児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者性交・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録記録被告事件弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 hp@okumura-tanaka-law.com)

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被告がオンライン上のデータ保存サービスを利用し、画像閲覧のためにアクセスするアドレスは被害者だけに送信していたと指摘。「不特定多数の人が画像データを認識できる状態ではなかった」と判断した。(大阪高裁H29.6.30)

 公然陳列罪の既遂時期は不特定又は多数の者が閲覧可能になった時です。掲示板サイトに児童ポルノ画像を上げたがurlをばらまいていない(誰も閲覧していない)時点で既遂にした判例(大阪高裁)もあります。
 判決書はもらえました
 判例DBに出ましたので公表します。
 

大阪高等裁判所平成29年06月30日
上記の者に対する強要未遂、私事性的画像記録の提供等による被害の防止に関する法律違反、わいせつ電磁的記録記録媒体陳列被告事件について、平成28年12月15日大阪地方裁判所が言い渡した判決に対し、被告人から控訴の申立てがあったので、当裁判所は、検察官田中嘉寿子出席の上審理し、次のとおり判決する。
<第一審>平成28年12月15日/大阪地方裁判所/第7刑事部/判決
主文
原判決を破棄する。
被告人を懲役1年に処する。
この裁判確定の日から3年間その刑の執行を猶予する。
原判示第2の事実につき、被告人は無罪。

理由
 本件控訴の趣意は、弁護人崔信義作成の控訴趣意書(ただし、弁護人は、法令適用の誤りを主張する趣旨であると釈明した。)及び控訴趣意補充書各記載のとおりであり、これに対する答弁は、検察官田中嘉寿子作成の答弁書記載のとおりである。
1 論旨は、要するに、原判示第2の事実(公然陳列)につき、被告人には原判示の画像等のデータを被害者以外の第三者に閲覧させる意図はなく、また、同データを「Aボックス」(以下「Aボックス」と表記する。)に送信し、記憶蔵置させただけでは、不特定多数のインターネット利用者にその閲覧を可能な状態に設定したことにはならず、同データの内容を公然と陳列したとはいえないのに、前記事実を認定し、私事性的画像記録の提供等による被害の防止に関する法律(以下「画像被害防止法」という。)及び刑法の各該当条文を適用して各公然陳列罪の成立を認めた原判決には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令適用の誤りがあるというものである。
2 原判示第2に係る公訴事実の要旨等
  原判示第2に係る公訴事実の要旨は、「被告人は、平成28年8月29日、自宅のパーソナルコンピュータ(以下「パソコン」という。)を使用して、インターネットを介し、元交際相手の女性( 以下「被害者」という。)の顔を写した画像データと共に、その露出した胸部等を撮影した画像データ及び動画データ25点(起訴状別表記載番号1ないし25。以下「本件データ」という。)並びに被害者の陰部を撮影したわいせつな画像データ5点(本件データのうちの5点。同番号3、6、7、11、21)をA株式会社(以下「A」という。)が管理するサーバーコンピュータ内に開設されたAボックスに送信して記憶、蔵置させるとともに、不特定多数のインターネット利用者に対し、前記画像等の閲覧が可能な状態を設定し、第三者が撮影対象者を特定できる方法で、衣服の全部又は一部を着けない人の姿態であって、殊更に人の性的部位が露出又は強調されているものであり、かつ、性欲を興奮させ又は刺激するものである私事性的画像記録物を公然と陳列するとともに、わいせつな電磁的記録に係る記録媒体を公然と陳列した」というものである。
  被告人は、同事実と同時に、同月28日夜、自宅のパソコンを使用し、被害者が使用するメールアドレスに、被害者の裸体画像等と共に返信がなければばらまく旨記載した電子メールを送信して閲読させ、その要求に応じなければ被害者の名誉に危害を加える旨告知して怖がらせ、義務のないことを行わせようとしたが、被害者が応じず、その目的を遂げなかったという強要未遂の事実(原判示第1)でも起訴された。
