児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

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普通乗用自動車の後部座席下及び後部座席上に積載された布団の下に置かれていたヌンチャク合計3組について,原判決を破棄して、軽犯罪法1条2号の隠し携帯の罪の成立を否定した事例(岡山支部H29.3.8)

 軽犯罪法違反って、弁護人無しで処分されることが多いので、争うとひっくり返ることがあるようだ

       軽犯罪法違反被告事件
広島高等裁判所岡山支部判決平成29年3月8日
       主   文

 原判決を破棄する。
 被告人は無罪。

       理   由

 本件控訴の趣意は,弁護人水岡章作成の控訴趣意書に記載のとおりである。
 論旨は,原判決は,被告人に対する軽犯罪法違反被告事件につき,同法1条2号(以下「本号」という)の「正当な理由」及び「隠して」の解釈を誤り,ひいては適用を誤った法令適用の誤りがあり,これらの正当な解釈に従えば被告人は無罪であるから,この誤りは判決に影響を及ぼすことは明らかであるというものである。すなわち,本号の「正当な理由」については,原判決が「取締りの必要性・合理性」があるという理由から本件携帯についての「正当な理由」を厳格に解釈するのは失当である。本号の「隠して」については,「隠す意思」が必要であり,これは隠している状態を認識しているだけでは足りないのに,原判決は,このような状態におかれていることを認識していれば足りると解しており,原判決には解釈に誤りがあるというのである。
 そこで検討したところ,以下に説示するとおり,論旨は理由があり,原判決には判決に影響することが明らかな法令適用の誤りがあるから,破棄を免れない。
第1 事案の概要等
 1 本件公訴事実は,「被告人は,正当な理由がないのに,平成27年11月24日午後8時25分頃,岡山県備前市Aa番地b所在のCD店駐車場において,人の身体に重大な害を加えるのに使用されるような器具であるヌンチャク3組を,自動車内に隠して携帯していたものである。」というものであり,検察官は,被告人は本号の罪を犯したと主張し,原判決は,上記と同じ事実を認定し,被告人は本件ヌンチャク3組を「隠して携帯し」た,被告人には本号の「正当な理由」は認められないとして,本号を適用して,被告人を有罪とした。
 2 本号の「隠して」についての原判決の説示等
 普通乗用自動車の後部座席下及び後部座席上に積載された布団の下に置かれた本件ヌンチャクについて,原判決は,本号の「隠して」に関し,「他人が通常の方法で観察した場合にその視野に入ってこないような状態におかれていた」と認定し,客観的に「隠して携帯して」に該当することを前提に,「隠す意思」について,「隠す意思があったか否かは,被告人において,本件ヌンチャクが,他人が通常の方法で観察した場合にその視野に入ってこないような状態におかれていることを認識していたかどうかによって判断するのが相当というべき」である旨説示し,被告人はこのような状態におかれていたことを認識していたとして,被告人には「隠す意思」があったとし,結局,「隠して携帯していた」と認定している。
 3 「正当な理由」についての原判決の説示内容
 原判決は,次のとおり説示する。
 「『正当な理由』があるとは,本号所定の器具を隠して携帯することが,職務上又は日常生活上の必要性から,社会通念上,相当と認められる場合をいい,これに該当するか否かは,当該器具の用途や形状・性能,隠匿携帯した者の職業や日常生活との関係,隠匿携帯の日時・場所,態様及び周囲の状況等の客観的要素と,隠匿携帯の動機,目的,認識等の主観的要素とを総合的に勘案して判断すべきものと解される」とした上で,平成21年3月26日最高裁判決で取り上げられた「催涙スプレー」のような「防犯用品」の携帯について,「これといった必要性もないのに,人の多数集まる場所などで催涙スプレーのような器具を隠匿携帯する行為は,一般的には『正当な理由』がないものとして本号によって取り締まる必要性,合理性がある」旨説示し,「本件ヌンチャクは,」「攻撃的加害使用が十分に可能な器具」であるから,「なおのことその取締りをする必要性,合理性があることは多言を要しない」,「ヌンチャクの隠匿携帯に『正当な理由』がある」というためには,「特にヌンチャクを携帯しなければならない事情がなければならないというべきであり,これといった必要性もないのに,人の多数集まる場所にヌンチャクを携帯する行為には,正当な理由がない」と判断している。
第2 当裁判所の判断
 1 「隠して」について
 所論が主張するところは正当であり,原判決の「隠して」の解釈は是認できない。
