われ,その意味で密接に関連しているといえるだけでなく,結局それらの映像が無罪の証明につながるものでなかったとはいえ,被告人としては,Eら4名に対する各犯行状況を撮影して録画するに当たり,自らに有利な証拠を作出し得るという認識を持ち,そのような利用価値を見出していたといえるのであり,そのような撮影行為によって客観的に記録した当該映像を確保できること自体が,被告人の上記各犯行を心理的に容易にし,その実行に積極的に作用するものであったと評価できる。したがって,本件各デジタルビデオカセットについては,被告人のEら4名に対する各犯行を促進したものといえ,刑法19条1項2号所定の「犯罪行為の用に供した物」に当たる。」とされていて、強引に2号にもって行かれた感じです。
 控訴審で「原審弁護人は,E側に対し,裁判になれば,証拠として提出しないといけないから,自分の裸や性行為がされているところが映っても,メリットがないのだから,告訴を取り下げなさいというような話をしていたようだという趣旨の供述をしていることに照らすと,被告人のいう利用客との間でトラブルになった場合に備えての防御とは,単に自己に有利な証拠として援用するために手元に置いておくことにとどまらず,被害者が被害を訴えた場合には,被害者に対して前記映像を所持していることを告げることにより,被害者の名誉やプライバシーが侵害される可能性があることを知らしめて,捜査機関への被害申告や告訴を断念させ,あるいは告訴を取り下げさせるための交渉材料として用いることも含む趣旨と認められる。」と認定されています。
 上告審では上記の事実認定を前提にして「被告人がこのような隠し撮りをしたのは,被害者にそれぞれその犯行の様子を撮影録画したことを知らせて,捜査機関に被告人の処罰を求めることを断念させ,刑事責任の追及を免れようとしたためであると認められる。以上の事実関係によれば,本件デジタルビデオカセットは,刑法19条1項2号にいう「犯罪行為の用に供した物」に該当し,これを没収することができると解するのが相当である。 」となっています

条解刑法
供用物件
犯罪行為の用に供した物とは犯罪行為の不可欠な要素となっている物ではないが,犯罪行為のために使用された物をいう。
殺人行為に用いられた銃と弾丸,賭博に用いられた用具(大判明44・2・16録17-83).文書偽造に用いられた偽造印章(大判昭7・7・20集ll-lll3)など,犯罪の実行行為に直接使用されたものが供用物件に当たることは明らかであるが,実行行為の着手前又は実行行為の終了直後に,実行行為や逃走を容易にするなど,犯罪の成果を確保する目的でなされた行為において使用された物も当該行為が実行行為と密接な関連性がある限り,犯罪行為の用に供した物ということができる。例えば,窃盗事犯において,住居に侵入するために使用された平角鉄棒も,窃盗の手段としてその用に供した物としてこれを没収することができる(最判昭25・9・14集4-9-1646)。また,鶏を窃取した後に,これを運搬しやすいようにするため切出し又はナイフでその首を切った場合には,窃盗の結果を確保するための用に供したものとして,これらを没収することができる(東京高判昭28・6・18高集6ー7-848)。なお.下級審の裁判例の中には,単に結果から見て犯行に役立つたというだけでは十分でなく,犯人が犯行の用に供する積極的意思を持って直接犯行の用に供したことが必要であると解していると恩われるものもあるが(名古屋高判昭30・7・14高集86 805),当該物件が客観的に犯罪の手段として用いられ,かつ,犯人がそのことを認識している限り,犯行供用物件に当たると解してよいであろう(大コンメ2版)。

裁判年月日 平成27年12月 1日 裁判所名 宮崎地裁 裁判区分 判決
事件名 強姦未遂、強姦、強制わいせつ被告事件
裁判結果 有罪(懲役11年(求刑 懲役13年)) 文献番号 2015WLJPCA12016002
上記の者に対する頭書被告事件について,当裁判所は,検察官若杉朗仁,私選弁護人谷口渉(主任),同金丸祥子,同渡邊紘光各出席の上審理し,次のとおり判決する。
主文
 被告人を懲役11年に処する。
 未決勾留日数中370日をその刑に算入する。
 押収してあるデジタルビデオカセット原本4本(平成27年押第7号符号1ないし4)を没収する。
 訴訟費用は被告人の負担とする。
理由

