児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者性交・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録記録被告事件弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 hp@okumura-tanaka-law.com)

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投稿記事削除仮処分事件(さいたま地裁H27.6.25)

本件で選択された法定刑は罰金刑であることから、本件事案としては三年(刑事訴訟法二五〇条二項六号)が公衆の関心の希薄化から、一つの基準になる

さいたま地方裁判所
平成27年6月25日決定
       主   文
債務者は、別紙検索結果目録にかかる各検索結果を仮に削除せよ。
       理   由
第一 申立て
 グーグル検索で、債権者の住所(省略)と氏名を入力して検索すると、検索結果として、債権者の逮捕歴が別紙検索結果目録のとおり表示される。
 債権者は、人格権(更生を妨げられない権利)の侵害を理由として、上記検索結果の削除請求権を有すると主張し、民事保全法二三条二項の仮の地位を定める仮処分命令として、主文同旨の決定を求めた。
第二 事案の概要
一 前提事実
(1)グーグル検索
 債務者は、インターネットの検索エンジン「Google」(http://(以下省略))のウェブサイト(グーグル検索)を管理・運営する米国法人である。
 グーグル検索では、利用者が任意の文字列を入力すると、当該文字列と関連性が高いと判断されたウェブページへのリンクが、検索結果の一覧として表示され、各リンクには、当該ウェブページの表題(タイトル)、URLと内容の抜粋(スニペット)が表示される。
(2)検索結果における逮捕歴の記事の表示
 グーグル検索において、「P1」(債権者の住所(省略))と「P2」(債権者の氏名)の二つの文字列を入力して検索すると、別紙検索結果一覧(省略)のとおり検索結果が表示される。そのうち別紙検索結果目録(省略)にかかる四九個の検索結果(以下「本件検索結果」という。)には、下記のとおり、表題又はスニペットに、債権者の逮捕歴を記載した下記のいずれかの記事(省略)の全部又は一部が表示される。
(3)略式命令による罰金刑
 債権者は、平成△年△月△日、P3簡易裁判所の略式命令により、児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律第四条に違反した罪で、罰金五〇万円に処せられ、即時に罰金を納付した。
 罪となるべき事実は、債権者は、平成△年△月△日、(省略)において、P4(仮名・平成○年○月○日生、当時△歳)が一八歳に満たない児童であることを知りながら、同児童に対し、(省略)などし、もって児童買春をしたものである、との事実である。
二 債権者の主張
(1)被保全権利
〔1〕人格権としての「更生を妨げられない利益」の侵害
 本件検索結果の記事が話題の対象としている人物、すなわち△年当時、(省略)に住み、△歳だった(省略)「P2」が債権者であることは、債権者の知人(省略)等には容易に同定可能である。
 事件の公表に対し、更生を妨げられない利益が優越するときは、その者はウェブサイトの管理運営者に対し、当該ウェブページを削除することを請求することができる。本件の事件発生は△年△月△日だが、△年△月△日、略式命令で五〇万円の罰金とされていることから、同日から更生を妨げられない利益が生じる。しかるに、事件からは三年半、略式命令からも三年以上が経過していること、債権者は事件を反省して新しい生活をしていることから、公益性は喪失しており、事件を公表したままにすることは違法である。
 それゆえ、債権者は人格権(更生を妨げられない権利)の侵害を理由として、削除請求権を有する。
〔2〕ウェブサイト上の犯罪報道記事の削除請求権について
