児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者性交・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録記録被告事件弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 hp@okumura-tanaka-law.com)

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原判決後被告人に窃盗症(クレプトマニア)なる診断名が付されたことをがあったとしても、それは実刑を回避する理由とはなり得ないと判示して原審の実刑判決を維持した事例(広島高裁H28.12.6) 判決速報

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万引き窃盗の執行猶予中の万引き(13000円)につき、原審が懲役1年(実刑)を宣告して、被告人が赤城高原ホスピタル医師から「窃盗症により入院加療の必要がある」と診断を受けて、量刑不当を主張した事案
 控訴審は、医師の診断書・意見書を必要無しとして却下して、控訴棄却した

参考事項
Aホスピタルの医師は,DSM-?-TRにおけるクレプトマニア(窃盗癖)の診断基準を緩和し「明らかに割に合わないい窃盗を繰り返している場合は基準に該当すると考えるべきである。」とする見解をとっているため、
 窃盗常習者の弁護人の中には,実刑を回避すべく,被告人をわざわざAホスピタル(又は,同様の見解をとる医師のいる他の医療施設)を受診させて窃盗症の診断を得てその治療の必要性を強調することにより執行猶予を獲得せんとするものが少なくないようである(本件の弁護人もウェブサイト上に,そのような弁護方針をとることを標榜している。)。
そして,従来の控訴審段階の裁判例の中には,クレプトマニアについて顕著な改善効果のある治療法が確立しているわけではないことを認めつつも,継続的治療による一定の効果を期待できるなどの理由により,被告人を実刑に処した原判決を破棄し,執行猶予期間中の再犯について再度の執行猶予を認めた裁判例も散見されるが(東京高裁平成25年11月1日判決・判例秘書判例番号L06820952はその代表例と思われる。),本判決は,服役後でも治療は可能であるという極めて明快な理由により弁護人の主張を退けており,今後の参考になるものと思料する

東京高等裁判所平成27年2月9日第5刑事部判決
 上記の者に対する窃盗被告事件について,平成26年9月26日新潟地方裁判所が言い渡した判決に対し,被告人から控訴の申立てがあったので,当裁判所は,検察官清水淑子出席の上審理し,次のとおり判決する。
       主   文
原判決を破棄する。
被告人を懲役1年に処する。
この裁判確定の日から3年間その刑の執行を猶予し,その猶予の期間中被告人を保護観察に付する。


