児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者性交・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録記録被告事件弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 hp@okumura-tanaka-law.com)

性犯罪・福祉犯(監護者性交罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

「検査を口実にして,その背後から同人の着衣をまくり上げ,その胸を直接手で触り,同人を振り向かせた上,その口を開けさせて,自己の顔を近づけて唾液をその口の中に垂らして飲み込ませるなどし,もって13歳未満の女子に対し,わいせつな行為をした。」という強制わいせつ罪(176条後段)の事例(さいたま地裁h30.2.13)


 あまり見かけない類型です。こういうのは「わいせつの定義」「わいせつに該当するか」を争って下さい

裁判年月日 平成30年 2月13日 裁判所名 さいたま地裁 裁判区分 判決
事件名 住居侵入、強制わいせつ被告事件
文献番号 2018WLJPCA02136004
理由
 以下,〔 〕のアルファベットの記載は,被害者の氏名等の略称であり,対応する氏名等は,別紙「略称目録」記載のとおりである。
 【罪となるべき事実】
第1(平成29年8月18日付追起訴分)
 被告人は,帰宅途中の〔A〕(当時20歳)に強いてわいせつな行為をしようと考え,平成27年5月20日午前零時45分頃,埼玉県〈以下省略〉の同人方に,被告人の言動を不審に思って中に逃げ込むために同人が開けた玄関扉から同人に追随して侵入し,その頃から同日午前1時頃までの間,同人方玄関内において,同人に対し,いきなり背後から抱き付き,その頬に接吻した上,首筋をなめ,さらに,同人のブラジャーの中に手を差し入れてその胸を直接触り,同人のパンツの中に手を差し入れてそのでん部を直接触り,もって強いてわいせつな行為をした。
第2(平成29年6月30日付追起訴分)
 被告人は,帰宅途中の〔B〕(当時15歳)に強いてわいせつな行為をしようと考え,平成28年1月8日午前11時35分頃,埼玉県〈以下省略〉所在の〔C〕方に,前記目的を秘し訪問客を装い〔B〕に開けさせた玄関扉から,〔B〕に「検査をする。」と言って侵入し,その頃,同所の玄関内において,〔B〕に対し,背後からいきなりその両胸を着衣の上から両手で触り,同人が「やめてください。」と言って抵抗するや,その首元を指先で押し,「死にたくなければ声を出さないで。」などと言う暴行脅迫を加え,これに畏怖していったん抵抗をやめた同人に対し,背後からその両胸を着衣の上から両手で触り,もって強いてわいせつな行為をした。
第3(平成29年6月2日付追起訴分)
 被告人は,帰宅途中の〔D〕(当時11歳)を見かけ,同人が13歳未満であることを知りながら,同人にわいせつな行為をしようと考え,平成28年6月29日午後5時33分頃,埼玉県〈以下省略〉所在の周囲をブロック塀等で囲まれた〔E〕方敷地内に,前記目的を秘し〔D〕に「土地に入る許可をもらっている。」と嘘を言って南西側片開き戸を開けて侵入し,その頃,同敷地内において,「ここに何かあるよ。見てみ。」と言って〔D〕を道路から見えない位置に呼び寄せた上,同人の着衣をまくり上げ,その右胸を手で触り,同人のズボン及び下着を引っ張ってその股間をのぞき込み,もって13歳未満の女子に対し,わいせつな行為をした。
第4(平成29年4月28日付起訴分)
 被告人は,帰宅途中の〔F〕(当時11歳)を見かけ,同人が13歳未満であることを知りながら,同人にわいせつな行為をしようと考え,同人にわいせつな行為をする目的で,平成28年7月20日午後零時10分頃,埼玉県〈以下省略〉の〔G〕方に,前記目的を秘して〔F〕に「ひみつの話だから,おうちの中でしようね。」と言って開いていた玄関扉から侵入し,その頃から同日午後零時20分頃までの間,同所の玄関内において,検査を口実にして,〔F〕に対し,その背後から同人の着衣をまくり上げ,その胸を直接手で触り,同人を振り向かせた上,その口を開けさせて,自己の顔を近づけて唾液をその口の中に垂らして飲み込ませるなどし,もって13歳未満の女子に対し,わいせつな行為をした。