 ある者が刑事事件について被疑者とされ、さらには被告人として公訴を提起されて判決を受け、とりわけ有罪判決を受け、服役したという事実は、その者の名誉あるいは信用に直接関わる事項であるから、その者は、みだりに前科等に関わる事実を公表されないことにつき、法的保護に値する利益を有する。そして、その者が有罪判決を受けた後あるいは服役を終えた後においては、一市民として社会に復帰することが期待されるのであるから、その者は、前科等に関わる事実の公表によって、新しく形成している社会生活の平穏を害されその更生を妨げられない利益を有する(最判平成六年二月八日、ノンフィクション逆転事件)。かかる「更生を妨げられない利益」は人格権の一つの内容であるから、ウェブサイトの情報により「更生を妨げられない利益」が違法に侵害されているときは、人格権に基づく妨害排除請求、妨害予防請求として、対象者情報の削除を請求できる。
 どのような場合に、人格権に基づく妨害排除請求、妨害予防請求としての差止請求が認められるかについて最高裁判決(最判平成一四年九月二四日、石に泳ぐ魚事件)は、「侵害行為の対象となった人物の社会的地位や侵害行為の性質に留意しつつ、予想される侵害行為によって受ける被害者側の不利益と侵害行為を差止めることによって受ける侵害者側の不利益とを比較衡量して決すべきである。」としたうえで、「侵害行為が明らかに予想され、その侵害行為によって被害者が重大な損失を受けるおそれがあり、かつ、その回復を事後に図るのが不可能ないし著しく困難になると認められるときは侵害行為の差止めを肯認すべきである。」とする。すなわち、人格権侵害差止請求の考慮要素は、〔1〕侵害対象者の社会的地位、〔2〕侵害行為の性質、〔3〕被害者の不利益、〔4〕差止めによる侵害者の不利益、〔5〕侵害行為が明らかに予想されること、〔6〕被害の重大性、〔7〕回復困難性、である。比較衡量の判断基準は、侵害が受忍限度か否かである(最判平成七年七月七日、国道四三号線事件、調査官解説七三八頁、および、大阪国際空港大法廷判決)。すなわち、上記要素を中心に、侵害が受忍限度かどうかを判断し、差止請求の拒否を判断する。
 ウェブサイトにおける人格権侵害にかかる被害の重大性・回復困難性は、インターネットに掲載された情報は、不特定多数のインターネット利用者がいつでも瞬時に閲覧可能であり、ひとたび閲覧されれば、閲覧者の記憶を消すわけにもいかず、事後の回復は事実上不可能であることである。そして、本件検索結果のスニペット部分が知人に読まれれば、更生を妨げられない利益が侵害されると明らかに予想できる。
 一般に、事件や有罪判決から時間が経過すればするほど犯罪報道の情報価値が低くなり、当初高かった公衆の関心が次第に減少していく反面、有罪判決を受け刑の執行が終わった者にとっては、時間が経つにつれて更生の機会を得て、新たな生活関係を形成しているという関係にあることから、時間経過の判断においては、〔1〕「公衆の正当な関心」および〔2〕「新たな生活関係の形成」を考慮すべきである。そして、公衆の正当な関心の希薄化という点では、公訴時効期間(刑事訴訟法二五〇条)や不法行為の時効期間(民法七二四条)が一つの基準になる。本件で選択された法定刑は罰金刑であることから、本件事案としては三年(刑事訴訟法二五〇条二項六号)が公衆の関心の希薄化から、一つの基準になる。もちろん、罰金を即時納付していることから、事件直後に更生を妨げられない利益が生じている。
 時間経過以外の考慮要素について検討すると、債権者は政治活動や公益的活動はしていないこと、本件事件自体は、社会に重大な影響を与えたものではないこと、本件記事を今なお債権者の知人に知らしめる必要性はそれほど高くないこと、債権者は更生のうえで家族と一般的な生活をしていること、本件ウェブサイトに過去の犯罪情報を実名で掲載しておくことの公益性はさほど高くないこと、削除手続を求めたとしても、債務者にはそれほど負担にならないことから(債務者は任意削除依頼の手続を用意している。)、現時点においては、本件事件についての実名報道記事を表示する価値よりも、債権者の更生を妨げられない利益の方が優位する。
(2)保全の必要性
 本件検索結果は、インターネットで常に公開されており、時間の経過により、閲覧される機会が増え、人格権侵害が拡大する。そこで、債権者は債務者に対し、インターネットでの閲覧の機会を減らすため仮に削除を求めておく必要がある。