       理   由

 主任弁護人林大悟及び弁護人明石順平の控訴趣意は,量刑不当の主張である。
 論旨は,被告人を懲役1年の実刑に処した原判決の量刑は重すぎて不当であり,刑の執行を猶予するのが相当である,というのである。
 そこで検討すると,本件は,被告人が2回にわたり食料品等を万引きしたという事案である。
 原判決は,被告人は,商品を購入できるだけの現金を持っていながら,所持金が減るのを嫌がって犯行に及んだと認められ,動機は身勝手であること,犯行の態様も大胆かつ手慣れたもので,欲しい商品を確実に手に入れようと万引きを重ねた点でも悪質である,被害金額は合計で2000円を上回っており,万引き事案の中では少額とはいえない,被告人は,本件と同種の窃盗罪により,2回罰金刑に処せられた上,平成26年2月には執行猶予付きの懲役刑に処せられたにもかかわらず,その約2か月後に本件各犯行に及んだもので常習性がうかがわれることを指摘した上で,被告人はクレプトマニア,溜め込み障害及び人格障害に罹患しており,本件時はクレプトマニアによる衝動制御の障害に加え,人格障害などによる精神的混乱が相当程度影響していたとの■医師の見解につき,その診断は基本的に信用できるが,被告人は,あらかじめ万引きする商品を定めた上,コンビニエンスストアは店舗が狭くて万引きが発覚しやすい一方,大型のスーパーマーケットであれば万引きが見つかりにくいなどと考えて各被害店舗を選択していることに加え,商品を買い物かごからショルダーバッグに入れる際には,周囲の様子を確認して店員らの隙をうかがっており,冷静な判断の下で万引きが発覚しないための行動をとっていることからすると,本件当時,被告人が精神的に混乱していたり,万引き衝動の制御に障害があったとは認め難く,被告人がクレプトマニアとの診断を受けていることにより,その責任非難の程度が低いということはできないと判断している。
 弁護人は,原判決は,コンビニエンスストアは店舗が狭くて万引きが発覚しやすい一方,大型のスーパーマーケットであれば万引きが見つかりにくいなどと考えて被害店舗を選択していると説示するが,それは,検察官の「大型スーパーと違って狭いから見つかりやすい,そういう場所だから,できないんですよね。」との誘導的な質問に対し,被告人が「それもあると思います。」との推測を述べた証拠価値の低い回答を根拠にしているものであり,失当であるという。しかし,被告人は原審乙4号証において,コンビニで万引きしたことがないのは,店が狭く,店員との距離が近いので,万引きがばれそうで怖いからである旨供述しており,原判決は,この供述も踏まえて上記のとおり認定したものと認められるから,弁護人の非難は当たらない。
 原判決宣告時の証拠関係を前提とする限り,被告人がクレプトマニアとの診断を受けていることにより,その責任非難の程度が低いということはできないとした原判決の判断は相当と認められる。
 しかしながら,当審における事実取調の結果によれば,精神科医■は,被告人にはクレプトマニアに加え,解離性障害,大鬱病性障害,脳機能障害も認められ,これらの病状が本件犯行に影響を与えた可能性があることを指摘している。同医師は,各種の検査等に基づき上記のとおり診断したものであって,その検査方法に問題はなく,被告人の病状が本件犯行に影響を与えた可能性についてもその理由を具体的に説明しているから,同医師の指摘は採用できる。そうすると,本件においては,被告人に対する責任非難を相当程度減少させる事情があったといえ,この事情は,情状に特に酌量すべきものがあるかどうかの判断において,これを肯定する大きな要素である。そして,原判決が説示する,被告人の夫が各被害店に弁償して財産的な被害は回復されていること、被告人が反省の態度を示し,治療する旨述べていること,被告人の夫が被告人を監督する旨述べていること,夫の両親や被告人の長女も被告人の治療に協力する旨の意思を示していることなどの事情も併せ考慮すれば,情状に特に酌むべきものがあるというべきである。
 以上のとおり,当審における事実取調の結果を併せ考慮すると,情状に特に酌むべきものがあるとはいえないとして,被告人を再度刑の執行を猶予することなく実刑に処した原判決の量刑判断は,結論として是認することはできず,論旨は理由がある。 
 よって,刑訴法397条1項,381条により原判決を破棄し,同法400条ただし書により当裁判所において更に判決する。
 原判決が認定した事実に,原判決が挙示する法令(刑種の選択,併合罪の処理を含む。)を適用して,その処断刑期の範囲内で被告人を懲役1年に処し,刑の執行猶予につき刑法25条2項本文を,保護観察につき同法25条の2第1項後段をそれぞれ適用して,主文のとおり判決する。
平成27年2月9日
東京高等裁判所第5刑事部
裁判長裁判官 八木正一 裁判官 川本清巌
裁判官根本渉は転補のため署名押印できない。
裁判長裁判官 八木正一

