児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者性交・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録記録被告事件弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 hp@okumura-tanaka-law.com)

性犯罪・福祉犯(監護者性交罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

強制わいせつ罪の成立と行為者の性的意図の要否(最高裁大法廷h29.11.29)

 上告審から表立って関与した事件です。
 児童を脅迫して裸画像を送らせる強要被告事件の関係では、強制わいせつ罪と強要罪との区別の関係で、弁護人弁護士奥村徹は強制わいせつ罪には性的意図不要であり強要罪と区別できないと主張して、強制わいせつ罪には性的意図が必要だという判例が複数出ていているところで、最高裁も追認しています。
  東京高等裁判所H28.2.19(最決H29.2.2)
  広島高裁岡山支部H22.12.15(最決H24.4.4)
 それを今回は修正して不要説になったので、奥村説が判例になったことになります。

 刑法改正の関係でいえば、いま同じ行為をすると、強制わいせつ罪(176条後段)にはならなくなっていますので、そういう意味では立法で解決されている類型です。
 強制わいせつ罪と児童ポルノ製造罪の罪数処理については、今回も判断を避けました。
 判例変更するなら未決を多めに算入するよう主張していましたが、未決算入は延べ540日になって、執行刑期は2年です。

最高裁が配布した報道用骨子

平成28年(あ)第1731号
児童買春,児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律違反,強制わいせつ,犯罪による収益の移転防止に関する法律違反被告事件
報道機関用骨子
1 最高裁昭和43年(あ)第95号同45年1月29日第一小法廷判決・刑集24巻1号1頁(以下「昭和45年判例」という。)は, 「刑法176条前段のいわゆる強制わいせつ罪が成立するためには, その行為が犯人の性欲を刺戟興奮させまたは満足させるという性的意図のもとに行なわれることを要し,婦女を脅迫し裸にして撮影する行為であっても, これが専らその婦女に報復し, または, これを侮辱し,虐待する目的に出たときは,強要罪その他の罪を構成するのは格別,強制わいせつの罪は成立しないものというべきである」と判示したものである。
2 しかし,昭和45年判例の示した上記解釈は維持し難い。
法文上強制わいせつ罪の成立要件として性的意図といった故意以外の行為者の主観的事情を求める文言が規定されたことはないが,昭和45年判例は,性的意図を要するとした理由等を明らかにしていない。
性的な被害に係る犯罪規定には,社会の受け止め方を踏まえなければ,処罰対象を適切に決することができない特質があり,諸外国の立法の動きも, その時代の各国における性的な被害の実態とそれに対する社会の意識の変化に対応していることを示している。
これらのことからすると,昭和45年判例は, その当時の社会の受け止め方などを考盧しつつ,強制わいせつ罪の成立要件として,犯人の性欲を刺激興奮させ又は満足させるという性的意図のもとに行われることを一律に求めたものと理解できるが, その解釈を揺るぎないものとみることはできない。
「刑法等の一部を改正する法律」(平成16年法律第156号)は,国民の規範意識に合致させるため,強制わいせつ罪等の法定刑を引き上げるなどし, 「刑法の一部を改正する法律」(平成29年法律第72号)は,性的な被害に係る犯罪の実情等に鑑み,事案の実態に即した対処を可能とするための法改正をしている。
これらの法改正が,性的な被害に係る犯罪やその被害の実態に対する社会の一般的な受け止め方の変化を反映したものであることは明らかであり,今日では,強制わいせつ罪の成立要件の解釈をするに当たっては,被害者の受けた性的な被害の有無やその内容,程度にこそ目を向けるべきであって,昭和45年判例の解釈は, その正当性を支える実質的な根拠を見いだすことが一層難しくなっているといわざるを得なし、。
