児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者性交・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録記録被告事件弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 hp@okumura-tanaka-law.com)

性犯罪・福祉犯(監護者性交罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

1986年の師弟関係の性的行為について2012年にされた懲戒免職処分を取り消した事例(福島地裁H28.6.7)と控訴審で逆転された事例(仙台高裁h28.11.30)

「原告は,県立石川高校のハンドボール部に所属していた本件女子生徒と,昭和61年11月から平成元年3月までの間,継続して性的関係を持った(以下「本件行為」という。)。」「福島県教育委員会は,平成24年6月15日,原告に対し,原告が本件女子生徒と,部活動終了後に,原告の自家用車で本件女子生徒を自宅に送る途上の車内,体育教官室,本件女子生徒の自宅,部活動遠征時の宿舎等において,頻繁にみだらな行為を行ったことが教育公務員としてあるまじき行為であり,かつ,その職の信用を著しく傷つけたものであるとして,地方公務員法29条1項1号及び3号に基づき,懲戒処分として免職する旨の本件懲戒免職処分をした(甲2,3)。」という事案です
情報公開で入手しましたが、
LEXDBに載りました。

懲戒処分取消等請求事件
福島地方裁判所平成26年(行ウ)第5号
平成28年6月7日第一民事部判決
口頭弁論終結日 平成28年3月15日

       判   決

原告 P1
上記訴訟代理人弁護士 幣原廣
同 浅野史生
同 横路春彦
被告 福島県
上記代表者兼処分行政庁 福島県教育委員会
上記委員会代表者委員長 P2
上記訴訟代理人弁護士 菅野晴隆
同 堀合郁雄
同 渡邊大
同 松村知幸
上記指定代理人 P3 外5名


       主   文

1 福島県教育委員会が原告に対して平成24年6月15日付けでした懲戒免職処分を取り消す。
2 福島県教育委員会が原告に対して平成24年6月15日付けでした退職手当支給制限処分を取り消す。
3 訴訟費用は被告の負担とする。


