児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者性交・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録記録被告事件弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 hp@okumura-tanaka-law.com)

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電車内において,不特定又は多数の者が容易に認識できる状態で,殊更自己の陰茎を露出したという公然わいせつ被告事件(行為否認)について、罰金30万円(求刑4月)とした事例(千葉地裁h30.2.15)

 
 不合理弁解しても罰金。
 公然わいせつ行為を対人的に行ったときに、どの程度だと強制わいせつ罪になるのかしら。


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千葉地裁h30.2.15
上記の者に対する公然わいせつ被告事件について,当裁判所は,検察官知念浩二,西村圭一及び私選弁護人真田範行各出席の上審理し,次のとおり判決する。
主文
 被告人を罰金30万円に処する。
 その罰金を完納することができないときは,金5000円を1日に換算した期間,被告人を労役場に留置する。
理由
 (罪となるべき事実)
 被告人は,平成28年10月31日午後零時26分頃,千葉市〈以下省略〉a株式会社b駅に停車中の電車内において,不特定又は多数の者が容易に認識できる状態で,殊更自己の陰茎を露出し,もって公然とわいせつな行為をした。
 (証拠の標目)
 (事実認定の補足説明)
 1 弁護人は,被告人は電車内でズボンのチャックを閉め忘れていたが,陰茎を露出したことはなかったと主張し,被告人もこれに沿う供述をしているので,判示のとおり認定した理由について補足して説明する。
 2 証拠によれば,次の事実が認められ,これらの点は,弁護人及び被告人も争っていない(以下,日付はいずれも平成28年10月31日を示す。)。
  (1) 被告人は,午後零時5分頃,a社c駅からa社b駅行きの○○線上り電車の2両目の車両に乗車した。同電車は,午後零時26分頃,b駅に到着した。
  (2) A(以下「証人A」という。)は,b駅ホーム上において,被告人の腕をつかんで運転士のところまで連れて行き,同運転士に被告人が陰部を露出していた旨を告げ,同運転士とともに,被告人を同駅西口改札に連れて行った。千葉県警察本部地域部鉄道警察隊所属の警察官である証人B(以下「B警察官」という。)は,午後零時32分頃,同駅西口改札に臨場し,被告人に対する職務質問を行った。
  (3) 被告人は,本件当時,ジーンズの下に黒色パンツを着用していた。その黒色パンツは,いわゆるボクサーパンツタイプのものであり,前開き部は,伸縮性の高い左右対称の化学繊維が2枚重ねられた形状であって,その2枚を左右にずらすことで,前開き部が容易に開放されるものである。
 3 証人Aは,当公判廷において,次のとおり証言する。
  (1) a社d駅からb駅行きの電車に乗り込み,座席に座ると,正面の座席に女性が座っており,その隣には被告人が座っていた。被告人は,足首を反対側の膝の上に乗せ,上半身は,両手のひらを両肘付近に当てて腕を組み,両腕を肩のあたりの高さまで持ち上げるというコサックダンスのような姿勢をとっており,途中で何度か足を組み替えた。被告人は,目をつぶっていたが,時々薄目を開けて,隣の女性を見ていた。被告人のズボンのチャックが開いていることに気が付いたので,駅に着いたら,チャックを上げるように教えてあげようと考えた。
  (2) 電車がb駅に到着すると,チャックが開いていることを教えようと,被告人に二,三歩近づいたところ,ひし形に開いていたチャックの中に,丸みを帯びた棒状の男性器が見えた。男性器は肌色で,中央部分は光沢があり,皮が伸びているようであった。男性器の亀頭部分は見えなかった。その際に,被告人の両腕は前記のコサックダンスをしているような形で,足首を反対の膝にのせた体勢のままであった。
  (3) 証人Aは,「何をしている。」と言って,かばんを持っていない方の手で被告人の手首をつかみ,電車の外に引きずって降ろした。被告人は,「眠っていただけだ。」,「爆睡していた。」などと述べていた。証人Aが被告人の腕をつかむ前の時点で,被告人がジーンズのチャックを上げたことはなかった。
 4 証人Aの証言の信用性について検討する。
 証人Aは,本件当日,たまたま被告人と同じ電車に乗り合わせた者であり,それまで被告人と面識はなく,偽証罪による制裁のもとで,殊更に虚偽の証言をする動機はないといえる。また,同証人は,被告人に陰茎が露出していることを指摘し,電車の運転士にその旨を告げて以降,一貫してその事実を述べている。
