児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

師弟関係の児童淫行罪の行為否認事例(広島地裁H29.4.13)

 製造罪については「本件各静止画はAに見せた後すぐに削除するつもりであり,実際にも2月末日までに削除しているから,「製造」には当たらない」「弁護人は,被告人が本件各静止画を撮影したのは,本件各静止画をAとのコミュニケーションに利用しようとしたものにすぎず,すぐに削除するつもりであったし,実際にも短期間で削除したから,児童に対する性的搾取や性的虐待につながることはあり得ず,可罰的違法性がない」という主張が排斥されています。
 児童淫行罪については、画像+被害児童の供述で固められています。

広島地裁平成29年 4月13日 
事件名 児童福祉法違反、児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律違反被告事件
 上記の者に対する児童福祉法違反,児童買春,児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律違反被告事件について,当裁判所は,検察官岩本直人,私選弁護人佐々木和宏(主任)及び同我妻正規各出席の上審理し,次のとおり判決する。
理由
 (罪となるべき事実)
 被告人は,a高校の教頭として勤務し,同校の生徒であるA(各犯行当時16歳)から相談を受けるなどしていたものであるが,同児童が満18歳に満たない児童であることを知りながら
 第1 平成28年2月13日午前4時12分頃,広島県呉市〈以下省略〉ホテル「b」107号室において,ひそかに,就寝中のAの胸部及び陰部等が露出した姿態を自己の使用するタブレット型端末機のカメラ機能で静止画として撮影し,その静止画データ1点を同タブレット型端末機本体の内蔵記録装置又は同タブレット型端末機に装着されたマイクロSDカードに記録させて保存し,もってひそかに衣服の一部を着けない児童の姿態であって,殊更に児童の性的な部位が露出され又は強調されているものであり,かつ,性欲を興奮させ又は刺激するものを視覚により認識することができる方法により電磁的記録に係る記録媒体に描写した児童ポルノを製造した。
 第2 同月21日午前7時14分頃,同市〈以下省略〉「cホテル」117号室において,ひそかに,就寝中のAの胸部が露出した姿態を自己の使用するタブレット型端末機のカメラ機能で静止画として撮影し,その静止画データ1点を同タブレット型端末機本体の内蔵記録装置又は同タブレット型端末機に装着されたマイクロSDカードに記録させて保存し,もってひそかに衣服の一部を着けない児童の姿態であって,殊更に児童の性的な部位が露出され又は強調されているものであり,かつ,性欲を興奮させ又は刺激するものを視覚により認識することができる方法により電磁的記録に係る記録媒体に描写した児童ポルノを製造した。
 第3 同日午前1時10分頃から同日午前10時19分頃までの間,前記「cホテル」117号室において,Aに,被告人を相手に性交させ,もって児童に淫行をさせる行為をした。
 (証拠の標目)
第1 争点
 判示第1の犯行について,被告人は,判示第1の日時場所において,就寝中のAの胸部及び陰部等が露出した姿態を自己の使用するタブレット型端末機のカメラ機能で静止画として撮影し,その静止画データ1点を記録して保存したという外形的事実は認めており,弁護人もこれを争っていない。
 また,判示第2及び第3の各犯行について,被告人は,平成28年(以下,月日は特に断らない限り平成28年のことを指す。)2月21日午前1時10分頃から同日午前10時19分頃までの間,Aとともに前記「cホテル」117号室に滞在しており,その間の同日午前7時14分頃,同所において,就寝中のAの胸部が露出した姿態を自己の使用するタブレット型端末機のカメラ機能で静止画として撮影し,その静止画データ1点を記録して保存したという外形的事実は認めており,弁護人もこれを争っていない。
