児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者性交・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録記録被告事件弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 hp@okumura-tanaka-law.com)

性犯罪・福祉犯(監護者性交罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例(鳥取県) 3条1項3号の「卑わいな言動」の定義について,「社会通念上,性的道義観念に反する下品でみだらな言動又は動作をいう」との従来の最高裁判例を踏襲しつつ,特に,当該行為を一般人の立場から見た場合にそう認識されるものであれば足り,行為者の主観的傾向は犯罪の成立に要求されないことを明示して判示した上で,被告人の本件行為がこれに当たるとして,逆転有罪を言い渡した事例(広島高裁松江支部H28.2.26判決速報平成28年2号)

〇判決要旨
1 公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例(鳥取県)(以下「本条例」という。)の目的が,「県民及び滞在者等の平穏な生活を保持すること」(1条)にあり,同条例の禁止行為の中には,景品買い行為の禁止(6条)など,明らかに法益侵害される者という意味での「被害者」が観念できない類型が存すること,「卑わいな言動」の禁止される場所が「公共の場所」又は「公共の乗物」に限定されていること,その規制は法律による全国一律のものでなく,条例制定権の範囲である地域における事務(すなわち属地的規制に馴染むもの。)と把握されていること等に鑑みれば,本条例3条1項は,強姦罪や強制わいせつ罪等専ら個人的法益に対する侵害犯と異なり,(保護法益について端的に社会的法益と捉えるのかは取りあえず置くとして,)公共の場所や公共の乗物における,社会通念上,卑わいとされる言動を禁止し,地域住民等が安心して生活できる風俗環境が保持されることを通じて,県民及び滞在者等の意思及び行動の自由を確保しようとするものと思料される。
かかる見地から「卑わいな言動」は,当該行為の相手方が必ずしもそれに気付いている必要はなく,公共の場所又は公共の乗物において,当該行為を一般人の立場から見た場合に,社会通念上,性的道義観念に反する下品でみだらな言動又は動作(最高裁平成20年11月10日第三小法廷決定・刑集62巻10号2853頁)と認識されるものは「卑わいな言動」として,規制の対象になるというべきである。
2 この点に関し,弁護人は,例えば,歩行中に何かにつまずき,転倒しそうになり,思わず何かをつかもうとして偶然隣にいた女性の胸をつかんでしまったような反射的行動も「卑わいな言動」に該当し不都合であり,主観的構成要件として,「性的意図」が必要である旨主張するが,前記のとおり,本条例3条1項は強姦罪や強制わいせつ罪等の個人的法益に対する罪とは構成要件及び法定刑を異にし,規制の目的・方法も異なるから,行為者の主観的傾向を犯罪の成立に要求する合理的理由はないし,上記のようなケースでは,その客観的な行為態様が,「みだりに」(すなわち社会通念上正当な理由があると認められないこと)あるいは「人を著しくしゅう恥させ,又は人に不安若しくは嫌悪を覚えさせるような方法」(3条1項柱書)に当たらないと解することは十分に可能であって,処罰範囲を限定する趣旨から,あえて明文にない主観的要件を求める必要性も乏しい。

事案の概要が捜査研究に載りました。

捜査研究790号p28
第2事案の概要
1 事実関係
被告人は, 「平成26年4月4日午後零時30分頃,烏取県内のコンビニエンスストアにおいて,被害女性に対し,背後からスマートフォン様のものを同人のスカート下方に差し入れ, もって,公共の場所において,人に対し,みだりに,人を著しくしゆう恥させ,かつ,人に不安若しくは嫌悪を覚えさせるような方法で,卑わいな言動をしたものである。」という公訴事実につき,迷惑防止条例(烏取県)違反の罪により起訴された。
検察官による犯行状況の立証は,専ら店内に設置された防犯カメラの画像によっていると思われ,その画像から,原判決及び本判決は,概要,次のとおり事実を認定した。
「被害女性が出入口ドアに近い方のレジの前に,精算のため, レジカウンターの方を向いて立っていた。被告人は, レジカウンターと陳列棚との間の狭い空間の被害女性の左後方に, 同陳列棚の方を向いて立った。その上で,首を左斜め後方にひねり,被害女性のスカート下の脚部に目を向けながら,スマートフォン様のものを,親指と他の4本の指で挟むようにして左手に持ち,膝を曲げてしやがみ込みながら,上半身を左にひねるようにして左腕を左後方に伸ばし,被害女性のスカートの裾下,約10センチメートルの位置でスカート内側の被害女性の股間部をのぞき見ることが可能な位置まで,スマートフォン様のものの先端を差し入れ,そのまま約1秒間程度静止した後,左手を引き戻しながらひねった上半身を戻すようにして立ち上がった。被告人は,出入口ドア付近に別の女性を見ると,陳列棚を一周した後,足早にコンビニエンスストアの店外に出た。」
烏取県においては,女性のスカート内をコンビニエンスストアで密かに撮影する行為は,迷惑防止条例(烏取県) 3条1項2号に違反する行為として,処罰の対象とされている。
しかし,本件では,防犯カメラ画像のみでは被告人が持っていた物が何であるか判然としなかった上,恐らく関係箇所の捜索によっても,犯行時に写真撮影が行われていたのであればこれに整合するはずの画像が記録されていた,又は一旦は記録されていたスマートフォンの発見に至らず,被告人の盗撮行為を認定することができなかったものと思われる。
そのため,検察官は,被告人の「撮影」・「録画」行為(同条例3条1項2号)の立証を断念したが,そうであっても,被告人の行為は同条例3条1項3号に規定する「卑わいな言動」に該当するとして,被告人を起訴するに至った。

2原判決の要旨
原判決は,前記防犯カメラ画像より認められる客観的事実及び被告人が意図的に当該行為に及んだことをいずれも認定したものの, 当該行為は迷惑防止条例(烏取県) 3条1項3号の「卑わいな言動」に該当しないとして,被告人を無罪とした。
すなわち,原判決は, 同項3号の「卑わいな言動」について, 同項1号(いわゆる痴漢行為),同項2号(いわゆる盗撮行為)に定める行為に匹敵する程度の悪質な言動と評価できる「卑わい」性が認められなければならないと限定的に解釈し,本件では,被告人が所持していた物がカメラに匹敵する撮影機能を有していたことの証明がなく,行為の目的が撮影目的であるとは証明されていないこと,差し入れ行為が1回かつ1秒程度の短時間であったことを考慮すると, 「人を著しくしゆう恥させ,又は人に不安若しくは嫌悪を覚えさせるような方法」と評価することも可能であろうが, 「卑わいな言動」とは評価できないとした。