児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

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監護者性交等罪につき「現に監護する者であることによる影響力があることに乗じてと言えない場合」法務省大臣官房審議官加藤俊治「性犯罪に対処するための刑法改正の概要」ひろばH29.8

 監護者性交等罪が成立しない場合として「18歳未満の者においてわいせつ行為又は性交等の相手方を監護者であると認識できていないときや、18歳未満の者が暴行又は脅迫を用いて監護者に迫った結果としてわいせつ行為又は性交等が行われたときなど、そのわいせつ行為又は性交等が監護者の意思に反するものであるときには、監護者であることによる影響力があることに乗じたものとはいえない場合も考えられよう。」とされています。
 「乗じて」が争われる場合も出てくると思います。
 「被監護者である18歳未満の者を現に監護している者は、通常、当該18歳未満の者に対し、このような影響力を及ぼしている状態にあるといえるので、通常、「現に監護する者」であることが立証されれば、当該わいせつ行為又は性交等の行為時においても、「現に監護する者であることによる影響力」を及ぼしていたこと、すなわち、「現に監護する者であることによる影響力があることに乗じて」いたことが認定できることとなる。したがって、「乗じて」といえるために、性的行為に及ぶ特定の場面において、影響力を利用するための具体的行為を認定する必要はないと考えられる。」というのは、「影響力があることに乗じて」という文言を無視して、監護者がやれば成立するという身分犯的な理解です。

法務省大臣官房審議官加藤俊治「性犯罪に対処するための刑法改正の概要」ひろばH29.8
4監護者わいせつ罪及び監護者性交等罪を新設すること
(1)本法においては、18歳未満の者を現に監護する者がその影響力があることに乗じてわいせつな行為又は性交等をした場合について罰則を新設し(刑法179条、監護者わいせつ罪及び監護者性交等罪)、強制わいせつ罪又は強制性交等罪と同様に処罰することとしている。
実親、養親等の監護者が略歳未満の者に対してわいせつな行為や性交等を継続的に繰り返し、監護者と18歳未満の者との性的行為が常態化している事案等においては、日時、場所等が特定できる性的行為の場面だけを見ると、暴行、脅迫が認められず、また、抗拒不能にも当たらないため、刑法上の性犯罪として訴追することが困難なものが存在していた。
しかし、18歳未満の者は、一般に、精神的に未熟である上、生活全般にわたって自己を監督し保護している監護者に経済的にも精神的にも依存しているところ、監護者が、そのような依存・被依存ないし保護・被保護の関係により生ずる監護者であることによる影響力があることに乗じて肥歳未満の者とわいせつな行為や性交等をすることは、強制わいせつ罪や強制性交等罪などと同様に、これらの者の性的自由ないし性的自己決定権を侵すものであるといえる。
このような事案の実態に即した対処を可能とするため、刑法176条から178条までの罪とは別に、18歳未満の者を現に監護する者がその影響力があることに乗じてわいせつな行為又は性交等をした場合について罰則を新設することとされたものである。
(2)刑法179条の「監護する」とは、民法820条に親権の効力として定められているところと同様、監督し、保護することをいい、「18歳未満の者を現に監護する者」とは、18歳未満の者を現に監督し、保護している者をいう。
「現に監護する者」に当たるためには、法律上の監護権の有無を問わないが、現にその者の生活全般にわたって、衣食住などの経済的な観点のほか、生活上の指導監督などの精神的な観点も含めて、依存・被依存ないし保護・被保護の関係が認められ、かつ、その関係に継続性が認められることが必要であると考えられる。
「現に監護する者であることによる影響力」とは、現にその者の生活全般にわたって、衣食住などの経済的な観点のほか、生活上の指導監督などの精神的な観点も含めて、被監護者を監督し、保護することにより生ずる影響力をいう。
したがって、「現に監護する者であることによる影響力」には、ある特定のわいせつ行為や性交等を行おうとする場面における、その諾否等の意思決定に直接影響を与えるものに限られず、被監護者が性的行為等に関する意思決定を行う前提となる人格、倫理観、価値観等の形成過程を含め、一般的かつ継続的に被監護者の意思決定に作用を及ぼし得る力が含まれるものである。
「現に監護する者であることによる影響力があることに乗じて」とは、18歳未満の者に対する「現に監護する者であることによる影響力」が一般的に存在し、当該行為時においてもその影響力を及ぼしている状態で、わいせつ行為又は性交等をすることをいう。
その上で、被監護者である18歳未満の者を現に監護している者は、通常、当該18歳未満の者に対し、このような影響力を及ぼしている状態にあるといえるので、通常、「現に監護する者」であることが立証されれば、当該わいせつ行為又は性交等の行為時においても、「現に監護する者であることによる影響力」を及ぼしていたこと、すなわち、「現に監護する者であることによる影響力があることに乗じて」いたことが認定できることとなる。
したがって、「乗じて」といえるために、性的行為に及ぶ特定の場面において、影響力を利用するための具体的行為を認定する必要はないと考えられる。
もっとも、18歳未満の者においてわいせつ行為又は性交等の相手方を監護者であると認識できていないときや、18歳未満の者が暴行又は脅迫を用いて監護者に迫った結果としてわいせつ行為又は性交等が行われたときなど、そのわいせつ行為又は性交等が監護者の意思に反するものであるときには、監護者であることによる影響力があることに乗じたものとはいえない場合も考えられよう。
また、本罪の趣旨に照らし、本罪の成否を論ずるに当たり18歳未満の者の同意の有無は問題とならず、18歳未満の者がわいせつ行為又は性交等に同意していたと見られるような事情があるとしても、本罪の成立は妨げられないと考えられる。
(3)監護者わいせつ罪及び監護者性交等む罪の法定刑については、それぞれ、刑法176条及び177条の「例による」とされていることから、強制わいせつ罪及び強制性交等罪と同じになる。
また、死傷の結果を生じた場合には、同法181条が適用される。
(4)本罪と他罪との罪数関係については、法制審議会あるいは国会における審議の過程において必ずしも詳細な議論がなされていないところであるが、私見においては、監護者わいせつ罪及び監護者性交等罪は、準強制わいせつ罪及び準強制性交等罪が存在することを前提に、既存の罰則では処罰できない事案に対応するために設けられたものであるから、準強制わいせつ罪又は準強制性交等罪が成立する場合には、重ねて監護者わいせつ罪又は監護者性交等罪は成立しない(いわゆる補充関係にある)ものと考えている。
また、監護者わいせつ罪又は監護者性交等罪に当たる行為が、同時に、児童福祉法上の児童に淫行をさせる罪(同法帥条1項、弘条1項6号)にも該当する場合には、両罪の保護法益が異なることなどに照らし、観念的競合となるものと考えているの