児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

足を舐め行為の擬律〜性的意図の存在による「わいせつ」の弛緩

 足を舐めるというのは、あまり聞かない性的行為であって、わいせつ性は弱い。
 一般論として、こういう事件は、被告人は性的意図を自白してしまい、その強い性的意図×弱いわいせつ性で強制わいせつ罪を認定することがよくある。
 しかし、判例は性的傾向不要説に向かっていますので(大阪高裁H28.10.27 東京高裁h26.2.13)、こういう論法も根拠を失うでしょう。

http://www.sankei.com/west/news/161130/wst1611300049-n1.html
男は今月7日、別の20代女性に対し、右足首をつかんで無理やり約35分間にわたり、足の裏をなめたり、足に歯を立てたりするわいせつな行為をしたとして強制わいせつ容疑で逮捕され、29日、同罪で起訴されていた。

町野朔 犯罪各論の現在p283
性的意図の存在による弛緩
最高裁判例の事案では、被害者は全裸ではなくオーバーを背部にまとい、被告人は彼女の体に手を触れていない。
写真撮影の場所には被告人の妻もいた。この事件の弁護人の上告趣旨は、被告人の行為はいまだわいせつに当たらないというものであったが、最高裁は強制わいせつ罪には性的意図が必要だという立場から、原審の有罪判決を破棄したのである。実際には、この事案における被告人の行為の程度で「わいせつ」といえるかにはかなり問題があったと思われる。強制わいせつ罪の成立に性的意図を不要とすることは、客観的に被害者の性的差恥心を害するに足りる行為がすべてわいせつであるということを意味するものではない。その著しいものがわいせつに該当するに過ぎないのである。
まして、行為者に性的意図が存在すれば、客観的にわいせつ性の程度が低くても強制わいせつ罪が成立するというのではない。最高裁判例の事案の後、内縁関係にある男女を裸にさせ、性交の姿態・動作をとらせた行為を強制わいせつの未遂とした(前掲東京地判昭和六二・九・一六)ものがある。前者においては、行為者は被害者の体に手を触れていないようであり、後者では、被害者の衣服を剥ぎとること以上のことを意図していたわけではない。もちろん被害者の身体に直接接触しなければわいせつでないとまでいうことはできないであろうが、最高裁判例の後で、行為者に悪しき性的意図を要求するのと引換えに客観的なわいせつ概念を緩める傾向が生じたとすれば、それは妥当ではないだろう。