 【罪となるべき事実】
 被告人は,平成21年2月頃,宮崎市〈以下省略〉の住居地の1階部分にアロマサロン「a店」(以下「本件店舗」という。)を開業した上,地元の情報誌に営業時間を午前10時から翌午前2時までなどとする内容の記事を掲載しながら,その利用客らに対し,自らも施術者としてアロマオイルを用いたマッサージ等のサービスを提供してきた者であるが,
第1(平成26年2月17日付け起訴状記載の公訴事実(第28号事件)関係)
 かねてから本件店舗で被告人からアロマに関する指導を受けるなどしていたA(以下「A」という。)の協力を得て,平成22年4月17日午後11時頃から,本件店舗において,その宣伝用としてAが被告人を相手にマッサージを行う様子をビデオカメラで撮影するなどの作業を行ったところ,翌18日午前0時頃,その作業を終えたA(当時27歳)が帰宅の準備を始めようとするや,劣情を催した被告人がAを強いて姦淫しようと考え,Aに対し,同所において,手に持ったガムテープ片をいきなりAの口に近づけて貼り付けようとした上,嫌がるAを強引にソファ上に押し倒してその身体に覆いかぶさり,手でその口を塞ぎ,その陰部に手指を差し入れるなどの暴行を加え,その抵抗を著しく困難にさせてAを強いて姦淫しようとしたが,Aが大声を上げて助けを求めるなどしたため,その目的を遂げず(以下「A事件」ともいう。),
第2(平成26年7月2日付け起訴状記載の公訴事実(第140号事件)関係)
 平成24年6月21日午後9時頃に客としてマッサージを受けに来店したB(当時37歳。以下「B」という。)を本件店舗のマッサージルーム(以下「本件施術室」という。)に招き入れるなどした上,被告人の指示により,全裸にさせたBをして,施術台上にバスタオルを掛けて横たわらせるとともにアイマスクを着用させ,更にBに無断で自らビデオカメラを設置,操作し,Bの様子を隠し撮りしてデジタルビデオカセット(平成27年押第7号符号4)に録画することにより事後の対応等に備えつつ,その頃から同日午後11時30分頃までの間に,Bに対するマッサージを行うなどしたところ,Bがこのような状態になっているのに乗じ,マッサージを装って強いてわいせつな行為をしようと考え,その際,本件施術室において,上記のような状態のBに対し,露わにしたBの乳房を直接もんだり,その乳首を触ったりして,もって強いてわいせつな行為をし(以下「B事件」ともいう。),
第3(平成26年6月2日付け起訴状記載の公訴事実第1(第115号事件)関係)
 平成25年11月24日正午頃に被告人の知人として無料でマッサージを受けに来店したC(当時44歳。以下「C」という。)を本件施術室に招き入れるなどした上,被告人の指示により,上半身を裸にさせたCをして,施術台上にバスタオルを掛けて横たわらせるとともに,当該施術の途中からアイマスクを着用させ,更にCに無断で自らビデオカメラを設置,操作し,Cの様子を隠し撮りしてデジタルビデオカセット(同号符号2)に録画することにより事後の対応等に備えつつ,その頃から同日午後2時30分頃までの間に,Cに対するマッサージを行うなどしたところ,Cがこのような状態になっているのに乗じ,マッサージを装って強いてわいせつな行為をしようと考え,その際,本件施術室において,上記のような状態のCに対し,Cの唇に接ぷんし,露わにしたその乳房を直接もんだり,その乳首を触ったりして,もって強いてわいせつな行為をし(以下「C事件」ともいう。),
第4(平成26年6月2日付け起訴状記載の公訴事実第2(第115号事件)関係)
 平成25年11月26日午後9時頃に客としてマッサージを受けに来店したD(当時25歳。以下「D」という。)を本件施術室に招き入れるなどした上,被告人の指示により,全裸にさせたDをして,施術台上にバスタオルを掛けて横たわらせるとともにアイマスクを着用させ,更にDに無断で自らビデオカメラを設置,操作し,Dの様子を隠し取りしてデジタルビデオカセット(同号符号3)に録画することにより事後の対応等に備えつつ,その頃から同日午後11時50分頃までの間に,Dに対するマッサージを行うなどしたところ,Dがこのような状態になっているのに乗じ,マッサージを装って強いてわいせつな行為をしようと考え,その際,本件施術室において,上記のような状態のDに対し,露わにしたDの乳房を直接もんだり,その乳首を触ったりして,もって強いてわいせつな行為をし(以下「D事件」ともいう。),
第5(平成26年6月2日付け起訴状記載の公訴事実(第114号事件)関係)
 平成25年12月15日午後10時頃に客としてマッサージを受けに来店したE(当時27歳。以下「E」という。)を本件施術室に招き入れるなどした上,被告人の指示により,全裸にさせたEをして,施術台上にバスタオルを掛けて横たわらせるとともにアイマスクを着用させ,更にEに無断で自らビデオカメラを設置,操作し,Eの様子を隠し撮りしてデジタルビデオカセット(同号符号1)に録画することにより事後の対応等に備えつつ,その頃からEに対するマッサージを行うなどしたところ,Eがこのような状態になっているのに乗じ,Eを強いて姦淫しようと考え,翌16日午前1時40分頃,本件施術室において,上記のような状態のEに対し,Eの陰部に手指を差し入れて弄ぶなどするとともに,その両膝に自己の体を押し当てるなどしてEの両足を押し広げ,その身体に覆いかぶさるなどの暴行を加えて,その抵抗を著しく困難にした上,強いてEを姦淫した(以下「E事件」ともいう。)。