もっとも, いかなる行為に性的な意味があり,刑法176条による処罰に値する行為とみるべきかは,規範的評価として, その時代の性的な被害に係る犯罪に対する社会の一般的な受け止め方を考盧しつつ客観的に判断されるべき事柄であり,刑法176条にいうわいせつな行為に当たるか否かの判断を行うためには,行為そのものが持つ性的性質の有無及び程度を十分に踏まえた上で,事案によっては,社会通念に照らし,その行為の性的な意味等を個別事案に応じた具体的事実関係に基づいて判断せざるを得ず, そのような個別具体的な事情の一つとして,行為者の目的等の主観的事情を判断要素として考盧すべき場合があり得ることは否定し難い。
しかし, そのような場合があるとしても,行為者の性的意図を一律に強制わいせつ罪の成立要件とすることは相当でなく,昭和45年判例の解釈は変更されるべきである。

http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=87256
事件番号  平成28(あ)1731
事件名  児童買春,児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律違反,強制わいせつ,犯罪による収益の移転防止に関する法律違反被告事件
裁判年月日  平成29年11月29日
法廷名  最高裁判所大法廷
裁判種別  判決
結果  棄却
判示事項
強制わいせつ罪の成立と行為者の性的意図の要否
児童買春,児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律違反,強制わいせつ,犯罪による収益の移転防止に関する法律違反被告事件
平成29年11月29日 大法廷判決
主 文
本件上告を棄却する。
当審における未決勾留日数中280日を本刑に算入する。
理 由
1 弁護人松木俊明,同園田寿の各上告趣意,同奥村徹の上告趣意のうち最高裁昭和43年(あ)第95号同45年1月29日第一小法廷判決・刑集24巻1号1頁(以下「昭和45年判例」という。)を引用して判例違反,法令違反をいう点について(1) 第1審判決判示第1の1の犯罪事実の要旨は,「被告人は,被害者が13歳未満の女子であることを知りながら,被害者に対し,被告人の陰茎を触らせ,口にくわえさせ,被害者の陰部を触るなどのわいせつな行為をした。」というものである。
原判決は,自己の性欲を刺激興奮させ,満足させる意図はなく,金銭目的であったという被告人の弁解が排斥できず,被告人に性的意図があったと認定するには合理的な疑いが残るとした第1審判決の事実認定を是認した上で,客観的に被害者の性的自由を侵害する行為がなされ,行為者がその旨認識していれば,強制わいせつ罪が成立し,行為者の性的意図の有無は同罪の成立に影響を及ぼすものではないとして,昭和45年判例を現時点において維持するのは相当でないと説示し,上記第1の1の犯罪事実を認定した第1審判決を是認した。
(2) 所論は,原判決が,平成29年法律第72号による改正前の刑法176条(以下単に「刑法176条」という。)の解釈適用を誤り,強制わいせつ罪が成立するためには,その行為が犯人の性欲を刺激興奮させ又は満足させるという性的意図のもとに行われることを要するとした昭和45年判例と相反する判断をしたと主張するので,この点について,検討する。
(3) 昭和45年判例は,被害者の裸体写真を撮って仕返しをしようとの考えで,脅迫により畏怖している被害者を裸体にさせて写真撮影をしたとの事実につき,平成7年法律第91号による改正前の刑法176条前段の強制わいせつ罪に当たるとした第1審判決を是認した原判決に対する上告事件において,「刑法176条前段のいわゆる強制わいせつ罪が成立するためには,その行為が犯人の性欲を刺戟興奮させまたは満足させるという性的意図のもとに行なわれることを要し,婦女を脅迫し裸にして撮影する行為であっても,これが専らその婦女に報復し,または,これを侮辱し,虐待する目的に出たときは,強要罪その他の罪を構成するのは格別,強制わいせつの罪は成立しないものというべきである」と判示し,「性欲を刺戟興奮させ,または満足させる等の性的意図がなくても強制わいせつ罪が成立するとした第1審判決および原判決は,ともに刑法176条の解釈適用を誤ったものである」として,原判決を破棄したものである。