事件番号】 東京地方裁判所判決昭和62年9月16日
【掲載誌】  判例タイムズ670号254頁
       判例時報1294号143頁
(犯行に至る経緯)
 被告人は〈中略〉昭和六一年一〇月から、東京都渋谷区〈以下省略〉所在のスカイプラザ五〇六号室(いわゆる一DKのワンルームマンションで、玄関のたたきから上がり框に引き続き台所兼食堂用の板の間となり、その奥が六畳間となつている。)に営業所兼事務所を設けて、〈中略〉女性下着販売業を営むことにし、女性の下着を好む男性を対象に、新聞、雑誌等に広告を載せ、その広告を見て前記スカイプラザ五〇六号室を訪れた男性客に対し、客の選んだ下着をモデルの女性に着用させたうえで買い取らせたり、下着姿のモデルの写真を撮影させたり、モデルの着替えや入浴を手伝わせたりして、下着代金のほか、試着料、コンサルタント料、撮影料等の名目で客から金銭を受け取つていた。被告人は、当初モデルとして四人の女性を雇い入れて営業を始めたが、昭和六二年四月中旬ころには、モデルの女性が一人だけとなつてしまい、広告等により男性客が一日に十数人来ることがあつたにもかかわらず、その応対をする女性がいないため、営業ができない状態になつていた。そのため、被告人は、モデルの女性の募集に努めたが、思うように確保することができず、同年五月二六日発売の求人広告雑誌に営業の実体を秘してショップアドバイザー(女子販売スタッフ)募集などという広告を掲載したところ、翌二七日これを見た女性が七人位面接を受けに来たものの、前記のような仕事の内容を具体的に説明するや、ことごとく断られ、このままでは営業を継続することができず、家賃を支払うこともできなくなるという焦燥感を抱くに至つた。
(罪となるべき事実)
 被告人は、同日午後二時四〇分ころ、右求人広告雑誌を見たA(昭和四〇年八月七日生)からアルバイトをしたい旨の電話を受け、翌二八日午前一〇時に前記スカイプラザ五〇六号室で面接を行う旨を伝えたが、その電話での話し振りなどから同女を働かせることができれば男性客相手の電話の応対などもうまくやつてくれるだろうと思え、他の応募者らとの前記のような面接の際の状況に照らし、右Aが約束どおり同室を訪ねて来たならば、同女に仕事の中味を告げる前に同女を無理矢理全裸にしてその姿態を写真に撮影し、その写真の存在や公表等を怖れる同女の性的羞恥心を利用して同女の弱味を掴むことによつて、同女に前記女性下着販売業のモデルとして働くことを承諾させようと思い立つに至つた。
 そして、被告人は、右五月二八日午前一〇時一五分ころ、同女が前記スカイプラザ五〇六号室を訪れるや、強いて同女を全裸にしその姿態を写真に撮影することが同女に性的羞恥心を与え、被告人自らを男性として性的に刺激、興奮させる性的意味を有する行為であることを認識しながら、前夜思い立つたとおりあえてそのような強制わいせつの行為をしようと考え、同室において、まず同女を玄関から事務所として使用している前記板の間に招き入れ、同板の間に置かれた椅子に座るよう指示するとともに、右玄関脇のスチール製物入れに置いておいたタオル一枚を右手に持ち、椅子に座ろうとして立ち止まつた同女に対し、その背後からいきなり右タオルで同女の口を塞ぎ、左腕を同女の首に巻くようにしてその頚部を強く押さえ、また、抵抗してもがく同女とともに前方に倒れるや、同女の上に乗りかかつた形で押さえ付け、更に、同女の口からタオルが外れたのち、大声で悲鳴を上げ始めた同女の口を右手で塞いだり、その頸部を手の平で押さえ付けたりするなどの暴行を加え、強いて同女を全裸にしその姿態を写真に撮影するなどのわいせつ行為をしようとしたが、同女から被告人の右手指を噛むなどの抵抗を受け、その直後ころ、同女の悲鳴を聞き付けた隣人の連絡を受けた前記スカイプラザの管理人が訪れて来たことから被告人が同人と玄関口で応対しようとした隙に、右Aが玄関から外に逃げ出したため、強いてわいせつな行為をするに至らず、その際右暴行により、同女に対し、加療に約二〇日間を要する頸部絞傷、両鎖骨部擦過傷、両膝・両下腿打撲擦過傷の傷害を負わせたものである。
(証拠の標目)〈省略〉
(法令の適用)
 被告人の判示所為は刑法一八一条(一七九条、一七六条前段)に該当するところ、所定刑中有期懲役刑を選択し、その所定刑期の範囲内で被告人を懲役三年に処し、情状により同法二五条一項を適用してこの裁判の確定した日から三年間右刑の執行を猶予することとする。
(強制わいせつ致傷罪の成否について)
 弁護人は、被告人が本件行為に及んだ目的は、Aを裸にし、その姿態を写真撮影することによつて、同女を被告人が経営する女性下着販売業の従業員として働かせようということにあつたのであり、被告人自身の性欲を刺激、興奮させ又は満足させようという意図は全くなかつたのであるから、強制わいせつ致傷罪は成立せず、せいぜい強要未遂罪及び傷害罪が成立するに過ぎない旨主張し、被告人も当公判廷においてこれに沿う供述をしている。
 そこで検討すると、前掲「証拠の標目」挙示の各証拠によれば、
1 被告人は、判示「犯行に至る経緯」認定のとおり、女性の下着を好む男性を対象とする女性下着販売業を営んでいたが、下着を試着するなどして男性客の相手をする女性従業員の確保に苦慮していたこと
2 Aは、当時二一歳の女性であつて、被告人とは初対面の間柄であつたものの、被告人の出した求人広告を見てそれに応募するため前日に電話で面接を申し込んで来た者であつたこと
3 被告人としては、それまでの応募者らからは仕事の具体的な中味を知らせるや直ちに拒絶的な態度をとられることが多く、右Aを右女性下着販売業のモデルとして働かせるためにはかなりの工夫が必要であつたこと
4 被告人は、判示認定のとおり、現実にも同女に対し仕事の説明など一切することなく、いきなり背後から襲いかかり判示のような暴行を加えていること
5 本件犯行場所にはポラロイドカメラ及び三五ミリカメラ各一台が置いてあつたことなどが認められる。そして、以上の各事実と、被告人の当公判廷における供述並びに検察官及び司法警察員に対する各供述調書中の本件犯行に出た際の被告人の意図に関し述べている部分とを合わせ考えれば、たしかに、本件犯行の際、被告人には、右Aを全裸にしその姿態を写真撮影することによつて、同女を被告人が営む女性下着販売業の従業員として働かせようという目的があつたことは一応肯認することができる。」「しかし一方、」前掲「証拠の標目」挙示の各証拠を総合検討すれば、「被告人が、右のように右Aを働かせるという目的とともに、同女に対する強制わいせつの意図をも有して本件犯行に及んだことも十分肯認できるというべきである。」
 すなわち、右各証拠によれば、
1 右Aからすれば、初めて訪れたマンションの一室において、見ず知らずの男性の前で全裸にされ、その写真を撮られることは、若い未婚の女性としてこの上ない性的羞恥心を覚えるものであること
2 被告人は、右写真を自らの手で保管しておくときは、第三者に手渡し、その性的興味の対象として眺めさせることもでき、その意味で右Aの弱味を握つた立場に立つことができること
3 被告人は、右Aがそのような性的羞恥心を覚えるであろうことを十分認識していたのみならず、むしろそれを利用することによつて、同女を被告人の意のままに従業員として働かせようと企んだものであること
4 そのためには、逆に言えば、被告人は右Aをして被告人自身が男性の一人として性的に刺激、興奮するような状態、すなわち全裸のような状態にしなければならず(なお、被告人としても同女の裸につき性的な興味がないわけではなかつた旨、捜査段階において自認している。)、かつ、その撮影する写真も被告人自身が性的に興味を覚えるようなものでなければならなかつたことなどが認められる。「してみると右Aを全裸にしその写真を撮る行為は、本件においては、同女を男性の性的興味の対象として扱い、同女に性的羞恥心を与えるという明らかに性的に意味のある行為、すなわちわいせつ行為であり、かつ、被告人は、そのようなわいせつ行為であることを認識しながら、換言すれば、自らを男性として性的に刺激、興奮させる性的意味を有した行為であることを認識しながら、あえてそのような行為をしようと企て、判示暴行に及んだものであることを優に認めることができる。
 したがつて、被告人の本件所為が強制わいせつ致傷罪に当たることは明らかである。
(量刑の理由)
(裁判長裁判官松本時夫 裁判官服部悟 裁判官松谷佳樹)