 もっとも,被告人は,判示第3の犯行について,Aとの性交はなかったと供述し,弁護人は,判示第3の犯行について被告人の供述に沿う主張をするほか,判示第1及び第2の各犯行について,当該各静止画データ(以下これらを合わせて「本件各静止画」という。)はいずれも児童買春,児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律(以下「児童ポルノ法」ともいう。)2条3項3号の「児童ポルノ」に該当せず,仮に該当するとしても「製造」(児童ポルノ法7条5項)したものとはいえず,仮に「製造」したものだとしても,可罰的違法性がないと主張し,いずれの犯行についても被告人は無罪であると主張する。
第2 前提となる事実
 関係証拠によれば以下のような事実経過等を認めることができ,これらについては被告人も特段争っていない。
 1 Aは,平成27年4月,被告人が教頭として勤務するa高校定時制に入学した。(A及び被告人の各公判供述)
 2 Aは,a高校において,授業にきちんと出席することなく,職員室で過ごしたり,校外に遊びに出たりしており,被告人や他の教員から繰り返し注意を受けていた。そのような中,Aは,自身が抱える人間関係のトラブル等について相談にのってくれた被告人に好意を抱くようになり,学校内での言動や被告人に宛てた手紙の中で好意を示していたほか,同年12月10日午前1時過ぎ頃にa高校に電話を掛けて自殺をほのめかした際に,被告人から携帯電話の番号を教わって以降は,深夜早朝を問わず被告人に繰り返し電話を掛けるなどして,電話口で長時間話をしたり,直接話をするために被告人に車で迎えに来てもらったりするようになった。また,被告人は,Aとa高校の外で会うようになってから,Aと2人で外食やカラオケに行ったり,Aに対して化粧品や服を買い与えたりしており,Aが入院した際には,Aに携帯音楽プレーヤーを買い与えた。(A及び被告人の各公判供述,弁1ないし4)
 3 被告人とAは,1月10日から2月21日にかけて,被告人の運転する車で,判示第2及び第3のホテル(以下「cホテル」という。)に5回,判示第1のホテル(以下「bホテル」という。)に1回行き,それぞれ次の(1)ないし(6)のとおり滞在した。(甲9ないし11,18,19)
  (1) 1月10日午前4時40分から同日午後5時49分までの間,cホテル121号室に滞在
  (2) 1月16日午前2時55分から同日午後5時20分までの間,cホテル121号室に滞在
  (3) 2月6日午後9時16分から翌7日午前7時19分までの間,cホテル117号室に滞在
  (4) 2月12日午後11時54分から翌13日午前7時32分までの間,bホテル107号室に滞在
  (5) 2月13日午後9時39分から翌14日午前9時59分までの間,cホテル117号室に滞在
  (6) 2月21日午前1時10分から同日午前10時19分までの間,cホテル117号室に滞在
 また,被告人とAは,1月30日午前1時過ぎ頃から翌31日にかけて,被告人の運転する車で山口県内に出かけた際,同月30日早朝から昼前までの間,同県内のホテル「d」に滞在し,同日深夜から翌31日にかけて,同県内のビジネスホテルに滞在した。(A及び被告人の各公判供述)
 なお,Aは,1月22日から3月19日までの間,過呼吸等の発作を改善するなどの目的で,精神科の病院に入院しており,前記(3)ないし(6)及び山口県内での滞在は,いずれも病院から外出した際のことであった。(弁5,6)
 4 cホテル,bホテル及びホテル「d」はいずれも,いわゆるラブホテルであって,部屋にベッドが1つしかなく,被告人とAは同じベッドで一緒に寝ていた。また,bホテルの部屋には,ローターやローション等の性玩具を販売する自動販売機が備え付けられており,被告人は,前記3(4)の滞在中,同自動販売機で1000円のローションを購入した。(被告人の公判供述,甲7,19,20)
