児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・強姦・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録記録被告事件弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 hp@okumura-tanaka-law.com)

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「常習として、F(当時17歳)に対し、同人のスカート内の下着等を撮影する目的で、その後方から所携の撮影機能付き携帯電話機を同人のスカートの下に差し入れ、もって公共の場所において、人を著しく羞恥させ、かつ、人に不安を覚えさせるような行為をした。」という迷惑条例違反事件の否認事件の事実認定(仙台地裁H29.6.16)

仙台地方裁判所
平成29年06月16日
 上記の者に対する迷惑行為防止条例違反被告事件について、当裁判所は、検察官矢部良二及び弁護人滝沢圭(国選)各出席の上審理し、次のとおり判決する。
理由
(罪となるべき事実)
 被告人は、常習として、平成29年月日午後2時12分頃、(住所略)C鉄道株式会社D線E駅2番ホームにおいて、F(当時17歳)に対し、同人のスカート内の下着等を撮影する目的で、その後方から所携の撮影機能付き携帯電話機を同人のスカートの下に差し入れ、もって公共の場所において、人を著しく羞恥させ、かつ、人に不安を覚えさせるような行為をした。
(証拠の標目)
(補足説明)
1 弁護人の主張等
  弁護人は、被告人は、判示の日時頃、判示のE駅2番ホームにおいて、電車待ちのため立っていた際に自己の携帯電話機(以下「黒色スマートフォン」という。)を手に持っていたが、黒色スマートフォンを被害者(証人F。以下「A」という。)のスカートの下に差し入れておらず、下着等を撮影する目的もなかった上、被告人には盗撮行為の常習性もなく、被告人は無罪である旨主張し、被告人もこれに沿う供述をする。
2 前提事実
  証拠によれば、以下の前提事実が認められ、当事者間にも特に争いがない。なお、日付はいずれも平成29年1月20日である。
 (1) 被告人は、午後2時5分頃、E駅の1、2番ホームにおいて、階段近くにあるベンチに座っていた。
 (2) A及びAの友人(証人G。以下「B」という。)は、午後2時6分、駅の階段から1、2番ホームに降りてきて、午後2時7分に2番ホームのエレベーター付近(以下「本件現場」という。)に立ち止まった。AとBは、本件現場において、向かい合った状態で、話をしながら電車を待っていた。
 (3) 被告人は、午後2時7分、ベンチから立ち上がって1、2番ホームを歩いた上、AとBがいる本件現場の方向に歩いて行き、午後2時9分に一旦AとBの前を通り過ぎ、その際、振り向きながらAの顔を見た。被告人は、再び本件現場に戻ってきて、AとBの前を通り過ぎ、Aの背後に立ち止まった。
 (4) 被告人は、午後2時11分、黒色スマートフォンを手に持った状態で、その場を立ち去ろうとし、AとBが被告人をすぐ追いかけた。被告人とAは、午後2時12分、1番ホーム側で揉み合いになった(甲12の写真30)。
3 防犯カメラ映像について
 (1) 本件においては、1、2番ホームを撮影した防犯カメラ映像(甲20、26。以下「本件映像」という。)があり、本件映像には、本件現場の状況は直接映っていないが、2番ホームの線路を挟んだ対面の壁に設置されていた広告看板のスクリーンに、本件現場にいる被告人及びAらの様子が反射して映り込んでいた。
  本件映像について、検察官は、被告人は、午後2時11分35秒(補正後の時刻である。以下同様)から、Aの背後に体を向けながら、小刻みに繰り返し前かがみになった上、午後2時11分39秒以降、大きく前かがみになり、その後、ライトが点いたままの黒色スマートフォンがホーム上に落ち、午後2時11分45秒以降、被告人はその場から立ち去ろうとしたが、AとBが被告人を追いかけたと評価、主張している。
  これに対し、弁護人は、被告人は、午後2時9分21秒から同分56秒までの間、本件現場で直立していたが、同分58秒前後に前かがみになり、2番ホームに付くくらい腕を真っすぐ下に伸ばして、落とした黒色スマートフォンを拾い上げ(弁6の写真〈19〉)、約5秒で再び直立姿勢に戻っており、その後に少し前かがみになる動作や、首を上下に振り、体を左右に振らす動作を行い(ただし、いずれも被告人は腰を落としていない。)、午後2時11分39秒から同分47秒までの間、被告人とAがもめていたと評価し、これを前提に、被告人は、黒色スマートフォンを落とすまでの間は直立したままほとんど動いておらず、Aのスカートの下に黒色スマートフォンを差し入れていないのであって、その後に被告人が少し前かがみになったり、首を上下に振ったりしたのは、Aに腕をつかまれるなどされたためであると主張している。
