児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者性交・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録記録被告事件弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 hp@okumura-tanaka-law.com)

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被害者方を立ち去るまでの間に,被害者を下着まで脱がせて全裸にし,被害者の左乳房をなめるという客観的にみてわいせつに当たる行為に及んでいる。これらの事情からすれば,被告人がわいせつ以外の目的で被害者方に侵入したとは考えられず,被告人にはわいせつ目的があり・・・(東京地裁h30.3.7)

 公訴事実に「被害者を下着まで脱がせて全裸にし,被害者の左乳房をなめるという客観的にみてわいせつに当たる行為」はないのに、わいせつの故意が認定されています。
 性的意図は不要というのが判例最高裁H29.11.29)なのに、性的意図が争われています・強制わいせつ致死傷罪でわいせつ行為は未遂の場合だと、暴行段階でわいせつの故意が必要になりますよね。

東京地方裁判所平成30年3月7日刑事第11部判決
       判   決
 上記の者に対する住居侵入,殺人(変更後の訴因 住居侵入,強制わいせつ致死,殺人)被告事件について,当裁判所は,検察官堀越健二,同山田祐大,同早川史人及び同平良優実並びに国選弁護人関聡介(主任)及び同本多貞雅各出席の上審理し,次のとおり判決する。
       主   文

被告人を無期懲役に処する。
未決勾留日数中440日をその刑に算入する。


       理   由

(罪となるべき事実)
 被告人は,帰宅途中のP2(当時25歳)を見かけ,強いてわいせつな行為をしようと考え,平成27年8月25日午前0時50分頃,東京都中野区α×丁目××番××号a××の同人方に玄関ドアから侵入した上,同所において,同人に対し,その口を手で塞ぎ,床に押し倒すなどの暴行を加えたが,同人から抵抗を受けたことから,殺意をもって,その頸部を扇風機のコードで絞めるなどし,よって,その頃,同所において,同人を頸部圧迫による窒息により死亡させた。
(証拠の標目)《略》
(事実認定の補足説明)
第1 争点
 被告人が被害者方へ侵入し,暴行を加え,殺意をもって頸部を絞めるなどして同人を死亡させたことに争いはなく,証拠上も明らかである。本件の争点は,被告人に強制わいせつの故意があったかどうかである。
第2 前提となる事実
 以下の事実については,関係各証拠によって明らかに認められ,当事者間にも概ね争いがない。
1 被害者は,平成27年8月25日(以下,時刻のみを表記する場合には同日の時刻である。),駅から帰宅する途中,コンビニエンスストアに立ち寄り,午前0時29分に同店を出た。同店出入口前から被害者方玄関前までの距離(280m)と防犯カメラ映像から算出した被害者の歩行速度から計算すると,被害者の帰宅時間は午前0時33分過ぎとなる。
2 被告人は,帰宅途中の被害者を見かけて後をつけていき,被害者方へ侵入し,扇風機のコードで同人の頸部を絞めて殺害した(なお,侵入の経緯等については後記のとおり争いがある。)。
3 本件当時,被害者方の階下に住んでいた■(以下「A」という。)は,スマートフォンでインターネット検索をしており,午前0時33分以降は,午前0時35分24秒から午前0時45分37秒までの約10分間検索を中断し(以下「1回目の中断」という。),その後検索を再開し,午前0時51分03秒から午前1時04分59秒までの約14分間検索を中断し(以下「2回目の中断」という。),同時刻と午前1時05分02秒に検索をした後は1時間以上にわたり検索を中断していた。
4 被害者の交際相手であったP3は,午前0時41分に被害者に対しLINEメッセージを送信した。このメッセージには「既読」の表示がついている。