(4) しかしながら,昭和45年判例の示した上記解釈は維持し難いというべきである。
ア 現行刑法が制定されてから現在に至るまで,法文上強制わいせつ罪の成立要件として性的意図といった故意以外の行為者の主観的事情を求める趣旨の文言が規定されたことはなく,強制わいせつ罪について,行為者自身の性欲を刺激興奮させたか否かは何ら同罪の成立に影響を及ぼすものではないとの有力な見解も従前から主張されていた。
これに対し,昭和45年判例は,強制わいせつ罪の成立に性的意図を要するとし,性的意図がない場合には,強要罪等の成立があり得る旨判示しているところ,性的意図の有無によって,強制わいせつ罪(当時の法定刑は6月以上7年以下の懲役)が成立するか,法定刑の軽い強要罪(法定刑は3年以下の懲役)等が成立するにとどまるかの結論を異にすべき理由を明らかにしていない。
また,- 3 -同判例は,強制わいせつ罪の加重類型と解される強姦罪の成立には故意以外の行為者の主観的事情を要しないと一貫して解されてきたこととの整合性に関する説明も特段付していない。
元来,性的な被害に係る犯罪規定あるいはその解釈には,社会の受け止め方を踏まえなければ,処罰対象を適切に決することができないという特質があると考えられる。
諸外国においても,昭和45年(1970年)以降,性的な被害に係る犯罪規定の改正が各国の実情に応じて行われており,我が国の昭和45年当時の学説に影響を与えていたと指摘されることがあるドイツにおいても,累次の法改正により,既に構成要件の基本部分が改められるなどしている。
こうした立法の動きは,性的な被害に係る犯罪規定がその時代の各国における性的な被害の実態とそれに対する社会の意識の変化に対応していることを示すものといえる。
これらのことからすると,昭和45年判例は,その当時の社会の受け止め方などを考慮しつつ,強制わいせつ罪の処罰範囲を画するものとして,同罪の成立要件として,行為の性質及び内容にかかわらず,犯人の性欲を刺激興奮させ又は満足させるという性的意図のもとに行われることを一律に求めたものと理解できるが,その解釈を確として揺るぎないものとみることはできない。
イ そして,「刑法等の一部を改正する法律」(平成16年法律第156号)は,性的な被害に係る犯罪に対する国民の規範意識に合致させるため,強制わいせつ罪の法定刑を6月以上7年以下の懲役から6月以上10年以下の懲役に引き上げ,強姦罪の法定刑を2年以上の有期懲役から3年以上の有期懲役に引き上げるなどし,「刑法の一部を改正する法律」(平成29年法律第72号)は,性的な被害に係る犯罪の実情等に鑑み,事案の実態に即した対処を可能とするため,それまで強制わいせつ罪による処罰対象とされてきた行為の一部を強姦罪とされてきた行為と併せ,男女いずれもが,その行為の客体あるいは主体となり得るとされる強制性交等罪を新設するとともに,その法定刑を5年以上の有期懲役に引き上げたほか,監護者わいせつ罪及び監護者性交等罪を新設するなどしている。
これらの法改正が,性的な被害に係る犯罪やその被害の実態に対する社会の一般的な受け止め方の変化を反映したものであることは明らかである。
ウ 以上を踏まえると,今日では,強制わいせつ罪の成立要件の解釈をするに当たっては,被害者の受けた性的な被害の有無やその内容,程度にこそ目を向けるべきであって,行為者の性的意図を同罪の成立要件とする昭和45年判例の解釈は,その正当性を支える実質的な根拠を見いだすことが一層難しくなっているといわざるを得ず,もはや維持し難い。
