児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

CG 被告人が、不特定多数の者に提供する目的で、衣服をつけない実在する「児童」の姿態が撮影された画像データを素材として編集した画像データである児童ポルノを製造し、同一のファイルを訴外会社に送信して記憶・蔵置させるとともに、その販売を同社に委託し、不特定の者に販売することで児童ポルノを提供したという件で起訴された件につき、被告人が控訴した控訴審において、原判決が破棄され、被告人が罰金30万円に処せられた事例(東京高裁H29.1.24)

 D1-Law.com判例体系に出ました。

D1-Law.com判例体系
■28250582
東京高等裁判所
平成28年(う)第872号
平成29年01月24日
上記の者に対する児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律違反被告事件について、平成28年3月15日東京地方裁判所が言い渡した判決に対し、被告人から控訴の申立てがあったので、当裁判所は、検察官和久本圭介並びに弁護人山口貴士(主任)、同壇俊光、同奥村徹、同野田隼人、同北周士、同北村岳士、同歌門彩及び同吉峯耕平(いずれも私選)各出席の上審理し、次のとおり判決する。
主文
原判決を破棄する。
被告人を罰金30万円に処する。
その罰金を完納することができないときは、金5000円を1日に換算した期間、被告人を労役場に留置する。
原審における訴訟費用のうち、2分の1を被告人の負担とする。
本件公訴事実第2(平成25年9月3日付け訴因変更請求書による訴因変更後のもの)のうち、児童ポルノである画像データを含むコンピュータグラフィックス集「聖少女伝説」を提供したとする点について、被告人は無罪。

理由
1 本件の概要及び本件控訴の趣意
 本件は、被告人が、不特定又は多数の者に提供する目的で、児童の姿態が撮影された写真の画像データを素材として、画像編集ソフト等を使用して描写したコンピュータグラフィックス(以下「CG」という。)を作成し、このCG集をインターネットを通じて不特定又は多数の者に販売したという、児童ポルノの製造及び提供の事案である。
 本件控訴の趣意は、要するに、第1に、原判決は、児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律(以下、「児童ポルノ法」という。なお、特に記載がない限り、平成26年法律第79号による改正前のものを指す。)の趣旨の解釈を誤るなどして、〈1〉実在しない児童の姿態を描写したものを処罰の対象としたという点、〈2〉児童ポルノの製造について、被写体となる児童を直接描写することを要しないとした点、〈3〉当該画像等の製造の時点、及び児童ポルノ法が施行された時点において、被写体が児童(18歳未満)であることを要しないとした点、及び、〈4〉罪数評価の点において、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令適用の誤りがある、第2に、原審の訴訟手続は、罪数評価を誤った結果、併合罪関係にある事実について訴因変更を許可した点で、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令違反がある、第3に、〈1〉本件におけるCGの被写体が18歳未満である旨述べる医師の証言の信用性を一部認め、一部のCGについて児童であると認定した点、及び、〈2〉本件においてCG集の販売会社の従業員の供述の信用性を認め、情を知らない同会社の従業員をして児童ポルノを販売したとして、児童ポルノ提供罪の間接正犯を認めた点で、判決に影響を及ぼすことが明らかな事実の誤認がある、第4に、被告人を懲役1年(3年間執行猶予)及び罰金30万円に処した原判決の量刑は重すぎて不当であり、罰金刑のみとすべきである、というのである。
2 法令適用の誤り(罪数に関する部分を除く。)及び事実誤認の論旨について
 (1)原判決の骨子
  原判決は、概要、以下のとおり説示して、起訴された合計34点のCG(CG集「聖少女伝説」に含まれるCG18点、及び、CG集「聖少女伝説2」に含まれるCG16点。以下、併せて「本件CG」という。)のうち、「聖少女伝説2」に含まれる3点のCG(原判決中の画像番号2、15及び27(右側)。以下「本件3画像」という。)について、児童ポルノに該当すると認め、被告人に対し、児童ポルノの製造及び提供の各罪が成立すると認めた。
  ア 児童ポルノ法の趣旨等
  児童ポルノ法が、7条において、児童ポルノの製造、提供等を禁止する趣旨は、これらの行為が、被写体となった児童の心身に有害な影響を及ぼすだけでなく、このような行為が社会に広がるときには、児童を性欲の対象として捉える風潮を助長することになるとともに、身体的及び精神的に未熟である児童一般の心身の成長にも重大な影響を与えることから、これらの行為を処罰するというものである。このような同条の趣旨等に照らせば、同法2条3項柱書及び同法7条の「児童の姿態」とは、架空の児童は含まれず、実在する児童の姿態をいうと解すべきである。その判断については、当該CGに記録された児童の姿態が、一般人からみて、架空の児童の姿態ではなく、実在の児童の姿態を忠実に描写したものであると認識できる場合には、実在の児童とCGで描かれた児童とが同一であると判断できるから、「児童ポルノ」として処罰の対象となる。
