児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

長野県子どもを性被害から守るための条例が適用されるかなあという事例

 姿態をとらせて製造罪というのは、画像が出てくれば立証楽々ですが、淫行もあると思われるのに、こういう法文ではなかなか適用できないと思われます。
 条例では児童ポルノの被害者を救済することになっているので、どう対応するかも注目です。「身体的又は精神的な被害」がなかったとされる可能性があります。

児童ポルノ製造容疑 岐阜の会社員を逮捕 長野
産経新聞 1/10(火) 7:55配信
 県警少年課と安曇野署は9日までに、児童買春・児童ポルノ禁止法違反(製造)の疑いで、容疑者(28)を逮捕した。
 逮捕容疑は昨年11月中旬、中信地方のホテルで、出会い系アプリで知り合った同地方の女子中学生=当時(14)=が18歳未満と知りながら、デジタルカメラで胸部などの写真を撮影し、児童ポルノを製造したとしている。

https://www.pref.nagano.lg.jp/jisedai/kyoiku/kodomo/shisaku/documents/20160707shi1jorei.pdf
長野県子どもを性被害から守るための条例
第3条 この条例において「子ども」とは、18歳未満の者をいう。
2 この条例において「性被害」とは、次に掲げる行為による身体的又は精神的な被害をいう。
(3) 児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律(平成11年法律第52号)第4条、第7条並びに第8条第1項及び第2項の罪に当たる行為
(性被害を受けた子どもへの支援)
第14条 県は、性被害を受けた子どもが心身に受けた影響から早期に回復し、当該子どもが健やかに成長するため、関係行政機関、医療機関等と連携協力し、当該子どもの身体的、精神的な負担等の解消又は軽減に資する医療の提供、福祉に関する相談等の支援体制の整備その他の必要な措置を講ずるものとする。
2 県は、性被害を受けた子どもが安心して適切な支援を受けられるよう、支援を行う者に対する研修の実施その他の必要な支援を行うものとする
(威迫等による性行為等の禁止)
第17条
1何人も、子どもに対し、威迫し、欺き若しくは困惑させ、又はその困惑に乗じて、性行為又はわいせつな行為を行ってはならない。
2 何人も、子どもに対し、威迫し、欺き若しくは困惑させ、又はその困惑に乗じてわいせつな行為を行わせてはならない。
(罰則)
第19条 第17条第1項の規定に違反した者は、2年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処する。
・・・
「長野県子どもを性被害から守るための条例」の適正な運用について
2 「子ども」とは、18歳未満の者をいう。
なお、婚姻の有無は問わない。
3 「威迫」とは、暴行、脅迫に至らない程度の言語、動作、態度等により、心理的威圧を加え、相手方に不安の念を抱かせることをいう。
4 「欺き」とは、嘘を言って相手方を錯誤に陥らせ、又は真実を隠して錯誤に陥らせる行為をいう。
5 「困惑」とは、困り戸惑い、どうしてよいか分からなくなるような、精神的に自由な判断ができない状況をいう。
6 「困惑に乗じて」とは、困惑状態を作為的に作り出した場合だけではなく、既に子どもが何らかの理由により困惑状態に陥っており、それにつけ込んで(乗じて)性行為等を行う状況をいう。
7 「性行為」とは、「性交及び性交類似行為」と同義である(昭和40年7月12日新潟家裁長岡支部決定)。『性交類似行為』とは、実質的にみて、性交と同視し得る態様における性的な行為をいい、例えば、異性間の性交とその態様を同じくする状況下におけるあるいは性交を模して行われる手淫・口淫行為・同性愛行為などであり、児童買春・児童ポルノ禁止法における性交類似行為の解釈と同義である。
8 「わいせつな行為」とは、「いたずらに性欲を刺激興奮せしめたり、その露骨な表現によって健全な常識のある一般社会人に対し、性的差恥心及び嫌悪の情をおこさせる行為」をいう(昭和39年4月22日東京高裁判決)。具体的には、陰部に対する弄び・押し当て、乳房に対する弄び等がこれにあたる。


 通常密室で行われる青少年に対するわいせつ行為について一般人基準で「その露骨な表現によって健全な常識のある一般社会人に対し、性的差恥心及び嫌悪の情をおこさせる行為」というのは合理性がないし、性的意図を要求する理由もないし、大法廷S60の限定解釈もされてないし、という点で、あまりよく検討されてないようです。


