児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者性交・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録記録被告事件弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 hp@okumura-tanaka-law.com)

性犯罪・福祉犯(監護者性交罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

強制わいせつ罪につき「私的な情報を教えてもらい、男性が好意を抱かれていると誤信した可能性がある」として無罪とした事例(名古屋地裁h29.9.5)

https://mainichi.jp/articles/20170906/k00/00e/040/001000c
「自分に好意を抱いていると誤信した可能性があり、女性の意思に反していたとまでは言えない」として無罪を言い渡した。検察側は懲役2年を求刑していた。
 判決理由で田辺三保子裁判官は「女性は隣に座った男性に名前や勤務先を教えており、周囲に助けも求めなかった」と指摘した上で「私的な情報を教えてもらい、男性が好意を抱かれていると誤信した可能性がある」と結論付けた。(共同)


 サイトで知り合った男性を自宅上げると、承諾ありと誤信するのもやむなしという判決があります。田邊三保子裁判長東京地裁h28.318

強制わいせつ被告事件東京地方裁判所判決平成28年3月18日
【掲載誌】  LLI/DB 判例秘書登載

       主   文
 被告人は無罪。
       理   由
第1 公訴事実の要旨
 本件公訴事実の要旨は,①被告人は,□□□□□(当時23歳,以下「A」という。)に強制わいせつ行為をしようと考え,平成27年4月12日午前3時頃から同日午前4時頃までの間,東京都□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□A方において,Aに対し,「おまえに断る権利なんかない。」「そういう態度をとるならそれなりの対応をする。」「おとなしく言うことをきけば何もしない。」などと申し向けて,被告人の要求に応じなければAの身体名誉等に危害を加えかねない気勢を示して脅迫し,同人の腰に手を回して身体を押さえ付け,その着衣を脱がせて,ベッド上に押し倒すなどの暴行を加えて,その反抗を困難にさせた上,同人の乳房をなめるなどし(以下「第1事件」という。),②被告人は,□□□□(当時30歳,以下「B」という。)に強制わいせつ行為をしようと考え,平成27年4月19日午後8時50分頃から同日午後9時25分頃までの間,さいたま市□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□被告人方において,Bを布団上に押し倒して,その着衣を脱がせ,その頭部を押さえ付けるなどの暴行を加えて,その反抗を困難にさせた上,その陰部に指を挿入して弄び,自身の陰茎を口淫させるなどした(以下「第2事件」という。)というものである。
第2 被告人の供述及び弁護人の主張
 被告人は,公判廷において,第1事件について,Aに対し説教をしたことはあったが,脅迫はしていない,Aは着衣を自ら脱いでおり,Aの身体を押さえ付けたり,ベッドに押し倒したりはしていない,Aの乳房を舐めたことはあったが同意があった,第2事件について,Bを押し倒したり,着衣を脱がせたり,頭部を押さえ付けたりはしていない,Bの陰部を指で開いたり,口淫をしてもらったことはあるが,いずれも同意があったと供述する。これを受けて弁護人も,第1事件については,Aに暴行及び脅迫を加えたことはなく,わいせつ行為に関してはAの同意があった,仮にわいせつ行為等に関するAの同意がなかったとしても,被告人はわいせつ行為等についての同意があると誤信していた,第2事件については,Bに暴行を加えたことはなく,わいせつ行為に関してはBの同意があった,仮にわいせつ行為等に関する同意がなかったとしても,被告人はわいせつ行為等についての同意があると誤信していたから,被告人はいずれも無罪である旨の主張をする。
第3 第1事件について
1 関係各証拠から認定できる事実
 関係各証拠によれば,以下の事実が認定できる。
(1) Aと被告人は,ビジュアル系バンドの愛好者が利用するインターネット上の掲示板のうち,「こんな人いたら神」という,利用者同士が望む条件であれば実際に会うことを目的としたスレッドで知り合った。当該スレッドでは,食事やカラオケを目的とする書き込みが見られるほか,性交や援助交際を目的とする書き込みが存在した。Aは,平成27年4月10日(以下特段の記載がない限り,日付は平成27年のものを指すものとする。),「明日の夜会える性格落ち着いてる長身麺さんいましたら!@小柄細身色白ぎゃ」と書き込んで相手を募集し,被告人は同日当該募集に応え,Aと被告人の連絡が開始された(なお,かかる書き込みにいう「麺」とは,ビジュアル系バンドをしている男性を,「ぎゃ」とは,ビジュアル系バンドを好む女性をそれぞれ意味する。)。その後,Aと被告人は,互いに携帯電話のアプリを用いてメッセージを送り合ったり,アプリの通話機能を用いて通話をするなどして,待ち合わせの時間及び場所に関するやり取りをし,同月11日午後10時30分頃,待ち合わせ場所であった駅(以下「C駅」という。)で落ち合った。