判例番号】 L06620931
       窃盗被告事件
【事件番号】 東京高等裁判所判決平成23年8月16日

       主   文

 原判決を破棄する。
 被告人を懲役1年に処する。
 この裁判確定の日から4年間その刑の執行を猶予し,その猶予の期間中被告人を保護観察に付する。

       理   由

 本件控訴の趣意は,弁護人林大悟作成の控訴趣意書及び控訴趣意書補充書に記載されたとおりであるから,これらを引用する。
 論旨は,要するに,被告人を懲役10月に処した原判決の量刑は重すぎて不当であり,刑の執行を猶予するべきである,というのである。
 そこで記録を調査し,当審における事実調べの結果を併せて検討すると,本件は,被告人が,趣味のための用具を販売する大型専門店において,絵画制作及び手芸に使う用具36点(販売価格合計1万8009円)を窃取した,という事案である。
 被告人は,被害店舗に赴き,多数の商品を次々と自分の紙袋に入れ,それらを店外に持ち出すという,大胆な態様で本件を行っている上,平成16年,5回にわたり,各小売店舗で訪問着,反物,衣類及び化粧品を窃取した事実により,懲役2年,3年間執行猶予に処せられ,その執行猶予期間が経過してから約3年後の平成22年,小売店舗でジャケットを窃取した事実により,罰金50万円に処せられており,その略式命令を受ける直前に本件窃盗に及んでいる。被告人の窃盗の常習性は到底看過できるものではなく,被告人の刑事責任を軽くみることはできない。
 他方において,被告人は,幼少の頃から母親との関係が悪く,母親から,被告人の前記執行猶予判決のため,職場で辛い仕打ちにあい,給料を減額されたとして,毎年35万円を送金するように求められ,夫には内緒でアルバイトをして送金を続けていたところ,夫が脳梗塞で倒れその看病のため稼働できなくなり,頻繁な送金の催促を受けてアルバイトの再開を決意し,就職の面接でジャケットの着用が必要であったことも重なり,前記罰金前科の窃盗を行っている。その後,実姉から母親の美容整形の費用140万円を負担するように求められ,それを断り切れず,出版物の漫画を描いて収入を得ようと思い立って,本件窃盗を行っている。このように,本件及び罰金前科の各窃盗の背景には,親族との軋轢に基づく精神的なストレスが伏在していたということができる。
 ところで,被告人は,医師からクレプトマニア(病的窃盗癖),解離性精神障害等と診断されているところ,原判決は,被告人がクレプトマニアであるという診断には疑問があり,被告人の解離性精神障害と本件窃盗との関わりは明らかではないとしている。しかしながら,当審で取り調べた医師□□□□作成の「意見書3」によれば,被告人は,これまで万引きを繰り返しており,それはストレスの下での犯行が多く,漠然とした窃盗の衝動により,それほど高額ではない自分の好みの商品を窃取し,犯行後には解放感と恐怖感があったというのであり,そのことと被告人の生活歴を併せみると,被告人は,摂食障害に合併したクレプトマニアによる衝動の影響下で,かつ,幼少期のトラウマによって生じた解離性精神障害に起因する現実感のない精神状態の下で,本件窃盗を行ったものと認められる。
 被告人は,本件窃盗の動機及び態様に照らして,本件当時,是非弁別能力及び行動制御能力が著しく減退していたとまではいえないが,前記の病的な精神状態のため,ある程度それらの能力が減退していたものと認められる。そのことに加え,被告人が上記精神状態を改善するため医師から治療を受けていることは,被告人にとって有利に考慮されるべき事情である。
 そのほか,本件で窃取された商品は被害者に返還された後,被告人の夫がそれを買い取っているから,本件の被害は回復していること,被告人が,本件について反省の態度を示し,再度窃盗を行うことはない旨誓っていることなど,被告人にとって酌むべき事情もある。
 以上の事情を総合して考慮すると,原判決の量刑は,刑の執行を猶予しなかった点において,重すぎて不当であるといわざるを得ない。
 諭旨は理由がある。
 よって,刑訴法397条1項,381条により原判決を破棄し,同法400条ただし書により被告事件について更に判決をする。
 原判決が認定した事実に刑法235条を適用して,所定刑中懲役刑を選択し,その所定刑期の範囲内で被告人を懲役1年に処し,情状により同法25条1項を適用してこの裁判確定の日から4年間その刑の執行を猶予し,なお同法25条の2第1項前段を適用して被告人をその猶予の期間中保護観察に付することとして,主文のとおり判決する。
  平成23年8月16日
    東京高等裁判所第8刑事部
        裁判長裁判官  飯田喜信
           裁判官  山口雅高
           裁判官  駒井雅之

