児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

性的意図必要・傾向犯説の判例はたくさんあること

傾向犯説は実務上定着していて、最近の高裁判例も多数あります。
 メール等で脅迫して児童の裸を撮影送信させる行為には性的意図が認めにくいようです

①広島高裁h23.5.26(強制わいせつ罪(176条後段))
【文献番号】25471443
広島高等裁判所
平成23年5月26日第1部判決
       理   由
 本件控訴の趣意は,主任弁護人福永宏及び弁護人福永孝連名作成の控訴趣意書に記載されているとおりであるから,これを引用する。
1 控訴趣意中,事実誤認の主張について
 論旨は,原判示第1の1ないし3の各事実について,その外形行為はいずれも診療行為であり,被告人には性的意図もなかったのであるから,強制わいせつ罪は成立せず,また,各撮影行為の対象は,いずれも女児に対する予防接種の診察行為であり,このような診察行為の撮影画像は,児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律(以下「児童ポルノ法」という。)2条3項3号の「衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するもの」に該当することはなく,児童ポルノ製造罪も成立せず,被告人は無罪であるにもかかわらず,原判示第1の1ないし3の各事実を認定し,強制わいせつ罪及び児童ポルノ製造罪の成立を認め,被告人を有罪とした原判決には,判決に影響を及ぼすことが明らかな事実の誤認がある,というのである。
 そこで,記録を調査し,検討する。
(1)関係証拠によれば,以下の事実が認められる。
・・・
(2)前記(1)ア及びイの各事実によれば,被告人は,診療上の必要性とは全く無関係に,乳房を露出させた状態の各被害女児をそれぞれ盗撮したものであり,このような行為が診療行為に当たらないことは明白であり,その行為態様自体から,被告人のわいせつ意図が強く推認されるところ,前記(1)ウ及びエの各事実は,この推認を裏付けるものであり,被告人の各撮影行為について,強制わいせつ罪の成立が優に認められる。また,前記(1)アに認定した診察行為の際に着衣をずらして乳房を露出させた各被害女児を盗撮して記録された電磁的記録の画像が,児童ポルノ法2条3項3号の「衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するもの」に該当することは,原判決が「事実認定の補足説明」の項2に認定,説示するとおりであり,着衣をずらして乳房を露出させた各被害女児を盗撮し,その電磁的記録をマイクロSDカードに記録した行為(以下,「被告人の盗撮行為」という。)について,児童ポルノ製造罪が成立するというべきである。
(3)所論は,〔1〕被告人の行った外形行為は,診察室において予防接種の診察をした際,各被害女児に上衣を上にずらしてもらって,5ないし11秒間のわずかな時間内に,各被害女児の胸に聴診器をあてた状況を小型カメラで撮影したというだけであり,乳房を弄ぶなどの行為は皆無である上,各被害女児はもちろん,診察に立ち会った各被害女児の保護者や看護師も,診察行為以外の変な行為をしているというような思いを持った者はいなかったのであり,外形的に見てわいせつ行為は存しないのであり,着衣をずらして乳房を露出させたのは,正当な診療行為であって,わいせつ行為ではなく,わいせつ行為でないものを撮影したからといって,わいせつ行為でないものがわいせつ行為になるということはあり得ず,今日の社会的状況においては,常識的に見て,ほとんどの人が,女性の乳房写真をわいせつ写真であるとは考えておらず,わいせつ行為であるか否かは,客観的かつ外形的に評価すべきもので,動機等によって左右されることはないのであるから,被告人の行為について,強制わいせつ罪は成立せず,〔2〕被告人は,女児の裸等の写真を収集すること自体に目的があり,撮影行為に及んでいる最中に性的意図を持つことがなかったのに,性的意図があったと認めるのは矛盾しており,原審公判廷において,心理学者であるA保証人が証言するように,盗撮を行った者が撮影対象に性的興奮を感じて盗撮行為をしているという一般的見方は,誤解と偏見に基づくものであり,被告人が性的意図に基づいて撮影行為に及んだということは考え難く,被告人の行為について、強制わいせつ罪は成立しないと主張する。
 しかし,〔1〕については,そもそも,診察中であっても,被告人の盗撮行為が診察行為に当たらないことは明白であり,診療上の必要性もないのに,乳房を露出させた状態の各被害女児を盗撮する行為が,各被害女児の性的自由及び性的感情を侵害するものであることは論ずるまでもなく,被告人の盗撮行為が強制わいせつ罪に当たることは明らかであり,盗撮の時間がわずかな時間であったこと,各被害女児のみならず,被告人以外の周囲の者が盗撮に気付かなかったことは,強制わいせつ罪の成立を何ら左右するものではない。〔2〕については,被告人の盗撮行為は,その態様自体から,被告人のわいせつ意図が強く推認され,前記(1)ウ及びエの各事実にも照らせば,被告人において,盗撮によって撮影,記録した画像を閲覧することにより,自身の性欲を刺激ないし満足させるというわいせつ意図を有していたことに疑いを差し挟む余地はなく,なお,各被害女児の性的自由及び性的感情を侵害する盗撮行為時に性的興奮ないし刺激そのものを感じ,あるいは,受けることがなかったとしても,盗撮により得られた画像を閲覧することによって,自身の性欲を刺激し,あるいは,満足させることを目的として,盗撮行為に及んでいれば,わいせつ意図を有していたものと認定できることは言を俟たない。その他所論にかんがみ,検討しても,前記認定は左右されない。 
(4)他方,被告人が,診察行為の一環として,各被害女児の着衣をずらして乳房を露出させた行為については,正当な診療行為であったことを否定できず,その乳房を露出させた状態を利用した,強制わいせつ行為に当たる被告人の盗撮行為により児童ポルノが製造されたと認定するのが相当であり,診察行為の一環として乳房を露出させた行為を盗撮行為と併せた一連の行為としてわいせつ行為と捉えるのが相当であるとする原判決の認定,説示は肯認できない。
 しかし,原判決においても,強制わいせつ行為の核心部分が被告人の盗撮行為にあると解していることは,原判決が「事実認定の補足説明」の項及び「量刑の理由」の項に説示するところから明らかであり,また,強制わいせつ行為が被告人の盗撮行為に限られることを前提にしても,原判決の刑の量定は正当であることに照らせば,その誤りが判決に影響を及ぼすことが明らかであるとはいえない。
 論旨は理由がない。
2 控訴趣意中,法令適用の誤りの主張について
 論旨は,原判示第1の1ないし3の各強制わいせつと各児童ポルノ製造は,併合罪の関係にあるとするのが相当であるのに,それぞれ観念的競合として処断した原判決には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令適用の誤りがある,というのである。
 しかし,前記1(4)に説示したとおり,本件において,強制わいせつ罪に該当する行為は,被告人の盗撮行為であり,この盗撮行為によって児童ポルノが製造されており,各強制わいせつ行為と各児童ポルノ製造行為は,社会的見解上1個のものと見る以外になく,これをそれぞれ観念的競合の関係にあるとして処断した原判決に法令適用の誤りはない。
 論旨は理由がない。
 よって,刑訴法396条により本件控訴を棄却することとし,主文のとおり判決する。
平成23年5月26日
広島高等裁判所第1部
裁判長裁判官 竹田隆 裁判官 野原利幸 裁判官 結城剛行
・・・・・・・・・・・・