       事実及び理由

第1 請求の趣旨
 主文同旨
第2 事案の概要
1 本件は,福島県教育委員会が,福島県立高等学校の教員であった原告に対し,原告が,昭和61年11月14日から平成元年3月までの間に,顧問をしていた部活動に所属していた女子生徒との間で頻繁にみだらな行為を行ったことを理由として,平成24年6月15日付けで懲戒免職処分(以下「本件懲戒免職処分」という。)及び一般の退職手当等の全部を支給しない旨の退職手当支給制限処分(以下「本件退職手当支給制限処分」という。)をしたことから,原告が,福島県教育委員会が所属する地方公共団体である被告に対し,本件懲戒免職処分及び本件退職手当支給制限処分が違法であると主張して,その取消しを求めた事案である。
2 前提事実(認定に供した証拠等の掲記がない事実は,当事者間に争いがない。)
(1)当事者等
 原告は,昭和27年○月○○日に生まれ(乙5),昭和50年4月に福島県立磐城高等学校非常勤講師として,同年7月に同高校教諭として採用されて以降,本件懲戒免職処分に至るまで,福島県の教育公務員として勤務してきた者である。
 原告は,昭和55年4月から平成2年3月まで,福島県石川高等学校(以下「県立石川高校」という。)に勤務し,ハンドボール部の顧問を務めていた。
 P4(以下「本件女子生徒」という。)は,昭和61年4月から平成元年3月まで,県立石川高校に在籍し,同校のハンドボール部に所属していた。
 福島県教育委員会は,地方教育行政の組織及び運営に関する法律2条により被告に設置された委員会であって,同法34条,35条及び地方公務員法6条1項により福島県内の県立高等学校の教員の任命権及び懲戒権を有している。
(2)原告と本件女子生徒との関係
 原告は,県立石川高校のハンドボール部に所属していた本件女子生徒と,昭和61年11月から平成元年3月までの間,継続して性的関係を持った(以下「本件行為」という。)。
 なお,本件行為当時,原告は婚姻しており,当時の妻との間に2人の子どもがいたが,平成3年10月,子どもの親権者を妻と指定して,協議離婚した(甲29,37)。
(3)本件行為後の関係
 原告は,平成2年頃,本件女子生徒の母親から,本件行為に対する慰謝料500万円を請求され,訴外P5らの仲介により,原告が本件女子生徒側に対し50万円を支払う旨の和解をした。その際,本件女子生徒の父親は,上記和解に関与しなかった。(甲7の1及び2,甲35,乙1,7,原告本人)。
 本件女子生徒は,平成19年12月21日,原告の再婚後の妻に対して連絡をするようになり,同月23日には,本件行為の慰謝料として1000万円を請求した。また,本件女子生徒の母親は,原告に対し,平成24年1月頃,本件行為の慰謝料として1000万円ないし3000万円を請求した(甲7の3,甲8,38,原告本人)。
 なお,本件女子生徒又はその母親は,平成2年の和解以降平成19年に連絡をするまでの間,原告やその妻に対して連絡をとったことはなかった。
(4)本件懲戒免職処分及び本件退職手当支給制限処分の経緯
 福島県教育委員会は,平成24年2月1日,本件女子生徒から本件行為に関する告発を受け(乙6),本件女子生徒及び本件女子生徒の母から電話及び面談により事情を聴取した上で,同年3月2日及び23日,原告に対する本件行為に関する事情聴取を実施した(乙1,3)。原告は,3月23日の事情聴取後,福島県教育委員会に対し,本件女子生徒と男女の関係を持ったことを一切否定しない旨が記載された「申立書」と題する書面を提出した(乙4)。
 福島県教育委員会は,平成24年6月15日,原告に対し,原告が本件女子生徒と,部活動終了後に,原告の自家用車で本件女子生徒を自宅に送る途上の車内,体育教官室,本件女子生徒の自宅,部活動遠征時の宿舎等において,頻繁にみだらな行為を行ったことが教育公務員としてあるまじき行為であり,かつ,その職の信用を著しく傷つけたものであるとして,地方公務員法29条1項1号及び3号に基づき,懲戒処分として免職する旨の本件懲戒免職処分をした(甲2,3)。