  児童を直接見て描かれていない場合であっても、実際に一般人からみて実在の児童の姿態を描写したものと認められ、それが拡散する危険がある場合、それを規制する必要性は、児童を直接見て描写する場合と変わらず、条文上も制限がないことなどからすれば、上記と同様に考えるべきである。
  イ 本件CGが「児童の姿態」を描写したものといえるか
  原審検察官の立証構造は、本件CGを描写する元となった写真(素材画像)について、それらが収められた写真集等の存在から、その被写体となった女性が存在すること(実在性)を、A医師の原審証言をもって、その写真の被写体の女性が18歳未満であること(児童性)を、本件CGの作成方法等に関する被告人の捜査段階の供述等を前提に、作成されたCGと素材画像が同一であること(同一性)を、それぞれ立証するものであるところ、起訴された合計34点の本件CGのうち、「聖少女伝説2」の中の3点のCG(本件3画像)についてのみ、児童の姿態を描写したものといえる。
  (ア) 児童性の立証の前提
  本件CGのうち、7点については、そもそも、A医師が児童と認定した写真と素材画像が一致していないから、児童性の立証がない。
  (イ) 実在性
  本件CGに対応する素材画像の写真を収めた写真集の存在が確認できるものについては、その写真集に、撮影者の名前、モデル名、「写真集」等の記載があり、また、いずれも昭和56年頃から平成11年頃までに初版が出版されたものといえるところ、当時の写真技術等からすると、大幅に写真が改変されている可能性は低いことなどに照らすと、各写真の被写体は、その当時、実在する人物であったといえるから、(ア)を除く27点のうち、本件3画像を含む21点については実在性が認められる。他方、警視庁生活安全部少年育成課に画像データが残されていただけの6点のCGについては、出典元の写真集の存在が確認できないため、元の写真集の中に含まれていない画像が混じっていたり、元の写真と同一性を損なう程度に加工されたデータであったりする可能性が否定できないから、実在性が認められない。
  (ウ) 児童性
  本件CGの素材画像について、その被写体の児童がいずれも18歳未満である旨を述べるA医師の原審証言は、性発達を評価する学問的な方法として世界的に用いられているタナー法(乳房のふくらみ、乳輪の隆起、陰毛の濃さや範囲により、性発達の段階を1度から5度のステージで定義づけるもの)と、同分類と日本人女子の性発達との関係を調査した研究等を前提に、タナー法の分類に基づき、各被写体の年齢を推定するものであるところ、この手法は、児童性の判断手法として一般的には信用できるものの、タナー法による判断手法自体、例えば、タナー2度ないし4度とされた者の中に18歳以上の者がいる可能性があるなど、一定の限界があること、本件では、判定に供した資料が限られていることなどから、慎重に判断する必要がある。そして、陰毛については、そもそも判断の対象とした写真自体が修正されている可能性があること、乳輪の隆起は、写真上判断しにくいことなどから、これらを基にした判断については信用できない。他方、A医師自身、確実なのは乳房タナー2度を基準とすることであるという趣旨の供述をしていることなどに照らすと、18歳以上の女性で、乳房についてタナー2度以下と判定されるものはまれであるといえる上、同医師が乳房についてタナー2度以下と評価した写真の被写体については、いずれも顔立ちが幼く、乳房や肩幅、腰付近の骨格等の身体全体の発達が未成熟であることなどから、18歳未満であったことが強く推認され、実在性が認められた21点のCGのうち、本件3画像を含む4点については児童性が認められるが、その余の17点については児童性が認められない。
  (エ) 同一性
  本件CGの作成の動機や手法についての被告人の原審公判供述、すなわち、本件CGの作成は、成長過程の女性の微妙な肉体の美しさを写実的に描きたい、理想的な人体を描きたいという芸術的な創作であり、素材画像はあくまで参考にすぎず、本件CGに描かれた体の輪郭等は一から表現したものであるとの供述は信用できず、他方、被告人の捜査段階における供述、すなわち、被告人は、昔の少女ヌード写真集のモデルのファンであったところ、少女のヌード写真集が児童ポルノ法で禁止されたことから、CGでこれを再現できないかと考え、その写真集の画像データを素材に、基本的に画像をトレースすることによりCGを作成したとの供述は信用できる。そして、このような作成手法を前提にCGと素材画像の同一性を検討すると、上記のとおり、実在性、児童性が認められた4点のCGのうち、本件3画像については同一性が認められるが、その余の1点については、胸の形が異なっており、両肩、両腕、両足の輪郭線及び各部位の位置等が一致していないことなどから、同一とはいえない。
  ウ 本件3画像が「性欲を興奮させ又は刺激するもの」といえるか
  児童ポルノ法は、刑法におけるわいせつの定義とは異なる観点から、児童ポルノの範囲を定めており、「徒らに」ないし過度に性欲を興奮させ又は刺激することまでは不要であるなど、刑法におけるわいせつ物等よりも規制対象を広範にしたものである。そして、児童の裸体等が描写された写真等が、「性欲を興奮させ又は刺激するもの」(児童ポルノ法2条3項3号)に当たるか否かの判断については、性器等(性器、肛門、乳首)が描写されているか否か、児童の裸体等の描写が当該写真等の全体に占める割合、その描写方法等から、一般人を基準にして総合的に判断するべきである。また、表現の自由等との関係で処罰範囲が不当に広範にならないように留意する必要があるところ、児童の裸体等を描写した写真集等の全体のモチーフ、学術性、芸術性、児童の裸体等をその中で用いる必要性や合理性等から判断して、性的刺激が相当程度緩和されている場合には、上記要件に該当しない場合もある。
