いわゆる逆さ撮りについては、この判決では「衣服の全部又は一部を着けない人の姿態であって、殊更に人の性的な部位(性器等若しくはその周辺部、臀でん部又は胸部をいう。)が露出され又は強調されているものであり、」とはされていません。
私事性的画像記録の提供等による被害の防止に関する法律
第二条(定義)
この法律において「私事性的画像記録」とは、次の各号のいずれかに掲げる人の姿態が撮影された画像(撮影の対象とされた者(以下「撮影対象者」という。)において、撮影をした者、撮影対象者及び撮影対象者から提供を受けた者以外の者(次条第一項において「第三者」という。)が閲覧することを認識した上で、任意に撮影を承諾し又は撮影をしたものを除く。次項において同じ。)に係る電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。同項において同じ。)その他の記録をいう。
三 衣服の全部又は一部を着けない人の姿態であって、殊更に人の性的な部位(性器等若しくはその周辺部、臀でん部又は胸部をいう。)が露出され又は強調されているものであり、かつ、性欲を興奮させ又は刺激するもの
westlaw
裁判年月日 平成29年 3月22日 裁判所名 福岡地裁 裁判区分 判決
事件番号 平28(わ)1099号 ・ 平28(わ)1198号 ・ 平28(わ)1395号 ・ 平28(わ)1551号
事件名 わいせつ電磁的記録有償頒布目的保管,名誉毀損,私事性的画像記録の提供等による被害の防止に関する法律違反被告事件
文献番号 2017WLJPCA03226005主文
被告人を懲役3年及び罰金250万円に処する。
未決勾留日数中100日を,その1日を金1万円に換算して,その罰金刑に算入する。
その罰金を完納することができないときは,金1万円を1日に換算した期間被告人を労役場に留置する。
この裁判が確定した日から3年間その懲役刑の執行を猶予する。
理由【犯罪事実】
※〈 〉内は当該事実に係る起訴日付等を示す。また,別紙を引用する部分は,公判廷で秘匿した被害者特定事項を含む事項である。
被告人は,
第1 〈平成28年9月15日付け(訴因変更後のもの)〉Aらと共謀の上,平成27年8月4日頃,東京都内,沖縄県内又はその周辺において,インターネット接続端末を使用して,インターネットを介し,別紙の1(1)記載の者(以下「B」という。)の顔を撮影した動画データや別紙の1(2)記載のとおりの第三者が撮影対象者を特定できる文言と共に,Bの陰部周辺が撮影された画像データ2点を,スウェーデン王国内に設置されたサーバコンピュータ及び同サーバコンピュータの画像システムに接続可能な北海道石狩市〈以下省略〉に設置されたサーバコンピュータに記録・蔵置させ,不特定多数のインターネット利用者に対し,同画像の閲覧が可能な状態を設定し,もって公然と事実を適示してBの名誉を毀損すると共に,第三者が撮影対象者を特定できる方法で,衣服の全部又は一部を着けない人の姿態であって,殊更に人の性的な部位が露出され又は強調されているものであり,かつ性欲を興奮させ又は刺激するものである私事性的画像記録物を公然と陳列した。
第2 〈平成28年10月27日付け〉前記Aらと共謀の上,平成28年4月30日頃,沖縄県宜野湾市〈以下省略〉aマンション502号室において,パーソナルコンピュータを使用してインターネットを介し,別紙の2(1)記載の者(以下「C」という。)の顔を撮影した静止画や別紙の2(2)記載のとおりの第三者が撮影対象者を特定できる文言と共に,Cのスカート内が撮影された静止画2点並びにCの顔及びそのスカート内の下着等が撮影された動画1点を,同年5月1日頃に不特定多数の者が閲覧可能な「○○」と題するインターネットサイト(以下「○○サイト」という。)内に掲載されるよう設定し,同日頃から同年6月30日頃までの間,不特定多数のインターネット利用者に対し,同動画等の閲覧が可能な状態にし,もって公然と事実を適示してCの名誉を毀損した。