 また,福島県教育委員会は,同日,原告に対し,本件懲戒免職処分を行うに至った理由及び退職手当等の支給制限をするに際して勘案すべき事情が認められないことを理由として,職員の退職手当の支給等に関する条例(以下「本件条例」という。)14条1項に基づき,一般の退職手当等の全部を支給しないとする旨の本件退職手当支給制限処分をした(甲21)。
(5)本件訴訟に至る経緯
 原告は,本件懲戒免職処分を不服として,平成24年8月10日,福島県人事委員会に対して審査請求を申し立てた(同月30日受理)が,同委員会は,平成25年12月18日,原告の上記審査請求を棄却する旨の裁決をした(甲24,25,27)。
 また,原告は,本件退職手当支給制限処分を不服として,平成24年8月10日,福島県知事に対して審査請求を申し立てた(同年9月10日受理)が,口頭弁論終結時(平成28年3月15日)においても,審査請求に対する裁決はされていない(甲26)。
 原告は,平成26年4月7日,本件懲戒免職処分及び本件退職手当支給制限処分の取消しを求めて本件訴訟を提起した。
(6)文部科学省における「わいせつ行為等」の定義
 文部科学省は,「教育職員に係る懲戒処分等の状況について」のホームページ(甲12の1,13の1,14の1)において,「わいせつ行為等」とは,わいせつ行為及びセクシュアルハラスメントをいい,「わいせつ行為」とは,強姦,強制わいせつ,公然わいせつ,わいせつ物頒布等,買春,痴漢,のぞき,陰部等の露出,青少年保護条例等違反,不適切な裸体・下着姿等の撮影,わいせつ目的を持って体に触ること等をいうと定義している(甲12の2,13の2,14の2)。
3 法令等の定め
(1)地方公務員法
ア 職員が次の各号の一に該当する場合においては,これに対し懲戒処分として戒告,減給,停職又は免職の処分をすることができる(29条1項)。
(ア)この法律若しくは第57条の規定する特例を定めた法律又はこれに基く条例,地方公共団体の規則若しくは地方公共団体の機関の定める規程に違反した場合(29条1項1号)
(イ)全体の奉仕者たるにふさわしくない非行のあつた場合(29条1項3号)
イ 職員は,その職の信用を傷つけ,又は職員の職全体の不名誉となるような行為をしてはならない(33条)。
(2)教職員の懲戒処分に関する基準(乙11)
ア 福島県教育委員会は,教員の非違行為に関して懲戒処分を行う場合の,代表的な事例における標準的な処分量定(標準量定)をとして,「教職員の懲戒処分に関する基準」を定めている(平成19年1月26日制定,最終改正平成21年12月18日)。これにおいて,教職員が,勤務する学校の児童生徒,勤務する学校の児童生徒以外の学校の生徒であって,当該教職員から教育活動における指導を受けたことがある者,18歳未満の者であって,当該教職員から教育活動における指導を受けたことがある者に対してわいせつな行為をする,させる,見せるなどした場合の標準量定は免職とされている。
イ また,具体的な量定の決定に当たっては,標準量定を基本として,非違行為の動機,態様及び結果,故意又は過失の程度,教員の職責,児童生徒,保護者,他の教職員及び社会に与えた影響,過去の非違行為の有無,日ごろの勤務態度並びに非違行為後の対応等を含めて総合的に考慮した上で判断するものとされており,個別の事案の内容によっては,標準量定よりも上位又は下位の量定とすることもあり得るとされている。
(3)福島県職員の退職手当に関する条例(昭和28年福島県条例第35号,甲22)及び福島県教育委員会が退職手当の支給を制限する処分及び退職手当相当額の納付を命ずる処分を行う場合に勘案すべき事情を定める規則(平成21年福島県教育委員会規則第16号,甲28)
ア 退職をした職員であつた者が次の各号のいずれかに該当するときは,当該退職に係る退職手当管理機関は,当該退職をした職員であつた者(当該退職をした職員であつた者が死亡したときは,当該退職に係る一般の退職手当の額の支払を受ける権利を承継した者)に対し,当該退職をした職員であつた者が占めていた職の職務及び責任,当該退職をした職員であつた者が行つた非違の内容及び程度,当該非違が公務に対する県民の信頼に及ぼす影響その他の退職手当管理機関の規則で定める事情を勘案して,当該一般の退職手当の全部又は一部を支給しないこととする処分を行うことができる(条例14条1項)。
(ア)懲戒免職等処分を受けて退職をした者(条例14条1項1号)
