児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・強姦・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録記録被告事件弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 hp@okumura-tanaka-law.com)

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東京高裁平28.2.19判決 強要罪と平成26年法律第79号による改正前の児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律7条3項の児童ポルノ製造罪とが併合罪の関係にあるとされた事例(判例タイムズ 1432号 3月号 (2017年2月24日発売)

 原判決の罪数処理が訂正されています。最近上告棄却になりました。
 強制わいせつ罪が傾向犯だという判示があって、強制わいせつ罪にはならないとしていますが、最近では強制わいせつ罪で起訴するのがトレンドです。

平成28年2月19日宣告
判 決
上記の者に対する強要,児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律違反被告事件について,平成27年8月25日新潟地方裁判所高田支部が言い渡した判決に対し,被告人から控訴の申立てがあったので,当裁判所は,検察官阿賀学出席の上審理し,次のとおり判決する。
主 文
本件控訴を棄却する。
理 由
弁護人奥村徹控訴趣意は,訴訟手続の法令違反,法令適用の誤り及び量刑不当の主張であり,検察官の答弁は,控訴趣意にはいずれも理由がない,というものである。
1 法令適用の誤り及び訴訟手続の法令違反の主張について
論旨は,要するに,原判決が強要罪に該当するとして認定した事実は,それだけでも強制わいせつ罪を構成するから,強要罪が成立することはないにもかかわらず,これを強要罪であるとして刑法223条を適用して有罪とした原判決には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令適用の誤りがあり,また,原判決が平成26年法律第79号による改正前の児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律7条3項の罪(以下「3項製造罪」という。)に該当するとして認定した事実も,実質的には強制わいせつ罪に当たり,以上の実質的に強制わいせつ罪に該当する各事実について,告訴がないまま起訴することは,親告罪の趣旨を潜脱し,違法であるから,公訴棄却とすべきであるのに,実体判断を行った原審には,判決に影響を及ぼすことが明らかな訴訟手続の法令違反がある,というものであると解される。
(1)強要罪が成立しないとの主張について
記録によれば,原判決は,公訴事実と同旨の事実を認定したが,その要旨は,被害者が18歳に満たない児童であることを知りながら,同女に対し,要求に応じなければその名誉等にいかなる危害を加えるかもしれない旨脅迫して,乳房,性器等を撮影してその画像データをインターネットアプリケーション「LINE」を使用して送信するよう要求し,畏怖した被害者にその撮影をさせた上,「LINE」を使用して画像データの送信をさせ,被告人使用の携帯電話機でこれを受信・記録し,もって被害者に義務のないことを行わせるとともに,児童ポルノを製造した,というものである。
すなわち,原判決が認定した事実には,被害者に対し,その名誉等にいかなる危害を加えるかもしれない旨脅迫して同女を畏怖させ,同女をして,その乳房,性器等を撮影させるという,強制わいせつ罪の構成要件の一部となり得る事実を含むものの,その成立に必要な性的意図は含まれておらず,さらに,撮影に係る画像データを被告人使用の携帯電話機に送信させるという,それ自体はわいせつな行為に当たらない行為までを含んだものとして構成されており,強要罪に該当する事実とみるほかないものである。
弁護人は,①被害者(女子児童)の裸の写真を撮る場合,わいせつな意図で行われるのが通常であるから,格別に性的意図が記されていなくても,その要件に欠けるところはない,②原判決は,量刑の理由の部分で性的意図を認定している,③被害者をして撮影させた乳房,性器等の画像データを被告人使用の携帯電話機に送信させる行為もわいせつな行為に当たる,などと主張する。
しかしながら,①については,本件起訴状に記載された罪名及び罰条の記載が強制わいせつ罪を示すものでないことに加え,公訴事実に性的意図を示す記載もないことからすれば,本件において,強制わいせつ罪に該当する事実が起訴されていないのは明らかであるところ,原審においても,その限りで事実を認定しているのであるから,その認定に係る事実は,性的意図を含むものとはいえない。