東京高等裁判所H28.2.19(強要)
弁護人は,①被害者(女子児童)の裸の写真を撮る場合,わいせつな意図で行われるのが通常であるから,格別に性的意図が記されていなくても,その要件に欠けるところはない,②原判決は,量刑の理由の部分で性的意図を認定している,③被害者をして撮影させた乳房,性器等の画像データを被告人使用の携帯電話機に送信させる行為もわいせつな行為に当たる,などと主張する。
しかしながら,①については,本件起訴状に記載された罪名及び罰条の記載が強制わいせつ罪を示すものでないことに加え,公訴事実に性的意図を示す記載もないことからすれば,本件において,強制わいせつ罪に該当する事実が起訴されていないのは明らかであるところ,原審においても,その限りで事実を認定しているのであるから,その認定に係る事実は,性的意図を含むものとはいえない。
・・・・・・・・・・・・・
③広島高裁岡山支部H22.12.15(強要罪
 ところで,原判示第3の事実は,被告人が,当時16歳の被害者Aを脅迫し,同人に乳房及び陰部を露出した姿態等をとらせ,これをカメラ機能付き携帯電話機で撮影させたなどの,強制わいせつ罪に該当し得る客観的事実を包含しているが,強制わいせつ罪の成立には犯人が性的意図を有していることが必要であるところ,原判示第3の事実に,被告人が上記性的意図を有している事実が明示されてはいない。
・・・・・・・・・・・・・・
福岡高裁h26.10.15*1(強制わいせつ罪(176条後段))
第1 理由不備,理由齟齬,公訴の不法受理の論旨について
 論旨は,次のとおりである。すなわち,①原判示第1の1,第2のl,第3の1,第4の1,第5の1,第6の1及び第7の1の各事実(以下,これらを併せて「原判示各1の事実」という)には,被告人の性的傾向を示す「わいせつ行為をしようと企て」との文言がないので,強制わいせつ罪の構成要件を満たしているとはいえないから,原判決には理由不備の違法がある,・・・というのである。
 そこで,検討する。
 ①については,原判示各1の事実の具体的内容は,いずれも被告人が公園のトイレや駐輪場などで,各被害児童に対し,衣服を脱がせて臀部又は陰部を露出する姿態をとらせ,これをカメラ機能付き携帯電話機で撮影したというものであり,その外形的行為自体から,被告人がその性欲を満足させるという性的意図のもとに行ったことが推認されることのほか,罪となるべき事実の末尾には「もってわいせつな行為をした」旨の記載があることにも鑑みると,所論がいうような「わいせつ行為をしようと企て」との文言がなくとも,強制わいせつ罪の構成要件該当事実は過不足なく記載されているといえるから原判決に理由不備の違法はない。
・・・・・・・・・・・・
⑤東京高裁h13.9.18(強制わいせつ罪(176条前段)
東京高等裁判所判決平成13年9月18日
東京高等裁判所判決時報刑事52巻1~12号54頁