 問題は,同証人の証言内容に見間違いや勘違いがあるかどうかであるが,同証人は,被告人のジーンズのチャックが開いていることに気付き,そのことを注意しようとして,被告人に近づいたのであり,ジーンズの前開き部の状態について,意識的に見ていたといえる。そして,同証人の視力は0.8であるところ,当時は日中の電車内であり明るかったものと考えられるし,男性器を見た際には,被告人の正面に立って,約1メートルの至近距離から,座席に着席していた被告人の下腹部を斜めに見下ろすような角度で見ており,視界を遮るものはなかったのであって,その観察条件も良好であったといえる。また,ジーンズの前開き部付近に,陰茎と見間違えるような物は存在していなかった。その証言内容を見ても,目撃した男性器の中央部に光沢があったなどと具体的に述べており,短い時間ながらはっきりと観察したことがうかがわれる上,亀頭の位置について確認していないので,向きについては分からないなどと述べるなど,目撃したものとそうでないものについて,明確に区別して証言しており,その証言態度も真摯なものといえる。
 これらの点からすれば,同証人の証言内容に見間違いや勘違いがあるとはいえず,同証人の証言は十分に信用できる。
 これに対し,弁護人は,①証人Aは捜査段階の当初は被告人は終始同じ体勢であったと供述していたにもかかわらず,公判廷では足を組み替えたと証言しており,証言の重要部分に変遷があると主張する。また,②証人Aがいうとおり,被告人が何度も足を組み替えたのであれば,ジーンズの前開き部も徐々に閉まっていくのであり,大きく開いたままであることは客観的にあり得ない,③パンツの前開き部についても,被告人が足を組み替えたのであれば,その伸縮性により自然に閉じられるものであり,陰部ばかりでなく下腹部まで見えたというのは,なおさらあり得ない,また,④パンツの前開き部が証人Aが証言するような状態になるためには,被告人が積極的に開口する動作をしなければならないが,証人Aの証言によれば,被告人は腕を組んだままの姿勢であったのであるから矛盾するし,電車内で,その股間に手をやり,ジーンズの中に手を入れ,パンツを開口する動作をすれば,左隣の女性や他の乗客が気付くはずであるが,そのような事実は見当たらないなどとして,証人Aの証言内容は,客観的にあり得ないと主張する。
 しかしながら,①証人Aが捜査段階において,被告人が同じ姿勢であったと述べたのは,被告人が,終始,腕を組み,足を反対側の膝の上に乗せる形の姿勢をとっていたという趣旨を述べたものと認められるから,同証人の証言が,弁護人指摘の点について,実質的に変遷しているものとはいえない。また,弁護人が証人Aの証言する態様が客観的にあり得ないと主張する点に関して検討すると,②証人Aの証言内容を全体として見ると,被告人が足を組み替えたのは,証人Aが被告人のジーンズのチャックが開いていることを確認する前であると解することができ,足を組み替えることによってジーンズやパンツの前開き部が閉じるはずであるという弁護人の主張は,その前提が異なるものである。また,仮に,ジーンズの前開き部が開いているのを確認した後に,被告人が足を組み替えたことがあったとしても,被告人が足を組み替えることによって,ジーンズの前開き部について,必ずしも徐々に閉まっていくものとはいえず,足を組み替えてもジーンズの前開き部が開いたままであることも十分考えられるから,この点についての弁護人の指摘は当たらない。また,④パンツの前開き部が開口するためには,被告人が積極的に開口する動作をしなければならないというのは,その通りであるが,証人Aが被告人を注視していないうちに,被告人が陰茎を露出する動作を行ったということが十分に考えられるし,当時の電車内の混雑具合は,少なくとも証人Aと被告人との間に立っている乗客はいない程度のものであって,座席に座った状態にある被告人のジーンズの前開き部付近の状態を確認できる位置には多くの人がいなかったものと認められる上,至近距離にいた被告人の隣の席の女性もスマートフォンを操作していたのであるから,被告人が前開き部を開ける動作をする際に,隣の席の女性や他の乗客が気付かなかったということも十分にあり得るから,弁護人が指摘する点をもって,証人Aの証言の信用性が損なわれるとはいえない。