 本案判決を求めていては、その間にも、債権者の知人に過去の逮捕歴が閲覧されることになれば、重大にして回復困難な事態となる。それゆえに、知人に閲覧される前に、一刻も早く検索結果を削除しておく必要があり、ここに保全の必要がある。
三 債務者の主張(争点)
(1)被保全権利について
〔1〕本件検索結果の表示は受忍限度の範囲内であること
 本件サイトはいわゆる「検索エンジン」であり、サイトの利用者が入力した任意の文字列に応じて、一定のアルゴリズムに従い機械的かつ自動的に関連性のある既存のウェブページへのリンクのリストを生成し、検索結果として表示するサービスを提供するものである。検索エンジンは、インターネット上の膨大な情報を効率的に利用するために欠くことのできないものとして、いわば知る権利に資する積極的かつ公益的な重要な役割を担っている。このような検索エンジンの果たす公共的役割は、検索結果の表示に人為的な操作が介在しないことによって基礎付けられるものである。
 検索エンジンの公共的役割を前提とすれば、検索エンジンの管理者への削除請求における違法性の判断において、削除義務が認められるためには、表現の自由や知る権利と、人格権に対する不利益との比較考量が必要である。具体的事案において削除義務が認められるためには、当該内容に接する機会を有することによるユーザーの利益、その他の表現の自由や知る権利という公共の利益と、問題となっている検索結果に含まれる内容による権利侵害の程度などを総合的に考慮して判断されるべきである。
 本件検索結果を検索結果から除外することは、社会一般の知る権利を著しく損なうものであり、他方、その内容が検索結果に表示されることによる債権者の権利侵害は認められないか極めて軽微であるから、被保全権利たる債権者の債務者に対する人格権に基づく削除請求は認められない。
 すなわち、本件においては、債務者の検索エンジンが、公益性の高い児童買春に関する情報の発信者とそれを知ることを欲する者との「媒介者」としての役割を果たしており、一見して検索結果に表示される内容により債権者の権利が社会的に許容されないほど大きく侵害されている事案ではなく、さらに検索結果のリンク先ウェブページの管理者に対する請求も可能と考えられる事案であるから、仮に債権者の人格権の侵害が軽微ながら認められたとしても、なお受忍限度の範囲内といえる。
 債権者の求める削除は、債務者に検閲にも等しい役割を行わせて、ウェブページの管理者の表現の自由やインターネット利用者の知る権利を侵害する危険の高いものであり、安易に(とりわけウェブページの管理者への削除請求もしていないような場合に)削除義務が認められてはならない。債権者の救済手段としては、検索結果に表示されるウェブサイトの管理者への削除請求を原則とすべきであり、かかる救済手段が何らかの理由で困難である場合に限り、かつ、一見して検索結果に表示される内容により債権者の権利が社会的に許容されないほど大きく侵害されている場合にのみ、検索エンジンに対する請求が認められるべきである。
〔2〕本件検索結果の表示についての公共の利益
 本件検索結果は、いずれも債権者が過去に児童買春・ポルノ処罰法違反の疑いで逮捕された事実に関するものであり、当該事実は刑事裁判において公的に確定されている。未成年に対する性犯罪は、未成熟で、判断能力に乏しい児童を、自己の性的欲求を満たすため利用する悪質な犯罪であり、国内のみならず国際的にも社会的批判の極めて大きいものである(日本も締約国となっている「児童の売春及び児童ポルノに関する児童の権利に関する条約の選択議定書」参照)。そして、かかる犯罪の処罰歴は、潜在的な被害者となりえる子を持つ親など、社会一般の関心の高い事実である。そのような情報に接する機会を有する(知る権利)という公共の利益は極めて大きい。