(5) もっとも,刑法176条にいうわいせつな行為と評価されるべき行為の中には,強姦罪に連なる行為のように,行為そのものが持つ性的性質が明確で,当該行為が行われた際の具体的状況等如何にかかわらず当然に性的な意味があると認められるため,直ちにわいせつな行為と評価できる行為がある一方,行為そのものが持つ性的性質が不明確で,当該行為が行われた際の具体的状況等をも考慮に入れなければ当該行為に性的な意味があるかどうかが評価し難いような行為もある。
その上,同条の法定刑の重さに照らすと,性的な意味を帯びているとみられる行為の全てが同条にいうわいせつな行為として処罰に値すると評価すべきものではない。
そして,いかなる行為に性的な意味があり,同条による処罰に値する行為とみるべきかは,規範的評価として,その時代の性的な被害に係る犯罪に対する社会の一般的な受け止め方を考慮しつつ客観的に判断されるべき事柄であると考えられる。
そうすると,刑法176条にいうわいせつな行為に当たるか否かの判断を行うためには,行為そのものが持つ性的性質の有無及び程度を十分に踏まえた上で,事案によっては,当該行為が行われた際の具体的状況等の諸般の事情をも総合考慮し,社会通念に照らし,その行為に性的な意味があるといえるか否かや,その性的な意味合いの強さを個別事案に応じた具体的事実関係に基づいて判断せざるを得ないことになる。
したがって,そのような個別具体的な事情の一つとして,行為者の目的等の主観的事情を判断要素として考慮すべき場合があり得ることは否定し難い。
しかし,そのような場合があるとしても,故意以外の行為者の性的意図を一律に強制- 5 -わいせつ罪の成立要件とすることは相当でなく,昭和45年判例の解釈は変更されるべきである。
(6) そこで,本件についてみると,第1審判決判示第1の1の行為は,当該行為そのものが持つ性的性質が明確な行為であるから,その他の事情を考慮するまでもなく,性的な意味の強い行為として,客観的にわいせつな行為であることが明らかであり,強制わいせつ罪の成立を認めた第1審判決を是認した原判決の結論は相当である。
以上によれば,刑訴法410条2項により,昭和45年判例を当裁判所の上記見解に反する限度で変更し,原判決を維持するのを相当と認めるから,同判例違反をいう所論は,原判決破棄の理由にならない。
なお,このように原判決を維持することは憲法31条等に違反するものではない。
2 弁護人奥村徹の上告趣意のうち,その余の判例違反をいう点は,事案を異にする判例を引用するものであって本件に適切でないか,引用の判例が所論のような趣旨を示したものではないから前提を欠くものであり,その余は,単なる法令違反,量刑不当の主張であって,刑訴法405条の上告理由に当たらない。
よって,刑訴法414条,396条,刑法21条により,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
検察官平光信隆,同中原亮一 公判出席
(裁判長裁判官 寺田逸郎 裁判官 岡部喜代子 裁判官 小貫芳信 裁判官鬼丸かおる 裁判官 木内道祥 裁判官 山本庸幸 裁判官 山崎敏充 裁判官池上政幸 裁判官 大谷直人 裁判官 小池 裕 裁判官 木澤克之 裁判官菅野博之 裁判官 山口 厚 裁判官 戸倉三郎 裁判官 林 景一)

H29判例はS45判例の反対意見にも届いていません。

強制わいせつ被告事件
最高裁判所第1小法廷判決
昭和45年1月29日
 よつて、裁判官入江俊郎、同長部謹吾の反対意見があるほか裁判官全員一致の意見により主文のとおり判決する。
 裁判官入江俊郎の反対意見は、次のとおりである。
 私は、いわゆる強制わいせつの罪に関する刑法一七六条の解釈につき、多数意見と根本的に立場を異にする。私は、本件第一審判決およびこれを是認した原判決の採用した同条の解釈が正当であつて、本件上告趣意に対する最高検察庁検察官の弁論における主張も充分理由があると考える。それ故、本件上告は、これを棄却すべきものである。私の右反対意見の理由は、次のとおりである。
