児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者性交・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録記録被告事件弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 hp@okumura-tanaka-law.com)

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8歳女児に対する強制わいせつ罪(176条後段)につき、逆転無罪判決(福岡高裁h29.9.13)


 控訴審の弁護人は大阪弁護士会


福岡高等裁判所平成29年(う)第72号
平成29年9月13日第2刑事部判決

       判   決

無職 ■■■■ ■
 前記の者に対する強制わいせつ被告事件について,平成29年1月16日福岡地方裁判所が言い渡した判決に対し,被告人から控訴の申立てがあったので,当裁判所は,検察官古崎孝司出席の上審理し,次のとおり判決する。


       主   文

原判決を破棄する。
被告人は無罪。


       理   由

 本件控訴の趣意は,主任弁護人藤原航及び弁護人浦功共同作成の控訴趣意書及び同主任弁護人作成の同訂正申立書記載のとおりであるから,これらを引用するが,控訴理由は訴訟手続の法令違反及び事実誤認の各主張である。
第1 原判決の概要
1 本件公訴事実の要旨は,被告人が,被害者(当時8歳)が13歳未満であることを知りながら,平成27年9月3日午後3時33分頃から同日午後3時47分頃までの間,本件マンションの1階管理室において,被害者に対し,その唇に接吻し,同人が着用していた下着内に手指を差し入れて陰部を触り,さらに,そのズボンとパンツを膝の辺りまで脱がせて臀部を直接手でたたくなどし,もって13歳未満の女子に対し,わいせつな行為をした,というものであり,原判決は,「罪となるべき事実」において,概ね本件公訴事実と同旨の事実を認定した。
2 そして,原判決は,「補足説明」において,被害者の供述につき,概ね以下のとおり説示して原判示の被害を受けたという限度では十分に信用できるとした上,被害者の供述をはじめとする関係証拠により前記事実を認定している。すなわち,
(1)被害者の父,あるいは母も含めて,被告人のことを快く思っていなかった節があり,被害者においても,父母の話しぶりなどを通じて父母の被告人に対する思いを察していた可能性は否定できない。しかし,被害当日の被害者は,被告人と一緒に管理室を出た後も被告人の側を離れず,被告人にまとわりついており,被害者が被告人になついていたことからすれば,被害者が被告人を窮地に立たせようとして,母に対し,殊更に虚偽の被害を申告したとは通常考えられないし,被害当時小学2年生(なお,小学3年生の誤記と解される。)であったという被害者の年齢からすれば,被害者が,管理室で被告人と二人きりになったことを奇貨として,被告人からわいせつ被害を受けたという話を作り出すことで,被告人をマンションの管理業務から放逐し,両親の希望をかなえようとしたなどとは一層考えられない。
(2)被害者の供述は,被告人から身体を触られた際の状況に関しては相応に具体的であり,その程度の出来事は,被害者のように小学2年生(小学3年生の誤記と認める。)位の年少者にとっても理解しにくい事柄ではなく,ことの成り行きを正確に認識し,記憶し,叙述できる性質のものといえる。
(3)被害者の供述は,被害者の母が供述する被害直後の被害者の申告内容とも概ね合致している。すなわち,被害者から申告を受けた状況に関する被害者の母の供述に不自然不合理なところはなく,被害時刻の約2時間後に,被害者の母が被害者を伴って管理室を訪れ,被告人に抗議した内容とも符合しており,被害者の母が被告人をマンションから放逐するために,自分の娘を被害者に仕立て上げてまで架空の強制わいせつ事件をでっち上げたとは考え難く,前記状況に関する被害者の母の供述は信用でき,被害者の母から被害者への問いかけの仕方には,暗示や決めつけなど,被害者の答えを一定の方向へ誘導しようとする手法が用いられてはおらず,被告人との間でどのような出来事があったのかを被害者の自由な意思で語らせたものと認められる。
第2 当裁判所の判断
1 訴訟手続の法令違反の主張について
 論旨は,要するに,被害者の供述には客観的な証拠による裏付けが全くなく,他方,被告人は捜査段階から一貫して事実を否認して無罪を主張していたから,誤判を防止し,かつ冤罪を生まないようにするため,原審裁判所には慎重な審理を行うことが求められていたにもかかわらず,原審裁判所は,弁護人が刑訴法321条1項3号に基づいて取調請求したAの陳述書の取調請求を却下し,また,弁護人請求に係る証人申請を却下し,又は採用決定を取り消しているところ,このような原審の手続には,刑訴法321条1項3号の解釈適用を誤り,また尽くすべき審理を尽くしていないという訴訟手続の法令違反があり,これが判決に影響を及ぼすことが明らかである,というのである。