 さらに,被告人とAは,山口県内のビジネスホテルでも,被告人が予約していた,ベッドが1つしかない1つの部屋に共に滞在し,同じベッドで一緒に寝ていた。(被告人の公判供述)
 5 被告人は,前記3(3)の滞在の際,自己の使用するタブレット型端末機のカメラ機能で,Aの露出した乳房と指で左右に広げた状態の陰部の静止画等を撮影し,その後,前記3(4)の滞在の際に判示第1の静止画を,前記3(6)の滞在の際に判示第2の静止画を,それぞれ撮影した。(被告人の公判供述,甲12の同意部分,13ないし16)
 判示第1の静止画は,Aが,下着を身に着けず,ホテルに備え付けのガウンに袖だけを通したほぼ全裸の状態で,ベッドに仰向けになって寝ており,両乳房を露出させ,少し開いた両脚の間に陰部も露出させている姿を,Aの下半身側から上半身側に向けた角度で,膝の上から頭まで写るように撮影したものであり,静止画の中央に露出した陰部が位置している。
 判示第2の静止画は,Aが,ホテルに備え付けのガウンに袖を通しており,腹部には布団が掛けられているが,ガウンの胸部が開かれて両乳房が露出した状態で,仰向けからやや左側に上半身を傾けて寝ている姿を,Aの体のほぼ正面から,上半身のみ写るように撮影したものであり,静止画の中央のやや左寄りに露出した両乳房が位置している。
 6 cホテルは,Aの自宅がある地域よりも南東に,bホテルは,cホテルよりも更に東にあり,いずれも市街地から離れたところにある。また,広島市内から各ホテルに行くには,Aの自宅がある地域を通り過ぎて行くことになる。(A及び被告人の各公判供述)
 7 Aは,2月中旬頃,被告人との電話での会話の中で,被告人に対し,子どもが欲しい,今度はゴム着けんでねなどと言っており,これを偶々近くで聞いたAの母は,Aと被告人との関係を心配して,探偵にAと被告人の素行調査を依頼した。その調査の結果,被告人とAが,2月20日の夜から翌21日にかけて,広島市内に行って食事,買い物及びカラオケを済ませた後,前記3(6)のとおりcホテルに行って滞在したことが判明した。(A及びAの母の各公判供述,甲11)
 8 Aの母は,前記調査結果を踏まえて,被告人のことを警察に相談するとともに,3月4日,Aの担当医師に対し,前記調査結果及びそれまでの経緯を伝えて,Aと被告人を接触させないよう依頼した。(Aの母の公判供述,弁5)
 3月5日,同医師がAの母からの話をAに伝えたところ,Aは,被告人とはホテルに入ったが寝てはいない,ホテルに行こうと言ったのはAである,妊娠するような行為はしていないなどと言った。しかし,Aの母が同日Aに問い質したところ,Aは,2月21日にcホテルで被告人と性交したことなどを話した。(A及びAの母の各公判供述,弁5)
第3 判示第1及び第2の各事実について
 1 弁護人は,本件各静止画は,児童の性的な部位が殊更に露出され又は強調されているものではないと主張する。しかし,本件各静止画の内容は前記第2の5のとおりであって,Aの露出した陰部や乳房が目立つように意図的に撮影したとしか思えない内容となっており,殊更に児童の性的な部位が露出され,強調もされているものであることは明らかである。したがって,弁護人の同主張は失当であり,本件各静止画は児童ポルノ法2条3項3号の「児童ポルノ」に該当する。
 2 また,弁護人は,本件各静止画はAに見せた後すぐに削除するつもりであり,実際にも2月末日までに削除しているから,「製造」には当たらないと主張する。しかし,被告人が,判示第1及び第2の各日時に,本件各静止画を撮影し,そのデータを記録して保存した行為は,まさに児童ポルノ法7条5項の「製造」に該当し,後に削除する意思の存在及び事後的な削除の事実の存在は「製造」の有無を左右しないから,弁護人の同主張も失当である。
 3 さらに,弁護人は,被告人が本件各静止画を撮影したのは,本件各静止画をAとのコミュニケーションに利用しようとしたものにすぎず,すぐに削除するつもりであったし,実際にも短期間で削除したから,児童に対する性的搾取や性的虐待につながることはあり得ず,可罰的違法性がないと主張する。しかし,前記第2の5のような内容の児童ポルノを製造すること自体,児童の尊厳を害する行為であって,児童ポルノ法7条5項,2項,2条3項3号に該当するのはもちろん,可罰的違法性があることも明らかであるから,弁護人の同主張も失当である。