 (1) 上記のように,原判決は,本号の「隠して携帯して」を,他人の視野に入ってこないような状態におくこととし,本件ヌンチャクはそのような状態におかれていたから,本号の「隠して携帯し」にあたるとしている。「隠す意思」については,犯人において,上記のような状態におかれていることを認識していれば足りるとする。
 (2) しかし,本号は,凶器携帯犯人がその凶器を「隠して」いる場合を処罰する趣旨の規定であって,犯人に隠す意思を要するところ,隠す意思があるというためには,隠れた状態を認識するだけでは足りず,携帯の態様や目的等から「隠す」ことについての何らかの積極的な意思を認定する必要があると解すべきである。
 そうすると,本号の「隠して」につき,「隠す意思」は他人から見えない状態におかれていることを認識しているだけで足りるとし,このような状態におかれていたというだけで「隠して携帯し」にあたるとする原判決には法令の解釈適用に誤りがある。そうして,本件における携帯の態様が「隠す」ことに対する強固な意思を推認させるものではなく,携帯の目的も後に説示するとおり,「隠す」必要性を高めるようなものであるとは認定できないという具体的な事実関係を前提とすると,その誤りは,判決に影響を及ぼすことが明らかである。
 この点の論旨には理由がある。
 2 「正当な理由」について
 この点につき,所論が主張するところは正当であり,この点の原判決の「正当な理由」の解釈適用は是認できない。
 (1) この点について原判決は,防犯用品の催涙スプレーの場合と比較し,本件ヌンチャクは,その形状及び性能からして,攻撃的加害使用が十分に可能な器具であるから,「取締りをする必要性,合理性があり」,このような器具の隠匿携帯に「正当な理由」があるというためには,特にこれを携帯しなければならない事情がなければならないとする。
 そして,被告人が供述する,趣味として仕事の空き時間に練習するために自動車内に積載してヌンチャクを持ちだしていたとか,職業上手首等を鍛える必要があったという事情は,上記の特に携帯しなければならない事情とすることは困難であるとして,正当な理由に当たらないとしている。
 (2) しかし,本号では,隠して携帯することが違法となる器具が,一義的に定められておらず,本号の器具には,一方で,犯罪に用いられれば危険性の高いとみられる器具であっても,他方で,職業上又は日常生活上必要ともいえる器具も多く含まれうるのであって,本号の凶器につき,携帯凶器の危険性の高さを理由に,直ちに,「正当な理由」は特別の事情がある場合に限られるなどと,限定的に解してよいことにはならない。本号の「正当な理由」については,客観面と主観面の諸事情を総合して判断することが必要である。
 そして,原判決は,本件ヌンチャクの危険性を催涙スプレー以上とみているようであるが,催涙スプレーは,器具自体が攻撃以外の使用目的や用途がないものであるのに対し,ヌンチャクは,現代では,武道や趣味などとして適法な用途に利用されうるものであり,同目的で使用されることの方が一般的であるから,社会通念上,携帯が相当な場合が十分にある。このような器具を携帯している場合は,特に上記のような総合判断を行う必要性が高い。
 原判決は,このような総合判断をしておらず,その判断方法は,不当である。原判決の「正当な理由」の解釈適用には誤りがある。
 (3) そして,本件の具体的事実関係をみると,被告人が供述する,本件ヌンチャクの用途や使用目的,携帯の動機経緯等には相応の合理性が認められ,これを排斥できるような事情は窺われない。ヌンチャクが3組あったことや被告人が午後8時過ぎころにコンビニエンスストアの駐車場に駐車させた自動車内にいたことについても,合理的説明がなされている。その他,被告人の職業,日常生活,周囲の状況も多数の者がいたともいえないことも考慮すると,被告人の本件ヌンチャク3組の携帯が,職務上又は日常生活上の必要性から,社会通念上,相当と認められる場合に当たらないとするには合理的疑いがあり,「正当な理由」がないとはいえない。
 (4) そうすると,この点でも,原判決には判決に影響を及ぼすことが明らかな法令適用の誤りがある。
 この点の論旨も理由がある。
 3 以上によれば,原判決には,本号の「隠して」及び「正当な理由」につきいずれも法令適用の誤りがあり,これらの点はいずれも判決に影響を及ぼすことが明らかと言わざるを得ず,論旨はいずれも理由がある。
 4 そこで,刑事訴訟法397条1項,380条により原判決を破棄し,同法400条ただし書を適用して当裁判所において被告事件について更に判決することとし,前記のとおり,本件公訴事実については犯罪の証明がないことになるから,同法336条後段により無罪の言い渡しをし,主文のとおり判決する。
  平成29年3月8日
    広島高等裁判所岡山支部第1部
        裁判長裁判官  大泉一夫
           裁判官  難波 宏
           裁判官  村川主和