 【証拠の標目】
 【事実認定の補足説明】
 【法令の適用】
 罰条
 判示第1の行為 刑法179条,177条前段
 判示第2ないし第4の各行為 いずれも刑法176条前段
 判示第5の行為 刑法177条前段
 併合罪の処理 刑法45条前段,47条本文,10条(刑及び犯情の最も重い判示第5の罪の刑に法定の加重)
 未決勾留日数の算入 刑法21条
 没収 刑法19条1項2号,2項本文
 訴訟費用の負担 刑訴法181条1項本文
 【争点に対する判断(没収の可否)】
 当裁判所は,デジタルビデオカセット原本4点(以下「本件各デジタルビデオカセット」という。)が犯行供用物件に当たり,没収するのが相当であると判断したが,弁護人はこれを争っているので,以下,このように判断した理由を説明する。
 1 関係各証拠によれば,当該判断の前提として,以下の事実が認められる。
  (1) 被告人は,本件施術室においてEら4名の女性に対する判示第2ないし第5の各犯行に及ぶに当たり,アイマスクの着用に応じさせたEらに無断で,自らビデオカメラを操作して各犯行状況等の隠し撮りを行い,本件各デジタルビデオカセットに録画した。なお,この隠し撮りの間に,被告人はビデオカメラの位置や向きを動かすなどして,Eらの胸部等を大きく映し出すようにしていた。
  (2) このようにして上記各犯行状況等が録画された本件各デジタルビデオカセットは,被告人の所有物として,被告人によってその貼付に係る紙面上にそれぞれ当該女性の氏名や撮影年月日等が記入され,特定できるようにして保管されていた。
  (3) もっとも,被告人は,E事件の翌日である平成25年12月17日午後2時21分にE事件の容疑で逮捕されるに当たり,詳細は明らかでないものの,本件各デジタルビデオカセットをいずれも本件店舗以外の場所に移し,捜査機関からの押収を免れていた。
  (4) そして,本件各デジタルビデオカセットのうち,Eに関するものについては,被告人が暴行脅迫を加えていないことが明らかになるなどと考え,主任弁護人を通じ,捜査機関に任意提出された。他方,その余については,Eの場合と異なり,捜査機関に明かされなかったが,起訴後のCら3名の証人尋問終了後に,主任弁護人から,検察官への証拠開示を経て証拠請求されるに至った。なお,これらの映像については,機器の制約等のため,捜査機関による複製物が公判廷で取り調べられた。
  (5) なお,被告人は,このような隠し撮りを行った理由につき,後に当該女性らとの間でトラブルになった場合に備えて防御のために撮影したものであり,以上の映像の内容は,自らの無罪を証明するとともに,女性らが虚偽の供述をしていることを示すものであるなどと供述している。
 2 そこで,以上の事実等を踏まえて判断すると,本件各デジタルビデオカセットは,被告人が当該性犯罪と並行して意図的にこれを録画したものであることが明らかである。このような録画を行った被告人の意図については,自己の性的興奮を高めることなど,検察官が主張するような事情も,可能性としてはあり得るけれども,少なくとも前記のような被告人の供述を含めて検討すると,被告人としては,本件各犯行に及ぶとともに,その撮影に及んだ当初から,被害者らとの間で後に紛争が生じた場合に,本件各デジタルビデオカセットをその内容が自らにとって有利になる限度で証拠として利用することを想定していたと認めることができ,このことは,前記1の事実関係によっても裏付けられているといえる。
 そして,このような被告人による隠し撮りは,Eら4名に対する実行行為そのものを構成するものでなく,もとより被告人がこうした隠し撮りを行ったことをもって訴追されたわけでもない。しかしながら,これらの隠し撮りが被告人の当該性犯罪と並行して行われ,その意味で密接に関連しているといえるだけでなく,結局それらの映像が無罪の証明につながるものでなかったとはいえ,被告人としては,Eら4名に対する各犯行状況を撮影して録画するに当たり,自らに有利な証拠を作出し得るという認識を持ち,そのような利用価値を見出していたといえるのであり,そのような撮影行為によって客観的に記録した当該映像を確保できること自体が,被告人の上記各犯行を心理的に容易にし,その実行に積極的に作用するものであったと評価できる。したがって,本件各デジタルビデオカセットについては,被告人のEら4名に対する各犯行を促進したものといえ,刑法19条1項2号所定の「犯罪行為の用に供した物」に当たる。
 (求刑 懲役13年,デジタルビデオカセット4本の没収)
 平成27年12月11日
 宮崎地方裁判所刑事部
 (裁判長裁判官 瀧岡俊文 裁判官 島田尚人 裁判官 廣瀬智彦)

