児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者性交・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録記録被告事件弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 hp@okumura-tanaka-law.com)

性犯罪・福祉犯(監護者性交罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

平成27年2月17日発生の強制わいせつ事件という訴因に対して、被告人は本件駅付近においてわいせつ行為に及んだことがあるものの、それは本件とは別の平成26年11月の事件(以下「11月事件」ともいう。)であり、被告人は本件の犯人ではない旨主張して無罪となった事例(福井地裁H29.2.21)

福井地方裁判所
平成29年02月21日
主文
本件区分事件の公訴事実につき、被告人は無罪。

理由
第1 本件区分事件の公訴事実及びこれに対する弁護人の主張等
 1 本件区分事件の公訴事実(ただし、訴因変更後のもの)の要旨は、「被告人は、自転車で走行中のA(当時17歳)に強いてわいせつな行為をしようと考え、平成27年2月17日午後7時10分頃、福井県内のB駅(以下「本件駅」ともいう。)西側通路において、被告人の接近に気付いて自転車を降りた前記Aに対し、その背後から両手で抱きつき、倒れ込んだ同人に馬乗りになってその右肩を押さえつけて仰向けにさせる暴行を加え、その左乳房や陰部を弄び、もって強いてわいせつな行為をした。」というものである(以下「本件」、「事件」又は「本件犯行」ともいう。)。
 2 本件の犯人が本件犯行を行ったことは関係証拠上明らかに認められ、弁護人もこれを争っていないところ、弁護人は、被告人は本件駅付近においてわいせつ行為に及んだことがあるものの、それは本件とは別の平成26年11月の事件(以下「11月事件」ともいう。)であり、被告人は本件の犯人ではない旨主張し、被告人もこれに沿う供述をしている。
 3 そこで、本件の争点は被告人の犯人性であり、この点について、〈1〉被告人の捜査段階の自白以外の関係証拠及び〈2〉被告人の捜査段階の自白について順次検討することとする(以下、特に断らない限り、月日は平成27年のそれを指すものとする。)。
第2 前提事実(以下、括弧内の甲乙の数字は証拠等関係カード記載の検察官請求証拠の番号を、同弁の数字は同弁護人請求証拠の番号をそれぞれ示す。)
  関係証拠によれば、被告人は、事件当時、福井県内のスポーツクラブ(以下「本件スポーツクラブ」ともいう。)でアルバイト従業員として稼働しており、通勤の際には自動車を運転して本件駅北側の駐車場(以下「本件駐車場」ともいう。)に止め、そこから本件スポーツクラブまで歩いていたこと、2月17日(以下「事件当日」ともいう。)午後6時45分頃に本件スポーツクラブでの勤務を終え、本件駅に歩いて行ったこと、本件の被害者であるA(以下「本件被害者」ともいう。)は、事件当時、上半身はワイシャツの上にセーター(紺色)を、更にその上にブレザー(紺色)を着用し、下半身は下着の上にタイツとハーフパンツの体操服(赤色)を、その上にスカート(白色と紺色のチェック柄)を着用していたほか、マフラー(緑地に赤色と黄色のチェック柄)、マスク(白色)及び手袋を着用していたこと、自転車(シティサイクル仕様、シルバー色、I製、以下「本件自転車」ともいう。)を使用していたことが明らかに認められ、この点は争われていない。
。。。。

 3 被告人の捜査段階の自白の信用性について
  (1) 犯行時期について
  犯行時期について、本件自供書では「昨年(平成26年)から今年(平成27年)の寒い頃」と、本件と11月事件の双方を含み得るような相当に幅のある記載となっているのに対して、その後に作成された弁解録取書1、本件警察官調書及び弁解録取書2(併せて以下「本件各自白調書」ともいう。なお、本件自供書と本件各自白調書とを併せて以下「本件各自白調書等」ともいう。)には「2月17日」である旨記載されており、供述が変更されている(その後は、前記のとおり、「平成26年11月」と更に供述が変更されている。)ので、本件各自白調書のうち犯行時期について「2月17日」である旨述べる部分(自白)の信用性について検討する。