(2) 被告人は,Aとカラオケ店へ行くなどした後,同日午後11時52分頃から54分頃までの間に,路上において,Aの顔を含む上半身の写真をAに無断で6枚撮影した。その後,Aは,被告人の後を追うように歩いたが,同月12日午前0時10分頃,C駅付近にあるコンビニエンスストアに立ち寄り,同店の店員に対し,「警察に通報してください。」「外を見ないでください。」というようなことを言い,30秒あまりで店を出たが,同店員は,なぜ通報するのか事態を飲み込むことはできず,警察への通報は行わなかった。被告人は,このときコンビニエンスストアの外から店内の様子を見守るなどしていた。
(3) Aは,同日午前0時16分頃,別のコンビニエンスストアに寄った。そして,Aと被告人は,同日午前0時48分頃,A方があるマンション内に入り,被告人は,同日午前11時35分頃,同マンションを後にした。
(4) Aは,同日午前11時41分頃,男性の友人に対し,「恥は承知なんやけれども聞いてほしいことがあって,時間あるときに聞いてほしい。。。 変な人に脅されてて言うこと聞かないといけない状況になってしまいつらい」と連絡した。被告人は,同日午後4時16分頃から午後5時54分頃までの間,Aに対し,「あのあとまた寝たの?」「寝たら頭射たいのなおた?」等とメッセージを送信した。Aは,同日午後6時13分頃から同月13日午前0時頃まで前記友人とドライブに出かけ,その際,出会い系サイトで出会った男性と御飯に行く約束をしたが,男性の約束についての認識との食い違いから男性と口論になり,男性にA方まで来られたと告げた。
(5) Aは,同月13日午後2時30分頃,警察に行き,ストーカー被害に遭っている旨告げ,その後わいせつ行為を受けた旨の被害申告をした。
2 A及び被告人の供述について
(1) Aの供述内容
ア Aは,被告人からA方で会わないかという提案を受けたが,初対面の人を家に入れることには抵抗があったのでA方で会うことは断り,C駅近くの飲食店などで食事をしようと考え,待ち合わせのためにAの携帯電話番号を被告人に教えた。
イ Aは,被告人と合流し,被告人の提案で一緒にカラオケ店へ行ったところ,被告人に太ももを触られたり,事務所に所属してバンドをしているという被告人の話に疑問を持ったりしたことから,被告人にうそをつく人は信頼できないことや被告人の顔が好みでないことを告げ,帰宅する旨を伝えた。これに対し,被告人は怒り出し,元々家に行く約束だったなどとAを責めた。
  Aと被告人はカラオケ店を出て歩いていたところ,Aが自宅に来ないよう被告人に何度か告げ,これに対して被告人は,「それなりの対応をする。」「こっちにも考えがある。」というようなことを言った。Aは,これまでインターネット上の掲示板において相手の個人情報を掲載する,いわゆる晒し行為を見た経験があったことから,被告人の発言やいきなり怒り出す様子を受けて,被告人が自分の個人情報について晒し行為を行うかもしれないと考え,心配になった。その後被告人が携帯電話を不自然に高い位置で持っていたことがあったため,Aは,盗撮されているのではないかと心配になり,被告人に対し,「写真撮ってますか。」と尋ねたところ,被告人は,「撮っていない。」と言った。Aは,交番に行って助けを呼ぼうと考えたが,被告人が違う方向に歩いて行ったため,被告人の後を追いかけた。Aは,助けを呼ぶためコンビニエンスストアに入り同店の店員に対し付きまとわれているので警察の人を呼んでほしい旨を告げて店外に出たところ,店外でAを待っていた被告人が「余計なことをするとこっちにも考えがある。」「それなりの対応をする。」などとAに対し告げてその場を立ち去ったため,被告人の後を追いかけた。さらにAは,別のコンビニエンスストアに入り,トイレの中から携帯電話で警察に通報しようとしたが,携帯電話の電池が切れていたため通報できず,コンビニエンスストアを出た。その後,Aと被告人は別のコンビニエンスストアに行き,被告人は外にAを待たせて同店に入り,Aと被告人はA方へ到着した。
  カラオケ店からA方に移動するまでの間,被告人はAの態度や性格について何度も怒鳴るなどしていた。
ウ 被告人は,A方においても,1時間から2時間程度Aの態度や性格を責め,Aは泣いて反論したが,被告人に屁理屈で言い返され反論できなくなった。その後,ベッドに座っていた被告人は,Aを被告人のひざの上に向かい合って座るように言い,拒否したAに対し,「お前には断る権利はない。」「そういう態度を取るならそれなりの対応をする。」「余計なことをしなければ,こっちからは危害は加えない。」などと言ってAの態度を責め,恐怖を感じたAは被告人のひざの上に向かい合って座った。被告人は,被告人のひざの上に向かい合って座っていたAの腰を被告人の手で被告人のひざの方に押さえつけてAが離れられないようにしてキスをした上,Aをベッドの上に押し倒し,Aのワンピースとキャミソールを脱がし,ブラジャーを外して,胸を触ったりなめたりした。Aは,この間,「やめてください。」などと言ったり,被告人の体を押し返したり,被告人の膝に乗せられる状態から何度も離れたりして,泣きながら必死に抵抗し,さらにAがカンジダに罹患していることを告げたところ,被告人はわいせつ行為をやめた。
  Aと被告人は同じベッドで,Aの頭の方向が被告人の足の方向になるような態勢で,Aが壁側,被告人が床側の位置で横になった。
エ 4月12日午前9時頃,Aは,目覚めた被告人から誘われ一緒にゲームをするなどした。Aは,被告人に早く帰ってもらいたかったため,体調が悪い旨を伝え,被告人は昼頃A方から帰った。
(2) 被告人の供述内容
ア 被告人は,これまで当該掲示板に「会いたい」と書き込んでいる女性と性的接触ができていたことから,Aの書き込みを見て,Aと口淫や性交を含む性的接触をすることができると考え,Aに連絡を取った。
  Aは,被告人との通話の中で,交際相手に振られて落ち込んでいるからなぐさめてほしい,自宅で料理を作ると言ったため,被告人はA方で一緒にご飯を食べることを提案し,Aは「そうですね。」と答え,被告人はA方に行ってもよいという意味だと解釈した。なお,被告人は,Aとの通話の中で,Aの姓は聞いていなかったが名は聞いた。