また,②については,量刑の理由は,犯罪事実の認定ではなく,弁護人の主張は失当である。
そして,③については,画像データを送信させる行為をもって,わいせつな行為とすることはできない。
以上のとおり,原判決が認定した事実は,強制わいせつ罪の成立要件を欠くものである上,わいせつな行為に当たらず強要行為に該当するとみるほかない行為をも含む事実で構成されており,強制わいせつ罪に包摂されて別途強要罪が成立しないというような関係にはないから,法条競合により強要罪は成立しないとの弁護人の主張は失当である。
(2)公訴棄却にすべきとの主張について
以上のとおり,本件は,強要罪に該当するとみるほかない事実につき公訴提起され,そのとおり認定されたもので,強制わいせつ罪に包摂される事実が強要罪として公訴提起され,認定されたものではない。
また,原判決の認定に係る事実は,前記(1)のとおり,強制わいせつ罪の構成要件を充足しないものである上,被害者撮影に係る画像データを被告人使用の携帯電話機で受信・記録するというわいせつな行為に当たらない行為を含んだものとして構成され,これにより3項製造罪の犯罪構成要件を充足しているもので,強制わいせつ罪に包摂されるとはいえないし,実質的に同罪に当たるともいえない。
以上のとおり,本件は,強要罪及び3項製造罪に該当し,親告罪たる強制わいせつ罪には形式的にも実質的にも該当しない事実が起訴され,起訴された事実と同旨の事実が認定されたものであるところ,このような事実の起訴,実体判断に当たって,告訴を必要とすべき理由はなく,本件につき,公訴棄却にすべきであるとの弁護人の主張は,理由がない。
(3)小括
以上の次第で,法令適用の誤り及び訴訟手続の法令違反をいう論旨には,理由がない。
2 法令適用の誤りの主張について
論旨は,原判決は,強要罪と3項製造罪を観念的競合であるとした上で,強要罪の犯情が重いとして同罪の刑で処断することとしたが,本件の脅迫は一時的で,害悪もすぐに止んでいるのに対し,3項製造罪は画像の流通の危険やそれに対する不安が長期に継続する悪質なもので,原判決の量刑理由でも,専ら児童ポルノ画像が重視されており,犯情は3項製造罪の方が重いから,原判決には判決に影響を及ぼすことが明らかな法令適用の誤りがある, というのである。
しかしながら,本件の強要罪に係る脅迫行為の執拗性やその手口の卑劣性などを考慮すれば,3項製造罪に比して強要罪の犯情が重いとした原審の判断に誤りはない。
法令適用の誤りをいう論旨は,理由がない。
なお,原判決は,本件において,強要罪と3項製造罪を観念的競合であるとしたが,本件のように被害者を脅迫してその乳房,性器等を撮影させ,その画像データを送信させ,被告人使用の携帯電話機でこれを受信・記録して児童ポルノを製造した場合においては,強要罪に触れる行為と3項製造罪に触れる行為とは,一部重なる点はあるものの,両行為が通常伴う関係にあるとはいえず,両行為の性質等にも鑑みると,両行為は社会的見解上別個のものと評価すべきであるから,これらは併合罪の関係にあるというべきである。したがって,本件においては,3項製造罪につき懲役刑を選択し,強要罪と3項製造罪を刑法45条前段の併合罪として,同法47条本文,10条により犯情の重い強要罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で処断すべきであったところ,原判決には上記のとおり法令の適用に誤りがあるが,この誤りによる処断刑の相違の程度,原判決の量刑が懲役2年,執行猶予付きにとどまることを踏まえれば,上記誤りが判決に影響を及ぼすことが明らかであるとはいえない。
3 量刑不当の主張について
4 結論
よって,刑訴法396条により,主文のとおり判決する。
平成28年2月19日
東京高等裁判所第5刑事部
裁判長裁判官 藤井敏明
裁判官 福士利博
裁判官 山田裕文

判例タイムズNo.1432の匿名解説
刑事 
強要罪平成26年法律第79号による改正前の児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律7条3項の児童ポルノ製造罪とが併合罪の関係にあるとされた事例
対象事件|平成28年2月19日判決東京高等裁判所第5刑事部平成27年(う)第1766号強要,児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律違反被告事件裁判結果|控訴棄却,上告原審|新潟地方裁判所高田支部平成27年(わ)第35号平成27年8月25日判決参照条文|刑法45条前段, 54条1項前段, 223条1項,児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律(平26法79号改正前) 7条3項
