陰核陰茎形成術・造膣術と強制性交等罪
前法務省刑事局付最高検察庁事務取扱検事岡田志乃布「刑法の一部を改正する法律について」〔警察学論集第70巻第10号〕
なお、ここでいう「陰茎」及び「膣」は、基本的には、医学的な意味での「陰茎」及び「膣」を指す。もっとも、強制性交等罪の保護法益が性的自由ないし性的自己決定権であることや強制性交等罪において「性交等」を重く処罰する趣旨を踏まえると、個別の事案によるものの、性別適合手術により形成された「陰茎」又は「膣」であっても、生来の「陰茎」又は「膣」と実質的に変わりがないということができる場合もあり得ると考えられる6)。そして、そのような場合には、性別適合手術により形成された「陰茎」を膣等に入れる行為や、同手術により形成された「膣」に陰茎を入れる行為も、本条による処罰の対象となり得ると考えられる。6)例えば、性同一性障害の治療として、立位排尿を行うことを目的とした陰核陰茎形成術や、尿道を延長した上で行う陰茎形成術があるところ、陰核陰茎形成術によって形成されるミニペニスは、外観は生来の陰茎とは異なっており、通常、膣や肛門に挿入することは困難であるとされ、他方、陰茎形成術によって形成された陰茎は、その術式により陰茎に知覚、性感を得ることができるものがあるほか、形成される陰茎に肋軟骨やシリコンロッドなどの支持組織を埋め込み、膣などに挿入することが容易となっているものがあるとされる。また、陰部女性化手術のうち造膣術には複数の術式があるところ、いずれの術式によっても、外観は女性生来の膣に近似しているとされ、形成される膣に陰茎を挿入することは可能であるとされる(法制審議会刑事法(性犯罪関係)部会資料30「性同一性障害者の治療」(岡山大学病院ジェンダーセンター長教授難波祐三郎ほか1名作成)参照)。