児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者性交・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録記録被告事件弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 hp@okumura-tanaka-law.com)

性犯罪・福祉犯(監護者性交罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

強制わいせつ罪について「被告人が被害者の陰部に指を挿入するなどした事実や、被害者が被告人から胸をなめられるなどした際に、「やめてください」と言うなどして拒否する態度を示した事実を認定するには合理的な疑いが残る」などとして無罪とした上で予備的訴因である青少年条例違反罪についても「本件の性的な行為について、被告人が被害者を単に自己の性的欲望を満足させるための対象として扱っているとしか認められないような行為をしたと認めるには、合理的な疑いが残るといわざるを得ない。」として無罪とした事例(仙台地裁H30.2.8)

「被害者の供述には、不自然な部分や自己に不都合な事実を隠そうとする供述経過等があるため、これに符合するようなメッセージ送信などの事実やBの供述があることに照らしても、被害者の供述を全面的に信用するのは難しく、被害者が被告人と性的な接触をした時点で、被害者の同意がなかったと認めるのはためらわれる上、少なくとも、被告人は、被害者が被告人と性的な接触をすることについて同意していたと認識していた可能性が排斥できず、被害者の同意に関し誤信があった合理的な疑いが残る」とされています。
 青少年条例違反もこういう関係でも無罪になるようです。

仙台地方裁判所平成30年02月08日
 上記の者に対する強制わいせつ(予備的訴因 宮城県青少年健全育成条例違反)被告事件について、当裁判所は、検察官矢部良二及び髙山由子並びに私選弁護人薄井淳(主任)及び同草場裕之各出席の上審理し、次のとおり判決する。
主文
被告人は無罪。

理由
第1 公訴事実及び争点等
 1 本件各公訴事実
  本件公訴事実のうち、主位的訴因は、「被告人は、A(当時17歳。以下「被害者」という。)に強いてわいせつな行為をしようと考え、平成28年11月8日午後6時30分頃(以下、年号はいずれも平成28年である。)、宮城県(以下略)E店屋上駐車場(以下「本件駐車場」という。)に駐車中の自動車(以下「本件車両」という。)内において、助手席に座っていた被害者に対し、いきなり覆いかぶさって助手席シートを倒し、その両乳房をもみ、乳首をなめ、更に下着の中に手を差し入れて陰部に指を挿入して弄ぶなどし、もって強いてわいせつな行為をした。」というものであり、予備的訴因は、「被告人は、11月8日午後6時30分頃、本件駐車場に駐車中の本件車両内において、被害者が18歳未満の者であることを知りながら、単に自己の性的欲望を満足させるため被害者の両乳房をもみ、乳首をなめ、更に下着の中に手を差し入れて陰部に指を挿入して弄ぶなどし、もって青少年に対しわいせつな行為をした。」というものである。
 2 争点等
  主位的訴因については、被告人が被害者に対して行ったわいせつ行為の内容のほか、〈1〉被害者がわいせつ行為に同意したか、〈2〉被告人がその同意があると誤信したかが争われ、予備的訴因については、〈3〉年齢の知情性及び〈4〉淫行行為の該当性が争われており、被害者の供述の信用性の評価が大きく対立している。