 そこで,記録を調査して検討すると,まず,Aの陳述書が刑訴法321条1項3号に該当するためには,「その供述が特に信用すべき情況の下にされたものである」ことが必要であるところ,所論は,原審弁護人がAから聴取した内容を陳述書にまとめたものであるから特信情況が認められるというが,弁護士が聴取したというだけでは特信情況が認められないことは明らかであって,所論は失当である。また,弁護人請求に係る証人は,A,B,C及び被害者の母であるところ,Aについては,原審第4回公判期日で採用決定がなされ,原審第5回公判期日で証人尋問が予定されていたところ,Aがイギリスに居住し出頭が不可能であったため原審裁判所は採用決定を取消したものであり,かかる措置に違法,不当な点はない。また,B及びCについては,原審第4回公判期日において却下決定がなされているところ,被害者の母の証人尋問(原審第2回公判期日)及び被告人質問(原審第3回公判期日)において,B及びCに係る立証趣旨に関する事項は概ね供述されているから,検察官の「必要性なし」との意見も踏まえた上でB及びCの証人請求を却下した原審の判断に違法,不当な点はない。さらに,被害者の母は,原審第2回公判期日において,弁護人請求については却下されているものの,検察官請求については採用の上,証人尋問が実施されているところ,弁護人請求に係る立証趣旨についても概ね弁護人による尋問が行われているから,原審裁判所が,弁護人請求に係る被害者の母の証人請求を却下した点についても違法,不当な点はない。
 訴訟手続の法令違反をいう論旨は理由がない。
2 事実誤認の主張について
 論旨は,要するに,被告人が原判示の日時場所において被害者と一緒にいたことに争いはないものの,被告人は被害者に対して原判示のわいせつ行為をしておらず,被告人は無罪であるにもかかわらず,原判示の事実を認定した原判決には、判決に影響を及ぼすことの明らかな事実誤認がある,というのである。
 そこで,記録を調査し,当審における事実取調べの結果も併せて検討すると,被害者及びその母の公判供述の信用性を肯定した原判決の判断は,論理則,経験則等に照らして不合理であって是認することができない。すなわち,被害者及びその母の公判供述を前提とすると,所論が指摘するとおり,防犯カメラの映像により認められる原判示の被害に遭った直後の被害者の被告人に対する行動は,明らかに被害者及びその母の公判供述と整合しないこと等に照らすと,両名の公判供述を信用できるとするには合理的な疑いが残るといわざるを得ない。そして,その他の証拠によっては,本件公訴事実を認定するに足りないから,当裁判所は被告人は無罪であると判断した。以下,説明する。 
(1)関係証拠によれば,以下の事実を認めることができる。すなわち,
ア 被害者の父は,平成26年頃,本件マンション自室からの眺望の関係で,樹木(パームツリー)のせん定をするよう同マンションの管理人であった被告人に申し入れたが,被告人がこれに色よい返事をしなかったことがあり,平成27年の同マンション管理組合の総会で,被告人を管理人から辞めさせるよう要求するなどした。
イ その後,被害者の母は,本件以前に,被害者に対し,同マンション管理室には行かないようにと言っていたが,被害者は,これを守らず管理室に出入りすることがあった。
ウ 本件当日である平成27年9月3日午後3時33分頃,被害者は,本件マンション1階のラウンジから被告人と出てきて,被告人の手を取ったり,その背中に飛び乗ったりするなどし,被告人とともに管理室に入室した。そこで,被告人は,被害者の臀部を手の平でたたいた(その趣旨,状況を含め,本件一連のわいせつ行為があったかどうかが争点である。)。
エ 同日午後3時47分頃,被告人と被害者は管理室から退室したが,その後,被害者は,被告人が本件マンションの訪問者に対応する等の管理業務をしている間も,被告人について回り,被告人の背中に飛び乗ろうとしたり,手を取って引っ張ったりするなど,管理室入室前と同様に被告人にまとわりつくなどしていた。
オ 被害者は,同日午後4時半過ぎ頃,本件マンション自室に戻ったが,スケートボードを持って再び自宅を出て,その後,同日午後5時を過ぎてから,帰宅した。
カ 被害者の母は,被害者を連れて管理室へと行き,同日午後5時40分頃から午後6時頃までの間,被告人に対し,被害者の陰部を触っていないか等を問い詰めるなどした。
(2)被害者の公判供述の信用性について
ア 被害直後の被害者の被告人に対する行動との整合性等について