 (2) このように、双方の主張は、被告人が黒色スマートフォンを落とした時点に関する本件映像の見方が異なり、その評価が大きく対立している。
  この点、本件映像は、飽くまで2番ホームの線路を挟んだ対面の壁に設置されていた広告看板のスクリーンに被告人及びAらの人影が反射した様子を捉えたものであって、被告人及びAらの様子を直接かつ鮮明に映し出したものではないから、本件映像のみをもって確定的に当時の状況を認定するのは相当ではない。
  もっとも、本件映像は、上記の留保付きではあるが、本件現場における当時の状況を認定する上で重要な手掛かりになると考えられるし、他の証拠とも相まって、相応の証拠価値を有するものと解される。
 (3) このような前提で本件映像をみると、弁護人が主張する午後2時9分58秒(本件映像の表示時刻は午後2時10分32秒)前後の映像は、確かに被告人の姿勢がやや左側に前かがみになり、頭の位置を下げながら、腕を下方向に伸ばすような体勢をとったように見えるものの、ホームに落とした物を拾ったにしては、体を起こすタイミングがかなり早いように思われ、物を拾い上げるほどに被告人の体勢が十分下がっていたようには見えにくい。一方で、検察官が主張する午後2時11分39秒(本件映像の表示時刻は午後2時12分13秒)以降の映像は、それまで被告人の頭部が小刻みに何度も動き、やや前かがみになるなどしていたところ、急に光が回るように流れた後に、光が丸くなって消え、その直後に被告人の体勢がぐっと下がって、何かを拾い上げるような動作をしながらそのまま階段方向に速足で歩き出し、その後方をAがすぐに追いかける様子が映っているように見える。
  そうすると、本件映像のみから確定的とまではいえないものの、被告人が黒色スマートフォンを落としたタイミングは、検察官が主張する午後2時11分39秒以降とみるのが自然と考えられる。
 (4) 以上の検討を踏まえ、A供述及び被告人供述の信用性について、それぞれ検討する。
4 A供述の信用性
 (1) Aは、公判において、概要、次のとおり供述する。
  Aは、本件現場において、電車を待ちながらBと向かい合って話をしたり、自己のスマートフォンを操作したりしていた。
  すると、Aは、左足の膝裏辺りに人肌が近付くような温かさを感じた上、スカートの後ろがゆさゆさと動く感じがしたので、後ろを振り返ると、被告人が腰を落として前かがみになり、左手に黒色スマートフォンを持った状態で、スカートの裾の下付近に向けて手を伸ばしていた。黒色スマートフォンは、液晶画面ではない裏面が上を向き、ライトが点いていた。
  そこで、Aが振り向いて「すいません。」と声を掛けたところ、被告人は、後ずさりして黒色スマートフォンを一旦ホームに落とし、すぐに左手で拾い上げながら、ホームの階段方向に足早に移動したので、Aは被告人の右腕をつかんで追いかけた。
 (2) 上記のAの供述内容は、取り分け、本件映像の午後2時11分39秒以降の内容とよく整合している。すなわち、本件映像では、被告人がAの近くで小刻みに何度も動き、やや前かがみになるなどした後に、急に光が流れて光が丸くなって消え、その直後に被告人の体勢がぐっと下がり、何かを拾い上げるような動作をしながらそのまま階段方向に歩き出し、すぐにAが被告人を追いかける姿が映っているように見え、Aの上記供述は、本件映像の内容に沿うものである。また、Aの上記供述を前提とすると、本件映像の様子も合理的に説明が付くのであって、Aの供述は、被告人及びAらの当時の様子を直接かつ鮮明に映したわけではない本件映像についての評価を支えるものといえる。そうすると、Aの上記供述は、本件映像と相まって、相互に信用性を支え合い、当時の状況を認定する証拠になると考えられる。
  また、Aの供述の信用性を更に検討すると、Aの上記供述は、Bの供述とも核心部分で符合している。すなわち、Bは、公判において、被告人がAのすぐ後ろに立っていたため、怪しいと思ったこと、Aの両膝下の間から明るい光が見え、その直後にAが後ろを振り返り、被告人に「すいません。」と声を掛けたこと、その際、被告人は前かがみの状態で手を前に伸ばしていたが、Aに声を掛けられて黒色スマートフォンを落としたことなどを供述しており、このBの供述はAの供述内容と一致している。よって、Aの供述は、Bの供述とも整合し、その信用性を補完していると考えられる。
  さらに、黒色スマートフォンは、動画撮影モードにしてLEDライトの設定をオンにするとライトが点灯したままの状態になるところ、黒色スマートフォンのライトが点いていたという点は、こうした作動状況を前提とすれば、合理的な説明が可能である。加えて、Aは、敢えて虚偽の供述をする理由はなく、当時の状況を勘違いしている様子も見受けられない上、当時の心情等も含めて、一連の流れを具体的に供述している。