イ 被告人とAはC駅で待ち合わせをした上,カラオケ店に入った。Aは,カラオケ店から出た後,態度が急に冷たくなり,使えない人だ,歌のテンポがずれている,顔がタイプではないなどと告げ,「家に行くのはどうしようかな。」と言った。これに対し,被告人は,もう帰るつもりで,「今回Aさんがなぐさめてほしいというふうに言ってきたのに,人のことをばかにしたりとか家に行くことをドタキャンしようとしてくるなんて,性格悪いよね。」「そういう,人を物扱いするような失礼な対応をするなら,こっちにも考えがある。」などと厳しい口調で言い,駅の方へ歩き出そうとした。すると,Aは被告人の手首をつかみ,「どこへ行くんですか。」と聞き,Aの手を振り払って駅の方へ歩き出した被告人の後をついてきて,「今日は何か自分勝手なことばかり言ってごめんなさい。」と何度も謝ったため,被告人は帰宅するのをやめた。なお,このとき被告人は,後で裁判沙汰などになったときのためにAに伝えずにAの上半身の写真を撮影した。
  被告人は,A方に行ってはいけないとAから言われておらず,Aは渋々ながらも了承している様子であると感じていたため,A方に行った。
ウ 被告人は,A方でAの学生時代の元交際相手について相談を受け,Aに振られる原因があったのではないかとAに説教をしたところ,Aは少しだけ涙目になり落ち込んでいる様子になったため,A方の家賃が高いのではないかと話題を変えた。Aが「そうですね,けっこうきついですね。」と答え,被告人は,「2万円あったら,イチャイチャしてくれる。」と尋ねたところ,Aは無言でうなずいた。被告人はこのときに初めて性的接触の対価の話をしたが,それは元々お金を払わなくても性的接触ができると考えていたためであった。被告人は,Aの顔に自身の顔を近づけたところ,Aが嫌だと言わなかったので,Aと互いにベッドの上に座り向かい合った状態でキスをし,Aの胸を触った。Aは,被告人が手伝うなどしながら,ワンピースとブラジャー,ストッキングを脱いだ。さらに,被告人は,Aとキスをしながら胸を触るなどし,この際,Aは「恥ずかしい。」「緊張する。」などと言い,積極的ではなかったものの,嫌がっている様子はなかった。被告人とAがベッドで横になった後,被告人はAの胸をなめ,手をAの臀部に伸ばしたところ,Aが「下はカンジダだからだめです。」と言い,さらにAのパンツを脱がせようとしたところ,Aが拒絶したため,Aのパンツを脱がすことをあきらめた。被告人は,Aに口淫を何度か要求したが,Aが断ったためAとこれ以上性的接触をすることをあきらめた。
  その後,被告人とAは同じベッドで,Aの頭の方向が被告人の足の方向になるような態勢で眠った。
エ 翌朝目覚めた被告人はAを誘い一緒にゲームをするなどした。被告人は,Aに2万円を支払うよう言われたが,Aが口淫すらしてくれなかったことから,2万円を支払うことはできないと答えたところ,Aに無言でにらみつけられた。被告人は,「Aから何かしてこない限りは,こっちも何もしない。」と告げ,A方を後にした。
(3) A及び被告人供述の信用性
ア Aの供述は,被告人が初対面の男性であったことや被告人のカラオケ店での態度などから自宅に上げることを嫌がっていたAが,被告人から「それなりの対応をする。」「こっちにも考えがある。」などと言われたことなどから,インターネット上に個人情報が晒されるリスクを恐れ,被告人の要求を強く拒否できなくなり,コンビニエンスストアの店員に助けを求めるなどしたが奏功せず,結局被告人を自宅に連れてきてしまい,不本意ながらもわいせつ行為をされてしまったというもので,その一連の経緯に特段不自然とまでいうべき点はなく,その供述内容もコンビニエンスストアに設置された防犯カメラの映像や同店の店員及び直接にAから相談を受けた友人の供述,被害申告をした事実などと整合するものである。確かに,Aが,C駅の交番に赴かなかった,コンビニエンスストアの店員や客,路上の通行人らに事情を説明するなどして助けを求めなかった,A方の場所を知らない被告人を結果的にA方まで案内した,A方に入ってからも110番通報をしなかったという点は,被告人の性的接触を容認していなかったとすれば不可解な言動とも考えられるが,そのような行為に出なかったということも,被告人の行動に恐怖を感じ,混乱していた状況下においては十分理解し得ることであって,Aの供述の信用性を全面的に否定するものではないから,Aの供述は大筋では信用できるというべきである。
  しかし,Aがカンジダに罹患していたことを被告人に伝えたところ被告人がAへの性的接触をやめるに至ったという供述は,第3回及び第4回公判期日での証言時には供述せず,第6回公判期日における被告人質問での同趣旨の被告人供述を受けて,第7回公判期日におけるAの証人尋問に至って初めて供述したものである。これに加え,被告人が胸を触った後下着を脱がそうとしたことなどの供述は,他にも被害者がいるということを聞かされた後の検察官の取調べにおいて初めて明らかにした事実であることからすれば,A方におけるAと被告人の言動に関するAの供述は,供述の機会を増すごとに詳細の度も増しており,このような供述経過や,Aは被告人の言動を受けて多少なりとも動揺していたと考えられることからすれば,A方におけるAと被告人の言動に関するAの供述が細部に至るまで全面的に信用できるのかについては疑問が残る。
  そうすると,Aの供述は基本的に概ね信用でき,大要Aの供述通りの事実が認定できるものの,A方におけるAと被告人の言動に関する点は細部に至るまですべてAの供述のとおり直ちに認定することは困難といわざるを得ない。