裁判年月日 平成29年 2月23日 裁判所名 福岡高裁宮崎支部 裁判区分 判決
事件名 強姦未遂、強姦、強制わいせつ被告事件
裁判結果 控訴棄却 文献番号 2017WLJPCA02236009

上記の者に対する強姦未遂,強姦,強制わいせつ被告事件について,平成27年12月1日宮崎地方裁判所が言い渡した判決に対し,被告人から控訴の申立てがあったので,当裁判所は,検察官内田武志出席の上審理し,次のとおり判決する。
 

主文

 本件控訴を棄却する。
 当審における未決勾留日数中380日を原判決の刑に算入する。
 
 
理由

 本件控訴の趣意は,主任弁護人前田裕司,弁護人谷口渉及び同金丸祥子作成の控訴趣意書,控訴趣意書補充書,同(2)及び同(3)並びに被告人作成の控訴趣意書記載のとおりであり,これに対する答弁は,検察官内田武志作成の答弁書記載のとおりであるから,これらを引用する。
第3 法令適用の誤りの主張について
 2 本件各デジタルビデオカセットの没収について
 論旨は,本件各デジタルビデオカセットが被告人の原判示犯行を心理的に容易にし,その実行に積極的に作用するものであることを理由に原判示犯行を促進したものとして刑法19条1項2号所定の「犯罪行為の用に供した物」に該当するとして没収した原判決は,同条項の解釈適用を誤っている,というのである。
 そこで検討すると,本件各デジタルビデオカセットは,被告人が,原判示第2ないし第4の各わいせつ行為並びに原判示第5の強姦行為をそれぞれ隠し撮りしたものであるところ,犯人がこのような映像を撮影して所持していることは,性犯罪の被害者に対し強い精神的苦痛を与える行為といえるから,犯人が,性犯罪の被害者に対し,このような映像を所持していることを告げ,警察に通報したり告訴したりした場合にはこのような映像が公開されることになる旨告げることによって,映像の流出を恐れた被害者が,犯人の要求に従い,通報や告訴を断念する可能性があるといえる。関係証拠によれば,被告人は,ビデオ撮影の目的について,後に利用客との間でトラブルになった場合に備えて防御のために撮影したものである旨説明しているところ,本件ビデオ映像(E)について,Eは,被告人の原審弁護人から連絡があり,本件ビデオ映像(E)に係る本件デジタルビデオカセットの映像を法廷で流されたくなかったら示談金ゼロで告訴の取下げをしろと要求された旨供述しており,被告人も,仮に示談が成立したのであれば被告人の手元にビデオ映像が残るのはEにとってかわいそうだから処分するということで納得したが,示談交渉が決裂しているので今はそのつもりはない,原審弁護人は,E側に対し,裁判になれば,証拠として提出しないといけないから,自分の裸や性行為がされているところが映っても,メリットがないのだから,告訴を取り下げなさいというような話をしていたようだという趣旨の供述をしていることに照らすと,被告人のいう利用客との間でトラブルになった場合に備えての防御とは,単に自己に有利な証拠として援用するために手元に置いておくことにとどまらず,被害者が被害を訴えた場合には,被害者に対して前記映像を所持していることを告げることにより,被害者の名誉やプライバシーが侵害される可能性があることを知らしめて,捜査機関への被害申告や告訴を断念させ,あるいは告訴を取り下げさせるための交渉材料として用いることも含む趣旨と認められる。そうすると,原判示第2ないし第5の各犯行時に隠し撮りをして,各実行行為終了後に各被害者にそのことを知らせて捜査機関による身柄拘束を含む捜査や刑事訴追を免れようとする行為は,各犯行による性的満足という犯罪の成果を確保し享受するためになされた行為であるとともに,捜査や刑事訴追を免れる手段を確保することによって犯罪の実行行為を心理的に容易にするためのものといえるから,本件各実行行為と密接に関連する行為といえる。以上のとおり,本件各デジタルビデオカセットは,このような実行行為と密接に関連する行為の用に供し,あるいは供しようとした物と認められるから,刑法19条1項2号所定の犯行供用物件に該当する。原判決の認定判断は上記説示に沿う限度で相当である。
 所論は,本件各デジタルビデオカセットが犯行供用物件に該当するためには,撮影者に犯罪を実行しているという違法性の認識が必要である,という。しかし,犯行供用物件該当性を検討する上で,行為者の主観的要件としては,行為者において,当該犯罪行為に該当する事実を認識し,実行行為ないしこれと密接に関連する行為に利用する目的を有していれば足り,当該犯罪行為が違法であることまで認識している必要はないというべきである。被告人が,原判示第2ないし第5の各犯行時に隠し撮りをして,各実行行為終了後に各被害者に対してそのことを知らせて捜査機関による身柄拘束を含む捜査や刑事訴追を免れようとする目的を有していたと認められることは,前記のとおりであるから,本件各デジタルビデオカセットについて,被告人が実行行為と密接に関連する行為に利用する目的を有していたと認められることは明らかであり,所論は失当である。
 所論は,違法性の認識を有している人物であれば,犯行を促進し容易にするためにわざわざ犯行を立証する証拠を残しておくはずがないから,ビデオ撮影は,むしろ犯行を抑制する方向に働くのが一般的であり,決して犯行を容易にするものではない,という。しかし,本件各デジタルビデオカセットは,使い方によっては犯行を立証する証拠として被告人に不利に用いられる可能性があるとはいえるが,他方で,前記のとおり,各被害者に対して本件各デジタルビデオカセットの存在を告げて,被害者の名誉やプライバシーが侵害される可能性があることを知らしめることにより,被害申告の断念や告訴の取下げ等を要求するのに用いることもできるのだから,その存在を明らかにするか否かも含めて自由に決めることができる立場にある被告人にとって,犯行を促進し容易にする側面を有するものであることは明らかである。
 本件各デジタルビデオカセットにつき,刑法19条1項2号所定の犯行供用物件に該当することを理由に同条項を適用してこれらを没収した原判決の法令の適用に誤りはない。論旨は理由がない。
第4 結論
 よって,刑訴法396条,刑法21条により,主文のとおり判決する。
 平成29年3月2日
 福岡高等裁判所宮崎支部
 (裁判長裁判官 根本渉 裁判官 渡邉一昭 裁判官 諸井明仁