  ア 弁解録取書1について
  弁解録取書1には、犯行時期について、「(逮捕事実〔なお、本件の逮捕状の被疑事実の要旨には、犯行時期について『2月17日午後7時10分頃』と記載されている。〕については)僕がやったことに間違いありません。」と記載されているのみで、犯行時期を特定した具体的な根拠は記載されていない。また、犯行時期について、前記のとおり、本件自供書には「昨年(平成26年)から今年(平成27年)の寒い頃」と記載されているほか、弁解録取書1と同じ日に作成された本件警察官調書には「僕の記憶では、去年(平成26年)の秋か寒い冬の時期だったと思っていた」との、その翌日に作成された弁解録取書2には「自分の記憶としては平成26年10月から11月頃のことだったように覚えていた」との各記載部分が存する。そして、弁解録取書1が作成された際の取調べにおいて被告人とG警察官との間で犯行時期の特定を巡って交わされた具体的なやり取りの有無及び内容は関係証拠上不明である。さらに、犯行時期を自白した理由について、被告人は、公判廷において、強制わいせつ致傷事件の捜査で余り自分の記憶と違う点がなかったこと、犯行時期については、自分の記憶と違っていたものの、犯行の場所・内容と被害者の年齢が似ていたことから大きな違いはないと思ったなどと供述しているところ、被告人のこの供述は、前記のとおり、被告人が、F署に任意同行され、強制わいせつ致傷事件についての取調べ等に引き続いて受けた余罪取調べの中で自ら本件自供書を作成したという経緯があること、それ以外にも3件の同種余罪の自供書を作成していることなどにも照らすと、全く不合理とまではいえない(この点、検察官は、犯行時期については大きな違いはないと思った旨の被告人の前記公判供述は、11月事件と本件犯行とでは約3か月の間隔があることなどからすれば、不合理である旨主張するが、前記の点に加えて、被告人がF署に任意同行された時期及び本件で逮捕された時期が、本件犯行の約7か月後及び約8か月後〔11月事件の約10か月後及び約11か月後〕だったことなどをも考慮すると、採用できない。)。
  これらの点からすれば、弁解録取書1における犯行時期に関する自白の信用性には疑問があるといわざるを得ない。
  イ 本件警察官調書について
  (ア) 被告人が自白するに至った経緯等
  まず、被告人が犯行時期について自白するに至った経緯等について検討するに、本件警察官調書には、犯行時期について、〈1〉「僕の記憶では、去年(平成26年)の秋か寒い冬の時期だったと思っていたので、今年(平成27年)の2月17日と聞いて初めて分かった。2月もまだ寒い時期なので何か勘違いしていた。」、〈2〉「(本件勤務表を呈示されて、)自分の記憶とは時期がずれていたが、寒い時期だったことに間違いないし、2月17日は、午後6時45分頃に自分のアルバイトが終わっていて、事件があった午後7時10分頃までに本件駅に到着できるから、自分が事件を起こしたことについては間違いない。」旨記載されており、〈1〉について、被告人は、犯行時期について、「去年(平成26年)の秋か寒い冬の時期」だったと思っていた旨も述べている一方で、自分が「勘違い」していた根拠・理由について何ら述べていない。〈2〉については、犯行時期を特定した根拠は、呈示された本件勤務表から事件当日の本件スポーツクラブでの自己の勤務終了時刻が分かり、自分が本件犯行に及ぶことが可能だったからというものであって、その内容からも明らかなとおり、積極的なものではないばかりか、自己の認識・記憶に基づくものでもない上、前記のとおり、被告人が本件犯行に及ぶことが十分に可能だったことは、被告人の犯人性を相当程度推認させるものの、その推認力は強くないことを考慮すると、論理にも相当な飛躍があるといわざるを得ない。