イ C駅付近からA方に向かう際のAと被告人の行動に関する被告人の供述は,大筋において関係各証拠やAの供述とも整合している部分が少なくなく,全ての点において,殊更に虚偽を述べているものとまでは認められない。しかし,後述するように,明らかに不合理な内容を述べている点などもあり,これらについては,必ずしも被告人供述のとおり認定することはできない。すなわち,元々被告人がA方に来ることをAが了承していたとする点は,Aと被告人が待ち合わせてからすぐにA方に向かうなどの行動に出ていないことや,カラオケ店を出てからも1時間弱の時間をかけてA方に向かっており,途中立ち寄ったコンビニエンスストアではAが店員に警察への通報を依頼していることと整合しない。また,Aと被告人との間に援助交際の合意があったとする点について,被告人の供述を前提にすると,C駅付近からA方まで行くまでの間Aと被告人とは険悪な雰囲気にあったにもかかわらず,A方に至るまで援助交際の話は全く出ず,A方において家賃の話などをきっかけとして援助交際の話が突然出てきて,Aと被告人が具体的な援助交際の内容を定めず,Aは口淫も性交も行わないつもりであったにもかかわらず2万円という対価で援助交際の合意をし,後に援助交際の内容を巡ってトラブルが生じたということになるが,これら援助交際の経緯や内容は不自然極まりないものである。そうすると,Aと被告人との間の事前の約束の内容に関する被告人供述は信用できず,被告人が供述するようにAが積極的に性的接触に応じていたとは認められないから,A方におけるAと被告人の行動に関する被告人供述も信用できない。
ウ そこで,これらのA及び被告人の供述並びに関係各証拠に照らして,本件において認定できる事実関係の経過は,大要以下のとおりである。
  Aは,被告人との通話中にA方で会わないかという提案を断り,後に被告人と合流して,カラオケ店に行った。カラオケ店において,Aと被告人は険悪な雰囲気になり,互いに言い合いになった。C駅付近を歩いていた際,Aは自宅に来ないよう被告人に何度か告げ,これに対して被告人は,「それなりの対応をする。」「こっちにも考えがある。」というようなことを言い,Aから離れる方向に歩きだし,Aはその後を追った。途中,Aはコンビニエンスストアで同店店員に警察への通報を依頼するなどし,被告人はAの性格等を責めるなどしながら,Aと被告人はA方に到着した。被告人は,この時点で,Aの電話番号,住所,Aの姓名のうちAから言われた名を知っており,Aの上半身を盗撮した写真を所持し,Aも自分の写真を撮られたかもしれないと感じていた。被告人とAはA方においても言い合いを続け,被告人のひざの上に向かい合って座るという申し出を拒否したAに対し,「お前には断る権利はない。」「そういう態度を取るならそれなりの対応をする。」「余計なことをしなければ,こっちからは危害は加えない。」というようなことを言ってAの態度を責め,結局Aは被告人のひざの上に向かい合って座った。被告人は同態勢のAの腰を被告人の手で被告人のひざの方に押さえつけてAが離れられないようにしてキスをした上,Aをベッドの上に押し倒し,Aの服を脱がして,胸を触ったりなめたりした。Aは被告人のわいせつ行為に対し,多少なりとも抵抗を示し,さらにカンジダに罹患していることを告げたところ,被告人はわいせつ行為をやめた。その後,Aと被告人は同じベッドで横になった。被告人は,翌朝A方内でAを誘って一緒にゲームをするなどし,A方を出た。
3 強制わいせつ罪の構成要件該当性について
 強制わいせつ罪における脅迫・暴行は,わいせつ行為を行うに必要な程度に抗拒を抑制する程度・態様の脅迫・暴行を要すると解される。被告人は,C駅付近からA方に向かう際,Aに対して,「それなりの対応をする。」「こっちにも考えがある。」というようなことを述べ,A方においても,Aの態度等を責めるなどした状況下で,「お前には断る権利はない。」「そういう態度を取るならそれなりの対応をする。」「余計なことをしなければ,こっちからは危害は加えない。」というようなことを述べ,被告人のひざの上に向かい合って座っていたAの腰を被告人の手で被告人のひざの方に押さえつけてAが離れられないようにしてキスをした上,Aをベッドの上に押し倒したことが認められることからすれば,そもそもC駅付近からA方に向かう際に被告人の発言を受け不安に思っていたAが,A方において,更なる被告人の発言に接し,被告人による晒し行為を怖れることも十分あり得ることであって,かかる被告人のA方における行為は,客観的にみて,わいせつ行為を行うに必要な程度に抗拒を抑制する程度・態様の脅迫・暴行にあたる。確かに,上記各文言の内容自体は,Aの身体に危害を加えることや晒し行為を行うことを明示するものではなく,被告人がA方において有していたAの個人情報も,Aの住所や携帯電話番号,Aから告げられたAの名,Aの上半身の写真数枚にとどまっていたことからすると,被告人の発言が晒し行為をするという意思を明らかにしたものと直ちに解釈することはできない。しかし,Aはインターネット上の掲示板において,晒し行為を実際に見たことがあり,Aと被告人との関係も険悪になっていたことに加え,Aの住所や携帯電話番号,実際の名を被告人に知られており,Aの写真を被告人に撮られたかもしれないと思っていたことは認められる。そして,A方において被告人と二人きりの状態で上記発言を受けたことからすれば,Aが被告人から身体的な危害を加えられることや晒し行為を畏怖し,これに伴う前記暴行もあいまって,被告人のわいせつ行為を受け入れざるを得なくなったと認めることができる。被告人のAに向けた発言は曖昧ではあるものの,害悪の告知と評価でき,強制わいせつ罪にいう脅迫にあたることが否定されるものではない。