 他方で,確かに,弁護人が指摘するとおり,③黒色パンツの前開き部が開いたままであったことや,その前開き部から陰茎の左右に下腹部が見えたというのは,黒色パンツの前開き部の形状,性質等からして,不自然であるとも考えられる。しかしながら,証人Aは,陰茎が露出しているのを目撃し,その驚きや,その後すぐに被告人を確保する行為に移っていることなどの理由から,陰茎の周辺の状態について正確に記憶ができなかったということも十分に考えられる。黒色パンツの前開き部から亀頭部分も含めて陰茎が出て,亀頭部分がジーンズに隠れている状態であれば,被告人の動きにもかかわらず,証人Aが証言するとおりに陰茎が見える状態であったということも十分に考えられるところ,証人Aは,陰茎が出ていることを被告人に直接指摘し,それ以降一貫して陰茎が出ていた旨を明確に供述しているのであって,前記のとおり,陰茎の周囲の状態について不自然な証言をしていることをもって,陰茎が出ているのを目撃したという証言の核心部分の信用性が揺らぐものではない。その他に弁護人が主張する点を検討しても,証人Aの証言の信用性を左右するものではない。
 以上より,証人Aの証言は十分に信用できる。
 5 これに対し,被告人は,c駅でb駅行きの電車に乗ると,両腕を組み,左足を右膝に乗せた状態で座席に座っていたが,すぐに寝てしまった,b駅に着き目が覚めると,男性に「チャック開いているぞ。」と声を掛けられた,チャックを確認すると開いていたので,お礼を言って,座ったまますぐにチャックを閉めると,その男性は,いきなり「おまえ,それ犯罪だよ。」と言ってきた,びっくりして被告人が電車から降りると,男性にいきなり腕をつかまれ,ホームの先頭の電車の運転士のところまで連れて行かれた,などとと供述している。これを前提に,弁護人は,証人Aは,チャックを上げようとした際の被告人の指を男性器と見間違えた可能性があると指摘する。
 ところで,被告人のジーンズのチャックの状態に関し,本件直後にb駅西口改札に臨場して,被告人に対する職務質問に当たったB警察官は,公判廷において,職務質問開始の段階で,被告人の履いていたジーンズのチャックは全開になっており,その後,駅事務室内に移動した後,被告人はチャックを閉めたと証言する。同警察官は警察官としての職務上,公然わいせつの疑いで確保された被告人の職務質問に当たっており,チャックの状態を意識的に観察し,記憶しているものと認められるところ,チャックが開いていた状態やチャックを閉めたタイミングについても詳細に述べており,その証言の内容は,具体的かつ自然なものであって,同警察官の証言は信用できる。弁護人は,被告人が西口改札に至るまで,チャックが開いたままの状態であったというのは不自然であると主張するが,被告人は,公然わいせつ行為を行ったとして,腕をつかまれ連行されたのであるから,その際にチャックを閉めることをしなかったというのも自然なことである。
 そして,このB警察官の証言からすると,被告人は,証人Aから声を掛けられた際に,すぐにジーンズのチャックを閉めることはせず,B警察官の面前でチャックを閉めたものと認められるから,証人Aから声を掛けられ,チャックが開いていることを指摘された際に,すぐにチャックを閉めたとする被告人の公判供述は信用できず,チャックを閉める際の被告人の指を陰茎と見間違えたとする弁護人の主張は採用できない。
 6 以上のとおり,信用できる証人Aの証言によれば,b駅に到着した時点において,被告人の履いていたジーンズの前開き部が開いており,その部分から,陰茎が露出していたことが認められる。
 そして,被告人がジーンズの下に,ボクサーパンツタイプの黒色パンツを履いており,その前開き部の形状等からすれば,被告人の故意によらずに,黒色パンツの前開き部が開き,陰茎が露出する状態になることは考えられないから,被告人が故意に陰茎を露出したものと認められる。
 よって,判示のとおりの事実を認定した。
 (法令の適用)
 罰条 刑法174条
 刑種の選択 罰金刑を選択
 労役場留置 刑法18条
 (量刑の理由)
 被告人は日中の電車内で陰茎を露出しており,大胆な犯行である。もっとも,その犯行態様を具体的に見ると,被告人は,座席に座った体勢のまま,ジーンズのチャックを開けて,その中に陰茎が見えるような形にして露出したのであり,他の同種の事案と比較すると,健全な性秩序を害する程度が特に高い態様の犯行であるとはいえない。また,被告人は,警察官として,行為の違法性を十分に認識し,法律の遵守を強く求められる立場にありながら,本件犯行に及んでおり,警察官の職務に対する社会的信用を損なう犯行であるという点においても,より強い非難に値する。もっとも,本件は,被告人が非番の際に,職務とは無関係に行った犯行であり,職務上の立場を利用した犯行ではなく,その責任非難を加重する程度には,おのずから限界があるというべきである。
 そうすると,被告人の刑事責任は軽いものではないものの,本件について懲役刑を選択するほかはないとまではいえず,被告人が当公判廷においても不合理な弁解に終始し,反省の態度は見られないこと等を考慮しても,被告人に対しては,主文の罰金刑に処するのが相当であると判断した。
 (求刑 懲役4月)
 千葉地方裁判所刑事第3部
 (裁判官 小西安世)