(イ)地方公務員法第28条4項の規定による失職(同法16条1号に該当する場合を除く。)又はこれに準ずる退職をした者(条例14条1項2号)
イ 条例14条第1項に規定する規則で定める事情は,当該退職をした職員であつた者が占めていた職の職務及び責任,当該退職をした職員であつた者の勤務の状況,当該退職をした職員であつた者が行った非違の内容及び程度,当該非違に至つた経緯,当該非違後における当該退職をした職員であつた者の言動,当該非違が公務の遂行に及ぼす支障の程度並びに当該非違が公務に対する県民の信頼に及ぼす影響とする(規則2条)。
(4)福島県青少年健全育成条例(昭和53年福島県条例第30号,平成19年改正福島県条例第16号)
ア 何人も,青少年に対しみだらな性行為又はわいせつな行為をしてはならない(24条1項)。
イ 第24条1項又は2項の規定に違反した者は,2年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処する(34条1項)。
4 争点に関する当事者の主張
・・・
第3 当裁判所の判断
1 前記前提事実に加え,後掲の各証拠によれば,次の事実を認めることができる。
(1)本件女子生徒は,昭和60年4月に,県立石川高校に入学し,原告が顧問を務めるハンドボール部に所属するようになった。原告は,本件女子生徒から,家庭内の問題について相談を受けるようになったが,その後,本件女子生徒から好意を向けられるようになり,昭和61年11月頃から,本件女子生徒と性的関係を持つようになった。その後,原告は,平成元年3月までの間,部活動終了後に原告が自家用車で本件女子生徒の自宅に送る途中の車内などで複数回にわたり性行為を行い,その頻度は少なくとも月に1回程度であった(甲6の14及び15,甲31の2,乙1〜10,原告本人,弁論の全趣旨)。
(2)原告は,本件女子生徒が高校を卒業することをきっかけに,性的関係も終了させようとしていたが,本件女子生徒は,かえって,平成元年3月ころ,原告の当時の妻に原告と性的関係があることを告げてしまい,本件行為の存在は,原告の妻の知るところとなった。その結果,原告と妻との夫婦関係は破綻することになり,原告は,平成3年10月,子どもの親権者を妻と指定して,協議離婚した(甲29,37)。
 また,本件女子生徒は,原告との関係を自分の母親に告げたところ,本件女子生徒の母親は,平成2年頃,原告に対し,本件行為に対する慰謝料500万円を請求するようになった。原告は,P5及びP6に仲介を依頼し,最終的に,原告が本件女子生徒側に対し50万円を支払う旨の和解をした。その際,本件女子生徒の母親は,父親には知られたくないとして,父親には関与を求めず,公正証書の作成についても拒否した。(甲29,35)
(3)本件女子生徒は,県立石川高校を卒業後,静岡で知り合った男性と結婚し,子をもうけたが,その後,離婚し,京都府内に在住している(乙10,弁論の全趣旨)。
(4)本件女子生徒は,平成19年12月頃,原告の現在の妻に対し,原告との関係を告げた上で,1000万円を支払うよう求めたが,原告の妻が説得し,1000万円の請求を撤回した(甲38)。
(5)本件女子生徒の母親は,平成24年1月頃から,原告に対し,原告が平成25年に退職を迎えるに当たって,改めて1000万円の請求をしたい旨を申し向けるようになったが,原告は,同年2月8日,弁護士に依頼し,本件女子生徒の母親に対し,民事上の請求権は,消滅時効除斥期間により消滅している旨の通知を行った(甲7の2及び3,甲8)。
 本件女子生徒の母親は,原告の代理人弁護士からの通知を受けて,原告の勤務先を訪問し,校長らに対し,本件行為に係る事情を説明し,原告を懲戒免職するように求めた(乙10)。
 また,本件女子生徒は,同年2月1日,被告に電話を掛け,原告について,生徒に対する性的虐待行為があった旨を伝え,被告において本件行為に関する事情を知ることとなり,本件女子生徒,本件女子生徒の母親及び原告に対する調査が行われるようになった(乙6)。
