児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

児童ポルノやナイフを収集している人物が必ずしも本件のような犯行に及ぶといえないことは明らかであることからすれば,上記事情は被告人の犯人性を直接的に基礎づけるものとはなり得ない(宇都宮地裁h28.4.8)

宇都宮地方裁判所平成28年4月8日刑事部判決
       判   決
 上記の者に対する殺人,商標法違反,銃砲刀剣類所持等取締法違反被告事件について,当裁判所は,検察官金子達也,同岡山賢吾,同田渕大輔,同黒見知子,同三田村朝子及び同小一原潤並びに国選弁護人高橋拓矢(主任),同一木明(副主任)及び同梅津真道各出席の上審理し,次のとおり判決する。
       主   文

被告人を無期懲役に処する。
未決勾留日数中300日をその刑に算入する。
宇都宮地方検察庁で保管中のナイフ1本(平成26年領第397号符号1)を没収する。
2 被告人所有車両の通行記録について
 Nシステムによる通行記録等の証拠(甲208,215,218,P6警察官の公判供述)によれば,捜査機関が平成18年3月に複数の車両に関するNシステムによる通行記録を確認した結果,本件当時,被告人が所有し,日常的に使用していた車両であるP7(登録番号栃木○○ふ○○○○。以下「被告人車両」という。)が,平成17年12月2日午前1時50分に宇都宮市ζの県道宇都宮楡木線(以下「第1地点」という。)を宇都宮市街方向へ,同日午前2時20分に宇都宮市ηの国道123号線(以下「第2地点」という。)をθ方向へそれぞれ走行した記録,及び,その4時間近く後である同日午前6時12分頃に第2地点を宇都宮市街方向へ,同日午前6時27分頃に宇都宮市κの国道121号線(以下「第3地点」という。)を鹿沼市方向へ,同日午前6時39分頃に第1地点を鹿沼市方向へそれぞれ走行した記録が確認されたことが認められる(弁護人は,Nシステムで被告人車両の通行記録を読み取った原データが顕出されておらず,甲第208号証の記録は信用できないと主張するが,P6警察官の証言によれば,Nシステムで読み取った通行記録の処理は機械で自動処理され,車両の登録番号を特定した書面による照会に対して一覧表の形式でその通行記録のデータが回答されているものとみられることから,甲第208号証の通行記録は信用できるものといえ,弁護人の指摘は当たらない。)。
 Nシステムによる被告人車両の通行記録については,平成17年3月21日から平成18年1月14日までのものを確認することができるが,そのほとんどが栃木県鹿沼市内にあった当時の被告人方と宇都宮市街を結ぶ幹線道路上にある第1地点を通過した際のもので,それ以外の地点を通行した記録はごくまれであり,特に,宇都宮市街から栃木県東部ないし茨城県方面へ行く途上にある第2地点の通行記録は,前記のもののほか,その4日後である平成17年12月6日の深夜から朝にかけて通行したもの以外には全く存在しない。そうすると,被告人車両は,被害者が消息不明になった日の翌日,すなわち遺体発見日の未明に,茨城県方向に向かい,数時間後に自宅に戻るという日常の行動とは異なる特異な経路を走行したこととなり,その4日後にも同様の経路を走行したことがうかがわれる。そして,前記証拠によれば,その際に通過した記録が残る第1ないし第3地点は,当時の被告人方と本件遺棄現場とを結ぶ経路上にあること,被告人方から第1,第2地点を経由した本件遺棄現場までの車での所要時間は,同一時間帯に実施した再現実験において約1時間47分(約78.7km)であったことが認められる。
 この点につき,被告人は,平成19年1月頃に警察官から事情を聴取された際には,茨城県には朝日の写真を撮影するために2回行っており,1回目は道に迷って撮影できずに戻ってきたが,2回目は写真を撮って帰ってきたなどと説明していたにもかかわらず,公判においては,行き先や目的は記憶がないと述べるのみで,具体的な説明はされていない。被告人は,実母とともに,平成11年頃から平成14年頃までの間,宇都宮市から茨城県内のP8で開催される骨董市に月1回の頻度で通っており,その際の経路は第2地点や本件遺棄現場に近い場所を通過するもので,免許取得後は被告人も運転することがあったこと,本件当時,被告人が第三者に被告人車両を貸与したなどといった事情は見当たらないことなど,関係証拠から認められる事情をも併せ考えれば,被告人車両の前記通行記録は,被告人が事件当日に本件遺棄現場に行ったのではないかとの疑いを生ぜしめる事情といえる。
 もっとも,前記通行記録は,客観的には,被告人車両が平成17年12月2日未明に第2地点等を茨城県方向に走行して,約4時間後に同地点等を被告人方方向に戻ったことを示すものに過ぎず,もとより,被告人が本件遺棄現場に行ったことを直接示すものではないから,その推認力にはおのずから限度がある。
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(3)犯行態様から想定される犯人像について
 被告人方を捜索した警察官の証言等の証拠(甲183,210ないし212,P6警察官及びP17警察官の各公判供述)によれば,被告人は,事件当時多数の児童ポルノ画像を収集しており,複数のナイフを所持していたこと,事件後も児童ポルノ画像や猟奇的殺人の動画,ナイフを収集していたこと,事件前から当時小学生であった異父妹に対して陰部を触るなどのわいせつ行為をしていたことが認められる。
 本件犯行につき,7歳の女児が拉致された後,胸部を刃物で多数回刺突された全裸の遺体となって発見されたという,客観的に認められる態様から典型的に想定される犯人像に照らせば,前記事実から認められる被告人の女児に対する性的興味や残虐行為,刃物に対する親和性は,その犯人像と整合的であると評価することが可能である。しかしながら,児童ポルノやナイフを収集している人物が必ずしも本件のような犯行に及ぶといえないことは明らかであることからすれば,上記事情は被告人の犯人性を直接的に基礎づけるものとはなり得ない。