  上記各公訴事実の外形的事実に争いはなく、原審では本件データの内容が「公然と陳列」されたといえるか否かが争われた。
3 原判決の判断
  原判決は、刑法175条1項前段及び画像被害防止法3条2項にいう「公然と陳列」するとは、画像等のデータ内容を不特定又は多数の者が認識できる状態に置くことをいい、実際にそれらの内容を再生閲覧することまでは必要ではないと解すべきであるとし、本件においては、被告人がAボックスに公開設定をして、公開用のURLの発行を受けた段階で、画像等のデータの内容を不特定又は多数の者が認識できる状態に置いたとみるべきであり、いずれの罪も既遂に達していると解すべきことになるから、被害者以外の者に対して公開用のURLを伝えていないとの弁護人の主張を前提としても、原判示第2の各罪が成立することは明らかであると説示した。

4 当裁判所の判断
  しかし、被告人が本件データをAボックスに記憶蔵置し、その公開を設定して公開用のURLの発行を受けたというだけでは、いまだ、同データの内容を不特定又は多数の者が認識し得る状態に置いたとみることはできず、原判示第2の各公然陳列罪は成立しないと解すべきであり、原判決の前記判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。
 (1) まず、本件の経緯や犯行状況等についてみると、記録によれば、次の事実が認められる。
  ア 被告人は、ブログを通じて被害者と知り合い、平成27年9月頃から交際を始めたが、平成28年(以下同年)6月頃に被害者から別れを告げられた。これに対し、被告人は、別人物に成り済まして虚偽の内容の電子メールを送るなどし、被害者との復縁をもくろんだが、奏功せず、やがて被害者を憎むようになり、SNSや電子メールを使って被害者を中傷するなどし始めた。
  イ また、被告人は、被害者と交際していた間、その裸体や陰部を写すなどした画像及び動画の各データ(本件データを含む。)を自分のパソコンに保存していたが、これを利用して被害者を怖がらせようと考え、それまで使っていたAアカウントに加え、別に取得したAアカウント(以下「本件アカウント」という。)を使い、送信者が被告人とは分からない形で、8月28日午後11時44分頃、被害者宛に、「拒否してて届いてなかったらフェアじゃないので別アドでも連絡しとく。0時までに返信なかったらばらまく」というメッセージに前記画像データを添付した電子メールを送信した(原判示第1の犯行)。
  ウ Aは、Aアカウント(A・JAPAN ID)を持つ者であれば無料で利用可能なオンライン上のストレージサービスであるAボックスを提供している。
  Aボックス利用の際は、Aアカウント及びパスワードによりログインする必要があるため、そのユーザー以外の者がAボックスにアップロードされたファイルを見ることはできないが、「公開機能」を使えば、同ボックス内の特定のファイル又はフォルダーを第三者に閲覧させることができる(フォルダーを公開した場合は、そのフォルダー内にある全てのファイル又はフォルダーも公開される。)。この場合、Aユーザーは、ブラウザー等を使い、Aボックス内の「マイボックス」において、公開対象とするファイル又はフォルダーを選択するなど所定の操作を行い、発行されるURL(「公開ページのURL」及び「スライドショーのURL」。以下、併せて「公開URL」という。)を見せたい相手に電子メール等を使って送り、その相手が同URLにアクセスすれば、公開されたファイルやフォルダーを閲覧することができる仕組みとなっている。なお、公開設定では、短い形式の短縮URLも発行可能とされ、また、複数のファイルをまとめて公開設定すると、ファイルと同数のURLが発行されることになっている(以下では、原判示の記載に合わせ、「ファイル」も「データ」と表記する。)。
  エ 被告人は、本件アカウントを利用したAボックス内に、被害者の氏を半角カタカナで表記した名称のフォルダーを作り、8月29日午後3時15分頃から午後6時29分頃にかけて、同フォルダー内に本件データを含む画像データ及び動画データ合計32点をアップロードして、これを記憶蔵置させるとともに、同フォルダーを公開設定した。