  本件3画像については、児童の裸体等を描写したものであり、かつ、性的刺激を緩和するような思想性や芸術性等も認められないから、上記要件を満たす。
  エ 当該画像等の製造の時点、又は児童ポルノ法施行の時点で、被写体が児童(18歳未満)であることを要するか
  条文上、当該画像等の製造の時点において、被写体が18歳未満であることを要するとの文言はないこと、製造の時点では被写体が18歳未満であり、児童ポルノに該当したものが、その被写体が18歳以上になればその提供等が規制されないと解すると、前記のような児童ポルノ法の趣旨を没却することなどからすれば、規制の必要が高いから、製造の時点で被写体が18歳未満であることは要しない。
  また、児童ポルノ法の施行の時点で被写体が18歳未満でなくても、児童ポルノ法施行後に新たに行われた製造等の行為のみを処罰するものである以上、事後的に制定された罰則を遡及して適用して処罰する場合には当たらず、罪刑法定主義には反しない。
  オ 被告人の故意
  被告人自身、本件CG集に「少女」という言葉を用いていること、被告人が所有する写真集には、モデルとされた女性の年齢の記載があるものがあること、本件CGは、前記のとおり、児童ポルノ法の施行によって規制の対象となった写真を基に、それと高い同一性を保つように意識して被告人自身が作成したものであること、本件3画像のモデルとなった女性は一見して幼く、18歳以上であると確信していたなどとはおよそ解されないことなどの事情に照らすと、被告人には、本件3画像が児童ポルノに該当することについての故意が認められる。
  カ 児童ポルノ提供罪の間接正犯の成否
  本件CG集を販売したインターネット通信販売サイトの運営会社の従業員は、原審公判において、本件CG集の画像等について、事前に会社内部で審査し、本件CGが模写やスキャンニング等でないことについて被告人から確認をとった上で販売した旨証言しているところ、CG集の管理画面中の管理者メモ欄の記載に照らすと、同従業員の上記証言は信用できる。そうすると、被告人は、情を知らない同運営会社の従業員を利用して、同サイトに本件CG集の販売を委託することにより、児童ポルノと認められる3点のCGを含むCG集「聖少女伝説2」を購入、ダウンロードさせたと認められるから、被告人には、児童ポルノの提供罪の間接正犯が成立する。

(2)当裁判所の判断
  原判決の上記の認定及び判断は概ね相当なものとして、当裁判所もこれを是認することができる。所論は、児童ポルノ法の目的及び趣旨、さらには、児童の実在性に関する原判決の説示等について、法令の解釈適用の誤りがある旨るる主張するが、これらの中には、本件3画像が児童ポルノに該当すると認めた原判決の判断に直接影響しない一般論を述べるものも含まれているから、当裁判所は、原判決の上記判断に影響する限度で、判断を示すこととする。
  ア 児童の実在性について
  (ア) 所論は、原判決が、「一般人からみて、架空の児童の姿態ではなく、実在の児童の姿態を忠実に描写したものであると認識できる場合には、実在の児童とCGで描かれた児童とが同一である(同一性を有する)と判断でき」ると説示した点をとらえて、一般人が、実在の児童の姿態を忠実に描写したと認識しさえすれば、実在しない児童の姿態を描写した場合についても処罰の対象となる趣旨であるとして、この点を種々論難する。
  そもそも、原判決は、前記のとおり、児童が実在することを要するとの前提に立った上、本件CGについて、被写体となった児童が実在するか否かを、各CGの元となった素材画像の写真の出典等について検討した上で判断し、実在性が認められたものについてのみ、児童ポルノに該当すると判断したのであるから、実在しない児童の姿態を描写した場合も処罰の対象となるという判断をしたとの所論は、前提を欠くものである。
  さらに、原判決が上記のように説示した趣旨は、その実際の判断過程に即してみると、素材画像の被写体となった児童の実在性が認められた場合に、当該CGの画像等が、その実在する児童を描写したといえるかどうか、すなわち、被写体となった実在の児童とそれを基に作成されたCG画像等が、同一性を有するかどうかを判断するに当たって、一般人の認識という基準を用いたものと解される。このように、通常の判断能力をもつ一般人が、社会通念に照らして実在する児童と同一であると認識できる場合には、当該描写行為等が処罰の対象となることを認識できるから、このような基準を採用したからといって、刑罰法規の明確性を害するものではない。そうすると、原判決の前記説示は、いささか表現が不明確ではあるものの、その判断に誤りはない。所論は、原判決を正解しないものであって、採用の限りでない。
  (イ) 所論は、「児童の姿態」とは、実在する児童が被写体となって、実際にとった姿態に限られると主張し、一般人がどう認識しようが、実在しない児童の姿態を処罰の対象とすることは法の趣旨を逸脱するものであると主張する。しかし、必ずしも、被写体となった児童と全く同一の姿態、ポーズをとらなくても、当該児童を描写したといえる程度に、被写体とそれを基に描いた画像等が同一であると認められる場合には、その児童の権利侵害が生じ得るのであるから、処罰の対象とすることは、何ら法の趣旨に反するものではないというべきである(児童ポルノ法の趣旨については、後に検討する。)。