 4 以上に見たとおり,被告人が本件各静止画を撮影し,これらのデータを記録して保存した行為は,いずれも児童ポルノ法7条5項,2項,2条3項3号に該当し,本件各静止画を撮影した動機に関する弁護人の前記主張について検討するまでもなく,被告人は判示第1及び第2の各事実について有罪である。
 5(1) もっとも,被告人が本件各静止画を撮影した動機については,量刑を定める上で重要な情状事実となるため,この点についても検討すると,そもそも,本件各静止画は,既に見たとおり,Aの露出した陰部や乳房が目立つように意図的に撮影したとしか思えない内容のものであって,このような静止画を撮影したこと自体から,被告人が,自己の性欲を興奮させる意図を有していたことが強く推認され,そのような意図がなかったという合理的な疑いを差し挟むことは相当に困難である。
  (2) 加えて,本件各静止画が撮影された状況について見ると,本件各静止画はいずれも,被告人とAが,ラブホテルという,性交が行われることが通常予定されている場所での滞在中に撮影されたものであり,判示第1のbホテルでの滞在中には,被告人は,ローターなどの性玩具を販売する自動販売機を目にした上でローションの購入までしている。また,判示第2のcホテルには,広島市内から,Aの自宅のある地域を通り過ぎてわざわざ来たものであるし,Aの自宅から更に遠方にある判示第1のbホテルに至っては,被告人によれば,cホテルが満室であったため代わりに利用したというのであって,滞在先をラブホテルとすることへのこだわりが見られる。これらの事実からすれば,本件各静止画の撮影時,被告人において,Aを自己の性欲を満たすための相手として意識しないはずがない状況にあったと認められるし,被告人が積極的に自らをそのような状況に置いたことも認められるから,これらの事実によって前記(1)の推認は補強される。
  (3) また,本件各静止画の撮影に至る経緯を更に遡って見ると,被告人は,前記第2の2のとおり,Aが,被告人に対して,好意を示すのみならず,繰り返し電話を掛けて対応を求めるなど依存を強めている状態にあることを知りながら,教師としてAとの間に適切な距離を保つのではなく,かえって,相当の時間と金銭を費やして,Aと一緒に外食等に行ったり,Aに化粧品や服等を買い与えたりするなど,恋人のような特別扱いをするという,Aの依存を助長する不健全な行動に及び,更には,1月10日以降Aと複数回ラブホテルに行き,ビジネスホテルを使う際にもベッドが1つしかない1つの部屋を予約して宿泊するなどという,当時16歳の女子高校生に対する健全な教育的指導としてあり得ない行動をとっている。このような被告人の行動からすれば,被告人が当時,長年の教師生活の中で培ってきたはずの分別を働かせることができないほど,Aとの関係にのめり込んでいたことが明らかであり,本来教師として生徒に抱くべきでない性的関心をAに抱いていたとしても不自然ではなく,ラブホテル等の利用に至っては,むしろ性的関心を抱いていなかったと見る方が困難である。したがって,被告人のこのような行動によっても前記(1)の推認は補強される。
  (4) これに対して,被告人は,前記第2の3(3)の滞在の際,Aから,自分の見えないところや寝相を見たいので写真を撮ってほしいと言われており,本件各静止画もAに見せて会話の材料にするために撮影したものであって,性的な意図はなかった旨供述し,弁護人もこれに沿う主張をする。しかし,被告人の同供述は,既に見たとおりの本件各静止画の内容,撮影状況及び撮影に至る経緯に照らして不合理極まりなく,前記(2)及び(3)で見た事情により補強される前記(1)の推認を妨げるような証拠価値を有しない。
 以上によれば,被告人は,自己の性欲を興奮させる意図で本件各静止画を撮影したものと認められる。