東京高等裁判所判決昭和39年4月22日
       刑事裁判資料229号368頁

       理   由

 所論は、原判決は、その判示第二の事実において、昭和三五年埼玉県条例第五一号埼玉県青少年愛護条例(以下、たんに本条例という。)第一〇条第一項を適用して、被告人を罰金五、〇〇〇円に処しているが、本条例第一〇条第一項の規定は、憲法第九四条および地方自治法第二条、第一四条の条例制定権の範囲を逸脱し、かつ、憲法第三一条にも違反するから、無効であるという旨の主張に帰着する。(中略)
 そこで、審按するに、わが憲法の下における社会生活の法的規律は、通常、基本的な、そして全国にわたり劃一的効力を持つ法律によってなされるが、中には各地方の自然的ないし社会的状態に応じ、その地方の住民自身の理想に従った規律をさせるため、各地方公共団体の自治に委ねる方が、一層民主主義的かつ合目的なものもあり、また、ときには、いずれの方法によって規律しても差支えないものもあるので、憲法は、地方公共団体の組織及び運営に関する事項は、地方自治の本旨にもとづいて、法律でこれを定めるべく(憲法第九二条)、これに議会を設置し、その議員、地方公共団体の長等は、その住民が直接これを選挙すべきもの(同法第九三条)と定めた上、地方公共団体は、その事務を処理し、行政を執行する等の権能を有するほか、法律の範囲内で条例を制定することができる旨を定めたのである(同法第九四条)(昭和二九年(あ)第二六七号同三三年一〇月一五日最高裁判所大法廷判決、刑集一二巻一四号三三〇六頁参照)。すなわち、地方公共団体の制定する条例は、憲法が特に民主主義政治組織の欠くべからざる構成として地方自治の本旨にもとづき(憲法第九二条)、直接憲法第九四条により法律の範囲内において、制定する権能を認められた自治立法に外ならない。従って、条例を制定する権能も、その効力も法律の認める範囲を越えることはできないけれども、法律の範囲内にあるかぎり、条例は、その効力を有するものといわなければならない(昭和二六年(あ)第三一八八号同二九年一一月二四日最高裁判所大法廷判決、刑集八巻一一号一八七五頁参照)。また普通地方公共団体は、その行政を執行するに伴い、必要がある場合には、法令に違反しない限りにおいて、行政事務として、公共の福祉を保持するため、人の権利、自由を、所論自然犯であると行政犯であるとを問わず、罰則で基本的人権をも規制することができ、これがために条例を制定することができるのであって、一々の事務につき、法律による特別の委任、授権を必要としないのである(昭和三六年(あ)第二六二三号同三八年六月二六日最高裁判所大法廷判決および入江裁判官の補足意見の趣旨、刑集一七巻五号五二一頁参照)。本条例は、青少年(なお、「青少年」とは、小学校就学の始期から十八歳に達する者(法律の規定により成年に達したものを除く)をいう。第五条第一項)の健全な育成を図るため、これを阻害するおそれのある行為を目的として制定されたものであるところ(第一条、昭和三六年一月一日から施行)、本条例第一〇条第一項で禁止された行為は、青少年の健全な育成を阻み、性道徳に反し、ひいては社会の善良な風俗をみだすものであるから、これを規制した右条項は、公共の福祉に反するものとはいえない。

 そして、第一審判決が、その認定した判示第二の事実に適用している本条例第一〇条第一項は、何人も、青少年に対し、みだらな性行為又はわいせつな行為(当裁判所は、右「みだらな性行為」とは、健全な常識がある一般社会人からみて、結婚を前提としない欲望を満たすことのためにのみ行なう不純とされる性行為をいい、また、右「わいせつな行為」とは、いたずらに性欲を刺激興奮せしめたり、その露骨な表現によって健全な常識のある一般社会人に対し、性的に羞恥嫌悪の情をおこさせる行為をいうものと解する。したがって、本条例第一〇条第一項は、所論刑法第一七四条、第一七六条ないし第一七九条の各罪と、その犯罪の構成要件を、まったく異にしている。)をすることを禁止し、これに違反した者を、三万円以下の罰金に処する(本条例第一七条)旨を定めているところ、地方自治法第二条第二項、第三項は、風俗又は清潔を汚す行為の制限その他保健衛生、風俗のじゅん化に関する事項を処理すること(同第三項第七号)ならびに、住民及び滞在者の安全、健康及び福祉を保持すること(同項第一号)が、普通地方公共団体(以下、たんに地方公共団体という。)の処理する行政事務に属することを明定するとともに、同法第一四条第一項、第五項は、地方公共団体は、法令に特別の定があるものを除く外、その条例中に、条例違反者に対し、二年以下の懲役若しくは禁錮、十万円以下の罰金、拘留、科料又は没収の刑を科する旨の規定を設けることができると定めており、被告人の本件原判示第二の所為当時本条例第一〇条第一項所定の事項に関し法令に特別の定がなかったことは明らかである。そして、憲法第三一条は、必ずしも刑罰が、すべて法律そのもので定められなければならないとするものではなく、法律の授権によって、それ以下の法令によっても定めることができると解すべきで、このことは憲法第七三条第六号但書によっても明らかである。しかも、条例は、法律以下の法令といっても、前示のように、公選の議員をもって組織する地方公共団体の議会の議決を経て制定される自治立法であって、行政府の制定する命令等とは性質を異にし、むしろ国民の公選した議員をもって組織する国会の議決を経て制定される法律に類するものであるから、条例によって刑罰を定める場合には、法律の授権が相当な程度に具体的であり、限定されておればたりると解するのが相当である(昭和三一年(あ)第四二八九号同三七年五月三〇日最高裁判所大法廷判決、刑集一六巻五号五七七頁参照)。
 してみると、本条例第一〇条第一項所定の事項については、法令に特別の定がなく、かつ、右条項に関係のあるのは、地方自治法第二条のうちで、第三項第七号および第一号に掲げられた事項であるが、これらの事項の内容は相当に具体的であるし、同法第一四条による罰則の範囲も限定されている。それゆえ、本条例第一〇条第一項の規定は、前記各判例の趣旨にてらし、所論のように憲法第九四条、地方自治法第二項、第一四条の条例制定権の範囲を逸脱し、憲法第三一条に違反するものとはいえないから、論旨は理由がない。