 被害者は,原審公判において,概括的にではあるが原判示の被害に遭った旨を供述している。しかし,被害者は,本件当時小学3年生であり,原判示のような被害に遭ったとすれば嫌悪感や恥辱感を抱くものと考えられる。このことは,被害者が,原審公判において,被告人が「たばこを吸っているから,唇が黄色だし,くさいし,歯が黄色いから」被告人と接吻するのは嫌いである旨,原判示の接吻の際には,嫌だったから身体を仰け反らせるようにした旨,被害者の母に自分から被害申告をした理由について,「悪いことだなと思ったから。」である旨供述していることからも十分推察できる。このように,被害者にとって嫌悪感等を覚えるような原判示の被害に遭ったにもかかわらず,その直後に,被害前と変わらずに前記(1)エのように被告人にじゃれつき,まとわりつくという行動は,それ自体被害者が供述するような被害に遭ったことに疑義を抱かせるものであって,被害者の供述する被害状況とは整合性を欠いている。
 さらに,被害者は,接吻され,陰部を触られた後に,自分から被告人に対してお尻ぺんぺんしてと言った旨供述するが,前記のとおり嫌悪感等を抱いた状況に照らすと,被害者の公判供述の内容自体も不合理と指摘することができる。
 原判決は,このような被害直後の被害者の行動について,「被害者が被告人になついていたことからすれば,被害者が被告人を窮地に立たせようとして,母に対し,殊更に虚偽の被害を申告したとは通常考えられないし,被害当時小学2年生(小学3年生の誤記と認める。)であったという被害者の年齢からすれば,被害者が,管理室で被告人と二人きりになったことを奇貨として,被告人からわいせつ被害を受けたという話を作り出すことで,被告人をマンションの管理業務から放逐し,両親の希望をかなえようとしたなどとは一層考えられない。」と説示する。確かに,被害者において,原判決が説示するような趣旨で虚偽供述をしたとは考えられないことはそのとおりであるが,被害者供述の信用性を検討するに当たっては,本件が密室での強制わいせつ事件であり,被害者の供述する被害状況を裏付ける客観的証拠はないという本件の証拠構造や,被害者が周囲の大人からの暗示等に影響を受けやすい年齢であること等に照らせば,被害者の供述する被害状況と,被害前と変わらない様子で,被害直後に被害者が被告人にじゃれつき,まとわりついているという客観的事実との間に整合性が認められるかという点について特に慎重に検討する必要がある。しかるに,原判決は,被害状況に関する被害者の供述と,被害直後の被害者の被告人に対する行動という客観的事実との間の整合性について,単に虚偽供述の可能性という見地からしか検討していない点で論理則,経験則等に照らして不合理である。
イ 被害者の母が供述する被害者の申告状況との整合性等について
 原判決は,前記(1)オのとおり被害者が帰宅した際に被害者から申告を受けた状況に関する被害者の母の供述は信用でき,被害者供述はかかる供述と概ね符合しており信用できる,被害者の母の供述によれば,被害者の母から被害者に対する問いかけの仕方は,暗示や決めつけなど,被害者の答えを一定の方向へ誘導しようとしてはおらず,被告人との間でどのような出来事があったのかを被害者の自由な意思で語らせたものと認定できると説示している。しかし,被害者の母は,被害者から被害申告を受けた経過について,帰宅後リビングのテーブルで宿題をしていた被害者が,すごく困っているような,迷っているような,ちょっと暗い感じの様子で,「ママ,ちょっと話がある,でも言おうかな,どうしようかな」と迷って話し出し,「どうしたと」と尋ねたところ,被害者が「管理人さんに触られた」と言ったと供述しているが,かかる供述は前記のような被害直後の被害者の被告人に対する行動に照らして不合理といわざるを得ない。すなわち,前述したとおり,被害者は,嫌悪感等を覚えるような行為を被告人からされたにもかかわらず,その直後から,被害前と変わらぬ様子で,被告人にじゃれつき,まとわりついていたのであるから,そのような被害者が帰宅後に突如として,被害者の母が供述するように,すごく困っているような,迷っているような,ちょっと暗い感じの様子で被害申告を始めたというのは,相当に不自然である。更に,被害者の母は,原審公判で,被害者に対し,どうして助けを求めなかったか聞くと,被害者は,被告人は太っていて腕も太く力がありそうだから怖くて言えなかったと答えた旨供述しているが,このように被告人を怖がっていた被害者が,被害前と変わらぬ様子で被害直後に被告人にじゃれつき,まとわりつき,帰宅後突如として前記のように被害者の母に被害申告をするに至ったということも,不合理である。原判決は,被害者の母の供述に不自然不合理なところはないと説示するが,被害者供述の信用性で説示したのと同様,被害者の母の供述についても,被害直後の被害者の被告人に対する行動という客観的事実を踏まえた検討をしていない点で,不合理といわざるを得ない。