  また、被告人は、本件データ等のアップロードに前後し、本件アカウントを使って被害者宛に、「手に入れた連絡先にはだいたい送った。よかったな。今日も話をしないならネットにまとめてツイッターにばらまく。」、「写真集作っておいてやったよ。ムービーはこれから追加しとくわ。」等のメッセージに本件データ中の画像の公開URL(「http://(以下略)」の次に小文字アルファベットと数字の組合せから成る6個の文字列が加わったもの)を添えた電子メールを送信した。
  もっとも、被告人は、被害者に対してのみ前記のような電子メールを送り、そのメッセージ内容にかかわらず、実際には第三者宛に本件データの公開URLを送信したことはなかった。
  オ 被害者は、前記イ、エの電子メールが送られてきたこと等について警察に相談しており、そのメッセージ内容や本件データ等が被告人しか持っていないはずのものであったことから、送信者が被告人ではないかと思い、その名前も告げていた。そして、被告人は、9月21日、強要未遂及びわいせつ電磁的記録記録媒体陳列の容疑で逮捕され、勾留のまま原判示第1及び第2の各事実により起訴された。
 (2) 原判示第2(以下では「本件」という。)の公訴事実の要旨は前記2のとおりであり、原審における冒頭陳述及び論告の各内容を併せれば、検察官は、被告人が本件データをAボックスに送信して記憶蔵置させるとともに、その閲覧が可能な状態を設定すること、すなわち公開設定することをもって、本件の実行行為に当たると主張していることが明らかである。
  ところで、前記のAボックスやその公開機能の仕組み等(前記(1)ウ)によれば、Aユーザーが、Aボックスに保存したデータをマイボックス内で公開設定した時点では、そのユーザーに公開URLが発行されるにすぎないから、公開設定されたデータを第三者が閲覧し得る状態にするには、公開設定に加え、公開URLを添付した電子メールを送信するなどしてこれを外部に明らかにするというAユーザーによる別の行為が必要となる(Aボックスに不正に侵入し、公開設定されたデータの公開URLを入手することは不可能ではないとしても、これは一般の者が容易に行えるものではない。)。そして、Aユーザーが、公開URLを電子メールに添えて不特定多数の者に一斉送信したり、SNS上や自己が管理するホームページ上でこれを明らかにしたりすれば、その公開URLにアクセスした者が公開されたデータを閲覧することは容易な状態となるから、当該データの内容がわいせつな画像等に当たる場合には、これを「公然と陳列した」ものとして、わいせつ電磁的記録記録媒体陳列罪等が成立すると考えられる。
  これに対し、本件では、被告人は、本件データを公開設定したが、その公開URLを電子メールに添えて送信した相手は被害者のみであり(前記(1)エ)、記録上、被害者以外の者に同URLを明らかにした事実はうかがわれない。そうすると、被告人がAボックス内に記憶蔵置させた本件データを公開設定した時点では、その公開URLが発行されたにすぎないから、いまだ第三者が同URLを認識することができる状態になかったし、被告人が同URLを明らかにした相手は被害者のみであったため、ここでも第三者が同URLを認識し得る状態にはなかったというべきである。
  したがって、本件の場合、被告人がAボックス内に記憶蔵置させ、本件データを公開設定したのみでは、いまだ同データの内容を不特定又は多数の者が認識することができる状態に置いたとは認められず、同データの公開URLを電子メールに添付して被害者宛に送信した点についても、特定の個人に対するものにすぎないから、これをもって同データの内容を不特定又は多数の者が認識し得る状態に置いたと認めることもできない。結局、被告人は、本件データの内容を不特定又は多数の者が認識することができる状態に置いたとは認められないから、刑法175条1項前段及び画像被害防止法3条2項各所定の公然陳列罪は成立しないというべきである。