裁判年月日 平成30年 6月26日 裁判所名 最高裁第一小法廷 裁判区分 決定
事件名 強姦未遂、強姦、強制わいせつ被告事件
裁判結果 棄却 文献番号 2018WLJPCA06269002
本件上告を棄却する。
 当審における未決勾留日数中360日を本刑に算入する。 
 
理由

 弁護人前田裕司,同谷口渉及び同金丸祥子並びに被告人本人の各上告趣意は,いずれも事実誤認,単なる法令違反の主張であって,刑訴法405条の上告理由に当たらない。
 なお,所論に鑑み,職権で判断する。
 原判決及びその是認する第1審判決の認定並びに記録によれば,被告人は,本件強姦1件及び強制わいせつ3件の犯行の様子を被害者に気付かれないように撮影しデジタルビデオカセット4本(以下「本件デジタルビデオカセット」という。)に録画したところ,被告人がこのような隠し撮りをしたのは,被害者にそれぞれその犯行の様子を撮影録画したことを知らせて,捜査機関に被告人の処罰を求めることを断念させ,刑事責任の追及を免れようとしたためであると認められる。以上の事実関係によれば,本件デジタルビデオカセットは,刑法19条1項2号にいう「犯罪行為の用に供した物」に該当し,これを没収することができると解するのが相当である。
 したがって,刑法19条1項2号,2項本文により,本件デジタルビデオカセットを没収する旨の言渡しをした第1審判決を是認した原判断は,正当である。
 よって,刑訴法414条,386条1項3号,刑法21条により,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり決定する。
 (裁判長裁判官 小池裕 裁判官 池上政幸 裁判官 木澤克之 裁判官 山口厚 裁判官 深山卓也)