判例番号】 L06820366

       窃盗被告事件
福岡高等裁判所判決平成25年6月26日

       主   文

 原判決を破棄する。
 被告人を懲役10月に処する。
 この裁判確定の日から4年間その刑の執行を猶予する。
 被告人をその猶予の期間中保護観察に付する。

       理   由

 控訴理由は,弁護人関五行作成の控訴趣意書記載のとおりであるから,これを引用するが,要するに,被告人を懲役8月に処した原判決の量刑が重過ぎて不当であり,刑の執行を再度猶予することを求めるというのである。
 1 そこで,記録を調査して検討すると,本件は,原判決が「罪となるべき事実」において認定したとおり,被告人が,スーパーマーケットにおいて,おでんの素3個(販売価格合計207円)を万引きしたという窃盗の事案である。
 2 そして,原判決が「量刑の理由」において説示するところは,正当として是認することができる。
 すなわち,被告人は,現金1万3000円くらいを所持していたのに,買物籠におでんの素5個を入れた際,その一部を万引きしようと決意し,人目に付きにくい陳列棚と陳列棚の間に移動した上,そのうち3個をズボンのポケットに入れて隠し,買物籠に残ったおでんの素2個等の商品についてはレジで精算し,店外に出ているのであって,本件は,巧妙な手口による犯行である。しかも,被告人は,平成14年以降,窃盗罪(万引き)による前歴4回及び罰金前科2回を有し,平成24年2月に窃盗罪(万引き)により懲役1年,3年間執行猶予に処せられたのに,厳に身を慎むべき執行猶予期間中に,しかも,猶予判決から僅か4か月余り後に再び本件犯行を敢行しているのであって,安易にこの種の犯行を繰り返す傾向と規範意識の鈍麻が認められる。これらの事情に照らすと,被告人の刑事責任は,決して軽いものではない。
 3 そうすると,被害金額が少額である上,被告人が窃盗の現行犯人として逮捕されたため,被害物品が被害店舗に還付されていること,被告人が,事実を素直に認め,犯行直後に被害金額207円を弁償し,その後も被害店舗に赴いて店長に謝罪するなど,反省の態度を示していること,妻及び二男が,原審公判廷に出廷し,今後の被告人の監督を約していること,被告人は,19歳から60歳までの約40年間,A株式会社(昭和45年からB株式会社)に勤めて経理事務や工事監督等を行い,真面目な社会生活を送ってきた者であり,定年後の今から十数年前(検挙されたのは73歳の時)から,突然,万引き行為を繰り返すようになったこと,原判決時に83歳(現在は84歳)と高齢であり,妻が体調に不安を抱えていること,前刑につき執行猶予が取り消され,本刑と併せて執行されることが見込まれることなど,弁護人主張の被告人に有利な事情を考慮しても,原判決の量刑は,その言渡しの時点においては,相当であって,重過ぎて不当であるとはいえない。
 4 しかしながら,当審における事実取調べの結果によれば,被告人は,原判決後の平成24年12月28日に特定医療法人群馬会赤城高原ホスピタル院長の精神科医師Cの診察を受けたところ,クレプトマニア(病的窃盗)の精神障害に罹患しており,これが本件犯行の直接の原因になったと考えられ,6か月間の入院治療が必要であるとの診断を受けている。そして,被告人は,平成25年1月15日に赤城高原ホスピタルに入院し,万引き・盗癖者向けの自助グループ的ミーティングに参加するなど,クレプトマニアの治療プログラムを受けており,当審公判廷において,「毎日のミーティングで皆の話を聞き,入院前は,金額が少しであれば,許してもらえるという甘い考えがあったが,今は,そういう気持ちはなく,僅かな物でも皆のいろいろな苦労があり,私の考えが浅はかであったことに気が付いた。自分も,万引きをしないように,一生懸命に治していこうと思っている」旨供述している。さらに,被告人は,週1回の問診を受けるC医師からも,「週16回の上記ミーティングにほぼ毎回出席し,治療にも積極的であり,入院治療が順調に経過し,治療効果が確実に上がっている」との評価を得ている。また,赤城高原ホスピタルでは,被告人と家族の希望があれば,6か月間の入院期間を12か月間に延長することも可能であり,専門治療が適切に継続される限り,再犯の可能性は少ないとされているところ,被告人は,C医師と相談の上ではあるが,入院期間を延長して治療を続けたいとの意向を示している。