  (1) 検察官は、11月8日午後6時40分に被害者が友人のBに「助けて」というメッセージをFで送り、Bに会うなどして本件被害を打ち明け、同日午後9時15分にBが被害者の携帯電話機を使って警察に本件被害を伝え、その後被害者が警察署で事情聴取を受け、他方、被告人が同日午後10時48分以降に被害者に謝罪するメッセージを繰り返し送信するなどしているから、被告人が被害者に対し意に反する重大なことをしたことが合理的に推認でき、そうした事実等とも整合する被害者供述が信用できるとし、これに依拠して、被告人が主位的訴因のとおりのわいせつ行為を行ったことのほか、被害者は「やめてください。」と言うなど被告人による性的な接触を明確に拒む態度を示していたから、被害者の同意も、被告人に被害者の同意があるとの誤信もないと主張し、また、予備的訴因について、被害者は、本件以前に被告人に年齢などを伝え、本件時に被告人が被害者に対し、お金をあげるなどと伝えているから、被害者が18歳未満の者であることを知りつつ、被告人が単に自己の性的欲望を満足させるために本件を行ったことは明らかであると主張する。
  (2) 他方、弁護人は、被害者の供述には大きな変遷があり、供述内容も不自然不合理で全く信用性がないとして、その供述に沿うわいせつ行為の存在を争うほか、主位的訴因に対し、性的行為に至る経緯や心理的経過を含め具体的かつ自然に述べる被告人の供述は信用できるとして、〈1〉被害者は、被告人と性的な接触をすることについて同意していた、〈2〉仮に被害者の同意がなかったとしても、被害者は、当初は被告人との性的な接触を拒否する態度を示しておらず、その途中で「やっぱり彼氏がいい。」と言い出し、それ以降は性的な接触をしていないため、被告人には被害者の同意があるとの誤信があったと評価すべきであると指摘し、また、予備的訴因に対しても、被告人は、〈3〉被害者が18歳未満であることを知らなかった、〈4〉被害者に対する真摯な恋愛感情があり、それに基づき性的行為に及んでいるから、単に自己の性的欲望を満足させるための行為ではなかったと指摘して、被告人はいずれも無罪であると主張し、被告人も公判でこれに沿う供述をする。
  (3) 当裁判所は、概要、主位的訴因について、被害者の供述には、不自然な部分や自己に不都合な事実を隠そうとする供述経過等があるため、これに符合するようなメッセージ送信などの事実やBの供述があることに照らしても、被害者の供述を全面的に信用するのは難しく、被害者が被告人と性的な接触をした時点で、被害者の同意がなかったと認めるのはためらわれる上、少なくとも、被告人は、被害者が被告人と性的な接触をすることについて同意していたと認識していた可能性が排斥できず、被害者の同意に関し誤信があった合理的な疑いが残ること、予備的訴因については、交際状況に関する捜査が十分ではない上、捜査段階では年齢の知情性に関し何ら捜査がされていないところ、本件の証拠関係に照らすと、被告人が、被害者が18歳未満であることを知っていたと認めるには合理的な疑いが残り、さらに本件の性的な行為が条例が禁じる淫行行為に当たると認めるには合理的な疑いが残ることから、被告人はいずれも無罪と判断したので、以下、その理由を説明する。

第2 主位的訴因に対する当裁判所の判断
 1 前提事実
  証拠によれば、以下の前提事実が認められる。
  (1) 被告人と被害者は、3月頃、被告人がSNSを通じて被害者に対し連絡したことをきっかけに、Fでやり取りをするようになり、二人は本件以前に少なくとも5月頃及び夏頃(6月後半から7月中旬までの間)の2回会った。二人が会った際には、いずれも、被告人が運転する本件車両に被害者が乗り込み、被告人が被害者を自宅付近まで送り届けていた。なお、被告人と被害者は、本件に至るまで、被告人を「Y」と、被害者を「A'」と呼び合い、お互いの本名を教え合っていなかった。また、夏頃に会ってから本件当日までの間に、被告人と被害者が会うことはなかったが、その間、被告人と被害者のFでのやり取りは断続的に行われていた。
  (2) 被告人と被害者は、Fでのやり取りで本件当日に会うこととなり、二人は、11月8日午後6時頃、本件駐車場で待ち合わせた。その頃、被害者は、本件車両に乗り込み、被害者の用事を済ませるため付近の武道館まで本件車両で移動し、その用事を済ませた後、再度本件車両の助手席に乗り込み、被告人の運転で本件駐車場に戻った。