5 被告人は,被害者を殺害後,犯行の発覚を免れるために,2回にわたり,扇風機や被害者の着衣など自分が触った可能性があるものを被害者方から持ち出している。被告人は,被害者方を立ち去るまでの間に,下着を含め被害者の着衣を全て脱がせており,また,被害者の左乳房をなめた上で,ボディソープで拭き取った。
6 被害者の遺体は,平成27年8月26日,被害者方居室の床面に仰向けで全裸の状態で発見された。遺体発見時,被害者が同月25日の帰宅時に履いていたサンダル(アンクルストラップ付きハイヒール)は,被害者方の三和土の一か所に左右両方がまとまった状態で残っていた。
第3 被害者方への侵入の経緯等について
1 前提となる事実のとおり,被告人が,若い女性である被害者の後をつけ,被害者方に侵入後,被害者を全裸にして,その左乳房をなめているという客観的な状況からすれば,被告人にわいせつ目的があったと通常考えられる。
 もっとも,本件では,被害者方への侵入の経緯等に関し,被告人は,被害者が玄関ドアを開けた際に声をかけ,同人の口を手で押さえたが,同人が尻餅をついて後ずさりしたのに引き続いて侵入してしまったと供述しており,この点がわいせつ目的についての判断に関わることから,まず検討することとする。
2 サンダルの遺留状況について
(1)前記のとおり,被害者が帰宅時に履いていたサンダルは,アンクルストラップ付きのハイヒールで,足首のベルトを外してから脱ぐタイプのものであり,遺体発見時,被害者方の三和土の一か所に左右両方がまとまった状態で残されていた。このようなサンダルの形状と遺留状況からは,犯行中に脱げたとは考え難く,被告人が持ち去っていないことをも踏まえると,被害者は,帰宅した後に自らサンダルを脱いだものと推認される。
(2)弁護人は,玄関前までに被害者が足首のベルトホックを外しており後ずさりや抵抗により脱げた,被告人が脱がせたが持ち去り忘れた可能性があると主張する。しかし,このような可能性はサンダルの遺留状況に整合しないし,広範囲に物を持ち去っている被告人が,その際に2回も通ったはずの三和土に自ら置くなどしたサンダルを持ち去り忘れるというのもおよそ考え難い。
3 Aの聞いた物音の内容について
(1)Aは,〔1〕スマートフォンでインターネット検索をしていたところ,カツカツという足音がして被害者方である××号室の前で止まった,〔2〕足音が止まってから,荷物を置くようなコトンという音や,断言はできないがジャボジャボという水音が聞こえてきたと思う,〔3〕足音が聞こえてから10分くらいした後,××号室から大きな物音が聞こえてきた,〔4〕1分くらいしてもまだ大きな物音が続いていたので,インターネット検索をやめて自室を出て様子をうかがいに行った,〔5〕階段の途中まで行くと,女性のうめくような声や「な,ん,で」という声が聞こえてきて,物音も続いていたが,男性の声はしてこなかったので自室に戻った,〔6〕大きな物音が続いていた時間は,全体で10分強くらいだった旨証言している。
(2)Aの上記証言内容は,前述のサンダルの遺留状況等から認められる被害者の帰宅時の状況や,遺体発見時被害者方のユニットバスの浴槽内に水が約19cm溜まっていたことと整合している。しかも,Aは,大きな物音を不審に思っただけではなく,わざわざ自室を出て被害者方の様子をうかがいに行き,そこで「な,ん,で」という被害者の声を聞いたというのであるから,内容的に印象的な事柄である上,カツカツという足音を聞いてからの一連の流れとしても具体的である。また,A方にいて×階の物音が聞こえることについては,検証等を実施したP4警察官の証言によっても裏付けられているし,Aには虚偽供述をするおそれも認められない。したがって,Aの証言は基本的に信用できる。
 ただ,被害者方前で足音が止まってから「10分くらい」という時間の幅の点については,あくまで感覚的なものであることは否定できず,そのまま信用することはできない。しかし,Aが,被害者の帰宅後に複数の音を聞いていることや,「1分とかではなく,20分とか長いわけでもない」とも供述していることからすると,カツカツという足音が被害者方前で止まってから,ある程度の長さの時間が経過した後に,被害者方から大きな物音が聞こえてきたという限度では,信用性を認めることができる。