  また、前記のとおり、本件警察官調書が作成された際の取調べにおいては、G警察官が、被告人に対して、犯行時期等について一方的に話し、被告人がこれを聞いてしばらく黙って考え込んでいる様子や、G警察官が、被告人からの要求に応えて被告人に本件勤務表を呈示したことを契機として、これを基に、被告人に対して、2月17日に犯行が可能だった旨を一方的に話し、これに対し、被告人が、犯行時期の特定に関して積極的な根拠を示さず、明確な意思表示をしないままに同日に犯行に及んだことを認めている様子が見受けられる。G警察官も、公判廷において、同取調べでは、自分が話している場面が多く、被告人は余り話さなかったこと、被告人が犯行時期が同日であることの積極的な根拠を述べなかったことなどを供述している。
  しかも、G警察官は、公判廷において、本件駅付近で本件以外にこれと同種の強制わいせつ事件が発生することはないという前提で被告人を取り調べていた旨自認しているところ、本件取調べDVDからは、G警察官が、前記取調べにおいて、被告人に対してその趣旨の発言をしている場面がみられ、G警察官のかかる言動が被告人の供述等に影響を及ぼした可能性も否定できない。
  これらの点からすれば、G警察官は、被告人の取調べにおいて、被告人が認識・記憶しているところに従って供述を録取するというよりは、本件駅付近で本件以外にこれと同種の強制わいせつ事件が発生することはあり得ないという前提に立ってこれを動かし難いものとして、これに反する被告人の供述には耳を貸さずに、被告人に対して、事実を認めさせようとして説得・誘導等を繰り返すとともに、被告人からの要求に応えて本件勤務表を呈示するなどし、その結果、被告人が混乱・動揺し、本件勤務表を呈示されたことを大きな契機として、犯行時期について迎合的に虚偽の供述をしたことが疑われる。
  (イ) 被告人の自白内容
  次に、犯行時期に関する被告人の自白内容について検討すると、本件警察官調書における犯行時期に関する被告人の自白は、前記のとおり、自己の認識・記憶に基づいておらず、極めて具体性に乏しいというべきである。また、前記の被告人の自白は、前記のとおり、論理にも相当な飛躍があり、不合理である。さらに、後記(2)のとおり、犯行時期以外の点に関する本件各自白調書等と本件被害者供述等との符合性については、本件各自白調書等の信用性を強く裏付けるものとまではいえず、その他に前記の被告人の自白を客観的に、あるいは強く裏付ける的確な証拠は提出されていない。そうすると、犯行時期に関する被告人の自白内容には看過できない疑問点があるというべきである。
  (ウ) 以上によれば、本件警察官調書における犯行時期に関する自白の信用性には疑問があるといわざるを得ない。
  ウ 弁解録取書2について
  (ア) 取調べ状況等
  まず、関係証拠によれば、H検察官による被告人の取調べ方法には、それ自体において、違法ないし不当な点はなかったものと認められる。
  しかしながら、弁解録取書2には、犯行時期について、「自分の記憶としては平成26年10月から11月頃のことだったように覚えていたが、時期は勘違いしていたかもしれない。」旨記載されており、被告人は、犯行時期について「平成26年10月から11月頃」とも述べる一方で、時期を「勘違い」していた根拠・理由について何ら述べておらず、弁解録取書2については、本件警察官調書における自白と対比すると、これを要約した更に概括的なものであることなどに差がある程度であって、大筋においてこれと一致しており、本件警察官調書における自白の延長線上にあって、大きくこれに依拠しているといえる。そして、H検察官による取調べは、G警察官による取調べと同じ捜査の一環としての取調べであるし、H検察官が、G警察官による被告人の取調べの問題性を認識し、その影響を遮断するための特段の措置を講じたと認めるに足りる証拠は、客観的にも、また、弁解録取書2の中にもこれをうかがうことができない(なお、H検察官による前記取調べの時間は約31分と短く、弁解録取書2は全体で2頁〔実質的な内容が記載されているのは1頁未満〕に過ぎない。)。さらに、弁解録取書2は、本件警察官調書の翌日に作成されており、その間、被告人は、弁護人と接見してその助言等を受けていない。
  これらの点からすれば、被告人は、弁解録取書2の作成時に、G警察官による誘導的取調べの影響を脱していなかった可能性があるといわざるを得ない。
  (イ) 被告人の自白内容
  また、前記のとおり、弁解録取書2における犯行時期に関する自白の内容は、本件警察官調書における自白の内容と大筋において一致しているから、そこに看過できない疑問点があることは、前記イ(イ)と同様である。