  (3) 被害者は、同日午後6時40分頃、Bに対し、「たすけて」というメッセージをFで送信したほか、同日午後7時4分頃にBと通話し(甲10)、その後、B宅に行き、Bに対し、本件車両内で被告人と性的な接触をしたことなどを相談した。また、被害者とBは、同日、警察に対し、被告人から強制わいせつの被害を受けた旨通報し、被害者は、同日午後9時50分頃から行われた本件駐車場の実況見分に立ち会うなどした(甲3)。
  他方、被告人は、同日午後10時48分頃以降、被害者に対し、「嫌な気持ちにさせてほんとに申し訳ありません。」「死刑でも何でもうけます。家族だけは助けてください。」などの内容のメッセージをFで送信し(甲10)、また、本件車両内に遺留された被害者の自宅のかぎの返還などに関し、被害者とメッセージのやり取りをした(甲11)。
 2 被害者の同意の有無等について
  以上を前提に争点について検討を加える。本件ではわいせつ行為の態様にも争いがあるが、より重要な争点である被害者の同意の有無等(前記〈1〉、〈2〉)を中心に検討を加えることとする。
  (1) 被害者供述の信用性
  ア 被害者は、公判において、概要、本件当日に本件駐車場に戻った後、本件車両から降りようとしたが、ドアが施錠されていたので、被告人に対し降りないのかと聞いたところ、被告人は被害者が座っていた助手席のシートをいきなり倒し、被害者に覆いかぶさり、被害者の両乳房を直接もみ、乳首をなめたため、被告人に「やめてください」と言ったり、被告人の手を払ったりした、被告人は行為を止めなかったので、自身の左脇に置いていたバッグの中で携帯電話機を操作して、Bに対し「たすけて」というメッセージをFで送信した、被害者は、被告人の手を払おうとしたが、被告人に手や足を使って押さえ付けられ、陰部に指を挿入された、被告人は被害者に対し陰茎をなめるよう言ったが、これに応じなかった、被告人が被害者の身体から離れた隙に、ドアのかぎを開けて降車し、走って逃げた、などと供述する。
  イ この点、性的な行為があったとされる時間帯に「たすけて」というメッセージをBに送信したことは、意に反する性的な行為を受けたとの供述をよく裏付けており、被害者が供述するような体勢でも、「たすけて」との単純なメッセージを送信する動作をすることは不可能ではないから、これ自体としても、被害者の意に反して被告人が性的な接触をしたことを一定程度推認させるものである。もっとも、突然被告人から助手席のシートを倒され、乳首をなめられるなどの性的被害を受け、振り払った手を被告人の手や足で押さえられたりする中で、バッグの中にあった携帯電話機を操作して、Fアプリを作動させて特定の者を選択してメッセージを送信する余裕があったかという点や、二人の体勢も含め性交渉のやり取りを具体的に述べる被告人の供述に比して、被害者は、必死に助けを求めた際の被害者と被告人の位置関係・姿勢や送信時の性行為の内容などについてあいまいな供述しかしていない点など、被害者の供述は、やや不自然さがぬぐえない。
  また、被害者は、Bに上記メッセージを送信したことに加えて、その送信から24分後に、Bに対し電話をかけ、その後同人と会って被告人との性的な接触があったことを相談し、同日中にBと共に警察に強制わいせつの被害を申告し、同日午後9時50分から警察の実況見分に立ち会うなどしている。Bは、この点、被害者が泣きながら電話をかけてきて、陰部を触られるなどの被害を訴えた旨供述しており(Bの供述は、このようなやり取りがあった限度では疑うべきところはない。)、犯行直後にBに被害を打ち明け、さほど時間を置かずに警察に被害申告した経過も、被害者の意に反する性的な接触があったこととよく整合する事実である。しかし、被害者の供述によると、シートを倒されて以降さほど長い時間被告人による性的な接触を受けていないとうかがわれる(被告人は駐車していた時間が10分か15分と述べる。)