児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

性的意図必要説(傾向犯説)の判例(最判S45.1.29)の射程

 神戸地裁の不要説判決の控訴審で、検察官は最判S45は撮影の場合の事例判決で、接触のわいせつ行為の場合には適用されないと主張してました。 それ、奥村が上告事件(強要被告事件)で主張してるののパクリやん。

上告趣意書
4 最判S45.1.29*1の射程外であること
 最判S45.1.29は「刑法一七六条前段のいわゆる強制わいせつ罪が成立するためには、その行為が犯人の性欲を刺戟興奮させまたは満足させるという性的意図のもとに行なわれることを要し、婦女を脅迫し裸にして撮影する行為であつても、これが専らその婦女に報復し、または、これを侮辱し、虐待する目的に出たときは、強要罪その他の罪を構成するのは格別、強制わいせつの罪は成立しないものというべきである」と判示するところ、結局は、復讐目的で行われた場合の事例判決であり(東京高裁H21.3.23)、性欲をみたす為に行われた場合には妥当しない。

東京高裁H21.3.23
 最高裁S45.1.29 の多数説は傾向犯説である
 しかし最高裁S45は対象としている事案が通常の強制わいせつ罪事案とはことなる。専ら侮辱虐待のために行われたとされる特異性ある事案であるS45判決は本件の先例となる判例には該当しないと解される

5 不要説の判例判例
 鍼灸院の施術として膣内に手指を挿入する行為について、性的傾向不要とするものがある。

千葉地裁八日市場支部H20.11.4*2
 わいせつの意図について 最高裁S45.1.29は 3対2であったことから 弱い判例である
 当裁判所は強制わいせつ罪は公然わいせつと同一の刑法22章に規定されているがその保護法益は専ら個人の性的自由を保護する者で個人法益を保護する犯罪類型であると考える 従って 被害者の立場からすれば行為者に性的な意図があろうとなかろうと性的自由の侵害の点では差異が無いから 行為者の性的な意図の有無に関わりなく強制わいせつ罪が成立すると解する
 付言すれば 強姦罪のように性的意図が明確な場合には性的意図は必要無い。本件のように膣内にてゆびを挿入するような行為は性的行為としては姦淫行為に準ずる類型であるから、性的意図を必要としない

 控訴審判決では傾向犯説の判例を限定的に解している。

東京高裁H21.3.23
 最高裁S45.1.29 の多数説は傾向犯説である
 しかし最高裁S45は対象としている事案が通常の強制わいせつ罪事案とはことなる。専ら侮辱虐待のために行われたとされる特異性ある事案である しかも強制わいせつ罪と準強制わいせつ罪とは構成要件の内容がことなり 関連する事象でも差異が生じる 例えば S45最高では判決文注でも強要罪等の成立のあり得ることが指摘されているが、準強要罪といった犯罪はそもそも存在しないし、本件のような事案では準強制わいせつ罪が否定されてても強要罪が成立するといったことにはならないからS45判決は本件の先例となる判例には該当しないと解される
そのため原判決はS45判決を専ら前提として検討を展開しているのが適切であるかはともかく 性的な意図が認められる事案であるのに それが要件として不要としつつも準強制わいせつ罪準強制わいせつ自体の成立を認めていることになるから、その誤りは判例に反した判断をしたことにはならず、それだけでは判決に影響はない
第7刑事部