第4 判示第3の事実について
 1 既に見たとおり,被告人は,2月21日午前1時10分頃,ラブホテルであるcホテルにAと行って,約9時間滞在し,その滞在中である同日午前7時14分頃に,自己の性欲を興奮させる意図で判示第2の静止画を撮影しており,同静止画によれば,Aが,その頃までに,もともと着用していた衣服を脱いでおり,被告人の面前で両乳房を露出させることに抵抗がない状態にあったことが認められる。
 2 前記1の事実だけからしても,被告人が,判示第3のcホテルでの滞在時に,Aと性交していたと推認するのが自然であるといえるが,加えて,既に見たとおり,判示第3の滞在に至るまでの経緯として,Aが被告人に対する好意と依存を示していたのに対して,被告人もAとの関係にのめり込み,繰り返しAとラブホテルに行くなどして1つのベッドを共に使う中で,Aの露出した乳房や陰部の静止画を撮影したり,性玩具の自動販売機を目にしてこれを利用したりするという,性欲の興奮に向けられた行動をとっていたという事実があり,2月中旬頃には,Aが被告人に対して,子どもが欲しい,今度はゴム着けんでねなどという,被告人との性交があることを前提とする内容の発言をしていたという事実もある。これらの事実を前記1の事実と併せて見ると,被告人が性的に不能であったために性交したくてもできなかったというような特段の事情がない限り,被告人とAが繰り返しラブホテルに行く中での1回である判示第3の滞在の際に,被告人とAとの間で性交があったと強く推認されるというべきである。判示第3の滞在の際に被告人と性交した旨のAの供述は,この推認に合致するものであり,それだけでも同供述の信用性の高さが担保されている。また,判示第3の滞在の後である3月5日のAの行動について見ても,Aは,当初被告人をかばう発言をしていたものの,その後母に判示第3の性交の事実を話すに至っており,この事実も判示第3の性交があったことと整合する。
 3 弁護人は,①ラブホテル内での行動に関するAの供述が具体性を欠く,②Aの記憶が薄弱である,③Aの供述は,被告人とAが最初にcホテルに行ったのが1月10日であるにもかかわらず,平成27年12月にもcホテルに行った旨述べるなど,客観的証拠と矛盾し,内容自体にも不合理な点がある,④恐れている大人に迎合する性格のAが,3月5日に母から長時間問い詰められた結果,被告人との性交を認める作り話をせざるを得なくなり,引き返せなくなっていると考えられるといった理由から,Aの供述は信用できない旨主張する。
 確かに,Aの供述には,記憶があいまいである若しくは欠落している旨述べている部分が多くあり,ラブホテル内での具体的な行動についての詳細は語れておらず,本件各犯行よりも前の経緯及び被告人に対する当時の心情に関しては,cホテルの利用履歴やAが被告人宛てに書いた手紙の内容に整合しない供述となっている。また,証拠(A及びAの母の各公判供述等)によれば,Aは,本件各犯行当時解離性障害にり患して,精神的に不安定な状態にあったが,3月5日に被告人との性交について母に話した後は,母との関係が改善し,被告人に対する依存が解消されたことが認められるのであり,現時点において,未だ若年であるAが,被告人に依存していた頃の自身の不安定な心情や当時の行動の詳細といった,自身にとって嫌な思い出に当たると思われる事実について,冷静に振り返った上で時系列を整理して正確に供述することがどの程度できるのか疑問がある。そのため,本件各犯行よりも前の経緯及び被告人に対する当時の心情に関しては,Aの供述を全面的には信用することができない。しかし,判示第3の滞在の際に被告人と性交したという,Aの供述の核心部分については,既に見たとおり,性交の事実を強く推認させる他の証拠によって裏付けられており,弁護人の前記各主張によっても,このような核心部分の信用性は動揺しない。その他,弁護人が,Aの供述の信用性に関して弁論で主張するいずれの内容も,Aの供述の核心部分の信用性を動揺させるものではない。