が、上記メッセージの送信時点では既に性的な接触があったはずであるから、その時点から電話をかけるまで24分もの時間を要したのは、当初の両乳房をもまれるなどしてから陰部に指を入れられるまでの一連の行為が意に反していたとすると、経過としてやや不自然さがある。一方、この点は、被告人が弁解するように、被害者が当初は被告人との性的な接触について拒絶の態度を示していなかったものの、途中から「やっぱり彼氏がいい。」と考えて、被告人との性的な接触を嫌がった被害者が動転し、本件車両を降りる前後にメッセージを送ったとしても、説明が付かないわけではないと思われる。また、後記エのとおり、被害申告しながら、ほぼ同時に被害者が被告人との関係性を隠すような行動をしたことは無視できない。
  ウ さらに、被害者は、本件以前の5月頃に被告人と会った際、被告人と車内で性交した旨供述する。この事実は、被害者に相当不利なものであるから、虚偽供述する理由はなく、被告人と被害者は5月頃に本件車両内で性交をしたと認められる(被告人は乳首をなめたりしたのにとどまるとして性交の事実を否定しており、この点が一致しないのは理解困難であるが、被告人の供述等を踏まえても、比較的濃厚な身体接触があったことに変わりはなく、性交したと認定することを妨げない。)。このほか、被告人と被害者が夏頃会った際、二人がキスした事実は被告人と被害者が一致した供述をしている上、被告人はその機会にも被害者の胸をなめたり、陰部に指を入れた旨供述するが、交際が浅い5月頃には被害者が被告人との性交を許したことに照らすと、この供述を排斥するのは困難である。このように、二人は過去2回会う度に本件車両内で性的な接触をした関係にあるから、本件当日も被告人が性的な接触に及ぶことは十分予想できる状況にある。そのような状況で被害者が本件車両に乗ったことや、シートに座っていた被害者のズボンを下げるには被害者の腰を上げるなどの動作を伴う方が容易であること、被害者は隙をついて逃げたというのに本件車両から降りた時点で膝まで下がったズボンを多分はいていたと述べていることも、被害者が被告人から性的な接触をされて嫌だったとの供述の信用性に疑いを生じさせる方向に働く事情である。
  この点、被害者は、5月頃の性交の際は彼氏がおらず、被告人と性交してもいいかなと思っていたのに対し、本件当時は、好きな人がいたので嫌だった旨供述する。被害者が当時17歳と若年であることや、被告人と最後に会ってから数か月が経過していることからすれば、被害者に既に好きな人がいたために、過去2回とは異なり、本件当時はそれに応じる意思を欠いたとしても不自然ではなく、その供述が不合理とはいえない。しかし、そのような被害者の心情を踏まえても、二人の従前の関係性等を考慮すると、本件当日において被害者が被告人との性的な接触を当初は受け入れ、途中から気持ちが変わって、被告人との性的な接触を嫌がったとの疑いが払拭できるわけではない。
  エ 加えて、被害者供述の信用性に疑問を差し挟むべき事情として、被害者が、本件直後に被告人との従前のFメッセージのデータを削除した点が挙げられる。一部が復元されたデータ(甲22)によれば、削除したデータの中には、知り合って以降の被告人との親密なやり取りが推認されるものがある。そして、被害者は、捜査段階において、夏頃に会って以降、被告人とFでのやり取りはなかったと述べ(弁24)、5月頃に被告人と性交した事実も供述していなかったところ、これらの事実を公判段階で初めて明らかにした。被告人は、捜査の早い段階で被害者と2回くらい性的な接触をした旨述べていたというのであり、従前の被害者と被告人との関係性は重要な事実であるから、被害者に対しても捜査官は必ずこれに関連する質問をするはずである。したがって、捜査段階では、被害者があえてこれを供述せず、また、被告人との良好な関係性を示すデータを消去したとしか考えられない。これらの事情からすれば、被害者は、本件直後や捜査段階において、何らかの自己に不利な事実を隠そうとしていたと認められる。そして、本件当日に警察に被害申告するのと並行してデータ消去等をしたことは、上記イの被害申告等の事実を、被害者供述を補強するものと扱うことにも疑問を生じさせる。