第3 〈平成28年11月29日付け第1〉前記Aらと共謀の上,平成28年5月12日頃,前記aマンション502号室において,パーソナルコンピュータを使用してインターネットを介し,別紙の3(1)記載の者(以下「D」という。)の顔を撮影した静止画や別紙の3(2)記載のとおりの第三者が撮影対象者を特定できる文言と共に,Dのスカート内の下着等が撮影された動画1点を,同月13日頃に○○サイトに掲載されるよう設定し,同日頃から同年6月30日頃までの間,不特定多数のインターネット利用者に対し,同動画等の閲覧が可能な状態にし,もって公然と事実を適示してDの名誉を毀損した。
第4 〈平成28年11月29日付け第2〉前記Aらと共謀の上,平成28年5月19日頃,前記aマンション502号室において,パーソナルコンピュータを使用して,インターネットを介し,別紙の4(1)記載の者(以下「E」という。)の顔を撮影した静止画や別紙の4(2)記載のとおりの第三者が撮影対象者を特定できる文言と共に,Eのスカート内の下着等が撮影された動画1点を,同月20日頃に○○サイトに掲載されるよう設定し,同日頃から同年6月30日頃までの間,不特定多数のインターネット利用者に対し,同動画等の閲覧が可能な状態にし,もって公然と事実を適示してEの名誉を毀損した。
第5 〈平成28年8月22日付け〉Fらと共謀の上,有償で頒布する目的で,平成28年8月1日,前記aマンション502号室において,記録媒体である外付けハードディスク110台に,男女の性交場面及び男女の性器等を露骨に撮影したわいせつな動画データファイル等110点を記録した電磁的記録を保管した。
【証拠】
【法令の適用】
罰 条
犯罪事実第1 名誉毀損の点 刑法60条,230条1項
私事性的画像記録物公然陳列の点刑法60条,私事性的画像記録の提供等による被害の防止に関する法律3条2項,2条2項,1項3号
犯罪事実第2ないし第4 いずれも刑法60条,230条1項
犯罪事実第5 刑法60条,175条2項
科刑上一罪の処理 刑法54条1項前段,10条(犯罪事実第1につき1罪として犯情の重い名誉毀損罪の刑で処断)
刑種の選択 犯罪事実第1ないし第4につきいずれも懲役刑,犯罪事実第5につき懲役刑及び罰金刑を選択
併合罪加重 刑法45条前段,47条本文,10条(懲役刑につき刑及び犯情が最も重い犯罪事実第1の罪の刑に加重),48条1項(罰金刑を併科)
未決勾留日数の算入 刑法21条
労役場留置 刑法18条
刑の執行猶予 刑法25条1項
【量刑の理由】
犯罪事実第1ないし第4については,被告人らが公開した内容は各被害者の名誉を著しく辱めるもので,とりわけ第1はわいせつ性が高い。インターネットサイトに掲載するという犯行態様は,被害者らにとって耐えがたい情報を極めて広範囲の不特定多数の者に拡散させるものである上,ひとたび拡散した情報はコントロールすることが困難で,名誉毀損の方法としては極めて悪質である。犯罪事実第5については,保管していた電磁的記録に係る動画は非常に多数に上り,いずれもわいせつ性が高い。いずれの犯行も,有料動画配信サイトの運営等を業とする株式会社b(以下「b社」という。)の業務の一環としてなされた,営利的,組織的な犯行である点も重い犯情である。
被告人は本件各犯行の実行行為には関与していないが,A,Fらと共に有料アダルトサイトの経営によって利益を図ることを目論み,サイトの開設,b社の設立等の本件各犯行の基盤作りに関わった上,クレジット代行会社の経営者としてb社の運営するサイトから配信される有料動画の代金回収に関わることを通じて本件各犯行を下支えすると共に,売上の5%を手に入れていたのであり,果たした役割と得た利益は大きい。懲役刑については相応に長期の刑が相当し,犯罪事実第5の関係ではb社の幹部社員と同程度の罰金刑を併科すべきである。
他方,被告人は,本件により長期間の身柄拘束と正式裁判を受ける中で,自身の本件各犯行の違法性や悪質性を認識し,今後はこの種の仕事には携わらないことを誓っている。名誉毀損の各被害者とは示談が成立し,被告人は被害弁償として合計1050万円を支払っている。被告人にはわいせつ図画販売目的所持の罪で執行猶予付きの懲役刑に処せられた前科があるものの,服役した前科はない。こうした事情を考慮すると,本件は社会内で更生する機会を与え得る事案であり,主文のとおりの懲役刑及び罰金刑に処した上,懲役刑についてはその執行を猶予する(求刑は懲役4年及び罰金250万円)。
平成29年3月22日
福岡地方裁判所第1刑事部
(裁判官 丸田顕)