加えて,被告人は,原判決後,更に反省を深め,被害店舗が慰藉料等を受け取らない規則になっていたので,それに代えて,犯罪被害者支援のために3万円の贖罪寄付をしたことが認められる。これらの事情に,原判決当時の被告人に有利な事情を併せ考慮すると,被告人が,今後も赤城高原ホスピタルでの入院治療を継続する保証はなく,また,治療によって再犯の可能性がなくなるまでの保証はないことなど,検察官指摘の諸事情を考慮しても,本件は,刑法25条2項所定の「情状に特に酌量すべきものがあるとき」に至ったというべきであり,原判決の量刑は,現時点においては,刑の執行を再度猶予しなかった点において,重過ぎるといわざるを得ない。
 5 なお,検察官は,本件犯行の動機が,被告人の捜査段階における供述のように,金がもったいなくて遣いたくなかったからであるのに,C医師が,その供述について,「周囲の常識に合わせてその場で作り上げた説明であって,真実とはほど遠い」と評価した上で,被告人がクレプトマニアに罹患していると診断していることについて,その前提となる事実に誤りがあり,信用することができない旨主張する。
 しかしながら,被告人が万引きした商品は,平成24年の執行猶予付き懲役刑のときにはステーキ2パック(販売価格合計3200円)であったが,それ以外では,平成20年の罰金刑のときに焼酎1本(販売価格238円),平成22年の罰金刑のときにドッグフード1個(販売価格380円),本件犯行のときにおでんの素3個(販売価格合計207円)と極めて少額であり,この点について,C医師は,400円以下という極めて少額な商品を万引きすることが,経済的な合理性がなく,リスクに見合わない窃盗行為であって,クレプトマニアに特徴的な犯行パターンであると評価している。さらに,被告人は,C医師の問診時や当審公判廷において,「本件犯行当時,自分ではっきりとは分かっていなかったが,犯行時には強い緊張感やスリルを楽しむような思いが,犯行後には安堵感や解放感等があり,不謹慎ではあるが,ゲーム感覚のような気持ちがあった」旨述べている。そして,被告人は,自宅の土地及び建物のほか,600万円余りの預貯金があり,妻と合計して約50万円の年金を2か月に1回受給しており,75歳の時に胃癌のために胃の摘出手術を受けてから飲酒もしなくなり,煙草やギャンブルもせず,妻には,以前に仕入れていた婦人服等の在庫の販売によって月約20万円の収入があるのであって,本件犯行当時,居酒屋を経営していた二男に月20万円の仕送りをしていたとはいえ,必ずしも経済的に困窮した状態にはなかったということができる(原審甲8及び乙1,当審弁35及び36並びに被告人の当審公判供述)。これらの事情に鑑みると,被告人は,本件犯行当時,金を遣いたくないとの思いがなかったわけではないとしても,C医師が指摘するように,自らが明確に認識してはいないものの,犯行時には緊張感の高まりやスリルを楽しむような思いが,犯行後には達成感,満足感,解放感等が少なくとも併存していたと解することができるというべきである。そして,C医師が,精神科医師としての専門的な知識や経験等に基づき,本件犯行当時,被告人がクレプトマニアに罹患していると診断したことについて,その信用性に合理的な疑いを生じさせるような事情は,立証されておらず,証拠上も認めることはできない(なお,C医師は,本件犯行に対するクレプトマニアの影響について,事理弁識能力には概ね問題がなく,行動制御能力がクレプトマニアという衝動制御の障害のために相当程度減退している旨述べており,被告人の上記精神障害責任能力に影響するものでないことは,多言を要しないところである。)。したがって,検察官の主張は,採用することができない。
 6 よって,刑訴法397条2項により原判決を破棄し,同法400条ただし書を適用して被告事件について更に判決することとし,原判決が認定した事実に原判決が掲げる法令(刑種の選択を含む。)を適用するほか,刑の再度の執行猶予について刑法25条2項を,保護観察について同法25条の2第1項後段をそれぞれ適用して,主文のとおり判決する。
(原審における求刑 懲役1年2月)
  平成25年6月26日
    福岡高等裁判所第2刑事部
        裁判長裁判官  服部 悟
           裁判官  村瀬賢裕
           裁判官  倉成 章

