児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・強姦・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録記録被告事件弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 hp@okumura-tanaka-law.com)

性犯罪・福祉犯(強姦罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例違反)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

自衛隊内の強制わいせつ事件・否認(山形地裁h29.2.3)

 1対1の事件の場合は、直後の行動記録が重視されます。

山形地裁平成29年 2月 3日
事件名 強制わいせつ被告事件
 (罪となるべき事実)
 被告人は,A(当時21歳●●●)に対し,強いてわいせつな行為をしようと考え,平成28年4月22日午後10時40分頃から同日午後11時15分頃までの間,山形県東根市〈以下省略〉隊員浴場脱衣室内において,Aに対し,その腹部付近に背後から両腕で抱きついて後方へ引きずり転倒させた上,その着衣をまくり上げブラジャーの下に両手を差し入れて直接その両乳房をもむなどし,もって強いてわいせつな行為をした。
 (証拠の標目)
 括弧内の甲の数字は,証拠等関係カードにおける検察官請求証拠の番号を示す。
 ・ 被告人の当公判廷における供述
 ・ 証人A,同B,同C,同D,同E及び同Fの当公判廷における各供述
 ・ 実況見分調書(甲2,不同意部分を除く。),捜査報告書7通(甲7,9ないし14)
 (事実認定の補足説明)
 1 被告人は,公訴事実のような強制わいせつ行為をしたことはないと供述するため,以下検討する。
 2 関係証拠から以下の事実が認められる。
  (1) 被告人とAは,本件当時,いずれも○○自衛隊に所属していた。被告人とAは,同期入隊の関係であり,Aとは親しい友人関係ではなかったが,仕事の愚痴等を話すことはしていた。
  (2) 被告人は,平成28年4月22日午後8時30分頃,夜勤中のAにLINEで連絡を取り,本件隊員浴場付近でAと落ち合って1時間程度会話した後,一旦別れた。
  (3) 被告人は,同日午後10時10分頃,Aに対して「さっき渡すのあって話に夢中で渡しそびれたんだけど・・・抜けれる?」とのメッセージをLINEで送信し,Aがこれに了解したため,再度Aと会った。
  (4) Aは,同月23日午前1時31分頃及び同日午前2時2分頃,親しい友人であるBに,「夜遅くに申し訳ないが」「電話したいんだけど,ダメかな?」などとのメッセージをLINEで送信し,その後,同日午前2時20分頃から同日午前2時36分頃まで,Bと電話で会話をした。
  (5) Aは,同日午前6時55分頃から,交際相手のCに対して,同期から胸を触られる被害に遭ったこと,上司に申告すべきか否かを相談する旨のLINEでのやり取りを断続的に行った。
  (6) Aは,同日午後11時19分頃,被告人に対して,「今日部隊相談員に昨日の話をしました。ずっと頭から離れなくていっぱいいっぱいになりました。あまり大きいことにしたくないのですが,どうなるか自分にもわかりません」とのメッセージをLINEで送信した。その後,被告人は,同月24日午前7時44分頃,Aに対して,「災害派遣終わったらもう辞める」とのメッセージをLINEで送信した。
 3(1) ところで,B,C及び所属部隊の部隊相談員であるDは,それぞれAから以下のような被害相談を受けたと証言している。
  (2)ア Bは,前記2(4)記載のとおりAに電話をかけた際,Aが,嗚咽を交えながら,被告人から隊員浴場に呼び出されて相談事を受けていた際,胸を触られたり,被告人が下半身を露出させたり,後ろから抱きつかれたと伝えてきたこと,今回の件を上司や交際相手に言うべきか悩んでいることなどを伝えられたため,交際相手ときちんと相談するべきだと助言したと証言している。