  オ その他、Bの公判供述によれば、被害者は、被告人の陰茎をなめた事実がないのに、本件当日及び翌日に、Bに対し、被告人の陰茎をなめさせられたと述べているから、Bが聞いた被害者の供述には、被害内容を誇張する部分があったとみる余地がある。また、被害者は、本件後に手首と足に痣があったと供述し、Bも、被害者から痣を見せられた上、痣の写真データをもらった旨供述しており、この点の両者の供述は一致するものの、これらの供述を裏付ける客観証拠はないほか、通常、被害者が警察に被害申告しながらその裏付けとなる痣について申告しないことは考えられないところ、12月18日の取調べで供述(弁28)するまで、被害者が捜査機関に痣を見せたり写真を提出したりした形跡はなく、痣に関する被害者供述にも不自然な面がある。
  カ そうすると、被害者供述の全体の信用性には疑問が残るといわざるを得ない。
  なお、検察官は、Bの公判供述は信用でき、これと一致する被害者の供述も信用できると主張する。しかし、Bと被害者の供述が一致するのは本件当日の出来事の一部にすぎない上、B供述の主要部分はBが被害者自身から聴取したことを基にしている。したがって、Bの供述は、独自に被害者供述を裏付けるようなものではなく、その聴取の仕方も、Bが誘導的な質問をして被害者が肯定か否定をするようなものであったとうかがわれるから、被害者供述の信用性を大きく支えるものではない。なお、B自身、被害者が本件前に被告人と性交していたことを知っていたら、被害者にそこまで協力しなかったと端的に述べているが、これも被害者が大げさに被告人との出来事を伝えたことをうかがわせる事情といえる。
  また、検察官は、被害者には虚偽供述をする理由がない旨も主張する。確かに、検察官が主張するとおり、被告人と被害者の本件以降のFでのやり取りの状況からすると、示談目的での虚偽供述の可能性は考えにくいものの、他方で、好きな人がいるのに被告人と性的な接触をした言い訳などとして、虚偽供述をする事態も全く考えられないわけではない。
  よって、検察官の指摘を踏まえても、被害者の供述の信用性に関する上記評価は変わらない。
  (2) 被告人供述の信用性
  ア 被告人は、公判において、概要、本件駐車場に戻った後、本件車両内において、被害者に対し、「好きな人いるの」と聞くと、被害者が「いないよ」と言ったので、被害者にキスをして、被害者の胸をもんだり胸をなめたりし、更にズボンの上から被害者の陰部を触ってから、ズボンを膝辺りまで脱がせて被害者の下着の中に手を入れ、直接陰部を触ったこと、すると、陰部を直接触り始めて少ししてから、突然、被害者が「彼氏がいい。」と言ったこと、そのため、びっくりして被害者のズボンをはかせ、被害者から「帰る。」と言われたので、「送っていくよ。」と言うと、被害者が「母親が迎えに来るからいい。」と言って降車し、被害者と別れたことなどを供述する。
  イ この点、被告人は、同日午後10時48分以降、被害者に対し謝罪するFメッセージを多数回送信しており、その中には「死刑でも何でもうけます。」との相当重大な事態が生じ、それに責任を感じなければ書かないような文面もある上、被告人と証人Cとのやり取りの中でも、「俺やっぱ生きていけないわ」などと重大な事態が生じた旨の認識を有しているかのようなFメッセージを送信しており、これらの事実からすると、被告人は、本件に関し、相当に罪の意識を感じていた様子がうかがえる。この点、被告人が述べるとおりであれば、交際相手がいないと考えていた女性と性的な接触をしたにすぎず、被告人のこれまでの交際状況等に照らし、常識的にはそれほど強い罪の意識を感じる必要はないから、これらの客観証拠は、被告人が供述する状況と矛盾するように見え、その供述の信用性に疑いを生じさせる。