 また,所論が指摘するとおり,被害者には,被害者の母に対して虚偽の被害申告をしてしまいかねない状況が窺われる。すなわち,前記(1)アの被害者の父と被告人との関係性,前記(1)イのとおり被害者の母が被害者に本件以前から管理室に立ち入らないよう注意をしていたことからは,被害者の母自身も被告人のことを快く思っていなかったと認められる。そして,被害者の母は,捜査段階で,被害者が被害申告をするまでの経緯について,要旨以下のとおり供述している(当審弁5)。本件当日,被害者の母は,午後3時半過ぎに帰宅し,本件マンション1階のラウンジで,被害者のランドセルはあったが被害者の姿はなく,友達と遊んでいるのだろうと自宅に帰ったところ,前記(1)オのとおり午後4時半過ぎに一旦自宅に戻った被害者に,どこにいたのかと尋ねたが,被害者はこれに答えずに遊びに行き,その後午後5時を過ぎて帰宅した被害者が被害申告をしたというのである。しかるに,被害者の母は,被害者がラウンジにランドセルを置いたままにしていることは初めてであったとも供述しているから,前記のような経過からすれば,所論も指摘するとおり,被害者の母としては,被害者が被害申告をしたとされる直前の帰宅の際にも,改めて被害者にどこにいたのかと尋ね,それに応じて,被害者が管理室に行ったことを被害者の母に話したことが推察される。また,前記(1)ウのとおり,原判示の日時場所において,その趣旨,態様はさておき,少なくとも被告人が被害者の臀部をたたいたという限度での接触行為があったことが認められるところ,被告人のことを快くは思っていなかった被害者の母が,本件当日に管理室に行っていた被害者に対し,管理室で何をしていたかを聞き,被害者が被告人から臀部をたたかれたなど被告人との身体的接触について答えたことに対し,被告人に対する嫌悪感を抱くとともに,女児である被害者が,性的いたずらをされたのではないかと危惧し,その意味合いや更にそれ以上の行為をされたのではないかと心配して,被害者に対してその状況や他に何かされていないかと根掘り葉掘り尋ねる中,被害者の母からの注意に反して管理室に出入りしていたことに後ろめたさを感じていた被害者が,被告人との身体的接触状況を誇張し,更に誇張が誇張を呼び,原判示のような生々しい性被害に遭ったと被害者の母に供述するに至ったという事態も,関係証拠に照らして考えられる。
 これと異なり,被害者を問い詰めてではなく被害者の自主的な被害申告を慎重に聴取した旨の被害者の母の供述内容は不自然である。
 原判決は,被害者の母の供述は,原判示の被害時刻の約2時間後に,被害者の母が被害者を伴って管理室を訪れ,被告人に抗議した内容とも符合していて,信用することができる,被害者の母が被告人をマンションから放逐するために,自己の娘を被害者に仕立て上げてまで架空の強制わいせつ事件をでっち上げたとは考え難い,と説示する。しかし,被害者の母が被告人に抗議した内容は,被害者が,手を入れられて,あそこを触られ,おまんじゅうって言われたと言っているが,本当にそういうことをしたのか,というものにすぎないから,前記のように被害者が虚偽供述をする状況が窺われる本件において,原判決が説示する前記のような事情が被害者の母の供述の信用性を補強する裏付けになるとはいえない。また,被害者の母が原判決が説示するような目的で架空の強制わいせつ事件をでっち上げたといえないことはそのとおりであるが,被害者の母の供述の信用性を全面的に否定する極端な事実の不存在をいうものにすぎず,信用性を積極的に肯定する事情ではない。
(3)以上によれば,原判示の被害に遭った旨の被害者供述の信用性を認めることには合理的疑いが残るといわざるを得ない。本件では被害者供述の信用性については,被害者が年少者で母の影響を受けやすいことから,とりわけ慎重に検討することが必要であるところ,これまで説示したように,被害前と変わらぬ様子で,被害直後も被害者が被告人にまとわりつき,じゃれついているという客観的事実,被害者の母が被告人のことを快く思っておらず,被害者に対して管理室に行かないように注意していたこと,本件当日に被害者が被害者の母に被害供述をするに至るまでの経過等を踏まえて,被害者及び被害者の母の供述の信用性を検討する必要があるというべきである。しかるに,原判決は,このような観点からの検討を十分に行うことなく,被害者及び被害者の母の供述の信用性を肯定しており,経験則,論理則等に照らして不合理といわざるを得ない。
3 結論
 以上検討したとおり,被害者及び被害者の母の公判供述を信用することはできず,これらを除いた他の証拠によっては,本件公訴事実を認定することはできないから,原判示の事実を認定した原判決には,判決に影響を及ぼすことの明らかな事実誤認があり,原判決は破棄を免れない。なお,前記のとおり,原判示の日時場所において,被告人が被害者の臀部をたたいたとの事実を認定することはできるが,これがわいせつ目的でなされた行為であると認定するに足りる証拠はない。
 事実誤認をいう論旨は理由がある。
第3 破棄自判
 そこで,刑訴法397条1項,382条により原判決を破棄し,同法400条ただし書により更に判決することとし,本件公訴事実については犯罪の証明がないことになるから,同法336条により被告人に無罪の言渡しをすることとする。
平成29年9月13日
福岡高等裁判所第2刑事部
裁判長裁判官 岡田信 裁判官 佐藤哲郎 裁判官 高橋明

