児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者性交・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録記録被告事件弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 hp@okumura-tanaka-law.com)

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成人及び児童のための正当な職業紹介の機関以外の者が実費と称して養親希望者から金員を徴収するなどした各児童福祉法違反被告事件(千葉地裁H29.7.13)

児童福祉法
第三四条[禁止行為]
八 成人及び児童のための正当な職業紹介の機関以外の者が、営利を目的として、児童の養育をあつせんする行為
第六〇条
②第三十四条第一項第一号から第五号まで又は第七号から第九号までの規定に違反した者は、三年以下の懲役若しくは百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。

千葉地方裁判所平成29年07月13日
 上記被告人両名に対する各児童福祉法違反被告事件について、当裁判所は、検察官竹内穣、被告人Y1の私選弁護人柳原悠介、被告人Y2の国選弁護人永田豊各出席の上審理し、次のとおり判決する。

主文
被告人両名をそれぞれ懲役1年6月及び罰金50万円に処する。
被告人両名においてその罰金を完納することができないときは、金5000円をそれぞれ1日に換算した期間、その被告人を労役場に留置する。
被告人両名に対し、この裁判が確定した日から3年間、それぞれその懲役刑の執行を猶予する。

理由
(罪となるべき事実)
 被告人両名は、いずれも一般社団法人「A会」(以下「A会」という。)の理事として、そのウェブサイトを利用して特別養子縁組を希望する養親及び実親を募っていたものであるが、共謀の上、成人及び児童のための正当な職業紹介の機関ではないのに、営利を目的として、特別養子縁組の養親となることを希望し前記ウェブサイトの「養親(育ての親)申し込みフォーム」に登録をしたB(以下「養親希望者」という。)及び自己が出産する予定の子を特別養子縁組の養子とすることを希望し前記ウェブサイトの「妊婦・実親(産みの親)申込フォーム」に登録をしたC(以下「実親」という。)との間で特別養子縁組をあっせんしようと企て、平成28年4月11日、養親希望者に優先して養子をあっせんするとの趣旨で養親希望者から被告人Y2名義のD銀行株式会社E支店の普通預金口座に、あっせん料総額225万円のうち100万円の振込みを受ける一方、被告人Y1が、同日、F市(以下略)H店において、実親から出産予定の子の特別養子縁組のあっせんを「A会」に専属的に依頼するとの内容の委任状の交付を受け、被告人Y2が、同月29日及び翌30日、I市(以下略)当時の被告人Y2方(以下「被告人Y2方」という。)において、同所に設置されたパーソナルコンピュータから、インターネットを利用して、養親希望者が使用する携帯電話機に、「残り金額125万を振り込んだら確定となります」「6月上旬出産で神奈川です。順調にすんで、検診も問題ないです。」「良かったら契約書に判をして、1週間以内に残金振込みになりますがいかがでしょうか?」などと記載したメッセージを送信するなどして、養親希望者に、養子となる者として実親が出産する予定の子を紹介し、養親希望者がこれを承諾するや、同月30日、被告人Y2が、被告人Y2方において、その使用するスマートフォンから、アプリケーションソフト「J」を利用して、実親が使用する携帯電話機に、「本日、ほぼ決まりました。明日 最終契約します。」と記載したメッセージを送信するなどして、実親に、養親希望者を出産する予定の子の養親となる者として紹介した上、同年5月1日、被告人Y1が、千葉県K市(以下略)の「A会」事務所(以下「A会事務所」という。)において、養親希望者との間で、特別養子縁組あっせん契約を締結するとともに、残金125万円のうち現金100万円の交付を受け、さらに、同月4日、被告人Y1が、A会事務所において、養親希望者から、更に現金25万円の交付を受け、同年6月19日、F市(以下略)助産院「L」において、被告人Y2が、養親希望者に対し、実親が出産した子を引き渡し、もって成人及び児童のための正当な職業紹介の機関以外の者が、営利を目的として、児童の養育をあっせんする行為をしたものである。
(証拠の標目)
(法令の適用)