 所論は,仮に被告人が原判示の行為をしたとしても,パンツの上から被害者の臀部及び大腿部を撫でたにすぎず,その行為は,単なるめいわく行為の域に止まるものであって,いまだ強制わいせつ罪にいう「わいせつ行為」とはいえない旨主張する。
 しかしながら,その態様をみると,被告人は,玄関が施錠され,家屋の中の障子が閉めきられて密室状態となった部屋の中で,「キスしていいかい。」などと被害者に申し向けた後,「勘弁してください。」とこれを拒絶する被害者の素肌の膝頭付近を素手で触るなどし,「私には彼氏がいるんです。」などと言って被告人に卑猥な行為を止めるよう懇願する被害者に対し,さらに「もうタッちゃってるんだから一回やらせてよ。」などと性交を求めるようなことを言い,逃げ出した被害者を玄関先まで追いかけてきて,玄関の施錠を外して戸外に逃げようとしている被害者に対し,「一回やらせてよ。パンツ見せてよ。」などと申し向けながら,被害者のスカートを背後から無理やり捲り上げて臀部を露わにした状態にし,パンツの上からその臀部及び素肌の大腿部をおおよそ10秒間くらい素手の両手で執拗に撫で回したものである。被告人が自己の性的満足を得ようとして本件行為に及んだことは明らかである上,上記の情況下で,被害者のスカートを捲り上げてその臀部を露わにした上,パンツの上からその臀部及び素肌の太ももを執拗に撫で回した被告人の行為は,電車の中で着衣の上から臀部や太ももを触るという行為と同視することはできず,被害者の性的自由を不当に侵害するとともに,一般人の正常な性的羞恥心を害し,善良な性的道徳観念に反するものであって,強制わいせつ罪にいう「わいせつ行為」に該当するものというべきである。(吉本徹也・岩瀬 徹・沼里豊滋)