4 LINEメッセージについて
(1)P3証言によれば,同人が被害者に対して午前0時41分に送信したLINEメッセージは,その送信直後に「既読」はつかず,その後に「既読」がついたことが認められるから,上記送信時刻である午前0時41分以降に被害者のスマートフォンのLINEのトーク画面が立ち上げられたことになる。一方,被害者のスマートフォンは被告人によって持ち去られておらず,被告人自身も被害者のスマートフォンを触ったことはないとしていることからすると,被害者は,午前0時41分以降にLINEメッセージを確認できる状況にあったものと推認できる。
(2)弁護人は,被告人から襲われた被害者がスマートフォンを握りしめたり,犯行の過程でスマートフォンに衝撃が加わるなどしたことで,LINEのトーク画面が立ち上がるなど,被害者の意図に反して「既読」になった可能性があると主張する。
 しかし,被害者のスマートフォンの具体的な設定は定かではないが,LINEのトーク画面が立ち上がるには少なくとも1回以上の操作が必要であることを踏まえると,被害者が意図せずに同画面が立ち上がるなどしたというのは具体的な可能性としては考えられない。
5 以上を踏まえ,侵入の経緯等について検討する。
 Aの証言からすると,Aが大きな物音を聞き1分くらいして自室を出たのは,午前0時35分からの1回目の中断の際か,午前0時51分からの2回目の中断の際のどちらかであり,そうすると,大きな物音が初めて聞こえた時刻は,午前0時34分頃か午前0時50分頃ということになる。そして,被害者の帰宅時間が午前0時33分頃であることを前提に,前記3のとおり,被害者の帰宅する足音が被害者方前で止まってから,ある程度の長さの時間が経過してから,被害者方から大きな物音が聞こえてきたことや,前記4のとおり,被害者が午前0時41分以降にLINEメッセージを確認できる状況にあったことからすると,Aが被害者方の様子をうかがうため自室を出たのは2回目の中断の際であったと認められる。
 このことに,前記2のとおり,被害者は帰宅して自らサンダルを脱いだと認められることを併せ考慮すれば,被告人は,被害者が帰宅して居室内にいたところへ午前0時50分頃侵入したものと推認できる。
 したがって,これらと矛盾する被害者方への侵入の経緯等に関する被告人の前記供述を信用することはできない。
第4 わいせつ目的の有無について
1 以上検討してきたとおり,被告人は,若い女性である被害者の後をつけていき,被害者が帰宅してある程度の長さの時間が経過し,被害者が居室内にいたところへ侵入したのであるから,それだけでもわいせつ目的がうかがわれる上,被害者の死亡との前後関係は不明であるが,被害者方を立ち去るまでの間に,被害者を下着まで脱がせて全裸にし,被害者の左乳房をなめるという客観的にみてわいせつに当たる行為に及んでいる。
 これらの事情からすれば,被告人がわいせつ以外の目的で被害者方に侵入したとは考えられず,被告人にはわいせつ目的があり,遅くとも被害者方への侵入時には同目的を有していたと推認される。
2 被告人の供述について
(1)これに対し,被告人はわいせつ目的があったことを否定しており,その供述の概要は次のとおりである。
 たばこを吸いながら外を歩いていたときに,被害者を見かけ,LINEのIDを交換したいと思い,後をつけていったが,被害者がマンションに入っていくあたりで,「悪魔がうつる。早く倒さないと。危ない,危ない」という声が聞こえ,声に従って悪魔を倒さないといけないと思った。被害者方玄関前で「すみません」と声をかけると,被害者が「わっ」と声を上げたのでとっさに口を塞いだ。被害者は,尻餅をついて後ずさりして部屋の中に入っていき,引き続き自分も部屋の中に入った。被害者が後ずさっていたとき,「首だよ,首」という声が聞こえたので,被害者の股の間に入るような感じでひざまずいて,右手で被害者の首を絞めた。右手の力が入らなくなったとき,手の先のほうが半透明になり,「コードを使えば」という声が聞こえ,声に従い扇風機のコードで被害者の首を絞めると,被害者は動かなくなった。
