児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

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客観的に性的自由を侵害する行為は、強制わいせつ罪になるのか?(自己の特異な性的欲求を満足させるため,その口腔内に中指を押し込んで同人に嘔吐させる行為 青森地裁H18.3.16)

 嘔吐させて性欲みたすための誘拐はわいせつ誘拐としながら、嘔吐させる行為とは併合罪としている点がおかしい。牽連犯ですよね。

青森地方裁判所平成18年3月16日
(罪となるべき事実)
被告人は
第1 女子高校生にわいせつの行為をする目的で,就職先の面接をすると偽って同女らを誘拐しようと企て,青森市a番地b青森県立甲高等学校に勤務する教諭Aに対し,真実は自己が株式会社乙に勤務しておらず,同社の新卒者採用面接及び研修の担当者でもないのに,自己が同社の新卒者採用面接及び研修の担当者であって,同校の就職希望者の紹介を求めるかのように装ってその旨上記教諭を誤信させた上
1 平成17年11月5日午前10時ころ,前記青森県立甲高等学校において,前記教諭の紹介により被告人を株式会社乙の採用面接及び研修の担当者であると誤信したB(当時18歳)に対し,「助手席に乗って」などと申し向け,あたかも移動先において同社の面接が行われるかのように振る舞い,その旨同人を誤信させ,同人を被告人運転の軽四輪乗用自動車助手席に同乗させて同所から発進させ,同日午後6時25分ころ,同市c番地丙株式会社丁支社戊駅前路上で解放するまでの間,同人を同市d丁目e番f号亥g号被告人方に連れ込み,上記車両に同乗させるなどして自己の支配下に置き
2 同月6日午前9時50分ころ,前記戊駅前において,被告人を株式会社乙の採用面接及び研修の担当者であると誤信した前記Bに対し,あたかも移動先において同社の研修が行われるかのように振る舞い,その旨同人を誤信させ,同人を被告人運転の前記車両助手席に同乗させて同所から発進させ,同日午後1時45分ころ,同市h番地i先路上で解放するまでの間,同人を前記被告人方に連れ込み,上記車両に同乗させるなどして自己の支配下に置き
3 同月11日午前10時ころ,同市j丁目l番m号株式会社乙前路上において,前記教諭及びBの紹介により被告人を同社の採用面接及び研修の担当者であると誤信したC(当時17歳)に対し,「Cさんですか。車に乗って。これから面接の場所に行きます。」などと嘘を言い,あたかも移動先において同社の面接が行われるかのように振る舞い,その旨同人を誤信させ,同人を被告人運転の前記車両助手席に同乗させて同所から発進させ,同日午後2時35分ころ,同市n番地o先路上で解放するまでの間,同人を前記被告人方に連れ込み,上記車両に同乗させるなどして自己の支配下に置きもってそれぞれわいせつの目的で誘拐した
第2 同日午後1時25分ころ,前記被告人方において,Cに対し,5回にわたり,その口腔内に自己の右手の中指を舌の付け根辺りまで押し込んで嘔吐させる暴行を加えたものである。
(量刑の理由)
本件は,被告人が,自己の性的満足を得ることを目的として,高校時代の恩師に高校新卒者の就職採用面接をしたい旨申し向けて欺き,同教師から紹介を受けた女子高校生2人を,就職採用面接や研修をすると偽って誘い,自己の運転する車両に同乗させ,自宅に連れ込むなどして誘拐し(判示第1の1ないし3),うち1人に対し,自己の特異な性的欲求を満足させるため,その口腔内に中指を押し込んで同人に嘔吐させる暴行を加えた(判示第2)事案である。
被告人は,かねてから,女子高生に性的興味を抱いていたが,かつて,口淫した女性がその後嘔吐したアダルトビデオを観て性的興奮を覚えたことから,女子高生と性交したり,口淫させて嘔吐させたいと考え,本件犯行を思い立ったものであり,その動機は極めて欲求本位かつ自己中心的である。その犯行態様を見るに,被告人は,手紙で上記のとおり恩師を欺いて就職希望者の紹介を求め,信用を得るため,以前自己がアルバイトをしていた会社の募集要項,同社の従業員である旨の名刺,被害者らへの説明用として,同社の業績に関する資料等を自ら作成し,嘔吐させる際に用いるバケツ,手袋,睡眠導入剤を用意するなど周到な準備を行った上で,計画的に本件各犯行を行ったものである。その上で,被告人は,就職採用面接及び研修担当者と偽って被害者らを自己の運転する車両に同乗させ,被害者らを連れ込んだ被告人宅において,もっともらしく当該会社の業績や仕事内容等を説明した上で,採用を内定する旨告げるなどして安心させ,所期の目的を達成しようとしたもので,高校生の就職難が問題視されている昨今の情勢下,就職を希望する被害者らの心理につけ込んだ卑劣な犯行であり,自己の支配下に置いていた時間もそれぞれ約8時間,約4時間及び約4時間半といずれも長時間と言える。さらに,被告人は,被害者が嘔吐する姿を見るため,被害者の1人に対しては酔い止めと称して睡眠導入剤を飲ませ,別の被害者に対しては嫌がる同人を説得して,実際に同人の口腔内に自己の指を押し入れ,目の前で嘔吐させて,被告人なりに最低限の目的を達成したのであって悪質である。被害者らには落ち度はなく,信頼を裏切られた被害者らの精神的苦痛は大きく,同人らの処罰感情が強いのももっともである。被告人が,本件の約7か月前にも女性と知り合いになるため警察官の身分を偽ったとして科料に処せられていることをも併せ考慮すれば,被告人の本件各犯行は厳しく非難されるべきである。
しかしながら,被告人は,わいせつ行為には及んでいないこと,被害者らを自己の支配下に置いている間,被害者らを引き留めるため暴行等を加えたこともないこと,被告人は,被害者らに対して反省文を送付し,今後も慰謝の措置をとる旨述べるなど反省の情を示し,今後は自己中心的な考え方を改める旨述べていること,被告人が公判請求されたのは今回が初めてであること,被告人の父親が今後の監督を誓約していることなどの被告人にとって有利な事情も認められる。そこで,これらの諸事情を総合考慮した上で,主文掲記のとおりの刑を科し,被告人の社会内における更生に期待して今回はその刑を猶予するのが相当であると判断した。
(求刑懲役4年)
    青森地方裁判所刑事部
        裁判長裁判官  高原 章
           裁判官  室橋雅仁