  以上によれば、Aの上記供述は、十分に信用できる。
 (3) これに対し、弁護人は、〈1〉Aの供述は、本件映像の内容と矛盾すること、〈2〉黒色スマートフォンや被告人のマイクロSDカードにAのスカート内を撮影した動画ファイルが残っていないこと(甲17、21)ともAの供述は整合しないこと、〈3〉Bの供述は、重要な事項で供述内容が変遷しており信用できず、これと同様の供述をするAの供述にも疑問が生じることなどを指摘し、以上から、Aの供述は信用できない旨主張する。
  しかし、〈1〉については、上記(2)のとおり、Aの供述内容は、本件映像について、午後2時11分39秒以降に被告人が黒色スマートフォンを落としたと捉えると、本件映像とよく整合しており、むしろAの供述内容は、本件映像と相まって、その信用性が支えられていると認められる。〈2〉については、A及びBの供述によれば、被告人は、AとBから追いかけられていた際に、黒色スマートフォンの画面を頻繁に操作するなどしており、この供述を前提とすると、そのときに動画ファイルが消去されたと考えられ、動画ファイルが存在しないことがA及びBの供述の信用性を減殺する事情とは解されない(弁護人は、被告人のマイクロSDカードから他の動画が復元されたのに、Aのスカート内を撮影した動画が復元されていない旨も指摘するが、復元されなかったことから直ちにそのような動画がなかったとはいえない。)。〈3〉については、確かに、Bは、捜査段階において、Aの両膝下の間から光を見たときに、写真撮影時のシャッター音のような音を聞いた旨述べており、公判供述とは異なる供述をしている。この点、Bは、もともとシャッター音については記憶が曖昧であるとしつつ、被告人が黒色スマートフォンを落とした際に「ガシャッ」という音がしたことと、「カシャ」というシャッター音を混同したと思う旨供述するが、通常、両者の音を混同することは考えにくいと思われる。もっとも、Bは、本件当時、Aの両膝下の間からスマートフォンのライトが光るのを一瞬見て、Aが被告人からスカート内を盗撮されたと考えていたのであって、そのように当時の事態を受け止めていたBが、記憶が曖昧ながらも、その際にシャッターが押されてシャッター音がしたと思い込んだとしても、特段不自然とまではいい難いと解される。よって、この点の供述の変遷が、Bの供述全体の信用性に疑念を抱かせるとはいえない。
5 被告人の供述の信用性
 (1) 被告人は、公判において、概要、次のとおり供述する。
  被告人は、駅ホームのベンチで座った後、H駅方面がどちら側のホームかを知ろうとして、1、2番ホームを歩いた。すると、本件現場にいるAを見付け、自分の好みの女の子かもしれないと思い、Aのそばを通り過ぎながらAの顔を見たが、余り好みのタイプではなかった。
  その後、被告人は、本件現場に戻ってAのすぐ後ろに立ち、バイトのシフトに関するメールをしようと思い立ち、黒色スマートフォンを持った左手をホームの床方向に真っすぐ下げた状態で、メールの文面を考えていたところ、Aがいきなり被告人の方を振り向いて、被告人の左腕をつかんできたため、被告人は黒色スマートフォンを落とした。
 (2) しかし、上記の被告人の供述内容は、本件映像の午後2時11分39秒以降に、被告人の手元付近から光が流れた後に光が丸くなって消えたことや、その直後に被告人の体勢がぐっと下がり、何かを拾い上げるような動作をしながら階段方向に歩き出したことなどを合理的に説明していない。また、被告人は、AとBの前を通り過ぎた際に、Aが自分の好みの女の子かどうかを確認しようとしてAの顔を見たが、自分の好みの女の子ではないと判断し、盗撮するつもりもなかったというのに、わざわざ再び本件現場の方に戻って来て、Aのすぐ背後に立っていたというのも不自然である。
 (3) 以上によれば、被告人が一貫して事実を否認しているなどの弁護人の主張を踏まえても、被告人の上記供述は信用し難い。
6 結論
  以上によれば、被告人は、黒色スマートフォンをAのスカートの下に差し入れた事実(写真機等を向けた行為と評価できる。)が認められる。また、そのような行為態様等からすると、当時、被告人がAの下着等を盗撮する目的を有していたことも認められる。
  さらに、被告人が本件と同種の盗撮事犯4件を含む前科2犯を有することを考慮すれば、弁護人の主張を踏まえても、被告人には盗撮行為の常習性が認められることは明らかである。
  よって、判示の犯罪事実が優に認定でき、弁護人の上記主張は採用できない。
(累犯前科)
(法令の適用)
1 罰条 迷惑行為防止条例(昭和42年宮城県条例第29号)17条2項・1項1号、3条の2第1項3号
2 刑種の選択 懲役刑を選択
3 累犯加重 刑法59条、56条1項、57条(3犯の加重)
4 訴訟費用 刑訴法181条1項ただし書(不負担)
(量刑の理由)
第2刑事部
 (裁判官 内田曉)