児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

井田良『講義刑法学・各論』における監護者性交罪の説明

井田良『講義刑法学・各論』
http://www.yuhikaku.co.jp/books/detail/9784641139176
http://www.yuhikaku.co.jp/static_files/13917_P103.pdf

 同居している内妻の連れ子と真剣な恋愛関係になったとか、施設の職員と児童とが真剣な恋愛関係になったという場合にも「乗じて」が否定されることになるでしょう。

第179条
① 18歳未満の者に対し,その者を現に監護する者であることによる影響力があることに乗じてわいせつな行為をした者は,第176条の例による。
② 18歳未満の者に対し,その者を現に監護する者であることによる影響力があることに乗じて性交等をした者は,第177条の例による。
2017(平成29)年の刑法一部改正により新設された犯罪類型である。暴行・脅迫による強制という手段を用いることなく,地位・関係性を利用して行われた性的侵害行為であって,同意がおよそ問題にならない状況下にあったと捉えられる場合を類型化したものである。被害者が精神的に未成熟であり,かつ監護者との関係で精神的・経済的に依存しているときには,監護者がその影響力があることに乗じて行う行為に対し「抗拒不能」とまではいえないとしても(この要件が充足されれば,準強制わいせつ罪・準強制性交等罪〔178 条〕が成立しうる),被害者の有効な同意に基づく行為とはいえず32,被害者を刑法典の性犯罪処罰規定により保護する必要があるとする考え方に立脚している。
なお,18 歳未満の者に対するその種の行為は,これまで児童福祉法34 条1 項6号の「児童に淫行をさせる行為」として処罰されてきたが(罰則は60 条1 項により,10年以下の懲役もしくは300 万円以下の罰金またはこれらの併科),その違法性の程度において強制わいせつ罪・強制性交等罪と変わらないところから,新規定が加えられたのである(学校の教師やスポーツクラブの指導者など,被害者との関係で監護者に当たらない者が地位・関係性を利用して行う性的侵害行為については,今後も児童福祉法34 条1 項6 号により対応することとなるが,むしろ心理的な「抗拒不能」を肯定して準強制わいせつ罪・準強制性交等罪の規定〔178 条〕を適用すべきケースもありえよう)。
「現に監護する者」とは,親権者のように法律上の監護権に基づきこれを行う者(民法820 条を参照)に限られない。事実上,現に18 歳未満の者を監督・保護する者であればこれに当たりうる(ただ,親子関係と同視しうる程度に,居住場所の提供・生活費用の支出・人格形成等の生活全般にわたる指導・監督などを継続的に行うによる依存関係・保護関係が形成されていなければならない)。逆に,法律上の監護権を有する者であっても,実際に監護しているという実態がなければこれから除かれることもありうる。「現に監護する者」の具体例としては実親や養親等が挙げられるが,養護施設等の職員についても具体的事情の下でこれに該当する場合がある。「影響力があることに乗じて」とは,影響力があることを明示し積極的にこれを利用するところまでは必要でなく,影響力があるにより可能となった状況において行為を行うことで足りる(単に,監護者であることを相手に認識させなかったというような稀有なケースがこれから除かれることになる)。