  (ウ) 以上によれば、弁解録取書2における犯行時期に関する自白の信用性には疑問があるといわざるを得ない。
  エ 以上のとおりであって、本件各自白調書における犯行時期に関する自白の信用性には疑問があるというべきである。
  (2) 犯行時期以外の点に関する本件各自白調書等と本件被害者供述等との符合性について
  次に、犯行時期以外の点に関する本件各自白調書等と本件被害者供述等との符合性についてみる。
  ア 犯行時刻の点
  犯行時刻について、本件各自白調書等には「午後7時から8時頃」と記載されているのに対して、本件被害者供述等では「午後7時10分頃」とされており、両者はおおむね符合している。
  イ 犯行場所の点
  犯行場所について、本件各自白調書等には「本件スロープ」と記載されているのに対して、本件被害者供述等では「本件スロープ上の西側階段との分岐点付近」とされており、両者は符合している。
  ウ 犯行時の被害者の特徴の点
  犯行時の被害者の特徴について、本件各自白調書等には「自転車を押している制服姿の女子高生」などと記載されているのに対して、本件被害者供述等では「高校からの帰りで制服を着用しており、本件自転車にまたがって歩いていた」などとされており、両者はおおむね符合している。
  エ 犯行態様の点
  (ア) 犯行態様について、まず、本件各自白調書等には「女子高生にその背後から近づき、後ろから抱きついて胸を触った」などと記載されているのに対して、本件被害者供述等では「後ろから犯人がこちらに向かって走って来ていて、右後ろから両手で抱きついてきて、セーターの上から胸を、ブレザーの上から背中を探るように触ってきた」などとされており、両者は、被害者にその背後から近づいて後方から抱きつき、その胸を触ったとする点ではおおむね符合している。次に、本件各自白調書等には「女子高生が倒れて仰向けになった」などと記載されているのに対して、本件被害者供述等では「横向きに倒れ、犯人に右肩を押されて仰向けにされた」などとされており、両者はおおむね符合している。さらに、本件各自白調書等には「倒れた女子高生の制服の上から胸を数回もんだ」などと記載されているのに対して、本件被害者供述等では「(倒れた後に)胸を探るように強く触られた」などとされており、両者はおおむね符合している。
  (イ) 他方で、犯行態様について、まず、本件各自白調書等には「後ろから抱きついて胸を触った」としか記載されていないのに対して、本件被害者供述等では「犯人は、セーターの上から胸を、ブレザーの上から背中を探るように触ってきた」などとされており、両者は符合しているとはいえない。また、本件各自白調書等には「倒れた女子高生には覆い被さるようにしただけであり、馬乗りになって押さえつけたことはない」などと記載されているのに対して、本件被害者供述等では「犯人が、膝から足首辺りに馬乗りになってきた」などとされており、この点でも両者は符合していない。さらに、本件各自白調書等には「倒れた女子高生に対して胸以外どこにも触っておらず、陰部も触っていない」などと記載されているのに対して、本件被害者供述等では「陰部をつかむように強く触られた」などとされており、両者は符合していない。
  オ 犯行時の被害者の抵抗状況の点
  犯行時の被害者の抵抗状況について、本件各自白調書等には「女子高生は大声で叫んだりした」などと記載されているのに対して、本件被害者供述等では「きゃあと大声で叫んだ」などとされており、両者は符合している。
  カ 犯行直前の状況の点
  犯行直前の状況について、まず、本件各自白調書等には「(本件駅で)電車から女子高生が降りてきた」などと記載されているのに対して、本件被害者供述等では「J市内から離れる方向(〓方向)に向かう電車に乗って、本件駅に着いた」などとされており、両者はおおむね符合している。
  キ 犯行直後の状況の点
  犯行直後の状況について、本件各自白調書等には「逃げた」などと記載されているのに対して、本件被害者供述等では「犯人が急に北の方に向かって逃げ、線路を渡って走って逃げて行った」などとされており、両者は矛盾しない。
  ク 検討