 4 被告人は,Aと繰り返しラブホテルに行っていたのは,人目につかないところでAの精神を安定させて話をするか仮眠を取るかするためであり,Aに対する性欲はなく,疲れていて体力もなかったので,Aと性交したことは一度もない旨供述する。
 しかし,教師である被告人が,話をしたり仮眠を取ったりするだけの目的で,女子高校生に対する教育上明らかに不適切な場所であるラブホテルに,一度ならず何度も行くというのは不自然極まりないし,既に認定したとおり,被告人は,判示第3のcホテルでの滞在の際,自己の性欲を興奮させる意図で判示第2の静止画を撮影しており,Aに対する性欲があったことが明らかである。加えて,判示第3の日にcホテルに行く直前までの被告人とAの行動及びその際の被告人の様子について,興信所作成の調査報告書(甲11に添付のもの)を見ても,被告人が,短時間の性交すらできないほど疲弊している様子はうかがわれない。以上によれば,Aと性交していないこと及びその理由についての被告人の供述は信用できず,判示第3の滞在の際に被告人と性交した旨のAの供述の信用性を動揺させるような証拠価値を有しない。
 5 そして,本件全証拠を見ても,被告人が性的に不能であったことを疑わせる事実はなく,Aに対する性欲があってラブホテルにまで行っていながら,判示第3の日に限ってAと性交できなかった特別の事情が存在したことを疑わせる事実も見当たらない。
 6 以上によれば,Aの供述及びその核心部分の信用性を支える他の証拠によって,判示第3の滞在の際に被告人がAと性交した事実が認められる。
 なお,Aは,被告人と性交したくなかった旨述べるが,既に見たとおり,被告人に対する当時の心情に関しては,Aの供述を全面的には信用できないのであり,Aが被告人宛てに書いていた手紙の内容や,前記第2の7のとおり,Aが被告人に対して,子どもが欲しい,今度はゴム着けんでねなどと言っていたことに照らすと,判示第3の性交の当時,Aにおいても被告人との性交を望んでいた可能性は排斥できない。しかし,他方で被告人は,妻子がありながらAと性交し,その事実を妻子やAの母などの周囲の者に一切明らかにせず,ラブホテルでの滞在履歴や本件各静止画等の証拠を目の当たりにしてもなお,不自然不合理な弁解を続けて,性交の事実のみならずAに対する性欲があったことすら頑なに否認しており,このような被告人においては,Aを真剣な交際の相手としてではなく,単に自己の性欲を満足させるための対象として扱っていたと見るほかない。その上,被告人はa高校の教頭として,同校の生徒であるAを指導する立場にあり,被告人及びAの供述によれば,被告人は,Aとその母から信頼を寄せられる中で,Aの複雑な生育環境や,Aの母が生活保護費を受給しながら自動車を運転していることなど,公にされると困るとAが思うような個人情報も掌握し,Aもそういった情報が掌握されていることを知っており,そのような状況の中で,被告人とAは,被告人が運転する車でラブホテルに行き,判示第3の性交に及んだことが認められる。このような事実関係の下では,被告人は,単にAの淫行の相手方となったにとどまらず,Aに対して事実上の影響力を及ぼして,Aが淫行をなすことを助長し促進する行為をしたと認められ,被告人の行為は,児童福祉法34条1項6号の「児童に淫行をさせる行為」に当たる。
 (法令の適用)
 ・罰条
 判示第1及び第2の各所為
 いずれも,児童買春,児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律7条5項,2項,2条3項3号
 判示第3の所為 児童福祉法60条1項,34条1項6号
 ・刑種の選択 いずれも懲役刑を選択
 ・併合罪の処理 刑法45条前段,47条本文,10条
 (最も重い判示第3の罪の刑に法定の加重)
 ・未決勾留日数の算入 刑法21条
 ・刑の執行猶予 刑法25条1項
 (量刑の理由)
 (求刑 懲役2年6月)
 平成29年4月21日
 広島地方裁判所刑事第1部
 (裁判官 武林仁美)