  もっとも、被告人の供述を前提にしても、被害者に好きな人がいたから、性的な接触が実際には被害者の意思に反していて、これを重く受け止めたとの説明は一応可能である。すなわち、被告人の年齢や社会経験の乏しさに加えて、被告人が被害者の周辺人物や交遊関係を警戒していた心理状態も踏まえると、被告人が、結果的に被害者の意思に反する性的な接触を行ったことについて、結婚式を控えた自己の家族に迷惑がかかることも含め、強い焦りや罪悪感などを感じたことも、あながち理解できないわけではない。かえって、被告人は、本件当時、被害者から「彼氏がいい。」と言われた旨供述するが、この点は、被告人が被害者に送信したFメッセージの中に、「彼氏いたことも知らなくてすいません。彼氏いたからいないからとかの問題じゃないと思ってます。」との内容のものがあることと整合しないわけではない。
  そうすると、被害者とのメッセージのやり取りに関する心理描写を含め、詳しく述べる被告人の供述全体を信用できないとして完全に排斥することはできない。
 3 強制わいせつ罪の成否についての評価
  (1) 以上の検討からすると、被害者の供述を全面的に信用するのはためらわれ、被害者の供述から、被告人が被害者の陰部に指を挿入するなどした事実や、被害者が被告人から胸をなめられるなどした際に、「やめてください」と言うなどして拒否する態度を示した事実を認定するには合理的な疑いが残るといわざるを得ない。
  (2) さらに、被告人と被害者の関係をみると、被告人は、本件以前に被害者と2回会った際、いずれも被害者に拒否されずに性的な行為に及び、5月頃には性交にも及んでいる。そうすると、被告人は、本件当時も、被害者が性的な接触に応じることに強い期待があったと合理的に推認できる。この点、検察官は、被告人と被害者は性的な行為に及ぶことが当たり前の関係にはなかったと主張するが、少なくとも、二人が会った際に性的な接触に及ぶ可能性は相応にある関係にあったといえ、被告人としても、被害者と再び会えば性的な接触に至ることは当然期待していた状況にある。
  また、被告人と被害者は約半年間会っていなかったものの、Fでのやり取りを継続しており、それには日常生活に関する些細な内容も含まれているなど、ある程度親密な関係にあったと認められる。そして、本件以前の性的な接触は、いずれも被害者が被告人の車両に乗り、被告人が被害者を自宅付近まで送り届けるなどした際に、本件車両内において生じたものであるところ、本件も被害者が本件車両に乗り、被害者の用事のために被告人が送迎した後に、その車内で性的な接触が行われており、これらの事実経過はほぼ共通する。一方で、今回に限り、被害者と性的な接触を図るという被告人の強い期待感が解消されていたような特別の事情は証拠上うかがえない。
  さらに、被害者は、警察に被害申告しながらも、しばらくの間被告人に対し、処罰を求めるというよりは謝ってくれればよいというメッセージのやり取りを繰り返している。このことは、意に反して陰部に指を入れられたりする性的被害に遭ったことと矛盾はしないものの、一方で、被告人がいうように、被害者が性的な行為を受け入れている最中に彼氏がいることを思い出し、嫌悪感や躊躇を感じて性的な行為をやめたとしても、彼氏がいるのに性的な行為をしてしまったことの謝罪が問題になっているものとして、自然に理解できる。
  (3) 以上の事情からすれば、本件後の被告人の罪悪感の感じ方にはやや不自然さが残るにしても、本件当時、被告人は、被害者が被告人と性的な接触をすることについて、同意していると信じていたとしても、特に不合理であるとはいえない。
  したがって、被告人に対し、被害者に対する強制わいせつ罪が成立すると認めるには、合理的な疑いが残る。
第3 予備的訴因に対する当裁判所の判断
 1 被告人は、本件当時、被害者を大学生と思っており、被害者が18歳未満であるとは知らなかった旨供述する。一方、被害者は、5月頃に会った際に自分の誕生日の話になったことや、被告人から何歳かと聞かれて年齢を答えたことを供述する。
