児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

住居侵入強制わいせつ致傷で懲役3年執行猶予5年付保護観察〜求刑5年6月(名古屋地裁H28.7.21)

名古屋地方裁判所平成28年7月21日刑事第2部判決
       判   決
 上記の者に対する住居侵入,強制わいせつ致傷,窃盗被告事件について,当裁判所は,検察官笹井卓及び同小林佐和子並びに弁護人(私選)鈴木康仁(主任)及び同木戸章太各出席の上審理し,次のとおり判決する。
       主   文
被告人を懲役3年に処する。
この裁判が確定した日から5年間その刑の執行を猶予する。
被告人をその猶予の期間中保護観察に付する。
訴訟費用は被告人の負担とする。
       理   由
(罪となるべき事実)
 被告人は,
第1 平成27年3月14日午後11時頃から同月15日午前10時30分頃までの間に,愛知県稲沢市α町β×××番地C方において,D所有の現金約6000円及びE所有の下着2点(時価合計約3000円相当)を窃取し,
第2 A(以下「A」という。)にわいせつな行為をする目的で,平成28年1月31日午前2時40分頃から同日午前2時44分頃までの間,愛知県稲沢市γ××××番地F方に,その1階掃き出し窓から侵入し,その頃,同所において,上記A(当時22歳)に対し,左手で同人の口を塞ぎ,同人の上に覆い被さってその体を押さえつけるなどの暴行を加え,右手で同人の乳房を弄び,もって強いてわいせつな行為をするとともに,その際,上記暴行により,同人に加療約2週間を要する上・下口唇挫創,上口腔内挫創の傷害を負わせた
ものである。
(証拠の標目)《略》
(法令の適用)
1 罰条
判示第1の行為 刑法235条
判示第2の行為
 住居侵入の点 刑法130条前段
 強制わいせつ致傷の点 刑法181条1項(176条前段)
2 科刑上一罪の処理
判示第2の罪 刑法54条1項後段,10条(住居侵入と強制わいせつ致傷との間には手段結果の関係があるので,1罪として重い強制わいせつ致傷罪の刑で処断)
3 刑種の選択
判示第1の罪 懲役刑を選択
判示第2の罪 有期懲役刑を選択
4 併合罪の処理 刑法45条前段,47条本文,10条(重い判示第2の罪の刑に法定の加重)
5 刑の執行猶予 刑法25条1項
6 保護観察 刑法25条の2第1項前段
7 訴訟費用の負担 刑事訴訟法181条1項本文
(量刑の理由)
 被告人は,ドライバーを用いて窓ガラスを割って民家に侵入の上,予め逃走経路を確保して,被害女性に対するわいせつ行為に及んだもので,その方法・態様は計画的で手慣れたものといえる。深夜の就寝中に,口を塞がれるなどしてわいせつ被害を受けた被害女性の恐怖感は非常に大きく,厳重な処罰を求める心情も当然のこととして理解することができる。もっとも,他の同種事案との比較という観点から本件を評価すると,暴行やわいせつ行為の内容が甚だしいものとはいえず,傷害結果も加療約2週間にとどまっているため,態様や結果の点において際立った悪質さがあるとはいい難い。
 被告人は,住居侵入・強制わいせつ致傷のみならず,窃盗の犯行にも及んでいるが,これらに共通する動機・経緯として,本件以外に各被害者に対するものを含めて多数ののぞきや盗撮,窃盗等を繰り返しており,性欲や金銭欲を満たすためだけではなく,達成感やスリルを得たかった旨供述している。被告人がこのような通常の感覚では理解に苦しむ特異な欲求を抑制することができず,警察官の職に就いた後にも姿勢を改めることなく,住居侵入・強制わいせつ致傷の犯行に及んだことに鑑みると、その犯罪性向にはかなり根深いものがあるといわざるを得ない。この点を重視すれば,態様・結果に対する評価が上記の程度にとどまることを踏まえても,被告人を実刑に処することが十分に考えられるが,他方,動機・経緯として指摘した点はのぞきや盗撮,これに伴う住居侵入の常習性を示すにとどまり,強制わいせつ事犯に係る常習性まで認定するほどの事情ではなく,しかも,被告人の自白によって明らかになった事実が少なからず含まれていることに照らすと,本件は,他の情状に評価すべき事情があれば,刑の執行猶予を選択する余地もなお残されている事案とみるのが相当である。
 そこで,本件における他の情状についてみると,まず,被告人は,住居侵入・強制わいせつ致傷事件の被害者に対して250万円の支払いを約束してうち200万円を,窃盗事件の各被害者に対して合計63万円を支払うことにより,それぞれ示談を成立させていることを指摘することができる。この示談の点は,本件のみならず余罪に係る被害も含むものであることにも鑑みると,量刑上相応の考慮をすべき事情といえる。このほか,被告人が余罪も含めて事実関係を素直に供述しており,初めての身柄拘束を経て反省を深めている様子もうかがわれること,その母親が出廷して監督を誓約していることなどの被告人にとって酌むべき事情も併せ考慮し,今回に限り,その刑の執行を猶予することとするが,本件における被告人の特異な動機・性癖に鑑みると,更生のためには専門的な指導監督を要すると考えられるから,猶予の期間中保護観察に付することとした。 
(求刑 懲役5年6月)
平成28年7月21日
名古屋地方裁判所刑事第2部
裁判長裁判官 丹羽敏彦 裁判官 安福幸江 裁判官 森文弥