  なお、この点に関して、所論は、当審で取り調べたB氏の意見書(当審弁1。以下「B意見書」という。)を引用し、写真を参考にした絵画表現は、機械による複写とは異なり、独立した新たな創作物であるから、手描きの作品を機械による複製と同視することは、罪刑法定主義に反するとも主張する。そもそも、被告人の本件CGの作成方法については、原判決が認定するとおり、一から手描きで描いたものではなく、パソコンのソフトを利用して素材画像をなぞるなどして作成されたものであると認められ、純粋な手描きによる絵画とは異なるものであるが、この点を措くとしても、一般に、写真による複写の場合であっても、現在の技術を前提とすれば、データを容易に加工することが可能であり、他方、手描きによる場合であっても、被写体を忠実に描写することも可能であることからすれば、必ずしも、描写の方法いかんによって児童ポルノの製造に当たるか否かを区別する合理的な理由はないというべきである。描写の方法がいかなるものであれ、上記のとおり、実在する児童を描写したといえる程度に同一性の認められる画像や絵画が製造された場合には、その児童の権利侵害が生じ得るのであるから、そのような行為が児童ポルノ法による処罰対象となることは、同法の趣旨に照らしても明らかである。ちなみに、児童ポルノに絵画が含まれ得ることは、児童ポルノ法の立法段階においても前提とされていたことである。
  所論は採用できない。
  イ 児童性の認定について
  (ア) 所論は、原判決が児童性に関する唯一の証拠としたA医師の鑑定及びその原審証言は、同医師が依拠する理論自体、刑事事件で児童性の認定に利用できるほど理論的、合理的なものとはいえず、タナー法については、提唱者であるC氏自身が、同法で年齢を推定することはできないとして、これを年齢の推定に利用することを批判していることなどに照らすと、A医師の原審証言は信用できず、また、判断対象は本件CGの児童ポルノ性であるのに、本件CGを見て判断しておらず、その基となった素材画像の写真のみを見て判断している点でも信用できないと主張する。また、原判決が、タナー法で乳房2度以下であれば18歳であるといえると判断した点についても、18歳以上の女性の中に、実際に乳房についてタナー2度の女性がどの程度存在するかに関するデータはない上、実際、A医師は、原審公判において、明らかに18歳以上であるAV女優の乳房の写真を弁護人から示されて、タナー2度であると誤った証言をしていることなどに照らすと、同医師の証言は信用できない、結局、原判決の判断は、裁判所が写真を見て幼く感じたから18歳未満であるというにすぎず、このような原判決の判断には事実の誤認がある、などと主張する。
  (イ) そこで検討すると、胸部及び陰毛のみを判断資料とするタナー法に基づいて年齢を判定することには限界ないし危うさがあること、タナー法に依拠して、本件において素材画像の写真の児童性を判定したA医師の原審証言を全面的に信用して年齢を判断することが相当でないことは、原判決が適切に説示するとおりである。もっとも、原判決が乳房についてタナー法で2度以下と判定された事例について、児童性を認定した点については、確かに、18歳以上の女性の中に乳房がタナー2度以下の者がどの程度の確率で存在するかを実際に調査したデータはないものの、A医師は、原審において、タナー2度以下で18歳以上である可能性として、体質性思春期遅発症による可能性と、性腺機能低下症による可能性が考えられるところ、前者については、性発達の年齢の分布が正規分布となることが分かっていることから、乳房についてタナー2度に達する日本人女性の平均年齢と標準偏差を元に計算すると、100万人に3人(1万人に0.03人)未満の確率となり、後者の可能性についても、1万人に1人未満であるから、前者と後者の可能性を併せても、18歳以上の者の中で乳房タナー2度以下が存在する可能性は、理論上、1万人に1人未満という極めて低い確率である、18歳未満か否かの判断については、乳房タナー2度を基準とすればまず間違いがない旨証言している。
  加えて、A医師が引用するD氏らの研究(A原審証言調書別紙6。当審弁3。)によれば、1983年ないし1986年生まれの日本人女児226人について、乳房タナー度数別の累積頻度を実態調査したところ、12歳になるまでに、全ての者がタナー2度に達し、95%の者がタナー3度に達したことが認められ、更に18歳になるまでにはタナー3度に達する者の割合が高くなることが推認される。
  A医師の上記の原審証言は、小児科学、小児内分泌学等を専門とする同医師の専門的知見に基づき、上記の実態調査等のこれまでの医学的、科学的な研究等の成果に基づくものであって、その内容には合理性があり、十分信用することができるというべきである。そうすると、少なくとも、A医師が述べるように、18歳以上の者の中に乳房についてタナー2度以下の者が存在する可能性が極めて低いことについては、十分科学的な裏付けがあるといえるから、原判決が採ったように、少なくとも、乳房がタナー2度以下と判断された者については、18歳未満であると推認することができ、さらに、顔立ち、乳房や肩幅、腰付近の骨格等の身体全体の発達の程度をも加味して検討すれば、18歳以上の女性で乳房がタナー2度以下と判定される例外的な事例は、排除できるというべきである。したがって、A医師が乳房についてタナー2度と判定した被写体について、上記の諸点も考慮した上、児童性を認めた原判決の判断に、事実の誤認はなく、単に裁判所が写真を見て幼く感じたから児童性を認定したとする所論の論難は当たらない。その他、所論が指摘する点を踏まえても、上記の判断は揺るがない。
  ウ 〈1〉製造の時点、及び、〈2〉法施行の時点において、18歳未満であることを要するかについて