窃盗被告事件
東京高等裁判所判決平成25年11月1日
      主   文

 原判決を破棄する。
 被告人を懲役10月に処する。
 原審における未決勾留日数中70日をその刑に算入する。
 この裁判確定の日から4年間その刑の執行を猶予し,その猶予の期間中被告人を保護観察に付する。

       理   由

 本件控訴の趣意は,主任弁護人林大悟及び弁護人佐藤直樹連名作成の控訴趣意書に記載されたとおりである。
 論旨は,要するに,被告人を懲役10月に処した原判決の量刑は重すぎて不当であり,刑の執行を再度猶予すべきである,というのである。
 そこで記録を調査し,当審における事実取調べの結果を併せて検討すると,本件は,被告人が同じ日に,3つの店舗で,おにぎり等合計23点(販売価格合計5354円)を万引きした,という窃盗3件の事案である。
 原判決が「量刑の理由」の項で説示するように,被告人は,わずか約30分の間に,駅ビル内や駅構内の店舗で次々と商品を窃取しており,被害額も,この種の事案としては少額ではない。しかも,被告人は,いずれも本件と同様の万引きの犯行により,平成22年11月罰金刑に処せられ,平成23年7月には執行猶予付き懲役刑に処せられたのに,その執行猶予期間中にまたしても本件各犯行を行った。関係証拠によれば,被告人は摂食障害及びクレプトマニア(窃盗癖)と診断されており,本件各犯行には,これらによる行動制御能力の減退が影響していることは否定できないものの(所論は,本件各犯行時における被告人の行動制御能力の減退は,心神耗弱に準じる程度に至っていたというが,確かに,約30分という短い時間に駅構内等の3店舗で連続的に食品等の万引きを行っていることは,いったん万引きを始めるとその衝動を抑制しにくくなることをうかがわせるもので,行動制御能力が一定程度は減退していたことが肯認できるものの,各犯行の態様や犯行後の言動等に照らし,著しく減退していたとは認められない。),被告人は,平成22年2月に赤城高原ホスピタルを受診して上記診断を受け,治療を開始していたのに,定期の通院を守らなかったり治療を中断したりする中で,上記各前科に係る窃盗事件を起こし,執行猶予付きの懲役刑の判決宣告後には通院を再開したものの,入院治療を勧められた際にはこれを拒否し,通院も3か月程度で止めていたものである。
 そうすると,原判決が前記量刑の理由の項で,被告人の刑事責任を軽いということはできず,その改善更生には治療が必要であるとして再度の執行猶予を求める弁護人の主張を斟酌するにも自ずと限度がある旨説示していることは正当であり,被告人が事実を認めて反省の態度を示していること,入院治療の意思を固めてその仮予約を行うなど,更生に意欲を示していること,上記のように,本件各犯行には摂食障害及びクレプトマニアからくる行動制御能力の減退の影響を否定できないこと,被害品は各被害店舗に還付され(ただし,食品3点を除く。),その被害弁償も済んでいること,母親が被告人の更生に協力する旨証言していること,本件が確定すれば,上記執行猶予が取り消され,併せて服役することになることなど,被告人のために酌むべき事情をも十分に考慮した上で,被告人を懲役10月に処した原判決の量刑は,その宣告時点でみるかぎり,重すぎて不当であるとはいえない。