 さらに,Aの胸をなめるといった被告人の行為がわいせつ行為にあたることは明らかであるし,Aと被告人が1時間弱もの時間をかけてC駅付近からA方に向かい,Aが途中コンビニエンスストアに立ち寄り,同店店員に助けを求めていること,Aは被告人がA方を立ち去った直後にAの友人に対して相談を持ちかけていることからすれば,被告人のわいせつ行為について,Aの同意はなかったと認められる。
4 強制わいせつ罪等の故意について
 検察官は,被告人には強制わいせつ罪の故意も認められると主張する。しかし,以下のとおり,被告人に強制わいせつ罪等の故意があったと認定するには合理的な疑いが残るというべきである。
 Aが書き込みを行った掲示板には,性的な接触を求める書き込みが見られ,Aも自身の身体的特徴を挙げるなどして書き込んだことに加え,Aが被告人と会うことに応じたことからすれば,Aが被告人と通話をしていた中で被告人がA方に来ることを拒んでいたとしても,Aと被告人がC駅付近で会った時点で,被告人自身は,Aが被告人を含む他の男性との性的接触を容認していると受け止めていたといえる。
 確かに,Aと被告人とがカラオケ店に行った後,両人の関係が険悪になった事実は認められる。しかし,被告人が「それなりの対応をする。」「こっちにも考えがある。」と言ったのは,Aが被告人に対し,うそをつく人は信頼できないことや被告人の顔が好みでないこと,帰宅することを告げた後であって,Aと性的接触を行うことを期待していた被告人としては,Aの発言に腹が立って,反論するという意図でこれらの発言をした可能性があり,被告人とAとの間での単なる口論の一端と解する余地がある。そして,上記各文言の内容自体が,直接身体に危害を加えることや晒し行為を行うことを明示するものではなく,被告人がその後Aに対して強い暴行を加えていないことや,被告人が当時有していたAの個人情報は,Aの携帯電話番号,Aの姓名のうちAから告げられた本名かどうかはわからない名に過ぎず,これらの個人情報のみをインターネット上に晒す行為の報復や嫌がらせ等としての有効性には限度があると考えられることからすれば,被告人の認識として,Aに対して危害を加えたり晒し行為を行ったりするという意図があった,もしくはAに対して晒し行為を含めた危害を加えかねない気勢を示してAを脅そうという意図があったとまで認定するには,合理的な疑いが残るというべきである。
 そして,Aと被告人は1時間弱もの時間をかけてC駅付近からA方に向かっているものの,この間において被告人が前記文言でAを非難しつつ,一時は立ち去るそぶりをみせたにもかかわらず,Aは被告人の後を追うなどしていたことも認められる。被告人はAがコンビニエンスストアの店員に通報依頼をしていたことやAが別のコンビニエンスストアにおいて携帯電話で110番通報をしようとしていた事実を認識していたとはいえない。このような状況下で,最終的にAが被告人をA方まで案内したことからすれば,被告人としては,一時は被告人とAとの関係が悪化したとしても,被告人の粘り強い説得によって,Aが最終的には被告人による性的接触を容認したという認識を抱いた可能性は否定できない。
 さらに,A方における被告人のAに向けた発言は,被告人が前述のAの個人情報に加えてAの住所やAの写真を所持していた状況を踏まえても,この段階に至っても晒し行為を実行することを明らかにする旨の発言ではなく,これまで被告人がAに対して言い続けてきた内容と同旨の発言に終始していたことからすれば,この時点における被告人の言動を,晒し行為を行う意図があって,もしくはそれを示す意図があって行った発言と認めるには合理的な疑いが残る。また,その後被告人の要求を再三断るAに対して,被告人は激しい暴行を加えるなどの行動に出ていないことからすれば,被告人にAの身体に危害を加える意図があったと評価することも困難である。そして,Aは,A方において被告人の行為に対して多少なりとも抵抗を示したことは認められるものの,認定できる事実によればAの抵抗がどれほど明示的で迫真的なものであったかは明らかでない。Aの供述を前提にしても,泣きながら抵抗を示すという様子などは多義的に捉え得るものであって,泣いていることを被告人が認識できない可能性や,それぞれの口論の延長での感情的な高ぶりのあらわれと受け取る可能性もある。また,抵抗の丙容は,「やめてください。」と何度も言う,被告人を押し返したり,被告人の膝の上から何度か降りるというもので,強い抵抗とまでは直ちに評価することも困難である。そうすると,被告人は,Aがかかる程度に抵抗する様子を認識していても,AがA方に被告人を案内したことから,最終的にはAが性的接触には同意しており,Aの抵抗のように見える言動もAの心の迷いや羞恥心などから生じたものと誤解する可能性は否定できない。被告人が強制わいせつ行為の後に,すぐにA方を立ち去るなどの行為に出ず,Aと同じベッドで睡眠を取り,翌朝に提案してA方でゲームをしたりして過ごしてからA方を後にし,その後Aの体調を気遣うかのようなメッセージを送信したという行動も,上記の誤信の可能性を裏付けるものである。
5 小括
 以上によれば,被告人の行為は,強制わいせつ罪の客観的構成要件に該当するものの,わいせつ行為に先立つ暴行・脅迫の時点において,被告人が性的接触についてAが同意していると誤信していた合理的な疑いが残る。これに加え,この程度の暴行についてはAに同意があると被告人が誤信していた合理的な疑いが残り,また,脅迫の意図があったと認定するにも合理的な疑いが残る。したがって,被告人には強制わいせつ罪はもとより,暴行罪及び脅迫罪も成立しないというべきである。
第4 第2事件について
1 関係各証拠から認定できる事実
 関係各証拠によれば,以下の事実が認定できる。
(1) Bと被告人は,ビジュアル系バンドの愛好者が利用するインターネット上の掲示板のうち,「はぐちゅーのみ」という,抱き合ったり,キスをする人を募集するスレッドで知り合った。Bは,4月16日,「今から会える麺さんいたら@巨乳ギャ」と書き込んで相手を募集し,被告人は同月17日当該募集に応え,Bと被告人の連絡が開始され,同月19日チャット上のやり取りで同日に会うことが決まった。