  (ア) 所論は、まず、〈1〉の点について、児童ポルノ法が純然たる児童の個人的法益を保護することを目的とする法律であることを前提に、同法の「児童の姿態」という文言に、「大人の、児童であった時の姿態」を含むと解釈するのは無理であり、罪刑法定主義に反する上、同法7条3項の製造罪は、行為者が児童に当該姿態をとらせて児童ポルノを製造した場合を規定しているから、製造の時点で被写体が18歳未満であることを要するのは明らかである、原判決のように、製造の時点で18歳未満であることを要しないと解すると、製造時においては既に実在しない児童を「児童」に含めて保護し、実質的には大人の名誉、プライバシーを保護していることにほかならない旨主張する。また、〈2〉の点について、児童ポルノの製造等を禁止する児童ポルノ法が施行された時点で、既にその被写体が児童でなくなっていた以上、そのような者についてまで「児童」に当たるとして、その製造行為等を処罰することは、刑罰規定不遡及の原則に反して相当でなく、条文解釈上も、法施行時に既に大人であったものを「児童」に含むと解釈することには無理がある、などと主張する。
  (イ) 記録によれば、本件3画像の素材画像となった写真については、昭和57年から昭和59年にかけて初版本が出版されたものと認められ、その頃撮影されたものと推認され、本件3画像は、これらを基にCGとして描かれたことが明らかである。
  児童ポルノの製造行為については、法文上、いつの時点で18歳未満であることを要するかについて、何ら規定がなく、法の目的及び趣旨に照らし、合理的に解釈するほかない。そこで、児童ポルノ法の目的及び趣旨について検討すると、同法1条は、児童に対する性的搾取及び性的虐待が児童の権利を著しく侵害することの重大性に鑑み、あわせて児童の権利の擁護に関する国際的動向を踏まえ、児童買春、児童ポルノに係る行為等を処罰するとともに、これらの行為等により心身に有害な影響を受けた児童の保護のための措置を定めることにより、児童の権利を擁護することを目的とする旨規定しており、平成26年法律第79号による改正後の児童ポルノ法(以下「現行法」という。)3条は、児童に対する性的搾取及び性的虐待から児童を保護しその権利を擁護するとの本来の目的を逸脱して他の目的のために濫用してはならないと規定していることに鑑みると、児童ポルノ法は、直接的には、児童の権利保護を目的として制定されたものということができる。このような見地から、同法7条は、児童ポルノの製造行為を、児童に対する一種の性的搾取ないし性的虐待とみなして、規制の対象としているが、同法は、18歳未満の者について、同法2条3号に該当する物について、同法3条の留保はあるものの、一律に児童ポルノとして、規制を及ぼしている。また、児童ポルノに該当する場合には、被写体となった児童の承諾がある場合であっても、児童ポルノの製造罪が成立すると解されている。
  このような同法の児童ポルノに対する規制の在り方に鑑みると、同法が保護法益とする児童の権利は、児童の実在性が認められることを要するという意味で具体性を備えている必要はあるものの、個別の児童の具体的な権利にとどまるものではなく、およそ児童一般の保護という社会的法益と排斥し合うものとは解されない。さらに、同法は、身体的、精神的に未熟で、判断能力が十分に備わっていない児童を性的搾取又は性的虐待から保護するという後見的な見地から、その権利を侵害する行為を規制することを予定しているものであり、児童の権利侵害を防ぐという同法の目的を達成するためには、現に児童の権利を侵害する行為のみならず、児童を性欲の対象としてとらえる社会的風潮が広がるのを防ぐことにより、将来にわたって児童に対する性的搾取ないし性的虐待を防ぐことが要請されるというべきである。この意味において、同法の規制の趣旨及び目的には、社会的法益の保護も含まれるといえるのであって、所論がいうように、純然たる児童の権利保護のみを目的とするものとみるのは相当でないといわざるを得ない。
  このことは、児童ポルノ法の立法過程における議論とも整合的であり、また、現行法7条1項において、自己の性的欲望を満たす目的での児童ポルノの所持が処罰されることとなったこととも整合的である。すなわち、同条1項の目的での児童ポルノの所持罪は、児童ポルノの市場が形成され、そこで児童ポルノが流通することを防止するなどの趣旨で設けられたものであるところ、このような規制は、将来にわたる性的搾取及び性的虐待を防止するという目的を達成するものといえるのに対し、児童の権利保護の観点からは、根拠づけることが困難であるというべきである。同条1項の罪は、国内外における法規制の要請の高まりを受けて、本件行為後の平成26年の法改正で新設されたものではあるが、上記改正によって児童ポルノ法の趣旨及び目的が変質したと考えるべきではなく、上記改正以前から、もともとあった同法の趣旨及び目的をより効果的に達成するために設けられたものと解すべきである。このように、同法が一種の社会的法益を保護する側面を有するとみることは、児童に対する性的搾取及び性的虐待を防ぐという、同法の本来の目的に沿うものであって、同法3条の趣旨に反するとの所論には理由がない(なお、所論は、児童ポルノ法の目的が児童の権利擁護にある旨を指摘した複数の裁判例を引用するが、これらは、いずれも、純然たる児童の個人的法益のみを保護法益とする旨を説示するものではなく、所論は前提を欠く。)。