  なお、いわゆるパソコンネットのホストコンピュータのハードディスクにわいせつな画像を記憶蔵置させる行為とわいせつ物の公然陳列に関する最高裁判所第三小法廷平成13年7月16日決定(刑集55巻5号317頁)の事案では、当該被告人の行為は、自ら開設、運営していたパソコンネットのホストコンピュータのハードディスクにわいせつ画像のデータを記憶蔵置させたことで完了しており、後は、不特定多数の会員が、自己のコンピュータを操作し、電話回線を通じて当該被告人のホストコンピュータのハードディスクにアクセスすれば、同データをダウンロードすることができる状態にあったというものである。また、児童ポルノのURLをホームページ上に明らかにした行為に関する最高裁判所第三小法廷平成24年7月9日決定(裁判集刑事308号53頁)は、当該被告人が、インターネット上にホームページを開設し、これを管理運営していた共犯者と、不特定多数のインターネット利用者に児童ポルノ画像の閲覧が可能な状態を設定しようと企て、共謀の上、第三者が開設していたインターネットの掲示板に児童ポルノ画像を記憶蔵置させていたことを利用し、その所在を特定するURLを一部改変して前記ホームページ上に掲載したという事案に関するもので、当該被告人が行ったのは改変URLのホームページ上への掲載であり、児童ポルノ画像は既に第三者が開設する掲示板に記憶蔵置されていたというものである。
  これらに対し、本件は、不特定多数の者が本件データを認識し得る状況になかった点で事実関係を異にするものであり、前記平成13年最高裁決定が示した「(刑法175)条が定めるわいせつ物を『公然と陳列した』とは、その物のわいせつな内容を不特定又は多数の者が認識できる状態に置くことをいい、その物のわいせつな内容を特段の行為を要することなく直ちに認識できる状態にするまでのことは必ずしも要しないものと解される」との判断を踏まえても、公然性は否定されると解するのが相当である。
5 自判
  以上のとおり、本件データをAボックス内に記憶蔵置させ、その公開設定をしたにすぎない被告人の行為は、そのデータの内容を「公然と陳列」したものといえず、刑法175条1項前段及び画像被害防止法3条2項の各公然陳列罪は成立しないのに、各条文を適用して各罪の成立を認め、原判示第2の事実を認定した原判決には法令の適用を誤った違法があり、これが判決に影響を及ぼすことは明らかである。
  そして、原判決は、原判示第2の罪につき、科刑上一罪の処理及び刑種を選択した上、原判示第1の罪と併合罪加重をし、1個の主文により判決を言い渡しているから、結局、原判決は全部破棄を免れない。
  よって、刑訴法397条1項、380条により原判決を破棄し、同法400条ただし書により直ちに当裁判所において自判すべきものと認め、更に次のとおり判決する。
 (罪となるべき事実)
  原判決の「罪となるべき事実」第1の記載のうち、原判決1頁19行目冒頭の「第1」を削り、「平成28年」の前に「被告人は、」を加え、2頁1行目末尾の「遂げず、」を「遂げなかったものである。」と改めるほかは、同記載のとおりである。
 (証拠の標目)
  原判決が「判示全事実について」として記載する証拠のとおりである。
 (法令の適用)
  被告人の判示行為は刑法223条3項、1項に該当するので、その所定刑期の範囲内で被告人を懲役1年に処し、情状により同法25条1項を適用してこの裁判が確定した日から3年間その刑の全部の執行を猶予し、訴訟費用は刑訴法181条1項ただし書を適用して、原審及び当審とも被告人に負担させないこととする。
 (無罪の言渡し)
  原判示第2の公訴事実の要旨は、前記2のとおりであるところ、既に説示したとおり、被告人の行為は刑法175条1項前段及び画像被害防止法3条2項各所定の「公然と陳列」したことに当たらず、各公然陳列罪は成立しない。結局、原判示第2の事実は罪とならないから、刑訴法336条により無罪の言渡しをする。
  よって、主文のとおり判決する。
第6刑事部
 (裁判長裁判官 笹野明義 裁判官 田中健司 裁判官石川恭司は、転補のため署名押印することができない。裁判長裁判官 笹野明義)

私事性的画像記録の提供等による被害の防止に関する法律
(平成二十六年十一月二十七日法律第百二十六号)
http://law.e-gov.go.jp/htmldata/H26/H26HO126.html
(私事性的画像記録提供等)
第三条  第三者が撮影対象者を特定することができる方法で、電気通信回線を通じて私事性的画像記録を不特定又は多数の者に提供した者は、三年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
2  前項の方法で、私事性的画像記録物を不特定若しくは多数の者に提供し、又は公然と陳列した者も、同項と同様とする。
3  前二項の行為をさせる目的で、電気通信回線を通じて私事性的画像記録を提供し、又は私事性的画像記録物を提供した者は、一年以下の懲役又は三十万円以下の罰金に処する。