  確かに、被害者は5月が誕生月であるが、上記第2のとおり、被害者の供述は全体として信用性に疑問の余地がある上、SNSを通じて知り合い、本名も教え合っていない若者同士の関係性において、お互いの誕生日や年齢の話をすることについての明確な経験則など存在せず、その裏付けもないのに、被告人に年齢を教えたとの被害者の供述を直ちに信用することはできない。
 2 また、被害者は、3月頃に、被害者が制服を着用している写真(甲11)を掲載するSNSを見た被告人から連絡があった旨供述し、検察官もこの点を年齢知情の根拠として指摘する。しかし、被告人がSNSで被害者の写真を見たことがあったとしても、被告人が見た写真が甲11号証そのものであることに関する被害者供述には裏付けがないし、その写真がいつ撮影されたもので、どの程度の期間掲載されていたかの被害者の説明もない。また、その写真は、それ自体として18歳未満という認識を生じるような内容でもない。
  さらに、被害者は、本件以前に高校まで被告人に迎えに来てもらい、制服姿で会ったことがある旨供述し、他方、被告人は、3月頃、D大学の門の前へ行って被害者と会ったが、その際、被害者がコートを着ていて中に何を着ていたか分からなかったと供述する。この点、その敷地内には大学と付属高校が存在し、門の前だけでは被害者がどちらの学校に所属しているか直ちに判別できないし、前年度である3月頃の時点で被告人が制服姿の被害者を門の前まで迎えに行ったとしても、翌年度である本件当時の時点で、被害者が18歳未満であったとの認識を被告人が有していたことには当然にはならない。
  なお、被告人は、本件後に被害者から「高校にも行けない」旨のFメッセージを受け取ったのに対し、大学生ではないのかなどと聞き返したり驚いたりした形跡はなく、この点は被害者が高校生であることを被告人が認識していたとうかがわせる事情ではあるが、こうした事後のやり取りの状況のみから被告人が被害者の年齢を具体的に認識していたと推認するのは適当ではないと考える。
 3 そもそも、本件当時、被告人が被害者の年齢を知っていたかどうかについては、捜査段階において何ら捜査がされていないどころか、被害者と被告人との従前の関係性について、被害者側の供述を重視してこれを疑う姿勢が欠け、被害者が捜査官に示した以外に従前のFでのやり取りがあるかどうかを確認したり、削除されたFでのやり取りを復元することなどもしていない結果、本件以前のFでのやり取りなどの、二人の交際状況や年齢の認識に関する重要な資料となるはずの証拠が欠ける事態となっている。
  しかるに、この点に関する被告人と被害者の供述は対立していて、被告人が被害者の年齢を知っていたことを示す明確な証拠がない以上、被告人が被害者の年齢を認識していたとの事実を認定するには合理的な疑いが残るといわなければならない。
 4 もっとも、宮城県青少年健全育成条例41条6項は、当該青少年の年齢を知らないことに過失のないときを除き、年齢を知らないことを理由として、同条1項の規定による処罰を免れることはできない旨定めている。そこで、〈4〉の争点である「みだらな性行為又はわいせつな行為」の該当性についても以下検討する。
  宮城県青少年健全育成条例における「みだらな性行為又はわいせつな行為」とは、青少年を対象とした性行為やわいせつな行為を広く対象とするものではなく、(1)「青少年を誘惑し、威迫し、欺罔し又は困惑させる等その心身の未成熟に乗じた不正な手段により行う性交又は性交類似行為」、(2)「青少年を単に自己の性的欲望を満足させるための対象として扱っているとしか認められないような性交又は性交類似行為」をいうと解される(昭和60年10月23日最高裁大法廷判決参照)。そして、これに該当するか否かは、行為当時の両者の年齢、性交渉に至る経緯、その他両者間の付合いの態様等の諸事情を考慮し、健全な常識を有する一般社会人の立場から決せられることになる。