一 刑法一七六条が、一七七条、一七八条とならんで、同法一七四条、一七五条に比し、より重い刑を定めたこと、および刑法一七六条の罪が、一八〇条一項により、一七七条、一七八条、一七九条の罪とともに親告罪とされ訴追にあたつて被害者の意思が尊重されるべきことを定めている所以は、性的しゆう恥心ないし性的清浄性が、各個人にとつて、精神的にも肉体的にも極めて重要な性的自由に属する事柄であり、個人のプライヴアシーと密接な関係をもつているものであることに鑑み、法が特にこのような個人の性的自由を保護法益としたからにほかならないものと考えられる。このことは。改正刑法準備草案が、現行刑法一七四条および一七五条の罪に相当する罪を風俗を害する罪の章下に入れ、同法一七六条、一七七条および一七八条の罪に相当する罪を姦淫の罪の章下に入れて、両者をはつきりと区別していることからも、了解しうるところである。そして、このような個人のプライヴアシーに属する性的自由を保護し尊重することは、まさに憲法一三条の法意に適合する所以であり、現時の世相下においては、殊にこれら刑法法条の重要性が認識されなければならないのであつて、これら法条の解釈にあたつては、個人をその性的自由の侵害から守り、その性的自由の保護が充分全うされるよう、配慮されなければならない。
 従つて、これらの法条の罪については、行為者(犯人)がいかなる目的・意図で行為に出たか、行為者自身の性欲をいたずらに興奮または刺激させたか否か、行為者自身または第三者の性的しゆう恥心を害したか否かは、何ら結論に影響を及ぼすものではないと解すべきである。このことは、当裁判所大法廷判決(昭和二八年(あ)第一七一三号、同三二年三月一三日判決、刑集一一巻三号九九七頁)が、刑法一七五条のわいせつ文書につき、「猥褻性の存否は純客観的に、つまり作品自体からして判断されなければならず、作者の主観的意図によつて影響されるべきものではない。」としているのと相通ずるところがあるのである。
  ところで、刑法一七六条は、「十三歳以上ノ男女ニ対シ暴行又ハ脅迫ヲ以テ猥褻ノ行為ヲ為シタル者ハ六月以上七年以下ノ懲役ニ処ス十三歳ニ満タサル男女ニ対シ猥褻ノ行為ヲ為シタル者亦同シ」と規定しているのであるから、同条の罪が成立するためには、行為者(犯人)がわいせつの行為にあたる事実を認識し、一三歳以上の男女に対しては暴行または脅迫をもつて、一三歳未満の男女に対してはその有無にかかわらず、これを実行すれば必要にして充分であると解すべきである。そして、右にいうわいせつの行為とは、普通人の性的しゆう恥心を害し、善良な性的道義観念に反する行為をいうものであり、ある行為がこの要件を充たすものであるか否かは、その行為を、客観的に、社会通念に従つて、換言すれば、その行為自体を普通人の立場に立つて観察して決すべきものである。けだし、このような行為が、性的自由の意義を正しく理解しえないと考えられる一三歳未満の男女に対して行なわれたり、一三歳以上の男女に対しては暴行脅迫の手段をもつて行なわれたりすれば、それだけで個人の性的自由が侵害されることになるからである。
二 私は、刑法一七六条の罪は、これを行為者(犯人)の性欲を興奮、刺激、満足させる目的に出たことを必要とするいわゆる目的犯ではないと考える。また、本条の罪をいわゆる傾向犯と解する余地も、まことに乏しいといわざるをえないと思う。たとえ、動機ないし目的が報復、侮辱、虐待であつたとしても、その一事は何ら本条の罪の成立を妨げるものではなく、これと同趣旨を判示した第一審判決は正当であり、これを是認した原判決もまた相当であつて、何ら所論のような法令違反はない(原判決が、「しかし報復侮辱の手段とはいえ、本件のような裸体写真の撮影を行つた被告人に、その性欲を刺戟興奮させる意図が全くなかつたとは俄かに断定し難いものがあるのみならず」と判示したのは、原審が、本件多数意見のような考え方の存在することを顧慮してした念のためのものではないかと考えられるが、私はこれは全く蛇足無用の判示であると考える。)。
 多数意見は、本条の罪を目的犯のごとく解するようであり、多数意見によれば、刑法一七六条前段のいわゆる強制わいせつの罪が成立するためには、その行為が犯人の性欲を刺激、興奮させまたは満足させるという性的意図のもとに行なわれることを要し、婦女を脅迫し裸にして撮影する行為であつても、これが専らその婦女に報復し、またはこれを侮辱し、虐待する目的に出たときは、強要罪その他の罪を構成するのは格別、強制わいせつの罪は成立しないものというべきであるというのであるが、私は、上記意見および次の諸点に鑑み、右多数意見には到底賛成できない。