 本件女子生徒は,平成24年3月頃,原告に対し,本件女子生徒の母親に対する原告の対応を非難するメールを送信した。原告は,同年6月7日にこのメールに気付き,本件女子生徒に対し,懲戒免職になる見込みであるが,話合いによって解決することは可能であるので,対応を求めるメールを送信した。原告と本件女子生徒は,その後,さまざまなメールのやり取りを行ったが,その中で,本件女子生徒は,「今P7さんに電話して話ししましたが・・・私の温情処分として正式に申し立てれば・・・処分も軽くなるようですね。」「県教委に話しした方がいいのですか?手紙書いてもいいですよ!明日100万円でも50万でも振込んで頂けるなら」等の金銭の支払があれば福島県教育委員会への申告を取り下げることを示唆する内容のものがあった(甲31の1及び2,原告本人)。
(6)原告は,福島県教育委員会からの事情聴取において,本件行為があったことは認めた上で,本件行為の詳細についての質問に対しては,特に弁明しなかった(乙3,原告本人)。原告は,福島県教育委員会に対し,平成24年3月12日,本件行為を理由に職を辞してお詫びしたい旨の上申書(甲11)及び退職願(甲30)を提出した。
2 争点(1)(懲戒事由該当性)について
(1)地方公務員は,全体の奉仕者として公共の利益のために勤務しなければならず(憲法15条2項,地方公務員法30条),また,その職の信用を傷付け,又は地方公務員の職全体の不名誉となるような行為をしてはならない義務がある(地方公務員法33条)など,その地位の特殊性や職務の公共性がある。そして,教育公務員においては,わが国の将来を担う児童・生徒の健全な育成を図るべく,同人らに社会一般のルールやモラルを教え導く立場にあることから,公務員の中でも高度の倫理的責任を負うことが期待されており,教職に対する生徒,保護者,社会一般の信用を傷つけ,公教育全体への信頼を損なう行為は許されないものと解するべきである。
 これを本件においてみるに,原告は,県立高校の教員であって,妻子を有する成人男性であったにもかかわらず,部活動で指導する本件女子生徒と約2年5か月にわたり性的関係を持ったものであることからすれば,原告による本件行為は,全体の奉仕者たる教員として執るべき行動と相容れない行為であり,これにより,国民の公教育に対する信頼を著しく失墜させたことは明らかである。
 したがって,原告による本件行為が,地方公務員法29条1項1号(同法33条違反)及び3号に該当する懲戒事由があるものというべきである。
(2)この点,原告は,相互に愛情を持った真摯な交際関係にある中で性的関係を持ったものであり,懲戒事由に該当しない旨の主張をする。
 確かに,前記認定事実1(1)のように,本件女子生徒も原告に対し恋愛感情を抱いており,また,原告も本件女子生徒に対して一定の恋愛感情を有したことを否定するに足りる事情はないことからすれば,原告が単に自己の性的欲望を満たすためだけに本件行為に及んだとまではいえず,原告の本件行為が福島県青少年健全育成条例違反等の犯罪行為に当たるとまでは認め難い。
 もっとも,上記のような教育公務員の立場及び原告が本件行為当時に妻子を有していたことに鑑みれば,教員である原告が現に自らが指導している女子生徒と性行為を行っていること自体,非難されるべき行為であることは明らかである。また,原告自身が主張しているとおり,原告自身も,本件女子生徒との関係が妻に暴露されることを恐れていたものであって,原告と本件女子生徒との関係が,婚姻を前提とするような真摯な交際であるとは認め難い。
 さらに,一般に,18歳未満の児童・生徒は,心身ともに未熟であることから,性的行動について適切な判断・行動が期待できず,ともすれば,妊娠するなどしてその身体を傷付けるおそれがあるといえるのであって,中高生における性交渉等につき,発達段階上ふさわしくない行動であるとされていたといえ,県立高校の保健体育課の教員であった原告もそのことを十分認識していたと考えられることからすれば,本件行為が懲戒事由に該当しないとの原告の上記主張を採用することはできない。