  前記アないしキを踏まえて検討すると、本件各自白調書等と本件被害者供述等とは、犯行時刻、犯行場所、犯行時の被害者の特徴、犯行態様、犯行時の被害者の抵抗状況、犯行直前の状況、犯行直後の状況等の各点についてその多くがおおむね符合しており、この点は本件各自白調書等の信用性を高める事情であるともいえる(もっとも、本件各自白調書の内容に加えて、前記の犯行時期についてのG警察官による誘導的取調べの状況等に照らすと、前記各点、特に具体的な犯行態様の点について、本件被害者の供述等を踏まえて誘導的な取調べが行われた可能性は否定できない。)。
  しかしながら、他方、まず、本件各自白調書等は、犯行時の被害者の特徴(〔服装を含む〕、前記ウ)、犯行態様(同エ)、犯行時の被害者の抵抗状況(同オ)等の犯行の重要部分について概括的な内容にとどまっており、これらの点で本件被害者供述等と細部に至るまでの精密な一致があると評価することはできない。
  次に、前記各点が特異なものか否かについて検討するに、まず、犯行時の被害者の特徴(前記ウ)については、自転車を使用する制服姿の女子高生というものであるところ、前記のとおり本件駅及びその前後の駅において学割定期券を利用している女性が69名いることや本件駅に本件駐輪場が設置されていることなどを考慮すると、特異なものとはいい難い。また、犯行時刻(同ア)及び犯行場所(同イ)についても、被害者が自転車を使用する女子高生であることや関係証拠によって認められる本件駅の施設(本件駐輪場及び本件スロープを含む。)の構造・設置状況等を考慮すると、やはり特異なものとはいえない。そして、犯行態様(同エ(ア))については、被害者にその背後から近づいて後方から抱きつき、その胸を触るなどし、さらに、転倒した被害者の胸を触るなどというもので、路上類型の強制わいせつの事案では一般的によくみられるものであって何ら特異なものではない。犯行時の被害者の抵抗状況(同オ)については、大声で叫ぶというものであるところ、犯行態様や被害者の特徴等を考慮すると、ごくありふれたものといえる。犯行直前の状況(同カ)についても、犯行場所(同イ)を考慮すると、何ら特異なものではない。犯行直後の状況(同キ)についても、犯行態様(同エ)や犯行時の被害者の抵抗状況(同オ)を考慮すると、ごく一般的なものであるといえる。
  さらに、前記のとおり、犯行の重要部分である犯行態様(特に被害者の陰部を触ったか否かはわいせつ行為の中核部分である。)については複数の点について本件各自白調書等と本件被害者供述等とが符合しておらず(前記エ(イ))、この点は、本件各自白調書等の信用性を一定程度低減させる事情であるといわざるを得ない。
  これらの点からすると、犯行時期以外の点に関する本件各自白調書等と本件被害者供述等との符合性については、本件各自白調書等の信用性を強く裏付けるものとまではいえない(なお、検察官は、前記各点に関する被告人の公判供述と本件被害者供述等との符合性について、被告人の犯人性を推認させる事情として主張しているが、前記各点に関する被告人の公判供述はあくまでも本件とは別の11月事件のものとして述べられているのであるから、同符合性については、被告人の犯人性を推認させる事情として考慮するのは相当ではなく、被告人の公判供述の信用性を判断するに当たって考慮することとする。)。
  (3) 以上によれば、本件各自白調書等における被告人の自白の信用性には疑問があるといわざるを得ない。
 4 小括
  以上のとおりであって、被告人の捜査段階の自白については、いずれも、その任意性は肯定できるものの、その信用性には疑問があるというべきである。
第5 被告人の公判供述の検討
 1 本件各自白調書等との異同等について
  11月事件の犯行の経緯や状況等に関する被告人の公判供述の内容は、前記第4の1(5)のとおりであり、犯行時期の点を除いては、犯行時刻、犯行場所、犯行時の被害者の特徴、犯行態様、犯行時の被害者の抵抗状況、犯行直前の状況、犯行直後の状況等の各点について、細部はともかく、おおむね本件各自白調書等と同旨であるが、さらに、被告人は、〈1〉犯行時の被害者の特徴について、「女子高生は、髪が両肩につく長さのセミロングで結んでおらず、マスクやマフラーをしておらず、黒っぽい色のブレザーの下に白色のワイシャツだけを着て、黒っぽい色のチェック柄のスカートをはき、ハーフパンツやタイツははいておらず、黒色の靴下をはいていた」などと詳細な供述をしているほか、〈2〉犯行時の被害者の抵抗状況について、「女子高生は、両腕を胸の前でバツ印のように交差させて身を守るような仕草をした」などと、〈3〉犯行直前の状況について、「女子高生は、本件駐輪場に向かったが、なかなか同駐輪場から出てこなかった」「同駐輪場西側の道路を通って本件駐車場の方に行って女子高生の様子をうかがった」などと、〈4〉犯行直後の状況について、「本件スロープの北側を通って、踏切のあるところで線路を渡って本件駐車場まで逃げた」などとそれぞれ供述している。