 (一)行為者が一定の目的・意図をもつて行為に出ることを必要とする犯罪については、刑法は、その各本条に、「……ノ目的ヲ以テ」(たとえば一五五条一項)とか、「……ヲ為ス為」(たとえば一〇七条)などの要件を付しているのである。ところが、刑法一七六条には右のような文言はなく、明文上において、本条の罪を目的犯であると解すべき根拠がない。
 (二)尤も、一定の目的・意図、すなわち主観的意図が構成要件として明示されていない犯罪でも、構成要件の解釈上、それを必要とするものがないわけではない。たとえば、窃盗罪などの財産犯のごとく、これらの罪については、いわゆる不法領得の意思を必要とするというのが通説であり、また判例である。これは、たとえば窃盗罪についていうと、窃取という構成要件が、単に他人の所持する物を自己の所持に移すという客観的事実だけでなく、それに加えて、その物を自己の物にするという意思を必要とする行為であることによつて、はじめてこれを犯罪とする意味が生ずることによるのである。ところが、本条の罪のわいせつの行為については、解釈上、行為者(犯人)自身の性的意図を必要とする理由を見出だしえないことは、すでに前記一において述べたとおりである。すなれち本条は、個人(被害者)の性的自由を侵害する罪を定めた規定であり、その保護法益は個人のプライヴアシーに属する性的自由に存するのであつて、相手方(被害者)の性的自由を侵害したと認められる客観的事実があれば、当然に本条の罪は成立すると解すべく、行為者(犯人)に多数意見のいうような性的意図がないというだけの理由で犯罪の成立を否定しなければならない解釈上の根拠は、本条の規定の趣旨からみて、到底見出だしえないのである。
 (三)多数意見によると、相手方(被害者)の性的自由が侵害されている場合でも、行為者(犯人)に多数意見のいうような性的意図がないときは、本条の罪としては処罰できないことになるのであるが、かくては、刑法が、性的自由の保護を、財産行為の自由の保護(強盗罪に関する二三六条、恐喝罪に関する二四九条参照)および公務員の職務行為の自由の保護(職務強要罪に関する九五条二項参照)などとともに、その他一般の行為の自由の保護(強要罪に関する二二三条参照)と区別して、特に重く保護しようとしている趣旨が没却されることになる。すなわち、多数意見のように本件行為を強要罪に関する刑法二二三条によつて処断するとすれば、その刑は三年以下の懲役にすぎないこととなり、刑法一七六条該当の行為が六月以上七年以下の懲役にあたるとされていることと対比し、極めて均衡を失することとなる。
 本条は、行為者(犯人)に多数意見のいうような性的意図が必要とされるという点からではなく、相手方(被害者)の性的自由が侵害されるという点から、強要罪に関する刑法二二三条の特別規定となると理解してこそ、はじめてその法意が生かされることになると考えるのである。
 (四)多数意見によると、相手方(被害者)の性的自由が侵害されている場合でも、行為者(犯人)に多数意見のいうような性的意図がないときは、非親告罪である強要罪その他の罪として訴追され、審理、判決されることになつて、刑法一八O条一項が、性的自由の侵害を内容とする罪を特に親告罪として、訴追にあたつて被害者の意思を尊重すべきものとした趣旨が没却される点も、まことに不合理といわなければならない。
三 これを本件についてみるに、第一審判決およびこれを是認した原判決が適法に確定した事実関係の下において、また、記録に現われた諸証拠を照合すれば、本件で問題とされている行為は、まさに刑法一七六条前段の要件を充たすものというべきである。
 以上の理由により、私は上告趣意中、判例違反をいう点については、引用の判例は、本件に適切でなく、正当な上告理由にあたらないとする点において多数意見に同調するが、その余の点については、多数意見には反対であり、本件上告はこれを棄却すべきものと考える。
 裁判官長部謹吾は、裁判官入江俊郎の右反対意見に同調する。