児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

カード等を騙し取られた場合も譲渡罪か?

 実は、現在犯罪による収益の移転防止に関する法律違反事件2件(上告事件1・控訴事件1)の弁護人です。

 関係者が居たら奥村に連絡下さい。上告事件の方で控訴審弁護人じゃなかったので提供できなかった控訴理由や資料を提供します。

 ところで、最近の通帳詐欺の判例(最決平19・7・17刑集61-5-521)
をみればわかるように、通帳・キャッシュカードも詐欺罪の客体であるところ、そのように通帳等を詐取された場合には、犯罪による収益の移転防止に関する法律28条2項の「譲り渡し」「提供」に該当しない。

犯罪による収益の移転防止に関する法律
第二十八条  
2  相手方に前項前段の目的があることの情を知って、その者に為替取引カード等を譲り渡し、交付し、又は提供した者も、同項と同様とする。通常の商取引として行われるものであることその他の正当な理由がないのに、有償で、為替取引カード等を譲り渡し、交付し、又は提供した者も、同様とする。

 本件でも、被告人が金ほしさに通帳等を氏名不詳人に譲渡・提供したものの、金をもらえなかったのであるから、被告人が騙されて譲渡・提供させられたことは明かである。

 しかるに原判決は、犯収法27条2項の譲渡・提供罪を認定している。
 この点で原判決には法令適用の誤りがあるから原判決は破棄を免れない。

コレクターが取得する程度で正当理由になるなら、騙し取られた場合は正当理由があるという構成も可能でしょう。

逐条解説 犯罪収益移転防止法(平成21年、東京法令出版)p341
「通常の商取引又は金融取引」以外の「正当な理由」としては、例えば、相続が発生し、被相続人名義の預貯金通帳等を相続人の一人が保管していたところ、遺産分割が終了し、当該預貯金を別の相続人が相続することと決まった場合において、遺産の精算過程で当該預貯金通帳等を有償で当該別の相続人に引き渡すような場合や、金融機関の合併等により、今は存在しない金融機関名の通帳等をその希少価値からコレクタ-が有償にて取得する場合等が考えられる。

犯罪による収益の移転防止に関する法律
第二八条
 他人になりすまして特定事業者(第二条第二項第一号から第十五号まで及び第三十六号に掲げる特定事業者に限る。以下この条において同じ。)との間における預貯金契約(別表第二条第二項第一号から第三十七号までに掲げる者の項の下欄に規定する預貯金契約をいう。以下この項において同じ。)に係る役務の提供を受けること又はこれを第三者にさせることを目的として、当該預貯金契約に係る預貯金通帳、預貯金の引出用のカード、預貯金の引出し又は振込みに必要な情報その他特定事業者との間における預貯金契約に係る役務の提供を受けるために必要なものとして政令で定めるもの(以下この条において「預貯金通帳等」という。)を譲り受け、その交付を受け、又はその提供を受けた者は、一年以下の懲役若しくは百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。通常の商取引又は金融取引として行われるものであることその他の正当な理由がないのに、有償で、預貯金通帳等を譲り受け、その交付を受け、又はその提供を受けた者も、同様とする。
2相手方に前項前段の目的があることの情を知って、その者に預貯金通帳等を譲り渡し、交付し、又は提供した者も、同項と同様とする。通常の商取引又は金融取引として行われるものであることその他の正当な理由がないのに、有償で、預貯金通帳等を譲り渡し、交付し、又は提供した者も、同様とする。
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第二八条
2相手方に前項前段の目的があることの情を知って、その者に預貯金通帳等を譲り渡し、交付し、又は提供した者も、同項と同様とする。通常の商取引又は金融取引として行われるものであることその他の正当な理由がないのに、有償で、預貯金通帳等を譲り渡し、交付し、又は提供した者も、同様とする。