(3)なお,被告は,本件懲戒免職処分を行うに当たって,具体的な懲戒事由として,原告が本件女子生徒と,部活動終了後に,原告の自家用車で本件女子生徒を自宅に送る途上の車内,体育教官室,本件女子生徒の自宅,部活動遠征時の宿舎等において,頻繁にみだらな行為を行ったことを認定しているところ,原告はその内容を争っている。そして,これらの事実のうち,本件行為を行った場所については,被告は,その認定に当たり,本件女子生徒やその母親から聴取した内容を踏まえ,これを書面化した上で,本件女子生徒と直接面談して確認し,さらにその内容について原告に確認を求めており,さらには原告が本件行為の存在を認め,その詳細についての認否を明らかにしなかったことに基づいて,認定したものと解される(乙1ないし3,6ないし10,証人P8)。もっとも,現時点における証拠と照らし合わせると,本件女子生徒及びその母親は,原告に対して金銭の支払を求め,その要求が通らないとなるや,被告に告発していること,告発した内容も,生徒に対する性的虐待行為などというものであって,本件女子生徒自身が,恋愛感情を持って原告に交際を迫ったとの事実(甲6の14,16参照)に反する内容を含むものであること,一方,原告自身は本件行為を行ったこと自体は当初から認めていたところであって,その上で,原告が,本件行為の詳細について正確に認否を行うべき必要性を理解していたかは明らかでなく,本件行為の詳細について,一問一答の形式で確認したものではないこと(証人P8),また,本件行為自体が原告に対する事情聴取を行った平成24年3月の時点より20年以上も前のことであることからすると,本件行為の行われた場所等の詳細についてまで,本件女子生徒の申告内容及び原告の事情聴取における態度のみから認定することはできず,他に本件女子生徒の申告内容を積極的に認めるに足りる証拠はない。もっとも,上記認定事実1(1)のとおりの概括的な認定事実によっても,懲戒事由に該当することは上記判断のとおりである。
3 争点(2)(本件懲戒免職処分の違法性)について
(1)地方公務員法29条1項は,職員に同項1号ないし3号所定の非違行為があった場合,懲戒権者は,戒告,減給,停職又は免職の懲戒処分を行うことができる旨を規定するが,同法は,すべての職員の懲戒について「公正でなければならない」と規定し(同法27条1項),すべての国民は,この法律の適用について,平等に取り扱われなければならない(同法13条)と規定するほかは,どのような非違行為に対しどのような懲戒処分をすべきかについて何ら具体的な基準を設けていない。
 そこで,地方公務員につき,地方公務員法29条1項各号所定の懲戒事由がある場合に,懲戒処分を行うかどうか,いかなる処分を行うかは,平素から庁内の事情に通暁し,職員の指導監督の衝に当たる懲戒権者の裁量に任されているものというべきである。すなわち,懲戒権者は,懲戒事由に該当すると認められる行為の原因,動機,性質,態様,結果,影響等のほか,当該公務員の上記行為の前後における態度,懲戒処分等の処分歴,選択する処分が他の公務員及び社会に与える影響等,諸般の事情を総合的に考慮して,懲戒処分をすべきかどうか,また,懲戒処分をする場合にいかなる処分を選択すべきかを,その裁量的判断によって決定することができるものと解すべきである。
 したがって,裁判所が上記の処分の適否を審査するに当たっては,懲戒権者と同一の立場に立って懲戒処分をすべきであったかどうか又はいかなる処分を選択すべきであったかについて判断し,その結果と懲戒処分とを比較してその軽重を論ずべきものではなく,懲戒権者の裁量権の行使に基づく処分が社会通念上著しく妥当性を欠き,裁量権の範囲を逸脱し,これを濫用したと認められる場合に限り,違法であると判断すべきものである(最高裁昭和52年12月20日第三小法廷判決・民集31巻7号1101頁,最高裁昭和平成2年1月18日第一小法廷判決・民集44巻1号1頁参照)。
(2)ところで,福島県教育委員会においては,前記前提事実のとおり,教員の懲戒処分に関する基準(乙11)として標準量定を定めており,わいせつ行為については免職処分が標準量定とされているものの,具体的な量定の決定に当たっては,標準量定を基本として,非違行為の動機,態様及び結果,故意又は過失の程度,教員の職責,児童生徒,保護者,他の教員及び社会に与えた影響,過去の非違行為の有無,日ごろの勤務態度並びに非違行為後の対応等を含めて総合的に考慮した上で判断するものとされており,上記基準は,裁量権の行使を適正妥当なものとし,併せて公平性を確保しようとする趣旨に基づくものと解される。