(2) Bと被告人は互いに携帯電話のアプリを用いてメッセージを送り合い,同日の午後7時頃から午後8時頃にかけて,以下のようなやり取りをした。Bが降車すべき駅がどこかを尋ねて被告人が答えないというやり取りが見られた後,Bが「じゃぁ帰る」「だってこわいもん」などと送っているのに対し,被告人は度々アプリの通話機能を用いて発信しながら,電話に出ないBに対し,「そういうのやめてよ。ずっと待ってたのに」「理由も不安にならないようにしっかり話したよ?理不尽すぎ」「本当は電車乗らず,移動してないっておちでしょ」「マジあり得ない。」「場所聞くだけ聞いて来ないとか,釣りするつもり満々だよね」などと送り,最終的にBは「釣りじゃないし」などと返事をし,被告人の発信に応えて被告人と通話した。
(3) Bは,同日午後9時42分頃,「はぁー最悪だー」とネット上に書き込んだ。
  Bは,警察から連絡を受けて,5月14日に告訴した。
2 B及び被告人の供述について
(1) Bの供述内容
ア Bは,当該募集に応えた他の男性と4月16日実際に会い,インターネットカフェで,抱き合ったり,キスをしたり,口淫をしたりした。しかし,嫌な気持ちになったため,性的接触をもうしたくないと感じていた。Bは,同月17日に被告人と通話する中で,同月16日に他の男性と抱き合ったり,キスをしたり,口淫をしたりしたこと,不快で嫌な気持ちになったので,抱き合うことやキスをも含めた性的接触はもう当分したくないことを伝えていた。
イ Bは,被告人とチャット上で同月19日に会う約束をした後,被告人と通話しBの職場近くの駅で待ち合わせをしようと約束した。Bが駅に着いて被告人に着いた旨チャットで連絡すると,被告人は,Bとの通話の中で,Bに対して駅の改札に入り,埼玉方面に向かう埼京線に乗るよう指示をした。Bは,埼玉方面行きの埼京線に乗ったが,被告人が降車駅を教えないことから,不安で怖い気持ちになり,□□駅で下車した。被告人が,怒っているようなニュアンスのチャットをしてきたり,何度も発信してきたため,Bは,被告人が逆ギレしたり逆恨みしたりしてBの個人情報について晒し行為をするのではないかと恐怖感を抱き,通話に出た。被告人は,その通話の中でBに対して埼玉方面の電車に乗るよう指示し,Bが被告人方に行くのは嫌という内容の意思を伝えたところ,被告人方には行かない,飲食店もある旨伝え,Bの性的な行為はしないかという内容の質問に対しても何もしないと答えた。Bは,被告人と会って気分を落ち着けてもらおうと考え,再度埼京線に乗り,被告人の指示に従い□□□駅で下車した。Bは,被告人の通話の指示に従い,飲食店に行くつもりで□□□駅から歩いて行くと,自転車を持って立っている被告人を見つけた。Bは,その場所が人通りもない暗い道であったことから逃げられないと感じ,自転車の後ろに乗るよう指示した被告人に対し,一度は断ったものの,最終的には自転車に二人乗りをし,Bと被告人は被告人方に着いた。
ウ Bと被告人は,被告人方のソファーの両隣に座り,ゲームをしていたところ,被告人が急にBのあごを持ってキスをし,服の上からBの胸を触り,Bに対して布団に行くよう指示をした。Bが移動して布団に座ったところ,被告人はBの両肩をもってBを押し倒し,Bの服をすべて脱がした。Bは「入れるのはやめて。」と言ったが,レイプされるかもしれないという恐怖感から抵抗できなかった。被告人は,Bの胸を直接触り陰部に指を入れ,Bが何度も「やめて。」と言って被告人の腕を掴んで指を陰部から出したところ,被告人はBに対し口淫を要求した。Bが被告人の股の間に座り,何もせずにいたところ,被告人は,Bの頭をつかんで被告人の陰茎をBの口に近付け,Bに15分くらい口淫をさせ射精した。Bは,しばらくしてから,被告人に帰る旨を伝え被告人方を出て,被告人とは被告人方の近くの通りで別れた。
(2) 被告人の供述内容
ア 被告人は,これまで当該掲示板に書き込んでいる女性と性的接触ができており,Bの書き込みを見て,Bと口淫や性交を含む性的接触をすることができると考え,Bに連絡を取った。被告人は,同月17日のBとの通話の中で,Bには被告人方で会うという話をしていた。
イ 被告人は,同月19日,携帯電話で誘導してBを自宅近くまで呼び出し,被告人とBは自転車に二人乗りをするなどして,被告人方に着いた。
ウ 被告人は,被告人方でBから,同月16日に他の男性とマンガ喫茶で会い,口淫したことを聞いた。Bは,その男性は自分のことを気に入ったが,自分はその男性のことをあまり気に入らなかったと自慢していた。被告人は,Bにキスをし口淫を要求したところ,Bは「いいよ。」と同意した。Bは,被告人の手伝いもあったが,自ら服を脱いだ。被告人がBの陰部を指で広げたところ,Bが「下はだめ。」と言ったことから,被告人はBの陰部を触るのをやめた。Bは,被告人の陰茎を口淫し,被告人はBの口内に射精した。Bは終始嫌がっているそぶりを見せず,口淫の際には被告人の陰茎を手淫するなど積極的な態度を示していた。被告人は,性的接触が終わった後,Bを外まで送った。
(3) B及び被告人供述の信用性