  (ウ) このような観点を踏まえて、改めて前記〈1〉の点について検討すると、実在する児童の姿態を描いた画像等が、児童ポルノとしていったん成立した以上、その製造の時点で被写体等となった者が18歳以上になっていたとしても、児童の権利侵害が行われた記録として、児童ポルノとしての性質が失われることはないと解すべきである。のみならず、被写体等となった者が18歳以上となってから、上記のような画像等を製造する行為も、児童を性欲の対象とする風潮を助長し、児童の性的搾取及び性的虐待につながる危険性を有する行為といえるから、この点に関する限り、現に18歳未満である者を被写体等として製造する場合と変わりはないというべきである。
  さらに、前記〈2〉の点についても、児童ポルノ法施行以前に実在した児童を描いた場合には、児童ポルノとして児童の権利が侵害されたことはないものの、児童を性欲の対象とする風潮を助長し、児童の性的搾取及び性的虐待につながる危険性を有するという点では、〈1〉の場合と同様であるから、やはり、児童ポルノとして処罰の対象となり得ると解すべきである。このような行為を処罰の対象とすることは、前記の児童ポルノ法の目的及び趣旨に沿うものというべきであり、当該画像の製造の時点、あるいは、児童ポルノ法施行の時点で、その被写体が18歳以上であることは、児童ポルノへの該当性を否定する事由となるものではない。
  このように解しても、〈1〉について、前記のとおり、法文上制約がなく、法の趣旨にも沿うものである以上、何ら罪刑法定主義に反するとはいえず、〈2〉についても、被告人が本件CGを作成した時点で、児童ポルノ法が施行されており、児童ポルノの製造を禁止する法規範に直面し、規範意識が喚起されたと考えられるから、何ら刑罰不遡及の原則に反するものではない(なお、児童ポルノ法7条3項の文言の解釈についていう点については、後記エのとおり、そもそも、本件に適用される同条5項の製造罪と同視できるものではないから、所論は前提を欠く。)。
  エ 法7条3項と同条5項との関係について
  所論は、児童ポルノ法が純然たる児童の権利保護を目的とする以上、同法7条の「描写」とは、性的搾取や虐待に該当する形の描写に限られると解するべきであり、条文上も、同法7条3項の「製造」は、実在する児童に実際にポーズをとらせて描写することを予定しているところ、同条5項の製造についても、これと異なる解釈をとるべき合理的理由はない、などと主張する。
  しかし、児童ポルノ法7条3項の製造は、「姿態をとらせ」て「これを描写する」行為と規定している以上、実際に児童にポーズ等をとらせる必要があることは明らかであるが、同条5項の提供目的による製造については、法文上、同条3項と異なり、「姿態をとらせ」という要件がない以上、直接面前で姿態をとらせることを要件とするものではないと解するのが、文理上自然である(このことは、児童ポルノ法の保護法益をいかなるものと理解するかと直接関連するものではない。)。また、同条3項の製造罪は、同条5項の場合のように提供の目的を伴わなくても、児童に、児童ポルノに該当するような姿態をとらせて児童ポルノを製造する行為が、それ自体当該児童の心身に有害な影響を与える性的搾取行為であることから、同条5項の提供目的製造とは別に処罰の対象とされたものであって、このような各条文の構造及び趣旨に照らしても、両者を同一に解する必然性はないというべきである。所論は、前提を誤るものというほかなく、採用できない。
  オ 芸術活動(表現の自由)等との関係
  (ア) 所論は、芸術分野においては、実在する児童のモデルにポーズをとらせてその姿を描写することは広く一般的に採られてきた方法であり、描かれたモデルがどこの誰であるかまで判明している作品も少なくないところ、原判決を前提とすると、このように長年優れた芸術とされてきた過去の名作の展示、販売、模写等が児童ポルノ法で禁止されることになる上、原判決の基準は、一般人からみて同一といえるか否かという曖昧なものであり、このような曖昧な基準によると、芸術活動に萎縮的効果を与えることになり、相当でない、このことは、現行児童ポルノ法3条の趣旨にも反するものである、などと主張する。
  (イ) 児童ポルノ法上の「児童ポルノ」に該当するかどうか、すなわち、「衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するもの」(同法2条3項3号)に当たるか否かを判断するに当たって、表現の自由や芸術活動を不当に侵害しないようにする必要があることは、同法3条が「この法律の適用に当たっては、国民の権利を不当に侵害しないように留意しなければならない。」と規定していることからも明らかである。そして、上記の判断に当たっては、当該画像等の具体的な内容に加え、それが作成された経緯や作成の意図等のほか、その画像等の学術性、芸術性、思想性等も総合して検討し、性的刺激等の要素が相当程度緩和されていると認められる場合には、「性欲を興奮させ又は刺激するもの」に当たらず、「児童ポルノ」には該当しないと解すべきである。
  所論が指摘するような歴史的絵画の展示や模写等については、そもそも、被写体の児童性や同一性が立証できない場合が少なくないと考えられるが、仮にこれらの立証が可能な場合であっても、このような学術性、芸術性、思想性等を総合して判断することにより、児童ポルノに該当しないと判断される場合が十分あり得るというべきである。