 したがって,上記基準は,平成19年に福島県教育委員会において制定されたものであり,原告の本件行為に直接適用されるものではないが,その内容に鑑みれば,本件懲戒免職処分が,社会通念上著しく妥当性を欠き,裁量権の範囲を逸脱したものであるか否かを判断する上においても,上記の諸事情を考慮して判断すべきである。
 なお,上記基準における「わいせつ行為等」の定義は明らかではなく,本件のように,教員が,生徒との間で合意の上で性的行為を行うことが「わいせつ行為等」に該当するかは明らかではない。特に,文部科学省が「教員に係る懲戒処分等の状況について」として公表している内容における「わいせつ行為等」の定義(前記前提事実(6))に照らすと,合意による性行為が含まれるかについては疑義があるといえるが,合意による性行為についても懲戒事由に該当することは上記1認定判断のとおりであること,被告においては,これまでも,生徒と性行為を行った職員については,免職処分としたことが認められること(乙33,36,47,50)に照らすと,本件行為についても「わいせつ行為等」に該当するものであると解される。
(3)そこで,上記の観点から,原告の主張に係る諸事情を検討するに,本件行為は,教育に携わる公務員として,特に生徒の健全な育成を図るべく,社会一般のルールやモラルを教え導く立場にある者が,指導の対象である生徒と性的行為を長期間にわたって継続したというものであって,極めて不適切な行為であり,公教育全体への信頼を大きく損なう行為であることからすると,悪質な行為というべきであり,特に,原告が,当時既婚者であって,子どももいたことや,原告が,上記のとおり本件生徒との婚姻を前提に交際をしていたものではないことに照らすと,行為自体の悪質性は否定し得ない。また,原告は,本件行為により,当時の妻と離婚し,子供らとも別れることとなったといった制裁を受けた旨を主張するが,これらの事情は原告個人の私生活に関わる事情であって,公務員としての職務に関わる事情ではないから,考慮すべきとはいえない。
 一方,原告は,前記認定事実のように,本件行為が発覚した以降の事情聴取において,本件女子生徒と性的な関係を持ったことについては素直に認めており,平成24年3月12日には,福島県教育委員会に対し,職を辞してお詫びしたい旨の上申書及び退職願を提出していること(甲30)からしても,本件行為の責任を感じ,反省をしていることがうかがえる。
 また,原告は,平成2年頃,本件女子生徒の母親に対して,和解金として50万円を支払っており,自らがした本件行為の責任を一応は尽くそうとしたことが認められる。
 この点に関し,原告が本件女子生徒との性的な関係を現在も非常に真摯で真面目で良い思い出であったと認識している等と述べていた(原告本人)としても,上記のように,原告は自らの行為の非を認め,退職願を提出し,金銭的な賠償にも一部は応じていることからすれば,自らの非違行為の責任を感じ,その反省をしていると認められる。
 また,そもそも本件行為自体は、本件懲戒免職処分の23年以上前の事であり,原告は,本件懲戒免職処分を受けるまでの間,懲戒処分を受けることなく,福島県の教育に携わってきたものであることは,前記前提事実のとおりである。20年以上前の事情と現在又は直近の事情とを比較した場合に,後者の方が公務員に対する信頼等に与える影響は当然大きいものといえるのであるから,このような時の経過は,懲戒処分の必要性及びその程度に関する判断において,当然に考慮されるべき事情であるといえる。被告は,福島県教育委員会としては,本件行為を容易に知り得る立場になく,本件行為に対して認識しつつ処分をしなかったのではないから,時の経過により公務員秩序が回復したとは認められないと主張するが,上記述べたところに照らし,採用できない。
 さらに,前記前提事実のとおり,原告が,本件女子生徒の母親に対して,平成2年頃に本件行為の和解金として50万円を支払ったこと,上記和解後,平成19年に至るまで,約17年間にわたり本件女子生徒又はその母親において,原告に対し,本件行為に関する要求等は行っておらず,本件女子生徒も,一旦は婚姻関係を結んでいたことからすると,本件行為が本件女子生徒に与えた影響も,本件懲戒免職処分時点においては一定程度回復していたことがうかがわれる。なお,本件女子生徒及びその母親が,平成19年以降,特に平成24年になって原告に対して再度金銭を要求をするようになった原因は本件証拠上必ずしも明らかではないが,上記認定の事実経過からすると,本件女子生徒が被告に原告を告発したことをもって,本件女子生徒に対する影響が全く回復していないとは認められない。 