ア Bの供述は,Bが降車すべき駅を被告人から教えてもらえなかったことから不信感を抱いたBが,被告人が怒っているようなニュアンスのチャットをしてきたり,何度も発信してきたことなどから,インターネット上に個人情報が晒されるリスクを恐れ,被告人の要求を強く拒否できなくなり,結局被告人方に行ってしまい,不本意ながらもわいせつ行為をされてしまったというもので,その一連の経緯に不自然な点はなく,その供述内容も被告人とのチャットのやり取り,事件直後に「最悪だー」との書き込みをしその後被害申告をした事実などと整合するものである。確かに,Bは,□□駅から再度埼京線に乗車してからは比較的抵抗なく被告人方の近くまでたどり着き,その後被告人に出会ってから被告人方近くのガソリンスタンドなどで助けを求めなかった,110番通報をすることもなかったという点は,被告人の性的接触を容認していなかったとすれば不可解な行動とも考えられるが,被告人方の近くまで比較的抵抗なくたどり着いたのは,Bの供述を前提にすれば,被告人方ではなく飲食店に向かうつもりだったのであって不自然とはいえないし,被告人に出会ってから助けを求めたり通報するという行為に出なかったということも,不安に思っていたところに突然夜道に被告人が現れて恐怖を感じ,以降混乱していたという状況下においては十分あり得ることである。また,被告人に対して二日前にBの書き込みに反応した男性と抱き合ったり,キスをしたり,口淫をしたりしたことを伝えている点も,被告人と性的接触をしようと考えていなければ不可解な行動にも見えるが,Bの供述を前提にすれば,他の男性と性的接触を持ったことを伝えたのは被告人と会う前であって,そのことを伝えるのみならず,その際に不快で嫌な気持ちになったので,性的接触はもう当分したくないとも告げているのだから,不自然とはいえない。そうすると,これらの点は,Bの供述の信用性を全面的に否定するものではないから,Bの供述は基本的には信用できるものというべきである。
  しかし,Bの供述にはやや不明瞭な点が見られる。特に,Bの供述を前提とすれば,被告人方において被告人がBの陰部に指を入れた行動に対し,恐怖に怯えながらも被告人の腕を掴むなど一応の抵抗を示しているというのであるから,他にも口淫をはじめとした被告人の様々な性的な行動に対して抵抗を示してもよいはずであるが,その様子がBの供述からは判然としない。そして,Bは事件後速やかに被害を申告せず,警察に被害を申告したのも警察から連絡を受けたことをきっかけとして事件の約1か月弱後であったことからすれば,Bの事件に関係する記憶自体が十分固定化せず劣化している可能性が残るというべきである。また,Bが被告人の行動を受けて多少なりとも動揺していたとも考えられる。そうすると,被告人方における,Bや被告人の言動,Bの当時の心境が細部に至るまでその供述どおり全面的に信用できるものとはいい難い。
  以上より,Bの供述は,基本的に信用でき,大要Bの供述通りの事実が認定できるものの,被告人方におけるBと被告人の言動に関する点は細部に至るまですべてBの供述のとおり認定するには疑問が残る。
イ Bが被告人方にたどり着くまでの経緯などについての被告人供述は,客観的証拠とも符合し,不自然な点もないから,大要信用できるというべきである。しかし,Bと被告人との間で当初からBが被告人方に行くという合意ができていたという供述は,被告人方から遠く離れたBの職場近くの駅を待ち合わせ場所にしていること,Bが不安を感じるなどして□□駅で一度降車していることと整合せず,不自然である。また,Bが被告人方において被告人の性的接触の誘いにすんなり応じたという供述は,Bが□□駅で一度降車するなど被告人方にたどり着くまでに躊躇が見られるとともに,被告人方を出て間もなく「最悪だー」とネット上に書き込んでいることと整合せず,不自然である。そうすると,Bと被告人との間の事前の約束の内容に関する被告人供述は信用できず,被告人が供述するようにBが積極的に性的接触に応じていたとは認められないから,被告人方におけるBと被告人の行動に関する被告人供述も信用できない。
ウ そこで,これらのB及び被告人の供述並びに関係各証拠に照らして,本件において認定できる事実関係の経過は,大要以下のとおりである。
  Bは,被告人と通話する中で,同月16日に他の男性と抱き合ったり,キスをしたり,口淫をしたりしたこと,不快で嫌な気持ちになったので,抱き合うことやキスをも含めた性的接触はもう当分したくないことをあらかじめ伝えていた。Bは,被告人の指示によって,Bの職場の近くの駅から埼京線に乗り,途中□□駅で一度下車するなどしながら,□□□駅で下車し,歩いて被告人方の近くまで行き,被告人と会った。Bは,被告人が運転する自転車に二人乗りをし,Bと被告人は被告人方に着いた。Bと被告人は,被告人方のソファーの両隣に座り,ゲームをしていたところ,被告人が急にBのあごを持ってキスをし,服の上からBの胸を触り,Bに対して布団に行くよう指示をし,Bが布団に移動して座っていたところ,被告人はBの両肩をもってBを押し倒し,Bの服をすべて脱がした。Bは「入れるのはやめて。」というようなことを言い,被告人は,Bの服を脱がせると,Bの胸を直接触り陰部に指を入れ,Bが被告人の腕を掴んで陰部から指を出したところ,被告人はBの頭部を押さえ付け口淫をさせ射精した。
3 強制わいせつ罪の構成要件該当性について
 被告人は,「マジあり得ない。」「場所聞くだけ聞いて来ないとか,釣りするつもり満々だよね」などのメッセージをBに送り,何度か通話機能の発信を繰り返すなどした状況下で,被告人方において,いきなりキスをし,布団に座っていたBを布団に押し倒し着衣を脱がせ,Bの陰部に指を入れ,Bの頭部を押さえ付けて,被告人の陰茎を口淫させるなどしたことが認められることからすれば,被告人のチャット上の発言等を見て,晒し行為の具体的な危険を感じたとは考えられないもののいくばくかの恐怖を感じていたBが,被告人と二人きりの被告人方において,客観的に見て,被告人の上記暴行によって,被告人のわいせつ行為を受け入れざるを得なくなったという事実が認められるから,被告人の被告人方における行為は,わいせつ行為を行うに必要な程度に抗拒を抑制する程度・態様の暴行にあたる。
