児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

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児童虐待の防止等に関する法律における「監護する者」

 刑法とどう違うのかな
 

児童虐待の防止等に関する法律逐条解説」
(児童虐待の定義)
第二条
この法律において、「児童虐待」とは、保護者(親権を行う者、未成年後見人その他の者で、児童を現に監護するものをいう。以下同じ。)がその監護する児童(十八歳に満たない者をいう。以下同じ。)に対し、次に掲げる行為をすることをいう。

(保護者)
本法において「保護者」とは、児童福祉法と同様に親権を行う者、未成年後見人その他の者で、児童を現実に監督、保護している場合の者をいう。そのため、親権者や後見人であっても、児童の養育を他人に委ねている場合は保護者ではない。他方で、親権者や後見人でなくても、例えば、児童の母親と内縁関係にある者も、児童を現実に監督、保護している場合には保護者に該当する。
「現に監護する」とは、必ずしも、児童と同居して監督、保護しなくともよいが、少なくとも当該児童の所在、動静を知り、客観的にその監護の状態が継続していると認められ、また、保護者たるべき者が監護を行う意思があると推定されるものでなければならない。また、児童が入所している児童福祉施設の施設長は、児童を現に監護している者であり、「保護者」に該当する。

193-衆-法務委員会-21号 平成29年06月07日
平成二十九年六月七日(水曜日)
 まず、構成要件にある現に監護する者の意義について教えてください。
○林政府参考人 今回の法において監護するというのは、民法八百二十条に親
権の効力と定められているところと同様に監督し、保護することをいいまし
て、十八歳未満の者を現に監護する者とは、十八歳未満の者を現に監督し、保
護している者をいいます。
 本罪の現に監護する者に当たるか否かは個別の事案における具体的な事実関
係によって判断されることとなりますが、民法における監護の概念に照らしま
して、現にその者の生活全般にわたって、衣食住などの経済的な観点でありま
すとか生活上の指導監督などの精神的な観点、このようなものから依存、被依
存ないし保護、被保護の関係が認められ、かつ、その関係に継続性が認められ
るということが必要であると考えております。
○吉田(宣)委員 今、継続性というキーワードが一つ示されたかと思いま
す。
 次に、同じく構成要件で、今度は、現に監護する者であることによる影響力
という文言がございます。この意義について、刑事局長からまたお教えいただ
ければと思います。
○林政府参考人 監護者わいせつ罪及び監護者強制性交等罪における影響力と
は、人の意思決定に何らかの作用を及ぼし得る力をいいます。
 その上で、現に監護する者であることによる影響力とは、監護者が被監護者
の生活全般にわたりまして、衣食住などの経済的な観点や生活上の指導監督な
どの精神的観点から、現に被監護者を監督し、保護することにより生ずる影響
力のことをいいます。
 したがいまして、本罪の現に監護する者であることによる影響力といいます
のは、ある特定の場面における特定の行為に関する意思決定に直接かかわるも
のに限るものではありませんで、意思決定を行う前提となる人格、倫理観、価
値観等の形成過程を含めまして、一般的かつ継続的に被監護者の意思決定に作
用を及ぼし得る力に含まれていると考えております。
○吉田(宣)委員 現に監護する者であることの影響力を今お話しいただきま
したけれども、構成要件はさらに、影響力があることに乗じてと規定されてお
ります。この規定の意義について、加えて御説明いただければと思います。
○林政府参考人 乗じてとの用語でございますが、先ほど答弁いたしました現
に監護する者であることによる影響力が一般的に存在し、当該行為時において
も、その影響力を及ぼしている状態で性的行為を行うということを意味しま
す。
 すなわち、性的行為を行う特定の場面におきまして、監護者からこの影響力
を利用する具体的な行為がない場合でありましても、このような一般的かつ継
続的な影響力を及ぼしている状態であれば、被監護者にとっては監護者の存在
を離れて自由な意思決定ができない状態であると言えます。
 その上で、被監護者である十八歳未満の者を現に監護し、保護している立場
にある者がこのような影響力を及ぼしている状態で当該十八歳未満の者に対し
て性的行為をすることは、それ自体が被監護者にとって当該影響力により被監
護者が監護者の存在を離れて自由な意思決定ができない状態に乗じていること
にほかならないと言えます。
 よって、乗じてと言えるためには、性的行為に及ぶ特定の場面において影響
力を利用するための具体的な行為は必要なく、影響力を及ぼしている状態で行
ったということで足りると考えております。
○吉田(宣)委員 状態で足りるということでございました。
 次に、今野先生の質問とも関連また重複するかもしれませんけれども、私か
らも改めてお聞かせいただきたいのは、今の刑事局長からの御説明で構成要件
というものは改めて明確にはなっていると思っておりますが、その上で、十八
歳未満の者に対する影響力を及ぼす立場の者としては、これは監護者だけに限
った話ではなくて、学校の先生であったりスポーツのコーチの方であったり、
そういった方もいるんだろうと思います。これらの者については処罰の範囲と
はなっていないというふうに今の刑事局長からの御説明で私は理解をしており
ますけれども、この点、改正が不十分ではないかという御意見もありまして、
私自身もそういったお話を直接聞く機会がありました。
 法務省の見解についてお聞かせをいただければと思います。
○林政府参考人 委員御指摘のように、監護者性交等罪の監護者の範囲に限定
するものでは処罰対象として不十分ではないか、こういう意見があることは十
分に承知しております。
 その上で、今回、例えばスポーツのコーチでありますとかあるいは教師な
ど、こういった者についてはやはり通常は、生徒等との間に生活全般にわたる
依存、被依存ないし保護、被保護の関係が認められないことから、現に監護す
る者に当たらない場合が多いと考えております。
 現に監護する者以外の者につきましては、十八歳未満の者が生活全般にわた
って精神的、経済的に依存しているとは言えないわけでございますので、この
者に対する影響力も、監護者による影響力の場合とは異なりまして、十八歳未
満の者において、その者の言動の当否等を適切に判断することが常に期待しが
たい、こういった状態に常にあるとは言えないわけでございます。また、その
者の力が及ばない状態で精神的、経済的に自立して生活することが常に困難で
ある、こういった形で類型的に捉えることもちょっと困難な事案であろうかと
思います。
 そうしますと、今回の法案での主体の範囲を現に監護する者以外の者にも拡
張していく場合には、これは被害者の同意の有無を問わない構成要件であると
することは相当ではなくて、結局、行為者と被害者との関係、具体的な影響力
の内容や程度、被害者の同意の有無や意思決定の過程などを考慮した構成要件
をつくらざるを得なくなります。個別の事案ごとに、こういったものについて
は、さらに行為者の故意というものも必要となってくるわけでございます。
 こういった構成要件を考えた場合に、結局、監護者性交等罪を設けることに
よって対処しようとする事案については、基本的に個別の具体的な事案ごとに
立証が求められるわけでございまして、逆に、類型的な今回のような監護者に
限った形の構成要件ではなく、個別にその被害者の同意があるかないかなどと
いったものを構成要件に組み込んだような構成要件を考えますと、それは立証
することがかえって困難になるということも考えられます。そういったことを
しますと、本罪を創設していく趣旨というものについても結果的には合致しな
いことになるのではないかと考えられるわけでございます。
 そこで、今回の改正案では主体を現に監護する者に限定することとしまし
て、その場合には被害者の同意の有無を問わないというような構成要件として
監護者性交等罪を創設する、これをもって、性犯罪の実態というものに即した
対応をこのような形で行おうとしたものでございます。