  上記第2のとおり、被害者の供述は、全体として信用性に疑問の余地があり、被害者が供述するように、被告人が嫌がる被害者の手や足を押さえ付けるなどしたり、お金をあげるからと言った上で性的な行為に及んだりしたと認定することには合理的な疑いが残る。そして、被告人と被害者の年齢差、本件に至るまでのやり取りや関係性に照らして、その心身の未成熟に乗じた不正な手段(上記(1))により性的な行為に及んだと認めることは困難である。次に、(2)の点についてみると、被告人は4月に大学を卒業したばかりの23歳、被害者は5月に17歳になった高校2年生であり、交遊関係等が発展して交際することになっても不自然ではない年齢差である。被告人は、友人の交際相手を探す過程で被害者とSNSを通じて会うこととなったが、出会い系サイトなどを通じて交際を始めたわけではなく、知り合った際には、既に被害者には性行為の経験があったと解される。また、性交に至る経緯や付合いの状況についてみると、3月中旬に被告人と被害者が初めて会った際には(その頃に会ったとする被告人供述を排斥できない。)、車に乗せて世間話をした程度にすぎなかったが、その後はFでのやり取りを続け、5月頃に会った際には、二人は車に乗ってGで飲み物を買い、どういう人が好きかを被告人が被害者に聞き、被害者が年上の人が好きなどという会話をし、信号待ちの際には被害者が被告人に寄り添うこともあった。そして、被告人は、被害者方の近くまで送り届けた車内で、好きと言いながら被害者にキスをし、性交に至っている。また、二人は、また遊ぼうと約束して別れ、その後も、Fでのやり取りを続けた。夏頃にも二人は午後9時頃に会い、スーパーに寄るなどした後、車で被害者方の近くまで送り届け、その車内で、被告人が被害者にキスをし、胸をなめたり、陰部に指を入れるなどしたが、性交まではしなかった。その後、被告人と被害者は、Fで日常生活に関わるやり取りなどを繰り返した。本件の際も、Fでのメッセージを通じて午後6時に会うこととなったが、被害者の希望で、本件車両で武道館に行き、被害者の用事を済ませ、その後、本件駐車場に戻り、性的な行為に至っている。性的な行為の際には、被害者から積極的な性行為に及んでいないものの、当初は被告人の行為に特に拒絶的な態度を示しておらず(上記第2のとおり、被害者が当初から「やめてください」と言うなどして拒否する態度を示した事実を認定するには合理的な疑いが残る。)、被害者が「彼氏がいい。」と言うと、被告人は直ちに性的な行為を止めている。
  以上を踏まえて検討すると、二人は2回目に会った際に自動車内で性交に及び、かつ、3回目に会った際にも性的な行為に及んでおり、これらに照らすと、被告人が性交渉を目的として被害者と会っていた疑いは否定できない。しかしながら、二人は、5月頃や夏頃以降もFで日常的なやり取りを行っており、その後本件に至るまでの間に被告人が積極的に性的な行為を求めたようなところもなく、会った際には性的な行為以外のやり取りもしている。その上、被害者に対し本件当時に好意を抱いていたという被告人の供述を排斥することはできない。被告人や被害者のような年齢層の若者が交際する中で、性的な行為に至ることを期待したり、自然に性衝動などが生じることは通常のことであるし、被告人は、「彼氏がいい。」との被害者の言葉で性的な行為を止めていて、被害者の意向にも配慮している。このような事情にも照らすと、被告人は、専ら自己の性欲を優先したとまではいい難い。加えて、捜査段階において、被害者と被告人の従前の関係性について十分な捜査がされておらず、交際状況に関する証拠が欠けている。
  そうすると、本件の性的な行為について、被告人が被害者を単に自己の性的欲望を満足させるための対象として扱っているとしか認められないような行為をしたと認めるには、合理的な疑いが残るといわざるを得ない。
 5 以上によれば、予備的訴因の立証が尽くされたとは認められない。
第4 結論
  結局、本件各公訴事実については、主位的訴因及び予備的訴因のいずれについても犯罪の証明がないことに帰するから、刑事訴訟法336条により、被告人に無罪の言渡しをする。
(求刑 主位的訴因につき懲役2年、予備的訴因につき罰金30万円)
第2刑事部
 (裁判長裁判官 小池健治 裁判官 内田曉 裁判官 西村有紗