児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

住居侵入強姦1件で懲役3年6月(鹿児島地裁H29.4.11)

 改正後の事件は、5年になるのか、従前の量刑相場を維持するのか

鹿児島地方裁判所平成29年04月11日
国選弁護人 野平康博
主文
被告人を懲役3年6月に処する。
未決勾留日数中90日をその刑に算入する。
理由
(罪となるべき事実)
 被告人は、平成23年6月4日早朝飲酒して帰宅する途中に性欲が高まり、女性を強姦することを企て、同日午前7時頃、A市内の被害者方に、無施錠の玄関ドアから侵入し、その頃、同所において、被害者(当時21歳)に対し、その身体を布団に押し倒し、足の上にまたがり、右手首を左手で押さえつけるなどの暴行を加えるとともに、「騒いだら殺すぞ」などと言って脅迫し、その反抗を抑圧した上、強いて被害者を姦淫した。
(法令の適用)
1 罰条
  住居侵入の点 刑法130条前段
  強姦の点 刑法177条前段
2 科刑上一罪の処理 刑法54条1項後段、10条(住居侵入と強姦との間には手段結果の関係があるので、1罪として重い強姦罪の刑で処断)
3 未決勾留日数の算入 刑法21条
4 訴訟費用 刑事訴訟法181条1項ただし書(不負担)
(量刑の理由)
 被告人は、早朝マンションの一室に侵入し、独り住まいの被害者には逃げ出すことも抵抗することも困難な状況の中、強姦に及んだ。暴行の程度は強くないものの、「殺すぞ」などと強い脅迫を加えた上で、口淫を強要したり、陰部に手指を挿入したりするなど、屈辱感を与える卑劣なわいせつ行為に及んだ挙げ句、姦淫を遂げている。無関係な女性を対象にし、住居侵入やわいせつ行為を伴う悪質な犯行である。被害者は、本来最も安全で安心できるはずの自宅で就寝中に突如このような被害に遭ったものであり、被害から長期間経過した現在でも精神的な苦痛は癒えず、結果は重大といえる。
 被告人は、飲酒後帰宅中に性欲が高まり、女性を強姦しようなどと思い立つと、女性の独り住まいを狙ってマンションを何軒も物色した挙げ句、たまたま無施錠であった被害者宅に行き着いて遂に犯行に及んだ。計画性は高くはないが、強い強姦の犯意に基づく身勝手な犯行であり、自宅で就寝していた被害者に落ち度はない。
 以上の行為責任を前提とした上で、宥恕は得られていないものの、両親の助力を得て200万円を支払って被害者との間で示談が成立していることも踏まえ、単独犯による強姦既遂1件のうち、被害者との間で示談が成立している事件類型の中で本件をみると、被害者宅に侵入し、悪質性の高いわいせつ行為を伴っている上、被害者に落ち度のない身勝手な犯行であることなどからすれば、本件は、中間より重い部類に属し、実刑をもって臨むべき事案といえる。
 その上で、被告人には前科がなく、公判廷で事実を認め反省の弁を述べていること、飲酒をすると性欲が抑えられなくなる傾向にあることを自覚し、断酒を約束するとともに、性犯罪加害に関する精神科治療計画まで作成していること、両親が更生を支援する旨誓約していることなど更生可能性に関連した事情を考慮し、主文の刑に処するのが相当であると判断した。
(検察官の求刑:懲役5年、弁護人の量刑意見:保護観察付き執行猶予)
刑事部
 (裁判長裁判官 冨田敦史 裁判官 福田恵美子 裁判官 大竹泰章)