  (ウ) なお、所論は、B意見書を引用し、原判決が、芸術性等の判断の考慮要素として、児童の裸体等を用いる必要性や合理性等を挙げた点を、表現の自由を否定するものと批判した上、本件CGは、人体の美しさの表現やその技術を追求するものであると主張する。しかし、本件CGの作成の動機及び作成方法については、原判決が認定したとおり、少女のヌード写真が児童ポルノ法で禁止されたため、CGで再現したいなどという動機から、その写真集等の画像データをパソコンに取り込んで切り貼りし、加工を施すなど、画像編集ソフトの機能を使い、半透明、透明のレイヤーを重ねて、写真の画像データをなぞるようにして輪郭線を描き、色を着け、陰影を着けるなどして作成したものであると認められるところ、本件CGの内容自体に加え、このような作成の動機や方法等に照らしても、本件CGが、芸術性等の観点から性的刺激が緩和されたものとして、児童ポルノへの該当性が否定されるとは到底いえないことは明らかである。
  また、被写体となった人物と画像に描かれた人物との同一性の判断に関する基準の曖昧さを理由として、芸術活動に萎縮的効果を与えるとの点についても、前記のとおり、通常の判断能力をもつ一般人からみて同一性が認められる場合にのみ処罰の対象となるのであるから、法規範としての明確性を欠くものとはいえず、所論は前提を欠く。
  (エ) なお、所論は、本件後に児童ポルノ法2条3項が改正され、児童ポルノの定義について、前記の文言に加え、「殊更に児童の性的な部位(性器等若しくはその周辺部、臀部又は胸部をいう。)が露出され、又は強調されているもの」(3号)という文言が加わっているところ、これが刑の変更(廃止)に当たり、現行法の定義を前提とした要件該当性を検討していないなどと主張する。しかし、平成26年法律第79号附則2条により、改正法施行前の行為については、従前の規定を適用する旨規定されているのであるから、この点に関する所論は前提を欠く。
  カ 間接正犯の成立を認めた点について
  (ア) 所論は、本件CG集の販売会社(E)の従業員が、原審公判において、本件CGが模写やスキャンニングして加工したものではないことを被告人にメールで確認してから販売した旨述べる点について、そのようなメールは残っていないところ、原判決は、本件CGの販売が相当程度前のことであり、メールが削除されていたとしても不自然ではないなどと説示するが、複数あるはずの問合せや回答に関するメールが1通も見つからないというのは、不自然というほかなく、販売する商品に権利侵害があるかどうかという重要なメールを消したというのも、不自然である、加えて、販売会社が利用していたwebメールは、端末機器にメールを保存するものではなく、仮にパソコンの交換等があっても消失することは考えられないなどと主張し、さらに、同従業員の原審証言は曖昧である上、販売した商品が違法である場合、自身や自社の代表者等が処罰されるおそれがあり、虚偽供述のおそれがある、原判決が同従業員の原審証言と整合的であると指摘する本件CG集の販売サイトの管理者メモ欄の記載も、販売会社が後に勝手に記載したものである、被告人に児童ポルノ提供罪の間接正犯の成立を認めた原判決には、事実の誤認があり、被告人は無罪である、などと主張する。
  (イ) そもそも、所論がいうように、同従業員に本件CGが児童ポルノに該当することの認識があったとしても、あるいは、その認識がなかったとしても、原判決が認定した事実関係(被告人、弁護人も争っていない。)の下では、被告人が本件3画像を含む本件CGを、Eが管理するサーバにアップロードし、これらの販売を同社に委託したことは明らかであるから、同従業員について児童ポルノ提供罪の幇助犯又共同正犯が成立するか、あるいは、何らの罪も成立しないかにかかわらず、被告人が同罪の正犯(単純正犯、共同正犯又は間接正犯)であることに変わりはないというべきである。したがって、被告人について同罪の間接正犯が成立しないから無罪であるとする所論は、失当である。
  なお、記録を検討しても、同従業員の原審証言の信用性を認め、被告人に児童ポルノ提供罪の間接正犯が成立するとした原判決の認定に、論理則、経験則等に照らして不合理な点は認められず、事実の誤認はない。
 3 罪数に関する主張(法令適用の誤り及び訴訟手続の法令違反の各論旨)について
 (1)本件3画像の製造を一罪とした点
  所論は、本件CGの製造は、異なる時間に制作された異なる画像であるところ、児童ポルノの製造は、純粋な個人的法益に対する罪であることなどからすれば、その罪数は、描写された児童の人数と描写の回数で決まるべきものであるから、本件CGの製造は併合罪の関係にある、したがって、起訴されたCGのうち、原判決が児童ポルノに該当しないと判断したCGの製造については、それぞれ無罪の宣告をするべきであるのに、これを一罪として無罪の宣告をしなかった原判決には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令適用の誤りがあるという。
  しかし、本件で起訴された児童ポルノ製造の実行行為は、パソコンの編集ソフト等を用いて個々の画像を作成した行為ではなく、被告人が、それらのCGを、CG集(聖少女伝説2)として、被告人所有のパソコンに記憶、蔵置した行為であるところ、その行為自体は一個であると評価することができる。児童ポルノ法の目的及び趣旨をどのように理解するかによって、直ちに児童ポルノ製造罪の罪数が決定されるものではない。よって、本件3画像の製造を一罪と評価した原判決の判断に誤りはない。
 (2)製造罪と提供罪を併合罪とした点
  所論は、児童ポルノの提供目的製造罪と提供罪は、罪名自体からしても、手段目的の関係にあることが明らかであり、牽連犯とすべきであるのに、原判決がこれらの関係を併合罪としたのは誤りである旨主張する。
