児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者性交・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録記録被告事件弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 hp@okumura-tanaka-law.com)

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女子トイレに、その出入口から侵入し、同トイレ個室内にいたAに対し、やにわにその右こめかみ又は右手の甲に被告人の陰茎の先端を接触させ、という建造物侵入、強制わいせつ被告事件につき、無罪が言い渡された事例(名古屋地裁h30.1.11)

建造物侵入、強制わいせつ被告事件につき、無罪が言い渡された事例(名古屋地裁h30.1.11)
 被害者供述の信用性が否定されています。被告人の供述は検討されていません。

名古屋地方裁判所平成30年01月11日
主文
被告人は無罪。

理由
第1 本件訴因変更後の公訴事実と争点
  本件訴因変更後の公訴事実は、「被告人は、A(当時46歳)に強いてわいせつな行為をしようと考え、平成29年3月22日午後7時18分頃、G市a区b町c番地B店店長Cが看守する同店2階女子トイレに、その出入口から侵入し、同トイレ個室内にいたAに対し、やにわにその右こめかみ又は右手の甲に被告人の陰茎の先端を接触させ、もって強いてわいせつな行為をした」というものである。
  関係証拠によれば、被告人が、上記日時頃に、上記女子トイレ(以下「本件女子トイレ」という。)内の個室にAと2人で入った状態になっていたことが明らかに認められ、被告人及び弁護人は、被告人が、同トイレ内で、Aが認識できる状態で陰茎を露出したことがあったことは争っていない。そして、被告人は、用を足すために、女性用のトイレと認識せずに本件女子トイレに入ったが、強制わいせつ行為はしていない旨述べている。
  よって、本件の争点は、強制わいせつ行為の有無と、被告人が本件女子トイレに入った目的であるが、強制わいせつ行為が認められなければ、前記訴因変更後の公訴事実にある強制わいせつ目的による侵入の事実も認められないことになるから、以下、強制わいせつ行為の有無を中心に検討する。
第2 前提事実
  関係証拠によれば、被告人及びAが本件当時同僚の関係にあり、本件当日は他の同僚らとバーベキューをした後、午後5時前頃(以下の時刻のみの記載は、いずれも本件当日のものである。)から、十数名で、2次会として前記B店(以下「本件店舗」という。)2階のH号室でカラオケをしたこと、被告人が、午後7時前頃に、他のベトナム人ら3名と共に帰ることとしてH号室を出たが、本件店舗入口付近で考えを変えて本件店舗に残ることにし、午後7時1分頃に他のベトナム人に電話をしてこれを告げたこと、Aが、本件店舗入口付近まで被告人らを見送りに出ていたこと、上司のDが、午後7時12分頃から18分頃にかけて4回にわたりAに電話をかけたが応答がなく、午後7時24分頃にAから電話を受けて女子トイレに来るよう求められ、本件女子トイレに行くとAと被告人がいたこと、Aが、H号室に戻った際涙を流しており、同僚のEやFに対し、本件女子トイレ内で被告人から顔付近に陰茎を押し付けられたなどと訴えたこと、Aが、午後9時半頃に本件店舗を出た後、D、Fほか1名と共にA宅で3次会をしたことなどが明らかに認められる。
第3 A供述について
 1 本件被害についてのAの公判供述は、概ね次のようなものである。
  被告人らが帰った後、本件女子トイレに行って用を足した。ズボンを履いた後、被告人が同じ個室に入ってきた。個室の鍵をかけたかは覚えていない。被告人が、ズボンのチャックを下ろして陰茎を出し、手で持ったので、おしっこをするのかなと思ったが、おしっこはせず、Aの名字を呼んで近寄ってきた。何やってるの、おしっこ出ないの、待ってなどと言ったが、ほら、ほらと言いながら近寄ろうとするのをやめないので、被告人を押しのけるようにした後、頭を手で覆い、体を丸めて身を守るような姿勢で、お尻をついてしゃがみ込んだところ、和式便器と床との段差部分と便器で額と鼻を打った。しゃがみ込んだときに、Dからの着信で携帯電話が鳴った。その後も、被告人は、Aの名字を呼び、ほら、ほらと言いながら、しゃがみ込むAの顔付近に手で持った陰茎を近付けたので、陰茎が、Aの右こめかみ付近に1、2回と、頭を覆っていた右手の甲に1回ほど、それぞれ1、2秒程度当たった。その後、Dに電話をかけて助けを求めたが、電話をした後も、被告人はまだ陰茎を近付けようとしてきていた。
 2 そこでA供述の信用性を検討するに、本件の当初の公訴事実は、強制わいせつ行為を「(Aの)身体に抱きつくなどの暴行を加えた上、その顔面に露出した陰茎を押しつけるなどし」というものであったが、A自身が、公判において、実際にはこのような行為はなく、捜査段階では自分が思ったことを自分流に話したなどとの説明をしたために、前記のように訴因変更がなされた経緯がある。Aの公判供述は、本件において強制わいせつ行為を直接立証する唯一の証拠であり、その信用性は慎重に検討する必要があるところ、罪体そのものに関する部分をこのように大きく変遷させたという供述経緯は、それ自体においてA供述の信用性を大きく損なう事情に当たる。