[解説]1 本件は,被告人が,被害者が18歳に満たない児童であることを知りながら,同女に対し,要求に応じなければその名誉等にいかなる危害を加えるかもしれない旨脅迫して,乳房,性器等を撮影してその画像データをインターネットアプリケーションを使用して送信するよう要求し,畏怖した被害者にその撮影,画像データの送信をさせ,被告人使用の携帯電話機でこれを受信・記録し, もって被害者に義務のないことを行わせるとともに,児童ポルノを製造した, という事案である。
事実についての争いはなく,原審においては,情状についての主張のみがされていたようである。
原判決は,争いのない公訴事実をそのまま認定し,被害者に義務のないことを行わせた強要罪児童ポルノを製造した平成26年法律第79号による改正前(本件は,改正法施行前の事案であった。
)の児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律7条3項の罪(以下「3項製造罪」という。)の成立を認めた。
そして, これらの罪数関係について,観念的競合の関係にあるとの法令の適用に係る判断を示した上で,被告人に懲役2年・3年間執行猶予の判決を言い渡した。
これに対して控訴が申し立てられたところ,本判決は,弁護人の多岐にわたる控訴趣意についてはいずれについても理由がないとしたが,職権で,原判決の罪数に関する上記判断について,誤りがあると指摘したものである。
2 この判断に係る部分を具体的に説明すると,原判決は,本件における強要罪と3項製造罪の関係について,実行行為の重なり合いの程度,両行為が通常伴う関係にあるか,社会的事実としての一体性・同質性があるか, といった観点から詳細な検討を加え,刑法54条1項前段の観念的競合に当たるものと判断していたものである。
これに対し,本判決は,本件のように被害者を脅迫してその乳房,性器等を撮影させ, その画像データを送信させ,被告人使用の携帯電話機でこれを受信・記録して児童ポルノを製造した場合においては,強要罪に触れる行為と3項製造罪に触れる行為に一部重なる点があるものの,両行為が通常伴う関係にあるとはいえないこと,両行為の性質等を考慮すると,両行為は社会的見解上別個のものと評価すべきであるとして,併合罪の関係にあるとの判断を示した。
なお,本判決は, このように法令適用の誤りを指摘したものの, この誤りが判決に影響を及ぼすことが明らかであるとはいえないとして,控訴は棄却した。
3本件は,強要罪と3項製造罪の罪数関係について,観念的競合の関係にあるか否かで,第一審と控訴審の判断が分かれたものであるが, この判断はそれほど容易なものではない。
刑法54条1項前段にいう「1個の行為」の意義については, 「法的評価をはなれ構成要件的観点を捨象した自然的観察のもとで,行為者の動態が社会的見解上1個のものとの評価をうける場合をいう」とされるが(最大判昭49.5.29刑集28巻4号ll4頁,判夕309号234頁), この判断基準自体に抽象的な面があるため, なお具体的な罪数判断の場面において,事案ごとに上記基準にいう「1個の行為」性が肯定できるか否かを判断するほかないのである。
この点,各種性犯罪と児童ポルノを製造する罪との関係については, 3項製造罪の場合も含め,併合罪とする高裁判例が多数を占めていたところ(三浦透・最高裁判所判例解説刑事篇平成21年度〔法曹会〕477頁以下参照),最高裁は,被害児童に性交又は性交類似行為をさせて撮影することをもって児童ポルノを製造した場合において,児童福祉法34条1項6号に触れる児童に淫行をさせる行為と3項製造罪に触れる行為とは,一部重なる点はあるものの,両行為が通常伴う関係にあるとはいえないことや,両行為の性質等にかんがみると, それぞれにおける行為者の動態は社会的見解上別個のものといえるとして,両罪が観念的競合の関係にはなく,併合罪の関係にあるとの判断を示した(最一小決平21.lO.21刑集63巻8号1070頁,判夕l326号l34頁)。
児童ポルノを製造する罪は,上記最高裁決定の事案である児童福祉法34条1項6号に触れる児童に淫行をさせる罪のほか,強姦罪,強制わいせつ罪,青少年保護育成条例にいう淫行をさせる罪などとともに犯されることも多いが,上述したとおり, 「1個の行為」性が肯定できるか否かは事案ごとの判断となるため,上記最高裁決定後, こうした罪と児童ポルノを製造する罪との罪数について,いかなる判断がされるかについては,事例の集積が待たれるところである。
本判決は,強要罪と3項製造罪の関係についても,上記最高裁決定と同様の罪数判断をした高裁レベルの判決として一事例を加えるもので,参照価値があるものと思われる。
なお,本判決のほか,強要罪と3項製造罪の関係について,本判決同様,併合罪の関係にあるとの判断をした高裁判決として,広島高裁岡山支部平成22年l2月15日判決(高等裁判所刑事裁判速報集平成22年度l82頁)がある。