児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

強制わいせつ罪の保護法益は,被害者の性的自由と解されるところ,犯人の性的意図の有無によって,被害者の性的自由が侵害されたか否かが左右されるとは考えられない。また,犯人の性的意図が強制わいせつ罪の成立要件であると定めた規定はなく,同罪の成立にこのような特別の主観的要件を要求する実質的な根拠は存在しない。よって,客観的にわいせつな行為がなされ,犯人がそのような行為をしていることを認識していれば,同罪が成立すると解するのが相当である。弁護人は,これと異なる最高裁判所の判例を指摘するが,当裁判所は,同判例は相当で

 東京高裁h28.2.19(上告中)とか広島高裁岡山支部h22.12.15とかで必要説の判例が出ているのにもかかわらず、主張できてないようです。
 控訴上告して東京高裁h28.2.19(上告中)とぶつければ面白いと思います。

http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/900/085900_hanrei.pdf
平成28年3月18日宣告
児童買春,児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律違反,強制わいせつ,犯罪による収益の移転防止に関する法律違反被告事件
判 決
理 由
【犯罪事実】
被告人は,次の各行為をした。
第1 別紙記載の被害者(当時7歳)が13歳未満の女子であることを知りながら,
1 平成27年1月下旬頃,山梨県甲府市a町b番地c所在の被告人方において,被害者に対し,被告人の陰茎を触らせ,口にくわえさせ,被害者の陰部を触るなどのわいせつな行為をした。
2 同月下旬頃,前記被告人方において,提供の目的で,全裸の状態での前記1のわいせつ行為に係る被害者の姿態や,全裸又は半裸の状態で陰部又は胸部を露出した被害者の姿態を被告人が使用するスマートフォンで撮影し,その画像データである電磁的記録合計124点を同スマートフォンの内蔵記録装置に記録して保存した。このようにして,児童による性交類似行為に係る児童の姿態,他人が児童の性器等を触る行為又は児童が他人の性器等を触る行為に係る児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するもの及び衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって,殊更に児童の性的な部位が露出され又は強調されているものであり,かつ,性欲を興奮させ又は刺激するものを視覚により認識することができる方法により描写した情報を記録した電磁的記録に係る記録媒体である児童ポルノを製造した。
3 同月下旬頃,前記被告人方において,複数回にわたり,前記画像データ合計124点を,被告人が使用するスマートフォンから,電気通信回線を通じてAが使用するスマートフォンに送信して提供した。
第2 通常の商取引又は金融取引として行われるものであることその他の正当な理由がないのに,平成26年12月中旬頃,山梨県甲府市d町e番地fg郵便局において,氏名不詳者に対し,後日10万円の融資を受ける約束で,株式会社ゆうちょ銀行に開設された被告人名義の通常貯金口座の通帳,キャッシュカード及び同口座の暗証番号を記載した紙片を,前記氏名不詳者が指定する東京都内の場所に宛てて郵送してその頃同所に到達させた。このようにして,有償で,貯金通帳及びキャッシュカードを譲り渡すとともに,貯金の引出し等に必要な情報を提供した。
【証拠の標目】
(略)
【争点に対する判断】
1 弁護人は,第1の1の事実につき,被告人には性的意図がなかったから強制わいせつ罪は成立しないと主張し,被告人も性的意図はなかったと供述する。
当裁判所は,被告人に性的意図があったと認定するには合理的な疑いが残るが,強制わいせつ罪の成立について犯人が性的意図を有する必要はないから,被告人には強制わいせつ罪が成立するものと判断した。
2 被告人は,全裸の被害者に勃起した陰茎を触らせ,口にくわえさせ,被害者の陰部を触り,さらに,射精してその精液を被害者の顔に付けることまでしている。これらの行為は,通常,性的意図を伴うものと推認できるものである。
しかし,被告人は,上記の行為は,金に困ってAから金を借りようとしたところ,金を貸すための条件として被害者とわいせつな行為をしてこれを撮影し,その画像データを送信するように要求されたから,わいせつな行為をしているような演技をしてその様子を撮影して送信したのであって,その目的は金を得ることにあり,上記の行為によって自己の性欲を刺激興奮させ,満足させる意図はなかったと供述している。そして,陰茎が勃起していたことや射精したことについては,過去に交際した女性との性行為等を思い出しながら自慰行為をしたことによるものであり,被害者に対する上記の行為によって勃起したり射精したりしたのではないと述べている。
被告人の上記の供述のうち,Aとのやり取りとAに対する画像データの送信に関する部分は,Aもほぼ同様の供述をしている上,発見された画像データの内容とも整合しており,信用することができ,したがって,被告人が上記の行為をした目的が金を得ることにあったという部分も信用できる。
被告人の上記の行為が,このような特殊な経緯により,特殊な目的で行われたものであることを踏まえて考えると,上記の行為には性的意図はなく,これとは無関係に自慰行為をして陰茎を勃起させ,射精したという被告人の弁解には一定の合理性が認められる。また,発見された画像データの中には被害者が風呂場で頭を洗っている間に自慰行為をしたという被告人の弁解に整合するように見えるものもある。
なお,被害者は,検察官調書の中で,被告人に頼まれて陰茎を洗っていたら,だんだん上を向いてきたと述べているが,取調べ当時被害者が8歳であったことを考慮すると,取調べの状況が明らかでない以上,質問に誘導され,これに迎合するなどして供述した可能性も否定できず,高い信用性は認められない。発見された画像データの中には被害者が被告人の陰茎を洗っている時のものと思われるものがあるが,これらを精査しても,陰茎の大きさまで判別することは困難であって,これによって被害者の上記供述が裏付けられているとはいえない。結局,被害者の上記供述によっても被告人の弁解を排斥することは困難である。
したがって,被告人の上記の弁解は排斥できず,被告人に性的意図があったと認定するには合理的な疑いが残る。
3 しかし,強制わいせつ罪の保護法益は,被害者の性的自由と解されるところ,犯人の性的意図の有無によって,被害者の性的自由が侵害されたか否かが左右されるとは考えられない。また,犯人の性的意図が強制わいせつ罪の成立要件であると定めた規定はなく,同罪の成立にこのような特別の主観的要件を要求する実質的な根拠は存在しない。
よって,客観的にわいせつな行為がなされ,犯人がそのような行為をしていることを認識していれば,同罪が成立すると解するのが相当である。弁護人は,これと異なる最高裁判所判例を指摘するが,当裁判所は,同判例は相当でないと判断した。
本件では,被告人が被害者に対して客観的にわいせつな行為をしたこと及びその際に自分がそのような行為をしていることを認識していたことは証拠上明らかである。よって,被告人には強制わいせつ罪が成立する。
【法令の適用】
1 被告人の各行為は次の刑罰法規に当たる。
第1の1の行為 刑法176条後段
第1の2の行為 児童買春,児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律7条3項前段,2項
第1の3の行為 児童買春,児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律7条2項後段
第2の行為 犯罪による収益の移転防止に関する法律27条2項後段,1項
2 定められた刑のうち,第1の2及び3並びに第2の罪について懲役刑をそれぞれ選択する。
3 以上は刑法45条前段の併合罪であるから,同法47条本文10条により最も重い第1の1の罪の刑に法定の加重をする。
4 これにより導き出された刑期の範囲内で,主文のとおり刑を定める。
5 被告人は審理中に身柄を拘束されていたから,刑法21条を適用して主文のとおり未決勾留日数の一部を刑に算入する。
6 訴訟費用については,刑事訴訟法181条1項ただし書を適用して被告人に負担させない。
【量刑の理由】
(求刑 懲役4年6月)
平成28年3月18日
神戸地方裁判所第2刑事部
裁判長裁判官 長 井 秀 典
裁判官 森 幸 督
裁判官 日 巻 功 一 朗

