児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

「12歳の少女の入浴シーンを盗撮することは児童ポルノの処罰対象外」との判決が下る

判決書き

https://www.tncourts.gov/sites/default/files/whitedthomas.opn_.pdf
IN THE SUPREME COURT OF TENNESSEE
AT KNOXVILLE
January 27, 2016 Session
STATE OF TENNESSEE v. THOMAS WHITED
Appeal by Permission from the Court of Criminal Appeals
Appeal from the Criminal Court for Knox County
No. 100430 Steven Wayne Sword, Judge
No. E2013-02523-SC-R11-CD – Filed November 7, 2016

 日本では男湯の女児画像の3号ポルノ該当性について判例があります

阪高裁平成24年7月12日
2 控訴趣意中,その余の法令適用の誤りの主張について
 論旨は,(1)本件各画像は,児童の裸が撮影されているが,一般人を基準とすると「性欲を興奮させ又は刺激するもの」ではないから,児童ポルノ法7条2項の製造罪(以下「2項製造罪」という。)は成立しないのに,原判決は原判示罪となるべき事実に同法7条2項,1項,2条3項3号を適用しており,また,(2)本件は,公衆浴場内での4件の2項製造罪であって,常習的に撮影,提供がされていたのであるから,それらは包括一罪となり,また,被害児童が特定されているのは1件だけであり,3件は被害児童が特定されておらず,結局被害児童は1名としか認定できないから,その意味でも包括一罪とすべきであるのに,原判決は,併合罪として処理しており,以上の各点で,原判決には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令適用の誤りがある,というものである。
 そこで検討するに,(1)の点は,本件各画像が「性欲を興奮させ又は刺激するもの」といえるかどうかについては一般人を基準として判断すべきものであることはそのとおりである。しかし,その判断の基準とすべき「一般人」という概念は幅が広いものと考えられる。すなわち,「一般人」の中には,本件のような児童の画像で性的興奮や刺激を感じる人もいれば,感じない人もいるものと考えられる。本件は,公衆浴場の男湯に入浴中の女児の裸の画像が対象になっており,そこには大人の男性が多数入浴しており,その多くの男性は違和感なく共に入浴している。そのことからすると,一般人の中の比較的多くの人がそれらの画像では性的興奮や刺激を特に感じないということもできる。しかし,その一方で被告人のようにその女児の裸の画像を他の者から分からないように隠し撮りし,これを大切に保存し,これを密かに見るなどしている者もおり,その者らはこれら画像で性的興奮や刺激を感じるからこそ,これら画像を撮影し,保存するなどしているのである。そして,これらの人も一般人の中にいて,社会生活を送っているのである。ところで,児童ポルノ法が規制をしようとしているのはこれらの人々を対象にしているのであって,これらの人々が「一般人」の中にいることを前提に違法であるか否かを考える必要があると思われる。他人に提供する目的で本件のような低年齢の女児を対象とする3号ポルノを製造する場合は,提供を予定されている人は一般人の中でそれらの画像で性的興奮や刺激を感じる人達が対象として想定されているものであり,そのような人に提供する目的での3号ポルノの製造も処罰しなければ,2項製造罪の規定の意味がそのような3号ポルノの範囲では没却されるものである。したがって,比較的低年齢の女児の裸の画像では性的興奮や刺激を感じない人が一般人の中では比較的多数であるとしても,普通に社会生活を営んでいるいわゆる一般の人達の中にそれらの画像で性的興奮や刺激を感じる人がいれば,それらの画像は,一般人を基準としても,「性欲を興奮させ又は刺激するもの」であると解するのが相当である。
 したがって,原判決が原判示各事実に児童ポルノ法7条2項,1項,2条3項3号を適用したのは正当である。
 次に(2)の点は,被告人が3号ポルノを常習的に製造し,他人に提供していたとしても,関係証拠上,原判示各事実で被害者とされている児童は別人であって,被害児童が4名であることは明らかであり,それら4名の児童について,その記録された裸体画像を他人に見られないという個人的法益が現実に侵害されている上,撮影の日時場所も異なるのであるから,それらが併合罪となるのは明らかであり,原判決の判断は正当である。
 以上のとおりであるから,前記法令適用の誤りをいう論旨も理由がない。

 乳児の沐浴場面について3号ポルノとして起訴された事件もあります。

横浜地裁h28.7.20
第8 児童ポルノ製造事件について
 甲228号証及び甲230号証の各画像中,一部の画像(甲228号証添付資料12の写真1ないし17,甲230号証添付資料2の写真1ないし5,同資料7の写真6ないし10,同資料10の写真1,2,同資料11の写真3,同資料15の写真1,2,8ないし13及び15)については,被害児童が衣服の全部又は一部を着けない状態にはあるものの,通常の沐浴をしている情景としか見られないなど,性欲を興奮させ又は刺激するものに該当しないと判断したため,これらの画像については児童ポルノ製造罪は成立しない。

http://gigazine.net/news/20161114-young-girls-in-bathroom/
問題となった事件は、被告人トーマス・ホワイテッドが12歳の自分の娘と14歳の娘の友達がシャワーを浴びている様子を隠し撮りした行為が、児童ポルノ処罰規定に該当するかどうかで争われました。高等裁判所は、ホワイテッドが2カ月にわたって自分の性的欲求を満たす目的でシャワールームを盗撮した行為は児童ポルノ法に違反するとして懲役22年の実刑判決を下しましたが、テネシー州最高裁判所は、「ホワイテッドが記録したビデオはポルノに当たらない」として、高裁判決を破棄しました。

判決が真っ二つに割れた原因は児童ポルノ法の処罰対象となる「児童ポルノ」をどう定義するかという点に起因します。アメリカのほとんどの州では児童ポルノに該当するかどうかは、「性的感情を刺激するかどうか」によって判断します。今回撮影されていたムービーには、シャワーを浴びる少女の裸体の一部が映っており、高等裁判所では「性的感情を刺激するもの」、つまり「児童ポルノに該当する」という判断が下されました。


これに対してテネシー州最高裁は、「性的感情が刺激されるかどうかという主観的であまりにも曖昧な判断は妥当ではない」と述べ、児童ポルノに該当するかどうかの判断においては、撮影者や映像を見る者がどう感じるかは問題にならないという見解を打ち出しています。そして、児童ポルノに該当するかどうかはそのムービーが伝えている内容そのものによって判断するべきだと述べています。

テネシー州最高裁児童ポルノを「未成年者のセックスや性交類似行為や陰部が露出しているもの」と定義して、主観を排してムービーに映る内容だけを客観的に見て判断するべきだと述べた後に、「ホワイテッドが盗撮したムービーには少女の陰部が映っておらず、またセックスや性行類似行為ではない『日常生活上の行為』であるから児童ポルノに該当しない」と判断しています。


なお、テネシー州最高裁は、撮影者や映像を見る者の主観によって判断するならば、例えば、生後まもない赤ちゃんの初めてのお風呂を撮影する行為さえ児童ポルノと見なし得る、として恣意的判断がなされる不都合を訴えています。