児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者性交・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録記録被告事件弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 hp@okumura-tanaka-law.com)

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「性的不可侵性」を侵害する行為~山中敬一「強制わいせつ罪の保護法益について」研修817号(2016年)

「性的不可侵性」を侵害する行為~山中敬一「強制わいせつ罪の保護法益について」研修817号(2016年)
 こうなると行為を列挙するしかないかなあ

山中敬一「強制わいせつ罪の保護法益について」研修817号(2016年)
(3)解釈的帰結(わいせつ行為の意義)
強制わいせつの罪の保護法益について, その根底にあるのは人の「性的不可侵性」であるとし,その侵害をその態様に応じて構成要件を設け,処罰するのが,強制わいせつの罪の節の趣旨であるとすると, その法益論からも実行行為の一部としての「わいせつ行為」の解釈にも影響するはずである。
性的不可侵の侵害態様に照らしこれを分析しておこう。
(a) わいせつ行為の類型
わいせつ行為の第1の類型は,被害者の性的領域(性器・乳房・臂部・肛門・唇)への接触を基本とする行為である。
接吻(注28),抱きすくめる行為,着衣の上から瞥部をなでる行為(注29)等がある。
直接の接触.媒介物を用いての接触を問わない。
この類型の行為は,行為客体が1) 13歳以上の者, 2) 13歳未満の者, 3)抗拒不能状態にある者を問わず,性的刺激を引き起こす部分への接触によって性的不可侵性への侵害となる。
第2類型の行為は,接触を伴わない,人間の知覚.感覚(主として視覚)を通じて性的刺激を惹起する行為である。
この類型の行為が完成するためには,被害者の「知覚・感覚」に作用することを要する。
したがって,原則として, 1)被害者に知覚能力があることが必要である。
知覚能力がある状態であっても,被害者が知らないうちに裸の姿を覗き見られていたといった場合は,それのみでは被害者の性的不可侵性の侵害はない。
2) 13歳未満の者に対しても,(乳幼児は除いて)わいせつ行為の意味を理解することができる年齢であれば,このグループのわいせつ行為は可能である。
3)植物状態に陥った者ないし就寝中の者については,抗拒不能に乗じるだけでは,性的不可侵性の侵害とはいえないであろう。
1)の被害者に知覚能力がある場合,および3)の「ない」場合に共通するのは,現に「わいせつ」という知覚がないときは, ここにいうわいせつ行為とは言えないのが原則である(注30)が,加害者が被害者の性的不可侵な領域の侵害可能状態を創出してそれを利用した場合には,例外的に,それらの行為を一体として「わいせつ行為」と評価することができるということである。
したがって,例えば,適法.違法を問わず,女性を裸にさせておいて気づかれずにビデオでそれを撮影する場合がこれにあたる。
つまり,抗拒不能の状態に「乗じた」わいせつ行為は, これらの類型においては,被害者の性的領域の露出等の惹起に加害者が関与することが必要と解すべきである。
第3類型のわいせつ行為は,被害者に性的行為を強要する行為である(注31)。
被害者が13歳以上の者か,未満の者か,あるいは,知覚能力のある者かは, この類型の行為には影響を及ぼさない。
第3類型に属する行為としては, 「内縁関係にある男女を脅迫して裸体にさせ性交の姿態及び動作をとらせる行為」(注32)がこれにあたる。
ただし,強要された行為が行為者ないし第三者に何等かの形で知覚されることが必要である。
(b)第2類型のわいせつ行為の問題点問題となるのは,第2類型の「わいせつ行為」である。
判例においては, まず,女性を裸にしてカメラで撮影しようとして暴行を加え,傷害を負わせたが,裸にすること,撮影することは未遂に終わったという強制わいせつ致傷罪(181条1項)の事案(注)がある。
この事案は,①「裸にする」ないし②「カメラで撮影する」というわいせつ行為は実際には行われていない。
①は,第1類型に属するわいせつ行為であり,正当な理由のない限り処罰に値する行為であるが,②の行為がわいせつ行為に当たるかについても, この場合は,被害者に写真を撮られるという点につき知覚があり問題はない。
次に,判例においては,医師が,診察の際に各2名の13歳未満の女児の着衣をずらして乳房を露出させた際,女児およびその親権者の同意を得ることなく, 自動車の鍵のように見せかけて机上に設置した小型カメラで各女児の乳房をビデオ撮影する行為(注)をわいせつ行為としたものがある。
この場合,女児は,撮影を知覚していないが,撮影の前段階で医師は着衣をずらすよう促す行為を行っており,乳房の露出状態を創出している。
したがって,撮影に正当な理由がない限り,先述の例外にあたる場合である。
その他,熟睡中の女性に向けて1メートル前後の距離から射精する行為(注35)は,抗拒不能の状態に乗じて, わいせつな行為を行うという178条1項の準強制わいせつ行為にあたるとしたものがある。
本判決は, 「その就寝中という抗拒不能の状態を利用して自ら性欲のはけ口としたものであるから,被害女性の性的自由を侵害するものであることも明らかである」とする。
この場合,精液が被害者に接触しているわけではない。
被害女性は就寝中であって知覚能力が制限されている。
女性の就寝状態を創出したわけでもない。
したがって,第1類型における接触の未遂ととらえ,せいぜい準強制わいせつ行為の未遂(179条) とすべきである。