児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者性交・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録記録被告事件弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 hp@okumura-tanaka-law.com)

性犯罪・福祉犯(監護者性交罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

眞田寿彦「連続的な犯罪と告訴の及ぶ客観的範囲~名古屋高裁金沢支判平成24年7月3日高等裁判所刑事裁判速報集平成24年201頁を題材に~」警察学論集70巻09号

 保護法益が性的自由で、強制わいせつ罪(176条後段)が1回1回併合罪になっているのだから、2件あるのだから、告訴も2つ取っておくというのは常識

判例番号】 L06720332
       強制わいせつ,傷害,準強姦被告事件
【事件番号】 名古屋高等裁判所金沢支部判決/平成24年(う)第19号
【判決日付】 平成24年7月3日
【掲載誌】  高等裁判所刑事裁判速報集平成24年201頁
       LLI/DB 判例秘書登載
【評釈論文】 警察学論集65巻11号175頁
       警察公論67巻10号88頁
       研修773号17頁
       創価法学43巻1号145頁
       法学新報122巻3~4号241頁
       刑事法ジャーナル35号177頁

1 事案の概要
被告人甲は
第1 平成23年6月24日午後l1時40分頃、某市内のビジネスホテル310号室において、被害者A(当時10歳)に対し、自己の陰茎を口淫させるなど強いてわいせつな行為をした(以下「第1事実」という。)
第2 同月25日午後10時40分頃、前記ホテル404号室において、Aに対して、自己の陰茎を口淫させるなど強いてわいせつな行為をした(以下第2事実という。)
という、同一の犯人が連続する2日間にわたり同一の被害者に対して敢行した強制わいせつ事件3)である。
2告訴に至る経緯
甲は、被害者A及びその姉Bの実母である乙と交際していたが、次第にA・Bを性的な対象として考えるようになり、乙にも協力させ、逮捕時までの数年間にわたり、A・B両名に対しわいせつ行為等を繰り返していた。
A・Bの両名は、同居する母親乙の助けを得るどころか、乙からも甲のわいせつ行為等の相手となるように指示されるなどしていたことから、いずれも当初はその被害に耐えていた。しかし、度重なるわいせつ等の行為に耐えかねたBが第三者に被害を告白したことを契機に事件が発覚し、通報を受けた警察が児童相談所と協力して直ちにA・B両名を保護するとともに、Bに対する罪で甲・乙両名を逮捕し、捜査した結果、関係者の供述により、前記のとおり、甲がAに対しても繰り返しわいせつ行為を行っていたことが判明した。
警察では、Aに対する関係では、直近かつ最終の被害であって、裏付け捜査を含む事実関係の解明作業が比較的容易に進行しつつあった第2事実から立件送致することを企図し、Aの唯一の法定代理人であった乙が甲の強制わいせつ罪全般につき共犯者として捜査の対象(被疑者) とされていたため、刑事訴訟法232条により、Aの祖母であるCに被害状況を説明し、同人から告訴状を徴求した。
なお、Cは、A・Bらとは別居しており、警察から連絡を受けるまでは、甲がA・Bに対してわいせつ行為等をしていた事実を全く知らなかった。
3判示内容(本稿に関連する部分のみ抜粋。ただし、人名、犯行日時等については本稿のそれと統一した表記に置き換えている。)
Cが本件告訴状を作成した同年(平成23年) 7月18日以前に作成されている被害者の警察官調書によれば、既に被害者への同月16日の事情聴取等の結果、被告人甲が、被害者の実母である乙と共謀して、被害者に対する第1事実及び第2事実の各強制わいせつ行為に及んだという嫌疑が警察官に発覚するに至っていたものである上、Cの警察官調書によれば、警察官がCに被害者に対する本件被害状況を説明して、親権者である乙の告訴権行使が不可能であることを理由に、Cに告訴状の作成を求めたというのであるから、警察官及びCが被害者に対する前記両事実についての告訴を念頭に置いていたのであれば、本件告訴状に両日の被害について告訴する記載がなされているのが自然であるのに、実際にはあえて同年6月25日ころにわいせつ行為を受けたという被害事実に限定して記載がされていることに照らすと、本件告訴状による告訴は、第2事実についてのものと解する
のが相当であって、第1事実についてまで告訴意思を表示しているとみることはできない。所論は、Cの前記検察官調書には、Cが本件告訴状作成当時の気持ちについて、第2事実以外でも被告人が被害者に対してわいせつな行為をした事実があるのであれば、当然その事実についても処罰してほしいと思っていた旨の記載がされているというが、その記載からは、Cが本件告訴状を作成した当時には、第2事実以外の被害については認識していなかった事実が推認されるのであって、前記判断を左右するものではない。


Ⅲ問題の所在
孫に対して2日間連続して行われた各強制わいせつ行為につき、孫が捜査における取調べや公判における証人尋問を受けることによって更にその心身に大きな負担を受けることには耐えられないとして、告訴は一切しないという判断はあり得たかもしれない。しかし、2日目の強制わいせつ行為については処罰を求めつつ、初日の強制わいせつ行為については処罰を求めないという判断は通常考え難い。現に、Cは、本件告訴状による告訴をした当時からいずれのわいせつ行為についても処罰を求める意思であった旨明確に述べ、本判決でも述べられているように、その旨録取された検察官調書4)が証拠としても採用されていたのである。それにもかかわらず、文言上も告訴対象を第2事実(2日目の強制わいせつ行為)に限定したとは必ずしも解されない本件告訴状5)による告訴につき、第1事実(初日の強制わいせつ行為)について告訴意思を表示したものとは解されないとして同事実に対する告訴の効力を改めて否定した本判決の結論には大きな違和感を覚える6)。
告訴状に係る前記解釈は本件限りの事例判断であったとしても、本件は、同一の犯人が、連続する2日間に、同一の被害者に対して、同一のホテル内で同じような態様のわいせつ行為を行っていた事案であることから、包括一罪と評価される余地も十分にあった。仮に包括一罪と評価された場合には、証拠関係は全く同一でありながら、Cの告訴の効力は第1事実にも及ぶという結論になったものと考えられる7)。
実務的には、同一の犯人によって同一の被害者に対し同一の態様で連続的に敢行された犯罪について、その罪数を併合罪と評価するか包括一罪と評価するか判断が微妙な事案が多数存在し、その区別の基準について明確なものがあるとは言い難い8)。そのような中で、この微妙な罪数評価によって告訴の存否、ひいては訴訟条件の存否が決せられるという結論が果たして妥当なのであろうか。
この同一犯人による同一被害者に対する同一態様の連続的な犯罪のように微妙な罪数評価を伴う事案においては、訴訟条件の存否をめく.って実務上非常に悩ましい問題が生じている。そこで、本稿では、訴訟条件のうち、まずは告訴の及ぶ客観的範囲の問題につき、罪数論と手続法との関係を踏まえつつ、現実的妥当性を有する結論を導くことができないのか検討することとする9)。