   イ Cは,同月23日朝,Aが,同期に胸を直接もまれた,服を半分めくり上げられたなどとLINEで伝えてきたため,上司に相談するように助言したこと,その後,同日夜にAと電話で話したところ,Aが,泣き出しそうな声で,同期から愚痴を聞いてほしいと隊員浴場に呼び出され,頼みたいことがあると言いにくそうにした後,下半身を露出させて後ろから抱きついてきたことなどを伝えてきたと証言している。
   ウ Dは,同月23日夜,Aが,隊員浴場で同期からわいせつ行為を受けたとの相談をしてきたこと,その被害内容について,いきなり後ろから抱きつかれて服をまくられて胸をもまれ,相手が下半身を露出してきたというものであったこと,Aに対して同期とは誰かと最後に尋ねたところ,被告人である旨の回答があったと証言している。
  (3) 以上の各証人の証言は,携帯電話の通話履歴やLINEのやり取りといった客観的証拠に符合しており,内容も自然であって十分信用でき,Aが各証人にした相談の内容や状況等は,各証言どおりであったと認められる。
 4(1) そして,Aは,本件当日,被告人から公訴事実記載のとおりの強制わいせつの被害に遭った旨の証言をしているため,以下,同証言の信用性を検討する。
  (2)ア Aは,被告人の普段の言動に対して,快く思っていなかった点があったこと自体は認められるが,一方で,普段からLINE等で連絡を取り合い,本件当日も被告人の誘いに応じ,夜勤から抜け出して長時間会話をするような交遊関係にあったことは客観的証拠に照らし明らかである。また,Aは,被告人に対する心情として,被告人は,信頼している同期でもあり,裁判になれば被告人の将来を壊してしまうため,できるだけ話を大きくしたくなかったが,被告人が否認しているため,白黒はっきりさせたいと思って警務隊に訴えたと証言しており,Aが,被告人に対する一方的な怨恨の情を有していたとは認められない。
 加えて,Aは,友人,交際相手及び所属部隊の部隊相談員に順次被害相談を行っているが,仮にこの被害申告が虚偽であって発覚した場合,Aが私生活上及び職務上被る不利益は多大なものであることが容易に想定できる一方,Aが内容虚偽の相談をすることによって得られる利益は想定し難い。
 以上のようなAと被告人の交遊関係やAの心情,虚偽の申告をした場合に予想される不利益の程度等に照らせば,Aにおいて,殊更虚偽の被害事実を申し出て被告人を陥れるような動機や利害関係は認められない。
   イ 前記3認定のとおり,Aは,犯行が終了したとされる時刻から約3時間後には,Bに本件被害を相談し,その後,CとDにも順次本件被害の相談をしている。そして,Aが各人にした本件被害に関する相談の内容は,被害場所や態様等において公判証言と一致する内容であったと認められる。したがって,Aは,被害直後から,一貫して同一内容の被害を訴えていたことが認められる。
   ウ さらに,Aが証言する被害を受けた際の被告人の具体的な言動等は,相当詳細かつ具体的であるほか,被害に遭った恐怖感や無力感等といった心情を交えたものとなっており,実際に体験した者でなければ証言できないような内容となっていると評価できる。
   エ 以上の事情,すなわち,Aに被告人を殊更陥れるような虚偽供述の動機はないこと,被害直後から一貫して同様の被害を訴えていること,証言内容の具体性等を踏まえると,被告人から本件強制わいせつの被害に遭った旨のA証言には高い信用性があると評価できる。
  (3) 一方,弁護人は,A証言について,次のような問題点があり,信用性がないと主張する。
   ア 弁護人は,A証言は不自然かつ不合理であって具体性を欠く内容であり,例えば,?Aは,被告人が胸をもむ行為についてはAの制止にもかかわらず強行したとする一方,Aの体を持ち上げたり,Aの前に回り込んだりすることについてはAの制止により簡単に断念したとしており,強制の度合いに大きな差異がある点,?Aは,容易に逃げることができたはずであるのに,わいせつ行為を受け続けたという点などは不自然と主張する。
 そこで検討すると,?について,被告人の行為にすべて抵抗が困難なように証言するのではなく,一部については被告人の強制の程度が弱かったとする点は,証言の具体性を増す要素とはいえるものの,不自然とする評価はあたらないというべきである。また,?について,突然のわいせつ行為に対して抵抗が困難となり,一方的に被害を受け続けたとしても経験則上何ら不自然とはいえない。したがって,弁護人が,A証言の内容が不自然かつ不合理と指摘する点は,いずれもその評価はあたらないというべきである。