福岡地方裁判所平成27年(わ)第1487号
平成29年1月16日第3刑事部判決

       判   決

無職 ■■■■ ■
 上記の者に対する強制わいせつ被告事件について,当裁判所は,検察官小堀光出席の上審理し,次のとおり判決する。


       主   文

被告人を懲役2年6月に処する。
未決勾留日数中60日をその刑に算入する。
この裁判確定の日から3年間その刑の執行を猶予する。
訴訟費用は被告人の負担とする。


       理   由

(罪となるべき事実)
 被告人は,別紙1項記載の者(当時八歳から九歳の女児。以下「被害者」という。)が13歳未満であることを知りながら,平成27年9月3日午後3時33分ころから同日午後3時47分ころまでの間,別紙2項記載の建物の1階管理室において,被害者に対し,その唇に接吻し,被害者が着用していた下着内に手指を差入れて陰部を触り,さらに,被害者が着用していたズボンとパンツを膝の辺りまで脱がせて臀部を直接手の平でたたき,もって13歳未満の女子に対し,わいせつな行為をした。
(証拠の標目)《略》
(補足説明)
1 被告人は,判示の日時場所において,被害者と一緒にいたことは認めつつも,被告人としては,いたずらをした被害者をいさめるために着衣の上から被害者の尻を平手で2回たたいただけで,判示の行為は行っていないと供述し,弁護人は,被告人は無罪であると主張するので,判示の事実を認定した理由について,以下,補足して説明する。
2 被害者は,被告人から判示のとおりに身体を触られたと供述しているので,その供述の信用性について検討する。
(1)まず,記録を精査して検討しても,被害者には,検察官や弁護人からの質問に対し,わざと嘘をつかなければならないような事情は見出せない。
 確かに,弁護人も指摘するとおり,被害者の父は,被害者親子らが居住するマンションの管理人を勤めていた被告人に対し,自室からの眺望の妨げとなる樹木のせん定を求めたが,被告人が色よい返事をしないため,被告人をしっせきしたことがあるほか,その後,平成27年中に開催されたマンション管理組合の総会の席上,被告人の罷免を求めるという一幕もあったことからすると,被害者の父,あるいは母も含めて,被告人のことを心良く思っていなかった節があり,そうであるならば,被害者においても,父母の話しぶりなどを通じて父母の被告人に対する思いを察していた可能性は否定できない。
 しかしながら,他方で,関係証拠によれば,被害当日の被害者は,被告人と一緒に管理室を出た後も被告人の側を離れず,被告人にまとわりついていたことが認められるところ,このように被害者が被告人になついていたことからすれば,被害者が被告人を窮地に立たせようとして,母に対し,殊更に虚偽の被害を申告したとは通常考えられないし,被害当時小学2年生であったという被害者の年齢からすれば,被害者が,管理室で被告人と二人きりになったことを奇貨として,被告人からわいせつ被害を受けたという話を作り出すことで,被告人をマンションの管理業務から放逐し,両親の希望をかなえようとしたなどとは一層考えられない。
(2)次に,被害者の供述は,被告人から身体を触られた際の状況に関しては相応に具体的であるし,その程度の出来事は,被害者のように小学2年生位の年少者にとっても理解しにくい事柄ではなく,ことの成り行きを正確に認識し,記憶し,叙述できる性質のものといえる。
(3)さらに,被害者の供述は,被害者の母が供述する被害直後の被害者の申告内容とも概ね符合している。