  さらに、捜査段階供述についてのAの説明は、要するに強制わいせつ行為を誇張して述べたというものと解されるが、捜査段階供述は、しゃがみ込んだAの口付近に被告人が陰茎を近付けてきたため、口を手で覆って顔を背けたところ右頬に陰茎を押し付けられた、被告人が陰茎を出した際既に勃起しており、小便をしたい様子は全くなかったとするもので、被告人が用を足すと思ったか否か、しゃがみ込んだ際のAの手の位置、陰茎の接触場所及び接触態様等において、公判供述とは相当に異なる内容である。捜査段階供述が誇張の範疇にあるとはいい難く、誇張の元に当たる公判供述中の強制わいせつ行為の存在自体を疑わせしめるものといえる。
 3 加えて、Aの公判供述には、内容自体にも、以下のとおり看過し難い問題点が複数指摘できる。
  まず、ひたすら陰茎を手に持ち近付けようとするという態様自体がわいせつ行為として理解しにくい上、Aの供述するように、頭部が和式便器やその床との段差部分(床からの高さ約30センチメートル(甲6))に当たるくらい低い姿勢でAがしゃがみ込んでいたのであれば、身長約170センチメートルの被告人がAの身体のいずれかの部分に陰茎を接触させようとすれば、被告人自身もかなりかがんだ姿勢をとらなければならず、相当に不自然である。そして、Aは、被告人が途中でかがんだ等の説明をしておらず、頭部等に陰茎が接触した理由を説明できていない。
  また、Dとの発着信履歴に照らすと、被告人がわいせつ行為を開始してAがしゃがみ込んでから、助けを求める発信をするまでに最低でも6分程度が経過していたことになるが、A供述はその間の出来事について的確に説明し得ていない。本件女子トイレの個室の狭さを踏まえれば、被告人が真にAに陰茎を押し付けようとしたのであれば、大した抵抗もしていないAを相手にこれを遂げるのは容易と考えられ、A供述によれば、被告人は、目の前でAが電話で助けを求めた後もなお続けたというほど同行為に執着していたというのに、数回の軽微な接触があったにとどまったとは考え難い。
  さらに、女性用トイレの個室にいた際に男性が入ってきて陰茎を露出すれば、相当に驚くはずであるが、そのような状況も供述していないなど、Aの公判供述は全般的に迫真性を欠いている。
 4 また、Dは、Aと被告人が本件女子トイレの個室から出てきた時に、特に変わった表情や雰囲気などはなく、強制わいせつ行為があったとは思えないような状態だったと述べている。
  一方で、AがH号室に戻った後、涙を流して強制わいせつ被害を訴えたことは、そのような被害があったことを一定程度裏付ける事情ともいえる。しかし、訴えを受けたEは、Aは被告人の行為を嫌がっていた雰囲気ではなく、被告人に好意を抱いているとも言っていた、泣いたのは、被告人に振られた等の悔しい気持ちからだと思うと述べ、Fは、Aは陰茎を押し付けられた頃に、私でいいのかなと被告人に言い、行為を容認する気持ちが一瞬芽生えたと言っていた、泣いたのは被告人の行為が怖かったのかなと思ったが、酔っていたからかなとも思った、3次会では、本件女子トイレでのことを気に留めていない様子だったなどと述べ、Dも、概ねこれらに沿う供述をしている。さらに、被告人が一緒に帰ろうとしていたベトナム人らの供述によれば、被告人がこのベトナム人らと本件店舗入口付近で別れた際、Aが被告人を引き止めて抱き合う形になっていたことなどが認められ、これらの関係者の供述に照らしても、被告人がAに対し、その意に反する性的接触をしたことには疑問が残る。
 5 以上に指摘した問題点に加え、自宅で3次会を行うという本件後のAの行動が、強制わいせつの被害に遭った直後の行動として疑問が残ることや、Aが被害届出の前後に親族とやり取りしたIメッセージが、届出の動機や被害内容に疑問を抱かせる内容であること等も考慮すれば、Aの公判供述の信用性を肯定することはできない。
第4 小括
  そして、Aの公判供述のほかに前記訴因変更後の公訴事実の強制わいせつ行為を行ったと認定するに足りる証拠はないから、被告人が同行為を行ったとの事実は認められない。
第5 建造物侵入について
  被告人がAに強制わいせつ行為をした事実が認められない以上、前記訴因変更後の公訴事実にある被告人が強制わいせつ目的で本件女子トイレに侵入したとの事実も認められない。
  進んで、本件女子トイレの出入口付近の状況を検討すると、同出入口ドアは一定角度以上に開くと開いたままの状態になるところ、開いたままの状態になれば、同ドアに貼られた女性用トイレであることを示すプレートが見えにくくなる一方で、同ドア上方の壁に男女のマークが並んだプレートが貼ってあり、さらに、同出入口を正面に見る廊下に立つと、隣接する男子トイレの存在も認識しにくくなると認められ、本件女子トイレのドア枠部分が赤色に塗られていること等を考慮しても、紛らわしさは否定できない。被告人の供述は、本件店舗にとどまることにしてからAがDに発信するまでの時間経過等を無理なく説明する内容とはいい難いものの、その説明するように、酒に酔った状態の被告人が、女性用トイレと認識せずに本件女子トイレに入ることがあり得ないとはいえない。
第6 結論
  よって、本件訴因変更後の公訴事実については犯罪の証明がないことになるから、刑訴法336条により被告人に無罪の言い渡しをする。
(求刑-懲役1年6月)
刑事第1部
 (裁判官 諸徳寺聡子)