  しかし、児童ポルノ法は、児童の権利保護のため、児童ポルノの提供行為とは別に、製造行為それ自体について、児童の権利を侵害する行為として規制の対象としているのであり、製造された児童ポルノが現実に提供された場合であっても、その製造行為の違法性を、提供罪に包摂して評価するのは相当でなく、両者は社会的に別個の行為として評価されるべきものであるから、これらを併合罪とした原判決の判断に誤りはない。
  よって、所論は採用できない。
 (3)本件3画像の提供罪を一罪とした点
  (ア) 所論は、〈1〉被告人が「聖少女伝説」をアップロードした時期と、「聖少女伝説2」をアップロードした時期とでは、1年2か月が経過しており、含まれる画像も素材画像の写真の被写体も全く異なっている上、〈2〉3名の購入者のダウンロードの時期も1年ほど離れているのであるから、児童ポルノ提供罪については、「聖少女伝説」及び「聖少女伝説2」の各CG集ごと、及び、各購入者ごとに、それぞれ児童ポルノ提供罪が成立し、それらは全て併合罪の関係になるはずである、しかるに、原判決はこれを一罪と評価した上、〈1〉原判決が全てのCGについて児童ポルノに該当すると認めなかった「聖少女伝説」の提供については、無罪を言い渡すべきであるのに、これを言い渡さなかった点で、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令適用の誤りがある、〈2〉購入者を追加する内容の訴因変更は、併合罪の関係にある以上、許可すべきでないのに、これを許可した原審の訴訟手続には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令違反があるという。
  (イ) まず、1名に対する児童ポルノの提供を3名に対する提供へと変更する訴因変更を許可した点について検討すると、そもそも、本件における児童ポルノ提供罪は、その構成要件上、不特定又は多数の者に提供することが予定されているから、購入者の追加は、公訴事実の同一性の範囲内であることが明らかであって、この点について訴因変更を許可した原審の訴訟手続に何ら法令違反はない。
  (ウ) 次に、提供罪の罪数について検討すると、記録によれば、被告人は、平成20年8月頃、CG集である「聖少女伝説」を完成させたこと、被告人は、Eに、同CG集の販売を委託し、そのデータを同社に送信して、同月28日以降、同CG集がインターネット上で販売されたこと、被告人は、「聖少女伝説」をアップロードした後、これを見たインターネットサイトの利用者から、他のモデルの画像のリクエストが多数寄せられたことなどから、その要望に応じて、平成21年11月頃、「聖少女伝説」と同様のCG集である「聖少女伝説2」を完成させたこと、被告人は、同CG集についても、「聖少女伝説」と同様に、Eに販売を委託したこと、同月27日以降、「聖少女伝説2」がインターネット上で販売されたことが認められる。
  これによれば、被告人は、「聖少女伝説」をアップロードした後、新たに犯意を生じて、上記アップロードの約1年3か月後に、「聖少女伝説2」をアップロードしたといえるから、前者の提供行為と後者の提供行為とは、別個の犯意に基づく、社会通念上別個の行為とみるべきであって、併合罪の関係に立つとみるのが相当である。そうすると、両者の関係が一罪に当たるとの前提に立ち、前者の提供行為について、児童ポルノに該当するものがなく、その提供に当たらないとしながら、主文で無罪を言い渡さなかった原判決には、法令の適用に誤りがあり、これが判決に影響を及ぼすことは明らかである。
  論旨は理由がある。
  よって、量刑不当の論旨について判断するまでもなく、原判決は破棄を免れない。
 4 結論
  そこで、刑訴法397条1項、380条により原判決を破棄し、同法400条ただし書に従い、被告事件について更に判決する。
  原判決が認定した事実に法令を適用すると、被告人の判示第1の行為は、平成26年法律第79号附則2条により同法による改正前の児童ポルノ法7条5項、同条4項、2条3項3号に、判示第2の行為は、同法7条4項後段、2条3項3号に該当する。そこで、量刑について検討すると、起訴された34点の本件CGのうち、「聖少女伝説」に含まれる18点全てと「聖少女伝説2」に含まれる13点については児童ポルノに該当せず、本件3画像のみがこれに該当すると認められるにとどまること、本件3画像の素材画像となる写真が撮影されたのは、前記のとおり、昭和57年ないし昭和59年頃であり、本件3画像は、その当時児童であった女性の裸体を、その約25年ないし27年後にCGにより児童ポルノとして製造されたものであって、本件各行為による児童の具体的な権利侵害は想定されず、本件は、専ら児童を性欲の対象とする風潮を助長し、将来にわたり児童の性的搾取及び性的虐待につながるという点において、違法と評価されるにとどまることなどを考慮すると、違法性の高い悪質な行為とみることはできず、体刑を選択すべき事案には当たらないというべきである。そこで、各所定刑中、いずれも罰金刑を選択し、以上は刑法45条前段の併合罪であるから、同法48条2項により、判示第1及び第2の各罪の罰金の多額を合計した金額の範囲内で、被告人を罰金30万円に処し、刑法18条により、その罰金を完納することができないときは、金5000円を1日に換算した期間、被告人を労役場に留置することとし、原審における訴訟費用のうち2分の1については、刑訴法181条1項本文を適用して被告人に負担させることとする。本件各公訴事実中、公訴事実第2のうち、「聖少女伝説」を提供したとの点については、前記のとおり、犯罪の証明がないから、同法336条により、無罪を言い渡すこととする。
  よって、主文のとおり判決する。
第10刑事部
 (裁判長裁判官 朝山芳史 裁判官 杉山愼治 裁判官 市原志都)