   イ 弁護人は,Aは,公判では被告人がAの体を持ち上げた後で自慰行為を始めたと証言しているのに,捜査段階では自慰行為の後にAの体を持ち上げたと供述しており,不合理な変遷が認められると主張する。
 しかしながら,体を持ち上げられた事実や自慰行為の存在自体は捜査段階から一貫して供述していた内容であることに加え,Aは,本件わいせつ行為により強い心理的動揺を受けていたことはB及びCが証言することに照らすと,弁護人指摘の点が若干前後したとしても,信用性を大きく減殺するものとは認められず,この点に関する弁護人の主張は採用できない。
   ウ 弁護人は,本件隊員浴場は入浴後に施錠されているはずであり,客観的に犯行は不可能であった上,内容も不自然であると主張する。
 ところで,隊員浴場のドアは,入浴時間の午後8時過ぎには浴場当番が施錠することとなっていたところ,本件当日の浴場当番であったE及び翌日の浴場当番であったFは,隊員浴場のドアの一部が施錠できない状態であったと証言するところ,E及びF各証人はいずれも被告人と利害関係がない上,警務隊が行った隊員浴場のドアの見分結果とも一致するため,E及びFの上記各証言は信用できると認められる。そうすると,本件当時,客観的に隊員浴場での犯行が不可能であったとは認められない。
 また,当日のLINEでのやり取りに照らすと,Aと被告人は,隊員浴場付近で落ち合っていることは明らかであり,被害当時は入浴可能時間を過ぎていたことや,Aと被告人の前記のような交遊関係に照らすと,隊員浴場で2人きりで話していたとしても不自然とは認められない。
 以上のとおりであって,この点に関する弁護人の主張は採用できない。
   エ 弁護人は,Aは,交際相手の気持ちを引き付けたいという虚偽証言の動機があると主張する。
 しかしながら,Aにおいて交際相手の気持ちを引き付けたいのであれば,交際相手のみ被害申告をすればよいにもかかわらず,Aは,真っ先に友人に対して被害に関する相談をし,その際に,交際相手に知られたくないと述べていたことに照らすと,Aの行動は,交際相手の気持ちを引き付けたいとする行動とは明らかに矛盾している。
 したがって,この点に関する弁護人の主張も採用できない。
   オ そのほか,弁護人は,A証言に信用性がない旨を縷々主張するが,いずれも採用できない。
  (4) 以上のとおり,A証言には高い信用性が認められるのであり,信用性がない旨の弁護人の主張は採用できない。
 5 一方,被告人は,本件当日,2回目にAと会った際に差し入れを渡そうとしたがいらないと断られ,それでも渡そうと手を差し出した際,誤ってAの胸に手が触れたことはあったものの,本件わいせつ行為は一切していないと弁解する。
 しかしながら,被告人は,2回目にAに会う直前,Aに対し,渡したい物がある旨をLINEで伝え,Aがこれを了承したため会うこととなったにもかかわらず,Aが被告人からの差し入れを断ったとする内容自体が,客観的な経過に照らして不自然である。また,被告人は,前記2(6)認定のとおり,Aから,部隊相談員に被害相談をした旨のLINEメッセージを受信した後,Aに対し,災害派遣が終わったら自衛隊を辞める旨のLINEメッセージを送信しているが,強制わいせつ行為をしていない者の文面として不自然といわなければならない。なお,被告人は,自衛隊を辞める旨を書けばAの気持ちが落ち着くと思ったと弁解するが,自衛隊を辞める旨のメールを送信したからといってAの気持ちが落ち着くとは限らず,不自然さは否定できない。
 以上の事情に照らせば,被告人の弁解は信用できず,採用できない。
 6 以上のとおり,A証言の信用性は高いと認められる一方,被告人の弁解は採用できず,判示のとおりの強制わいせつの事実を認定した。
 (法令の適用)
 罰条 刑法176条前段
 刑の全部執行猶予 刑法25条1項
 訴訟費用 刑事訴訟法181条1項本文
 (量刑の理由)
 (検察官齋藤克哉及び国選弁護人横山由秀各出席)
 (求刑 懲役2年)
 山形地方裁判所刑事部
 (裁判官 林欣寛)