 ところで,前記のとおり,被告人は,前記の本件犯行前は上記各障害の治療を中断していたが,治療の中断には,その障害に対する継続的な治療が可能な医療機関が限られていることや上記病院への通院が時間的,経済的な事情で難しかった等の事情が影響していたところ,被告人は原判決後,更に反省を深めるとともに,自己の摂食障害及びクレプトマニアに対する認識を深め,治療を継続的に受ける必要性が高いことを理解し,現に平成25年8月27日,6か月間の予定で上記病院に入院したこと,これまでの入院後の治療経過をみると,被告人は,積極的かつ熱心な態度で取り組み,治療プログラムに欠かさず参加し,心の平安を取り戻しつつあること,被告人の両親は,経済的に苦しい中,親族の援助を得るなどして被告人の入院費用を捻出し,今後も被告人の治療に協力する意向を固めていることが認められる。
 そこで,改めて検討すると,本件各犯行は万引きの事案であり,被害弁償等も済んでいるなど,窃盗としてはさほど犯情の悪い事案ではなく,また,その各犯行は摂食障害に併発しやすいクレプトマニアの症状であることは前述のとおりであるから,このように被告人の治療態勢が整えられ,被告人自身も治療に意欲的に取り組んでいることからすれば,その治療を継続させることは,再犯を防止し,被告人の改善更生を図るという刑政の目的にもかなうものといえる。もとより,未だその障害に対し顕著な改善効果のある治療法が確立しているわけではなく,一般的には再犯を完全に抑止することは困難であるとはいわれているが,継続的に専門的治療を受けさせることが万引きの防止に一定の効果があると認められていることからすれば,刑執行猶予期間中の犯行であることを考慮しても,現段階では,被告人やその関係者の治療への強い意欲を評価し,被告人に対して,今一度,その障害を克服して社会内で更生する機会を与えることが相当であるといえる。したがって,原判決後の情状に前記の酌むべき事情を併せ考慮すると,現時点においては,情状に特に酌量すべきものがあり,再度の執行猶予を付さなかった点において,原判決の量刑は重すぎるに至ったものと認められる。
 論旨は理由がある。
 そこで,刑訴法397条2項により原判決を破棄し,同法400条ただし書により被告事件について更に判決をする。
 原判決が認定した事実に原判決挙示の法令(刑種の選択,併合罪の処理を含む。)を適用し,その処断刑期の範囲内で被告人を懲役10月に処し,刑法21条を適用して原審における未決勾留日数中70日をその刑に算入し,なお被告人は平成23年7月19日前橋地方裁判所で窃盗罪により懲役1年に処せられ3年間その刑の執行を猶予され,本件の各罪はその猶予の期間内に犯したものであるが,情状に特に酌量すべきものがあるから,同法25条2項を適用してこの裁判が確定した日から4年間その刑の執行を猶予し,同法25条の2第1項後段によりその猶予の期間中被告人を保護観察に付し,原審及び当審における訴訟費用は,刑訴法181条1項ただし書を適用して被告人に負担させないこととし,主文のとおり判決する。
  平成25年11月1日
    東京高等裁判所第8刑事部
        裁判長裁判官  大島隆明
           裁判官  幅田勝行
           裁判官  安藤祥一郎