 2 被告人の公判供述の信用性について
  そこで、被告人の公判供述の信用性について、以下検討する。
  (1) 犯行時期以外の点に関する被告人の公判供述と本件被害者供述等との符合性について
  ア 被告人の公判供述のうち本件各自白調書等と同旨の部分と本件被害者供述等との符合性
  前記符合性については、細部はともかく、おおむね前記第4の3(2)アないしキと同旨である。
  イ 犯行時の被害者の特徴の点
  犯行時の被害者の特徴に関する被告人の公判供述(前記1〈1〉)については、前記第2の前提事実のとおり認められる本件被害者の特徴、すなわち「上半身はワイシャツの上にセーター(紺色)を、更にその上にブレザー(紺色)を着用し、下半身は下着の上にタイツとハーフパンツの体操服(赤色)を、その上にスカート(白色と紺色のチェック柄)を着用していたほか、マフラー(緑地に赤色と黄色のチェック柄)、マスク(白色)及び手袋を着用していたこと」と符合していない。
  ウ 犯行時の被害者の抵抗状況の点
  犯行時の被害者の抵抗状況に関する被告人の公判供述(前記1〈2〉)については、本件被害者供述等で「両腕を胸の前でバツ印のように交差させて身構えた」などとされており、両者はほぼ符合している。
  エ 犯行直前の状況の点
  犯行直前の状況に関する被告人の公判供述(前記1〈3〉)については、本件被害者供述等で「本件駐輪場に行って鼻をかんだり鍵を探したりしていた」「本件駐輪場西側の道路を男性一人が本件駐車場の方に歩いて行った」などとされており、両者は符合している。
  オ 犯行直後の状況の点
  犯行直後の状況に関する被告人の公判供述(前記1〈4〉)については、本件被害者供述等で「犯人が急に北の方に向かって逃げ、線路を渡って走って逃げて行った」などとされており、両者は符合している。
  カ 検討
  前記アないしオを踏まえて検討すると、まず、被告人の公判供述のうち本件各自白調書等と同旨の部分と本件被害者供述等との符合性についての検討は、細部はともかく、おおむね前記第4の3(2)クと同旨であり、この点は、自分が犯したのは11月事件である旨の被告人の公判供述の信用性を格別に低減させるものではないというべきである。
  そして、前記ウないしオの各点が特異なものか否かについて検討するに、まず、犯行時の被害者の抵抗状況(前記ウ)については、わいせつ行為の被害に遭った女性がかかる防御の姿勢をとることはごく一般的であるといえ、特異なものではない。また、犯行直前の状況(前記エ)は、前者については、駐輪場に行った者がとる行動として一般的であるといえるし、後者については、当時の時刻に加えて、現場が本件駅付近であって、その西側に住宅地が広がっていること等を考慮すると、男性が前記道路を通行することは一般的であるといえ(なお、本件被害者が見た男性が本件の犯人であることについては立証されていない。)、いずれも特異なものではない。犯行直後の状況(前記オ)については、本件駅の施設(本件駐輪場及び本件スロープを含む。)の構造・設置状況や本件駅の西側に住宅地が広がっていて、その東側に水田があること等を考慮すると、犯人の逃走経路としては一般的であるといえ、特異なものではない。