 被告人両名の判示所為は刑法60条、児童福祉法60条2項、34条1項8号に該当するところ、所定刑中懲役刑及び罰金刑を選択し、その所定刑期及び金額の範囲内で被告人両名をそれぞれ懲役1年6月及び罰金50万円に処し、被告人両名においてその罰金を完納することができないときは、刑法18条により金5000円をそれぞれ1日に換算した期間、その被告人を労役場に留置し、情状により同法25条1項を適用して、被告人両名に対し、この裁判が確定した日から3年間、それぞれその懲役刑の執行を猶予し、訴訟費用(被告人Y2の国選弁護人に関する分)は、刑訴法181条1項ただし書を適用して被告人Y2に負担させないこととする。
(量刑の理由)
1 本件は、営利目的による特別養子縁組あっせん事業の初の検挙事案として広く報道され社会的な関心を引いたものであり、被告人らが、インターネットを利用したビジネスとして展開しようとした点に現代的な特徴がある。
  児童福祉法は、成人及び児童のための正当な職業紹介の機関以外の者が、営利を目的として、児童の養育をあっせんする行為を禁じ(同法34条1項8号)、これに違反した者は懲役刑等に処せられる(同法60条2項)。この立法趣旨は、営利を目的としてあっせんすることを許すと、人身売買的風潮を助長し、児童の人権を無視することになりやすいからである。児童福祉法のこれらの規定を受け、厚生労働省雇用均等・児童家庭局長通知である「養子縁組あっせん事業の指導について」(平成26年5月1日雇児発0501第3号)及び同省同局家庭福祉課長通知である「養子縁組あっせん事業を行う者が養子の養育を希望する者等から受け取る金品に係る指導等について」(平成26年5月1日雇児福発0501第5号)が都道府県知事等にあてて発出され、事業者が養親の希望者等から受け取ることのできる金品について指導する際の留意点を明記し、養子縁組あっせん事業の適正かつ円滑な運営の実現が図られていた。
2 しかるところ、被告人両名は、インターネット上にマッチングシステムを作成して特別養子縁組あっせん事業を手広く行えば利益につながると目論み、行政担当者から上記通知等に基づく指導を受け、養子縁組あっせん行為を営利目的によって行うことが禁止されていること、業として行う場合には社会福祉事業として良質なサービスを提供しなければならないことなどを十分知悉していたにもかかわらず、ウェブサイトを立ち上げ、募集に応じた養親の希望者の中から、養親としての適格性ではなく、自分たちへの支払いを確保する都合上その年収の額を、トラブルを回避する都合上おとなしそうな人柄を重視して養親希望者を選別し、実親からは「A会」に専属的にあっせんを委任する旨の委任状を徴取して養子となるべき子の確保を図るなどして、マッチングの効率性を第一とする一方で、社会福祉士等の配置など必要な人的・物的体制を整えず、養親希望者や実親に対して行われるべき諸々の専門的な調査や相談支援を実施していないのに、実費と称して金額の根拠や使途の明らかでない総額225万円もの金員を養親希望者から徴収したのである。このようなあっせん行為からは、被告人らにおいてもっぱら自分たちの利得を目的として行い、児童の福祉に対する配慮など一顧だにしていなかったことが明らかで、児童福祉法の理念や規定に真っ向から反し、養子縁組あっせんを希望する養親希望者や実親を食い物にした誠に身勝手で悪質な行為というほかない。
  次に、各被告人が果たした役割をみると、被告人Y2は、特別養子縁組あっせん事業を発案して被告人Y1を誘い込み、事業の方向性の決定権限を有し、得意としていたウェブサイト作成を手掛けるなどしており、本件の主導者というべきである。また、被告人Y1も、その経歴から福祉事業の前面に立てなかった被告人Y2に代わって「A会」の代表理事に就任し、行政機関への対応や提出書類の作成、養親希望者との間での契約書の作成を行うなどして、本件犯行に不可欠な役割を果たしている。このような被告人両名の役割分担に照らすと、被告人Y2とY1は、得手不得手を補い合うパートナーであり、その責任の程度に量刑を左右するほどの差異をつけがたい。
3 以上によれば、被告人両名の刑事責任はいずれも軽視できず、懲役刑を選択するとともに、被告人両名がそれぞれ利欲的な動機から主体的に本件犯行に関与していることからして、この種事犯が経済的に見合わないことを知らしめるために罰金刑を併科することが相当であり、各弁護人が指摘するように、結果として収益を得られなかったことは、罰金刑の併科を不当とする事情には当たらない。
  その上で、実親が出産した子が養親希望者に引き渡されて間もなく、弁護士の介入によって実親の元に戻されたこと、被告人両名が事実関係を認めていること、被告人両名に前科前歴がないこと、家族がそれぞれ情状証人として出廷し、今後の監督を誓約していることなどの被告人らに有利な情状も考慮し、被告人両名に対しては、主文の懲役刑及び罰金刑を科した上で、その懲役刑の執行を猶予するのが相当と判断した。(求刑 被告人両名につき、懲役1年6月及び罰金50万円)
刑事第1部
 (裁判長裁判官 髙木順子 裁判官 佐藤傑 裁判官 津田葉月)