 八日市場支部控訴審ではこういう判示があって、最決s45を暴行脅迫がある強制わいせつ罪の基本型(176条本文)の場合に限定しているようです。神戸地裁事件も法定強制わいせつ罪(176条後段)なので、最決を限定的に解釈すれば上級審でも維持される可能性があります

東京高裁H21.3.23 準強制わいせつ罪
最高裁S45.1.29 の多数説は傾向犯説である
 しかし最高裁S45は対象としている事案が通常の強制わいせつ罪事案とはことなる。専ら侮辱虐待のために行われたとされる特異性ある事案である しかも強制わいせつ罪と準強制わいせつ罪とは構成要件の内容がことなり 関連する事象でも差異が生じる 例えば S45最高では判決文中でも強要罪等の成立のあり得ることが指摘されているが、準強要罪といった犯罪はそもそも存在しないし、本件のような事案では準強制わいせつ罪が否定されてても強要罪が成立するといったことにはならないからS45判決は本件の先例となる判例には該当しないと解される
そのため原判決はS45判決を専ら前提として検討を展開しているのが適切であるかはともかく 性的な意図が認められる事案であるのに それが要件として不要としつつも準強制わいせつ自体の成立を認めていることになるから、その誤りは判例に反した判断をしたことにはならず、それだけでは判決に影響はない
 罪となるべき事実には性的意図の明示はないものの 抵抗できない状態にあることに乗じてわいせつ行為した」旨の説示があり準強制わいせつ罪の成立を認めているから 性的な意図が認定できた前提でもその趣旨は示されていると解することが可能なものといえ、性的意図を成立要件とするとの前提でも、理由不備にもならない
第7刑事部