(4)以上のとおり,本件行為は,教育公務員である原告が自ら指導する本件女子生徒と性的な関係を持ったというものであり,生徒,その保護者及び社会一定の混乱・波紋をもたらした事実は否定できないものの,原告が本件行為について反省し,事後的に本件女子生徒に対して一定の慰謝料を支払っていること及び本件行為から20年以上の月日が経過したことなどの諸事情,特に,本件行為から長期間経過したことは,処分行政庁において,処分の内容を量定するに当たり十分に考慮すべきであったというべきであるところ,これを十分に考慮したとは言い難いといえる。また,懲戒免職処分は,30年以上にわたり,被告の教育公務員として勤務しており,この間,特にスポーツ教育の分野において,一定の貢献をしてきた(甲1,甲6の1〜15)原告の功績を全て否定することになることをも考慮すると,本件懲戒免職処分は,処分行政庁において,考慮すべき事項を十分に考慮せず処分を判断した結果,重きに過ぎて社会通念上著しく妥当性を欠いた処分であるといわざるを得ず,裁量権を濫用したものとして違法であると解するのが相当である。
 よって,本件懲戒免職処分は,裁量権を濫用したものであり,違法な処分であるため,取り消されるべきである。
4 争点(3)(本件退職手当支給制限処分の違法性)について
 上記のとおり,本件懲戒免職処分が懲戒権の濫用が認められる違法な処分として取り消されるべきものである以上,原告は本件条例14条1項1号に該当せず,同条項に基づいて退職手当支給制限処分を行う理由がないことになる。
 したがって,本件退職手当支給制限処分も,何ら根拠なく行われたものであり,違法な処分として取り消されるべきである。
5 まとめ
 以上のことから,本件懲戒免職処分及び本件退職手当支給制限処分はいずれも違法な処分として取り消されるべきものである。
 なお,原告は,本件退職手当支給制限処分について,平成24年8月10日,福島県知事に対して審査請求を申し立て(同年9月10日受理),当該審査請求に対する裁決を経ずに本訴を提起しているが,当該審査請求は,審査請求があった日から3箇月(同年11月11日)を経過しても裁決がないから,行政事件訴訟法8条2項1号により本件訴訟は適法である(最高裁判所昭和28年9月3日第一小法廷判決・民集7巻9号859頁)。
第4 結論
 以上のとおりであるから,原告の請求は理由があるから認容することとして,主文のとおり判決する。
福島地方裁判所第一民事部
裁判長裁判官 金澤秀樹 裁判官 田屋茂樹
裁判官松長一太は,転補のため,署名押印することができない。
裁判長裁判官 金澤秀樹

控訴審で逆転しています。

判例番号】 L07120600
【掲載誌】  LLI/DB 判例秘書登載

       主   文

 1 原判決を取り消す。
 2 被控訴人の請求をいずれも棄却する。
 3 訴訟費用は,第1,2審とも,被控訴人の負担とする。

       事実及び理由

第1 控訴の趣旨
   主文同旨
第2 事案の概要
 1 本件は,福島県立高校の教員であった被控訴人が,県立高校に勤務していた昭和61年11月頃から平成元年3月までの間,顧問をしていた部活動に所属していた女子生徒と部活動終了後に頻繁にみだらな行為を行ったことを理由として,福島県教育委員会が行った懲戒免職処分(以下「本件懲戒免職処分」という。)及び一般の退職手当等の全部を支給しない旨の退職手当支給制限処分(以下「本件退職手当支給制限処分」という。)は,いずれも裁量権を逸脱するものであって違法であると主張して,福島県教育委員会が所属する地方公共団体である控訴人に対し,その取消しを求めた事案である。
   原審が,被控訴人の請求をいずれも認容したところ,控訴人がこれを不服として控訴した。
 2 前提となる事実(当事者間に争いがないか後掲各証拠により容易に認定することができる事実)