 【法令の適用】
 罰条
 判示第1,第2の各事実
 各住居侵入の点 いずれも刑法130条前段
 各強制わいせつの点 いずれも平成29年法律第72号附則2条1項,同法による改正前の刑法176条前段
 判示第3,第4の各事実
 各住居侵入の点 いずれも刑法130条前段
 各強制わいせつの点 いずれも平成29年法律第72号附則2条1項,同法による改正前の刑法176条後段
 科刑上一罪の処理
 判示第1ないし第4につき,刑法54条1項後段,10条(各住居侵入と各強制わいせつとの間にはそれぞれ手段結果の関係があるので,いずれも1罪(牽連犯)として重い各強制わいせつ罪の刑で処断)
 併合罪の処理
 刑法45条前段,47条本文,10条(犯情の最も重い判示第4の罪の刑に法定の加重)
 未決勾留日数の算入 刑法21条
 訴訟費用の不負担 刑事訴訟法181条1項ただし書
 【量刑の理由】
 本件は,住居侵入・強制わいせつ4件の事案である。各犯行のわいせつ行為の程度は,強度のものでも,直接胸やでん部を触る,顔を近づけて口の中に唾液を垂らすなどというものであるから,特に悪質な部類とまではいえない。もっとも,決して軽視はできないものであって,各被害者も当然に大きな精神的衝撃を受けているし,その深刻さは,特に年少の被害者らについては,現時点の状況では図り切れないところがある。そして,各犯行の手口についてみると,13歳未満の者に対する犯行2件は,各被害者の未成熟さにつけこみ,年長の者であれば侵入をして近付いてくるのを阻止できたような不審な言動によって言いくるめたり困惑させたりして住居侵入及びわいせつ行為に成功している。また,15歳の者に対する犯行1件は,同様に被害者の未成熟さにつけこんで玄関に入り込んで近付いた上,いきなり胸に触られたため抵抗を始めた被害者を「死にたくなければ」などという強い表現を用いるなどして脅迫して抵抗を抑えてさらにわいせつ行為を続けている。さらに,20歳の者に対する犯行1件は,不審に感じて自宅に逃げ込もうとした被害者に追随して入り込んで背後から抱き付きわいせつ行為をしている。家屋内に侵入した3件でも玄関ドアを通って玄関まで入ったにとどまり,玄関扉を開けたのも被告人ではないことからすれば住居侵入の手口は悪いとまではいえないこと,被害者から玄関外に押し出されるなどすれば犯行をやめていることを考慮しても,犯行の手口は,わいせつ行為が同程度の住居侵入・強制わいせつのうちでも,良いとは評価できない。そして,被告人は,約1年2か月間の間に各犯行を敢行したところ,このような犯行を日常生活の中で帰宅途中や休日などに時間を見つけては行っていたというのであるから,相当常習性が高いといわざるを得ず,その分,非難は大きい。
 以上によれば,本件は,住居侵入・強制わいせつ4件の事案として比較的悪く,前科がないとしても,相応の実刑を科すことをまず検討すべきである。
 ここで,その他の情状についても検討すると,被告人は,起訴事実だけでなく余罪についても素直に認め,被害者らに対し,被害弁償はできていないながらも謝罪し又は謝罪を試みるとともに,原因はストレスに加えて自身の性癖にあるとして社会復帰後専門の病院を受診する旨述べるなど,反省している。両親も被告人を同居させて通院を援助するなど,被告人の更生に協力的である。これらは被告人のために考慮できるが,他に被告人を見捨てておらず,支えとなると考えられる者がいること,被告人が妻子を失うなど本件犯行の発覚により相応の不利益を被ったことなどその余の弁護人主張の事情を踏まえても,被告人には,3年以下の懲役刑を科すのが相当とはいえない(したがって,弁護人の求める一部執行猶予は検討する前提を欠く。)。他方で,本件はあくまで住居侵入・強制わいせつ4件の事案であり,犯情の程度は,先に検討したとおりであることからすれば,検察官の主張を踏まえても,主文の刑を科すのが相当であると判断した。
 (求刑:懲役6年,弁護人の科刑意見:一部執行猶予)
 さいたま地方裁判所第5刑事部
 (裁判官 石川慧子)