  他方で、前記のとおり、犯行時の被害者の特徴(前記イ)については、複数の点で被告人の公判供述と本件被害者供述等とが符合しておらず、この点は、記憶の劣化等を考慮しても、自分が犯したのは11月事件である旨の被告人の公判供述の信用性を一定程度高める事情であるといえる。この点、検察官は、被害者の特徴に関する被告人の前記公判供述は不合理で信用できないなどとして、被告人は、10月16日のH検察官による弁解録取において、被害者の服装につき、「黒い服ってしか。」と供述し、H検察官からそれ以上の特徴について分からないかと聞かれても、「分からない。」旨供述しており、被害者の特徴についての被告人の記憶が曖昧だったことは明らかであるなどと主張している。しかしながら、本件取調べDVD等によれば、H検察官は、被告人に対して、犯行時に被害者が着用していた制服の特徴(ブレザーか否かとその色)についてのみごく短時間質問したに過ぎず、被害者のそれ以外の特徴について何ら具体的に質問していないことが明らかである上、弁解録取書2には、被害者の服装として「制服」を着用していること以外は録取されていないから、検察官の主張は採用できない。
  以上によれば、犯行時期以外の点に関する被告人の公判供述と本件被害者供述等との符合性については、被告人の公判供述の信用性を格別に低減させるものとはいえない。
  (2) 本件以外には本件駅付近における強制わいせつ事件の認知等がないことについて
  前記第3の5のとおり、本件以外には本件駅付近における強制わいせつ事件の認知や目撃者による目撃等がないことが認められるものの、かかる事実は、11月事件が発生しなかったことを一定程度推認させるにとどまり、その推認力は相当に限定されたものであるから、かかる事実をもって直ちに被告人の公判供述の信用性が格別に減殺されるものではない。
  (3) 犯行時期に関する供述部分が本件各自白調書から変遷していることについて
  被告人の公判供述のうち犯行時期に関する供述部分は本件各自白調書から変遷しているが、本件各自白調書における犯行時期に関する自白の信用性には疑問があることは前記のとおりである。また、犯行時期を平成26年11月と特定した根拠について、被告人は、公判廷において、「平成28年4月頃、ラジオを聞いているときに、何かの番組でマラソン大会の参加募集のCMが流れたことから、犯行の2週間ほど前に平成26年11月2日開催のマラソン大会に参加したことを思い出した。」などと供述しており、被告人のこの供述は、いかにも後付けの感があって不自然であるものの、前記のとおり被告人がF署に任意同行された時期及び本件で逮捕された時期が、本件犯行の約7か月後及び約8か月後(11月事件の約10か月後及び約11か月後)だったことなどを考慮すると、極めて不合理とまではいえない。さらに、前記のとおり、犯行時期について、本件自供書には「昨年(平成26年)から今年(平成27年)の寒い頃」と記載されているほか、本件警察官調書には「僕の記憶では、去年(平成26年)の秋か寒い冬の時期だったと思っていた」との、弁解録取書2には「自分の記憶としては平成26年10月から11月頃のことだったように覚えていた」との各記載部分も存し、平成26年11月はこれらに含まれているといえる。
  これらの点からすれば、被告人の公判供述のうち犯行時期に関する供述部分が本件各自白調書から変遷していることについても、被告人の公判供述の信用性を大きく減殺するものとまではいえないというべきである。
  (4) 以上によれば、被告人の公判供述については、疑問を抱かざるを得ない部分があるものの、全く不合理なものとしてその信用性を排斥するのは困難である(なお、仮に被告人の公判供述が信用できなかったとしても、そのことが直ちに被告人の捜査段階の自白の信用性を高めたり、被告人の犯人性を推認させたりするものではない。)。
第6 結論
  以上の検討によれば、被告人の捜査段階の自白以外の関係証拠によって認められ、被告人の犯人性を推認させる各間接事実は、いずれもその推認力が相当程度あるいは一定程度にとどまっていて強いものではなく、また、被告人の犯人性を基礎づける主要な証拠である被告人の捜査段階の自白の信用性には疑問があるから、その余の点について判断するまでもなく、被告人が本件の犯人であると認定するには合理的疑いが残るものといわざるを得ない。
  以上の次第で、本件区分事件の公訴事実については犯罪の証明がなく、刑事訴訟法336条により被告人に対し無罪の判決の言渡しをしなければならない事由があるから、裁判員の参加する刑事裁判に関する法律79条により部分判決でその旨の言渡しをすることとする。
刑事部
 (裁判長裁判官 入子光臣 裁判官 熊谷大輔 裁判官 三宅由子)