児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

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飲食店の女子トイレにおいて、飲酒酩酊のため抗拒不能であった被害者に対し、接吻し、その頭部を手で押さえて自己の陰茎を口淫させ、その膣内に指を挿入するなどした上で姦淫し(準強姦)、引き続き、同所に現れた弁論分離前の共同被告人との間で、意思を通じ、被告人が共同被告人を煽るような発言をし、2人以上の者が共同して被害者の抗拒不能に乗じて姦淫した(集団強姦)行為を、準強姦と集団強姦罪の包括一罪とした事例(千葉地裁H28.5.29)

 混合的包括一罪

千葉地方裁判所平成29年5月29日
上記の者に対する集団強姦被告事件について、当裁判所は、検察官西村圭一、同田端仁美、弁護人伊藤安兼各出席の上審理し、次のとおり判決する。

主文
被告人を懲役4年に処する。
未決勾留日数中40日をその刑に算入する。

理由
(罪となるべき事実)
 被告人は、平成28年9月20日午後10時頃から同月21日午前零時30分頃までの間に、(住所略)飲食店A店内女子トイレにおいて、●●●(●●●)が飲酒酩酊のため抗拒不能であることに乗じ、●●●を姦淫しようと考え、飲酒酩酊のため抗拒不能であった●●●に対し、その口に接吻し、その頭部を手で押さえて自己の陰茎を口淫させ、その膣内に指を挿入するなどした上で姦淫し、もって、●●●の抗拒不能に乗じて姦淫し、引き続き、同所に現れた弁論分離前の共同被告人Bとの間で、●●●の抗拒不能に乗じて共同して●●●を姦淫しようとの意思を相通じ、被告人が、Bに対し、「キスしすぎだよ」「便座に座らせたら、超やりやすいよ」などと姦淫を煽るような発言をし、Bが、飲酒酩酊のため抗拒不能であった●●●に対し、その膣内に指を挿入し、その頭部を手で押さえて自己の陰茎を口淫させた上、●●●を姦淫し、被告人が、その状況を見続け、もって、2人以上の者が現場において共同して●●●の抗拒不能に乗じて姦淫した。
(事実認定の補足説明)
 弁護人は、被告人自身の姦淫に関する準強姦罪の成立は争わないが、その後のBによる姦淫に関し、被告人がBと意思を相通じて共同して姦淫したことはないとして集団準強姦罪の成立を争っている。
 1 そこで、検討すると、被害者の供述調書(被害者は、Bの供述内容に迎合したりすることなく、自己の記憶している事実を真摯に供述しているものと認められ、その供述の信用性は高いと考えられる。)等の関係証拠によれば、〈1〉女子トイレの個室において、被告人が、犯罪事実記載のとおり、飲酒酩酊のため抗拒不能の被害者に対し、わいせつ行為をした上で姦淫したこと、〈2〉被告人が女子トイレの個室から出た後に、同じ飲み会に参加していたBが入ってきて、犯罪事実記載のとおり、被害者に対し、わいせつ行為をした上で姦淫したこと、〈3〉その際、Bが被害者の口に接吻した頃には、近くにいた被告人が、Bに対し、「キスしすぎだよ」などと声を掛けていたこと、〈4〉Bが被害者に口淫させた頃には、被告人が、Bに対し、「便座に座らせたら、超やりやすいよ」などと言っていたこと、〈5〉その後、Bが被害者を姦淫したこと、〈6〉被告人は、5分強にわたって、Bが、口淫させたり、被害者に覆いかぶさって腰を5、6回振って姦淫したりしているのを近くで見続けていたこと、〈7〉姦淫後に、Bが、被告人に対し、「俺ら兄弟だな」と話していたこと、〈8〉さらに、被告人及びB以外にも、同じ飲み会に参加していたC及びDも女子トイレ内に現れて、被害者は、服が乱れた状態で写真を撮影されるなどしたことが認められる。
 2 検察官は、被告人とBの共謀後の被告人によるわいせつ行為について、Bの供述に基づいて、被告人も、Bと一緒に、被害者の膣内に自己の指を挿入した上、自己の陰茎を口淫させるなどしたと主張する。これに対し、被告人は、自己の姦淫後にしたわいせつ行為について、Cらが現れた後になって、被害者にキスしただけである旨供述している。
 Bの姦淫の際の被告人のわいせつ行為を立証する証拠は、Bの供述しかないところ、Bは、捜査段階では、被告人が口淫させたかどうかについては、断言ができないと述べ(乙8)、それ以上に具体的な供述をしていたとはうかがわれない。にもかかわらず、公判廷では、「被告人が口淫させていたのは覚えている。被害者が床に尻をついて便座にもたれ掛かって、少し上を向いた状態で口が半開きのような状態になっていて、その半開きになっている口に被告人が自分の陰茎を入れて、その後に続いて自分も同じように口淫させてしまった」などと特段の理由の説明もなく供述を詳細化させている。Bには、自らの従たる地位を強調するため、被告人の行為に関し誇張した供述等をするおそれがあることを踏まえると、Bの供述に基づいて、被告人のわいせつ行為を認定するのは困難である。
 3 そこで、被害者の供述調書等に基づいて認定した事実を踏まえて犯罪の成立について検討すると、被告人には自己の姦淫に関し準強姦罪が成立するだけでなく、被告人が、Bの姦淫に関し、「キスしすぎだよ」「便座に座らせたら、超やりやすいよ」などと、Bによる姦淫を煽るような発言をしていたと認められることや、Bを制止することなく、ある程度の時間にわたってBの姦淫行為等を近くで見続けていたことに照らすと、Bと意思を相通じて現場において共同して被害者を姦淫したと認めるのが相当であり、被告人には集団準強姦罪が成立する。
 4 なお、本件では、被告人及びBの各姦淫の時刻を証拠上、具体的に特定するのは困難であるところ、弁護人は、飲み会の後半頃である午後10時25分頃に被告人が飲み会の席で友人と騒いでいる映像を根拠に、被告人が自己の姦淫後にいったん飲み会に戻ったと指摘する。しかし、被告人が、自己の姦淫後にBが姦淫した際には女子トイレにいたことは争いがなく、証拠上も明らかであるから、弁護人の指摘する事実は、集団準強姦罪の成立には影響しない。
(法令の適用)
罰条
準強姦の点 刑法178条2項、177条前段
集団準強姦の点 刑法178条の2(178条2項)
 包括一罪と評価し、刑法10条により一罪として重い集団準強姦罪の刑で処断することとする。
未決勾留日数の算入 刑法21条
訴訟費用の処理 刑事訴訟法181条1項ただし書(不負担)
(量刑の理由)

(求刑 懲役6年)
刑事第3部
 (裁判長裁判官 楡井英夫 裁判官 髙橋正幸 裁判官 清水拓二)