 その後,自分の指紋がついているかもしれないので,証拠隠滅のために被害者の服を脱がせた。下着についても,服を脱がせている間に触ってしまったかもしれないと思ったので,脱がせて全裸にした。すると被害者の背中から尻尾のようなものが出ているのが見えた。さらに自分が触った可能性があるものを回収する作業をしていたところ,被害者が動いたような気がしたので,生死の確認をしようと思って被害者の左胸を舌先で触れた。その部分はボディソープを使って拭き取った。一貫してわいせつな気持ちはなかった。
 声については,首を絞め終わった後「片付けろ片付けろ,早く」という声が聞こえたのと,荷物をまとめ終わって2回目に被害者の部屋から出るときに「逃げろ」という声が聞こえたが,その後は聞こえていない。
(2)被告人の上記供述の信用性について検討する。
 前記第3で検討したとおり,被害者方への侵入の経緯等については,信用できない。また,「悪魔がうつる。早く倒さないと。危ない,危ない」という声が聞こえてきたので被害者を倒さないといけないと思ったという点についても,捜査段階で被告人の鑑定をしたP5医師は,被告人は統合失調症ではない上,全く関係性のない相手を攻撃するという違和感のある内容であり,回避性人格障害としても説明がつかないことからして,犯行当時,そのような幻聴はなかったと考えられる旨証言している。専門的知見に基づくものとして信用できる同証言に照らすと,上記幻聴は存在しなかったと認められ,ひいては,被害者方へ侵入した動機に関する被告人の供述も信用することはできない。
 そして,被害者を全裸にし,その胸をなめたことに関する被告人の供述自体,不自然不合理というほかない。すなわち,証拠隠滅のためであれば,犯行時に直接触れていない下着まで脱がせる必要はないはずである。また,生死確認のためであれば採り得る手段はいくらでもあるにもかかわらず,あえてだ液等の痕跡が残る可能性が高い手段を選択したというのは,被告人が2回にわたり被害者方から物品を持ち出して証拠を隠滅しようとしている行動と相容れず,不合理である。
 以上からすれば,わいせつ目的を否定する被告人の上記供述は,到底信用することができない。
3 したがって,前記1のとおり,被告人にはわいせつ目的があり,遅くとも被害者方への侵入時には同目的を有していたものと認められる。
第5 結論
 よって,被告人は,わいせつ目的をもって,被害者方に侵入し,被害者に暴行を加えて被害者を死亡させたものであるから,強制わいせつの故意もあり,住居侵入罪,殺人罪に加えて,強制わいせつ致死罪も成立する。
 なお,被告人が加えた暴行の内容に関しては,被害者の口を手で塞いだことは,被告人自身も認めており,Aが被害者の叫び声を聞いていないことや,被害者の口唇周囲から被告人のDNA型が検出されていることによって裏付けられている。また,被告人は被害者を床に押し倒したことは認めていないが,被害者のベッドの支柱部分に被害者の血痕が付いていたことや,被害者の後頭部や腕,足に皮下出血が認められたことからすると,被害者は床の上で抵抗していたと推認でき,被害者が自ら倒れるとは考えられないことからして,被告人が被害者を床に押し倒したものと推認できる。
(法令の適用)
罰条
 住居侵入の点 刑法130条前段
 強制わいせつ致死の点 平成29年法律第72号による改正前の刑法181条1項(176条前段)
 殺人の点 刑法199条
科刑上一罪の処理 刑法54条1項前段,後段,10条(強制わいせつ致死と殺人は,1個の行為が2個の罪名に触れる場合であり,住居侵入と強制わいせつ致死及び殺人との間にはそれぞれ手段結果の関係があるので,結局以上を1罪として最も重い殺人罪の刑で処断)
刑種の選択 無期懲役刑を選択
未決勾留日数の算入 刑法21条
訴訟費用の不負担 刑事訴訟法181条1項ただし書
(量刑の理由)
(検察官の求刑:無期懲役 弁護人の科刑意見:懲役17年)
平成30年3月7日
東京地方裁判所刑事第11部
裁判長裁判官 任介辰哉 裁判官 薄井真由子 裁判官 山井翔平