 そして,Bの陰部に指を入れ,被告人の陰茎を口淫させるといった被告人の行為がわいせつ行為にあたることは明らかである上,Bが,被告人と会う前に他の男性と二日前に性的接触をした際,不快で嫌な気持ちになったので,抱き合うことやキスをも含めた性的接触はもう当分したくないことをあらかじめ伝えていたこと,Bが□□駅で一度降車するなど被告人方にたどり着くまでに相当の躊躇が見られるとともに,被告人方で着衣をすべて脱がされた際性交については明確に拒絶していること,被告人方を出た後「最悪だー」とネット上に書き込んだことからすれば,上記被告人のわいせつ行為について,Bの同意はなかったと認められる。
4 強制わいせつ罪等の故意について
 検察官は,被告人には強制わいせつ罪の故意も認められると主張する。しかし,以下のとおり,被告人に強制わいせつ罪等の故意があったと認定するには合理的な疑いが残るというべきである。
 Bが書き込みを行った掲示板は,抱き合ったり,キスをする人を募集するスレッドであって,Bは,自身の身体的特徴を性的な表現を用いて書き込んだことに加え,Bが被告人と会うことに応じていたことからすれば,Bと被告人が会うことを約束した時点では,被告人自身はBが被告人を含む他の男性との性的接触を容認していると受け止めていたといえる。確かに,Bは,被告人と通話する中で,二日前に他の男性と性的接触をした際,不快で嫌な気持ちになったので,抱き合うことやキスをも含めた性的接触はもう当分したくないことをあらかじめ伝えてはいたが,Bが最低限抱き合うことやキスをする相手を求める旨の書き込みを行い,被告人と会うことを容認したことに加え,当該書き込みに応えた他の男性と抱き合ったり,キスをしたり,口淫をしたりしたことも伝えていたことからすれば,被告人が,他の男性と同様に,自分もBに対する性的接触ができるのではないかと期待を抱くのは自然なことといえる。
 また,確かに,Bが□□駅で一度降車するなど,被告人方へ行くのに躊躇していた様子は見受けられる。しかし,Bは□□駅から再度埼京線に乗って以降,被告人方へ行くことを躊躇するようなチャットを行った形跡はなく,Bの供述によっても,比較的抵抗もなく被告人方の近くまでたどり着き,一度は拒否する姿勢を見せたものの最終的には被告人が運転する自転車に二人乗りをし,被告人方に入っていることからすれば,被告人の説得によって,最終的にはBが被告人による性的接触を容認して被告人方に入ったとの認識を被告人が抱くことは否定できない。
 そして,Bは,被告人方において終始強い抵抗を示しておらず,抵抗の際に示している言動も「入れるのはやめて。」という性交を拒否する発言や陰部への指入れを拒否する動作であって,これらの抵抗は口淫その他のわいせつ行為ならば拒否はしないという趣旨にも理解できるのであって,被告人としては,Bが職場の近くの駅から□□□にある被告人方までわざわざ来たことや被告人方でも一緒にゲームをするなどしていたことから,Bの抵抗もBの心の迷いや羞恥心などから生じたものと誤解する可能性は否定できず,それゆえ,Bに拒否された行為をそれ以上は行わず口淫に移行したと解することもできる。また,頭部を押さえ付けるという暴行は一見するとやや強度な暴行と見受けられるものの,当該表現には幅があり一概に強度な暴行とは評価できず,頭部を押さえて口淫をさせるという行為を合意の下で行うこともあり得ることからすれば,当該行為について,被告人としては合意の下での性的接触の一環であって,不当な有形力の行使としての暴行とは認識していなかった可能性がある。
5 小括
 以上によれば,被告人の行為は,強制わいせつ罪の客観的構成要件に該当するものの,わいせつ行為に先立つ暴行の時点において,被告人が性的接触や有形力の行使についてBが同意していると誤信していた合理的な疑いが残る。したがって,被告人には強制わいせつ罪はもとより,暴行罪も成立しないというべきである。
第5 結論
 以上によれば,本件はいずれも犯罪の証明が不十分であって,犯罪の証明がないことになるから,刑事訴訟法336条により無罪の言渡しをする。
(求刑 懲役3年6月)
  平成28年3月18日
    東京地方裁判所刑事第10部
        裁判長裁判官  田邊三保子
           裁判官  高森宣裕
           裁判官  高田浩平

 性行為の承諾についての錯誤については、和姦の誤信として解説がありました。

判例コンメンタール刑法
5 承諾
( 1 ) 和姦
当然ながら被害者の承諾同意があれば本罪前段は成立しない。仙台高判昭30 ・3 ・2 高検速報35 は、被害者において、その姦淫前又はその中途においても、これに応じようとした意思が働いたと認められない場合は和姦ではなく強姦罪が成立するとした。もちろん、承諾がその場逃れのものである場合には真意に出たものではないから、承諾とはいえない(東京地判昭30 ・4 ・28東時6 0 5 ・142 、I可l沼43 0 11 ・28 東時19 ・11 0 248(") 。実務的には被害者の示諾があった、いわゆる和姦である、仮にそうでないとしても承諾があると誤信していたとの主張が多いが、要は暴行・脅迫の有無が争点であり、被害者の被害供述が信用できるか否かの事実認定の問題である。これらが深刻に争われる事例は姦淫行為と一体をなす程度の有形力の行使しかなく、被害者の抵抗がない場合などであろう。これ以上の暴行等がある事例で無罪となった例は寡聞にして知らない。


東京地判昭35 ・12 0 22 判タ17 ・1111 は、大学生である被告人が友人と、17歳の被害者を下宿に連れ込み、強姦したが、被告人としては化粧等から被害者を'玄人的な女と思い、被害者の言葉等から性交の承諾を得たと誤解したことが無理からぬ状況にあったとして無罪とした
東京高判昭49 ・9 ・26 高検速報2050 は、第1 審が同旨により無罪としたものを破棄して有罪とした。