第二九条
2相手方に前項前段の目的があることの情を知って、その者に為替取引カード等を譲り渡し、交付し、又は提供した者も、同項と同様とする。通常の商取引として行われるものであることその他の正当な理由がないのに、有償で、為替取引カード等を譲り渡し、交付し、又は提供した者も、同様とする。

第三〇条
2相手方に前項前段の目的があることの情を知って、その者に仮想通貨交換用情報を提供した者も、同項と同様とする。通常の商取引として行われるものであることその他の正当な理由がないのに、有償で、仮想通貨交換用情報を提供した者も、同様とする。

http://www.kyoto-np.co.jp/politics/article/20170704000046
カード詐欺被害者が有罪に 不正譲渡認定、専門家も疑問
男性のもとに届いた融資の宣伝メール。事件も同様のメールが発端だった=写真は一部加工しています
男性のもとに届いた融資の宣伝メール。事件も同様のメールが発端だった=写真は一部加工しています
 詐欺の被害にあった滋賀県の男性が、一転して犯罪者として取り調べられ、このほど有罪判決を受けた。だまし取られたキャッシュカードが特殊詐欺に使われた結果、銀行口座を不正に譲り渡すことなどを禁じた犯罪収益移転防止法に違反したとされたためだ。専門家は、同様のケースは他にもあるとみており、詐欺グループに利用されただけの被害者を処罰することに疑問を投げかけている。

 昨年2月、家族の病気などで生活費に困っていた50代男性のスマートフォンに、融資の宣伝メールが届いた。男性が記載された連絡先に電話すると、電話口の女は「10万円融資できる」と持ち掛けた。

 女は、融資も返済も男性の銀行口座で行うので、返済金を引き出すために男性のキャッシュカードを送るよう求めた。男性は「この方法なら振込手数料がかからず、客の負担が少ないとの話には説得力があった」と振り返る。

 カードは返済が終わったら返送すると言われた。男性は東京都内の住所にカードを郵送し、暗証番号も伝えた。だが融資金は振り込まれず、相手とは連絡がつかなくなった。

 警察に相談すると、口座は特殊詐欺に使われていたことが分かった。カードをだまし取られたと訴えたが、捜査員に「被害者はあなたではない」と一蹴され、被疑者として取り調べを受けた。結局、犯罪収益移転防止法違反の罪で略式起訴され、罰金30万円の略式命令を受けた。不服を申し立て、正式な裁判で争ったが、有罪は変わらず罰金20万円とされた。

 同法は正当な理由がないのに有償でキャッシュカードなどを譲渡することを禁じている。特殊詐欺などに悪用されると知りながら、現金欲しさに自分名義の銀行口座を犯罪者集団に売り渡したとして逮捕される例は、京滋を含め全国で相次いでいる。

 今回のケースは違う。判決は、融資を受けるために使うと誤信してカードを送った、と男性がだまされたことを認定した。それでも有罪としたのは、男性がカードを送る際に融資の約束があったことをとらえ、「有償で」不正にカードを譲り渡したと判断したからだ。

 男性は「だまされたことは認めつつ罰金という判決は、どう悪いことをしたのか分かりにくい」と割り切れない思いを抱き、控訴した。

 同法に詳しい白鷗大の村岡啓一教授(刑事法)によると、同様の判決は他にもあり、略式命令で罰金を納付して終わる例も多いとみられるという。村岡教授は「一般市民を形式的に処罰しても、主犯格や詐欺グループの中枢には近づけない。経済的に弱い立場の人間がカードをだまし取られている実態を見ると、処罰は行き過ぎだ」と指摘する。

 

・犯罪収益移転防止法

 犯罪による収益が暴力団などの組織的犯罪を助長したり、被害回復が困難になったりすることを防ぐため、2007年3月に制定された。犯罪で得た収益を正当な取引に見せかけたり、出どころを隠したりすることを防ぐため、金融機関や不動産業などの特定事業者に顧客の本人確認や疑わしい取引の報告を義務づけた。口座の不正利用も禁じた。