児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

暴行により抵抗できない状態にある子供に対する強制わいせつ行為中に、財物奪取の意思を生じ、子供のズボンに手をさしこんで財布を取り出して奪取し、肛門に陰茎挿入しようとするなどのわいせつ行為を続けた後、強制わいせつ及び強盗の犯行発覚を免れようとして子供を殺害した場合には、強盗殺人が成立し、強制わいせつ罪との観念的競合にある。(東京高裁s50.12.4)

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強制わいせつ、強盗殺人、窃盗被告事件
東京高等裁判所判決昭和50年12月4日
  高等裁判所刑事裁判速報集2144号
       東京高等裁判所判決時報刑事26巻12号203頁
       判例タイムズ333号332頁
       理   由

本件控訴の趣意は、検察官が差し出した控訴趣意書記載のとおりであるから、これを引用する。
控訴趣意第一点(事実誤認、法令適用の誤りの主張)について所論は、本件昭和四七年五月一二日付起訴状記載の強制わいせつ、強盗殺人の公訴事実につき、原判決は強盗殺人の成立を否定して、強制わいせつ致死、殺人、強盗の各罪の成立を認めたが、右は強盗殺人の成立を否定した点において事実を誤認し、ひいては法令の適用を誤つたものであり、その誤りが判決に影響を及ぼすことが明らかであると主張する。
そこで本件事実関係につき、原審記録を子細に調査し、原審が取調べた関係証拠に当審における事実取調の結果をも加えて総合検討すれば、次の事実が認められる。
すなわち、被告人は従前から窃盗、詐欺等の犯行を重ね、昭和四六年六月三〇日青森刑務所を出所した後、東京都台東区内の中華料理店「」において出前持ちとして働いていたものであるが、右青森刑務所に服役中に同房者を相手として鶏姦行為(俗にいうおかま)を体験して快楽を覚えたことが忘れられず、昭和四七年四月五日夜右「花や」の被告人居室において、鶏姦の目的をとげようとするためには、その対象として小学生位の子供を相手方とする、その場所は土地の状況をよく知つている下妻市番地の十王尊墓地がよいと思案し、これを実行するために、翌六日午前七時ころ無断で「花や」を飛び出し、同日午後一〇時ころ下妻市番地所在の男方に到着し、同家に宿泊したが、その際更に犯行の手段方法を考えた結果、早朝登校の子供を狙う、犯行及び逃走の便宜のためにオートバイを盗む、十王尊墓地に子供を連れこむときには子供を殴打し抵抗を排除してから連れてゆく等の計画をたてるとともに、被告人は従前から警察に写真をとられていることもあり、おかまをやれば顔を覚えられるので、やつた後は子供を殺してしまおうとの考えをかためるに至つた。
この企図に従つて被告人は、翌七日夜結城市内において原動機付自転車及び殺傷用として大工用ノミ一丁を盗み出し、その翌八日早朝原動機付自転車を運転して犯行場所に至り、午前七時一〇分ころ登校途中の被害者○○(小学校五年生)の顔面を殴打するなどして同人を十王尊墓地に引きずりこみ、更に同人の顔面を殴りつけてその反抗を抑圧し、「ズボンを脱げ、パンツを下げろ。」などと怒号しながら被告人において右○○のズボンを下げようとしたところ、同人のズボンの後ろポケットに財布が入つていることを認めたので、同人が畏怖しているのに乗じ、この機会に財布を奪取しようとの意図のもとに、右ズボンのポケットに手をさしこんでその反抗を更に抑圧したうえ財布を取り出し、その財布を被告人のズボンのポケットに入れて現金二三〇円在中の右財布を強取し、更にわいせつの目的を遂げようとして、○○の肛門部に被告人の陰茎を押しつけたが完全には挿入できなかつたため、無理に口淫させようとしたところ、同人から腹部を蹴られるなどして抵抗されたため、これによる憤激も加わつて、わいせつ行為及び強盗の犯行の発覚を免れようとして殺意を強め、原判示のような仕方で○○を殺害するに至つた。
以上の事実が認められるのである。
なお、被告人の捜査官に対する各供述調書の方式及び内容を調査し、かつ原審及び当審において取調べた各証拠に現われた事実関係及び捜査官の取調状況等を吟味すると、被告人の精神能力を勘案しても、これらの供述の任意性に疑いをさしはさむべきかどは見られないし、また右認定の範囲においてその信用性に欠けるものがあるとは考えられない。
原判決は、本件殺害行為は強盗とは無関係な動機に基づいて行なわれたものである旨を説示しているが、前叙認定のとおり、本件殺害行為は被告人の事前の計画的意図に基づくもので、被告人が強制わいせつの犯行発覚を免れようとする目的を有していたことは明らかであるけれども、それとともに現場における事態の推移に伴つておのずから、強盗の犯行発覚を免れようとする目的をもあわせ有していたことを認めざるをえないのであつて、被告人に殺害後更に鶏姦行為を試みる意図があつたとしても右認定を妨げるものではない。
なお、被告人は当審公判廷において、被告人が○○の財布を取つたのは同人を殺害してから以後のことである旨供述するに至つたが、右供述は採用し難く、その他原判決が説示する諸点を検討し、かつ記録全部を調査しても、叙上認定を左右するに足りる資料は見いだせない。
そして、被告人が○○を襲つたそもそもの目的が強制わいせつ行為にあつたことはもとよりであつても、以上認定のような事実関係のもとにおいて、強制わいせつ行為の過程における強盗の成立を認めながら、その直後の殺害行為を強盗から切り離し、強盗殺人罪の成立を否定すべき理由はないのである。
すなわち、被告人の行為は強盗殺人罪を構成し、刑法二四〇条後段を適用すべきものである。
従つて、この点において原判決は事実を誤認し、ひいて法令の適用を誤つたものであり、その誤りは判決に影響を及ぼすことが明らかであるから、論旨は理由がある。