 すなわち,被害者の母は,当公判廷において,被害者から申告を受けた状況に関し,〔1〕帰宅後の被害者からの最初の被害申告については,「被害者が母に話をしたものかどうか迷っている様子であったので,『どうしたと』と尋ねたところ,被害者が『管理人さんに触られた』と言ったので,『どこを触られたと』と尋ねると,被害者は,『あそこ』と答えて服の上から陰部に手を当てて触るような仕草をした。そこで,自分は,びっくりして,『それは服の上から,それともパンツの中に手を入れたと』と尋ねると,被害者は,『パンツの中に手を入れて,ここ,おまんじゅうよって言われた』と答えた。」と供述し,〔2〕次いで,被害者を伴って管理人室へ抗議に赴き,帰宅した後に改めて申告を受けた内容について,「被害者から,服を下ろされて直に尻をたたかれたことや,口にチューされたことを聞いた。」と供述しているところ,この被害者の母の供述に不自然不合理なところはなく,また,判示の被害時刻の約2時間後に,被害者の母が被害者を伴って管理室を訪れ,被告人に抗議した内容とも符合していて,信用することができる。先に触れたとおり,被害者の母も被告人を心良く思っていなかったと考えられるが,記録を精査して検討しても,前記管理組合の総会が開かれて以降,本件犯行までの間に,被害者の父母と被告人との間で新たに波風が立った形跡はうかがえないことからすると,被害者の母が被告人をマンションから放逐するために,自分の娘を被害者に仕立て上げてまで架空の強制わいせつ事件をでっち上げたとは考え難い。
 そうすると,被害者から最初に被害の申告を受けた状況に関する被害者の母の供述は信用できるから,その供述するような順序,内容で,母から被害者への問いかけがされたと認められるところ,この問いかけの仕方には,暗示や決めつけなど,被害者の答えを一定の方向へ誘導しようとする手法が用いられてはおらず,被告人との間でどのような出来事があったのかを被害者の自由な意思で語らせたものと認められる。
 以上のとおり,被害者の供述は,被害者の母が供述する被害直後の被害者の申告内容とも概ね符合しており,一貫性も備わっている上,母に迎合する余り事実を歪めて供述したものとも解されないのであって,これらは被害者供述の信用性を高める事情であるといえる。
(4)以上に検討したところによれば,被害者の供述は,判示の被害を受けたという限度では,十分に信用できるものと認められる。
3 被告人は,着衣の上から被害者の尻を平手で2回たたいただけで,判示の行為は行っていないと供述するが,そうでありながら,被告人になついていた被害者が母からの前記のような問いかけに対し,わいせつ被害の申告をするとは考え難いから,被告人の供述は信用できない。
4 以上のとおりであるから、その他,弁護人の指摘を十分に検討しても,判示の事実を認定することができる。
 なお,被害者の性別については甲第11号証,その年齢は被害者に対する当裁判所の尋問調書により認定した。 
(法令の適用)
罰条 刑法176条後段
未決勾留日数の算入 刑法21条
刑の執行猶予 刑法25条1項
訴訟費用の負担 刑事訴訟法181条1項本文
(量刑の理由)
 本件は,判示のとおりの年少者に対する強制わいせつの事案であり,被害者の未熟さにつけ込んだ悪質な犯行であって,その態様は芳しいものではなく,将来にわたり被害者に深刻な影響を与え続けるのでないかと危惧されるほどで結果も見逃せないことからすると,被告人の刑責は軽くはなく,相応の処罰は免れない。
 よって,主文のとおり判決する。
(求刑・懲役2年6月)
平成29年1月12日
福岡地方裁判所第3刑事部
裁判官 松藤和博

(別紙)《略》