判例番号】 L04230267
       強制わいせつ致傷被告事件
【事件番号】 東京地方裁判所判決/昭和62年(合わ)第111号
【判決日付】 昭和62年9月16日
【出  典】 判例タイムズ670号254頁

 被告人は、女性の下着を好む男性を対象とする女性下着販売業を営んでいたが、下着を試着するなどして男性客の相手をする女性従業員の確保に苦慮していたところ、営業の実体を秘した求人広告に応募してきた女性を無理矢理全裸にして写真を撮影し、その写真の公表等を怖れる同女の性的羞恥心を利用して、従業員として働くことを承諾させようと考え、タオルで同女の口を塞いだり、頚部を押さえ付けるなどの暴行を加えたが、抵抗されて目的を達せず、右暴行により傷害を負わせたものである。
 弁護人は、本件行為の目的は被害者を女性下着販売業の従業員として働かせようということにあり、被告人自身の性欲を刺激、興奮させ又は満足させようという意図は全くなかったのであるから、強制わいせつ致傷罪は成立しないと主張したが、本判決は、被告人には、右目的とともに、同女に対する強制わいせつの意図も有していたことが肯認できるとして、同罪の成立を認めた。
 従来、強制わいせつ罪は、講学上いわゆる傾向犯の代表的なものであるとされ、最高裁も、本件と類似した事案に関する昭和45年1月29日の第1小法廷判決(刑集24巻1号1頁、本誌244号230頁)、において、強制わいせつ罪が成立するためには、その行為が、犯人の性欲を刺激興奮させまたは満足させるという性的意図のもとに行われることを要し、婦女を脅迫し裸にして、その立っているところを撮影する行為であっても、これが専らその婦女に対する報復、侮辱、虐待の目的に出たときは、同罪は成立しないとしている。
しかし、右判例には、強制わいせつ罪は、個人の性的自由を保護するものであるから、行為者がいかなる目的・意図で行為に出たか、行為者自身の性欲を刺激、興奮させたか否かは、犯罪の成否に影響を及ぼさないとする反対意見が付せられており、有力な学説も反対意見を支持している(平野・刑事判例評釈集32巻1頁、刑法総論I 127頁、団藤・刑法綱要各論〔改訂版〕474頁)。
 本判決は、被害者を全裸にして写真を撮る行為は、同女を男性の性的興味の対象として扱い、同女に性的羞恥心を与えるという明らかに性的に意味のある行為であり、「被告人は、そのようなわいせつ行為であることを認識しながら、換言すれば、自らを男性として性的に刺激、興奮させる性的意味を有した行為であることを認識しながら、あえてそのような行為をしようと企て」たから、強制わいせつの意図が認められるとしている。
右判示は、あるいは、最高裁判例の要求する性的意図が間接証拠から推認できるといっているだけなのかもしれない(被告人としても同女の裸につき性的な興味がないわけではなかった旨、捜査段階において自認していることも、本判決は指摘している。)。しかし、本判決の認定した被告人の意思内容に、わいせつ行為性の認識としての故意以上のものがどれだけ含まれているかは、なお疑問とせざるをえない。
右判示に従えば、行為者本人にとって全く性的意味をもたないという特殊な事情が認められる場合のほかは、わいせつの意図は否定されないことになるようにも思われる(右判示のような考え方で最高裁判例の事案に臨んだ場合、果してわいせつの意図を否定できるか、問題であろう。)。そうであるとすれば、本判決は、強制わいせつ罪の成立に必要な主観的違法要素について、実質的に大きな制限を加えたものということになるのではなかろうか。