 特に、本件の事件の処罰根拠法である児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律四条の公訴時効は五年(刑事訴訟法二五〇条二項五号)であり、公訴時効期間は、法が定める、時の経過によって犯罪に対する社会の応報・必罰感情が沈静し、刑の威嚇力や特別予防力が微弱になる期間であるという趣旨を有するところ、本件では事件から約三年△箇月、略式命令から約三年△箇月しか経過していないため、本件の事件に関する情報に接する機会を有するという公共の利益は特に大きい。
〔3〕人格権侵害の軽微性
 債権者は、略式命令から三年以上が経過しており、事件を反省し新しい生活をしていることから、事件を公表したままにすることは違法であると主張するが、本件検索結果の全部(又は一部)が表示されていることをもって更生が妨げられている具体的な事実の主張はない。むしろ、債権者は現在平穏な日常生活を送っているため、具体的な人格権侵害は生じていない。
 また、債権者の氏名のみで検索した場合には、本件検索結果のうち、ごく限られた件数しか表示されない。債権者の主張する検索結果のほとんどは、「債権者の住所地」+「債権者の氏名」という意図的に限定された検索条件によってのみ表示される。このような検索結果にアクセスする者はかなり限定される。
 したがって、かかる事情の下、そのほとんどが限定的な条件で表示される検索結果によって、債権者の人格権(更生を妨げられない利益)に対する不利益は、生じているとしても極めて軽微である。債権者は、そもそも当該行為に対する社会的制裁を相当程度受忍すべき立場にあるはずである。前述の意図的な検索の方法により生じる抽象的な不利益も受忍すべき範疇と考えられるため、人格権侵害は生じていないか極めて軽微である。
(2)保全の必要性について
 本件申立てには、保全の必要性を基礎付ける「著しい損害」や「急迫の危険」が存在しない。債務者に対して仮に削除を義務付ける保全の必要性はない。債権者は、具体的な不利益について何ら主張しておらず、仮に不利益が発生していたとしても、抽象的な不利益は受忍すべき範疇と考えられるため、人格権侵害は極めて軽微である。そのような状況においては、そもそも損害の発生及び、差し迫った回避すべき危険の存在が疎明されているとは言えないから、「著しい損害」や「急迫の危険」による保全の必要性はない。
 グーグル検索は検索エンジンであり、投稿記事はインターネット上の別のウェブページにある。仮に本件検索結果を検索結果から除外したとしても、投稿記事を含むウェブページはインターネット上に存在し続けるため、誰でも閲覧することができる状態にあり続ける。債権者は、投稿記事を含むウェブページの管理者に対して削除を求めることが可能であり、かかる削除が行われればそもそも問題となっている投稿記事はインターネット上に存在しなくなり、グーグル検索の検索結果としても表示されなくなる。そのようなウェブページの管理者に対する削除請求もしていない状況で、債務者に先んじて削除させるべき必要性などない。また、わが国で利用される検索サービスには、債務者のサイトの他にも、「Yahoo!」(http://(以下省略))など多数の検索サービスが存在している。その多数のサービスの一つにすぎないグーグル検索を管理している債務者に対して検索結果の削除を求めても、権利侵害の発生を阻止することはできない。
 本件は、債権者の主張する人格権と、潜在的な被害者となりえる子を持つ親など、社会一般の知る権利が対立するものであるところ、本来は、本案での綿密な審理手続になじむものであり、迅速性を重視する保全手続において争うべき事案ではない。それにもかかわらず、本件のように保全手続が選択されると、債務者にとっては本案で争う機会が実質的に奪われるに等しく、安易な事実認定や命令が発せられることによる弊害は著しく大きい。したがって、かかる事案においては債権者に本案で争う機会が保障されていれば十分であり、保全の必要性を認めて、保全手続を不当に利用することを許すべきではない。
第三 裁判所の判断
一 被保全権利について
(1)検索結果の表示による更生を妨げられない利益の侵害について
 債権者は、平成△年△月△日、平成△年△月△日に当時△歳の女子高校生に対し児童買春をした罪(犯罪事実は前記第二の一(3)のとおり)で逮捕され、平成△年△月△日、その罪で略式命令により罰金五〇万円の刑に処せられ、即日罰金を納付した。
 罰金刑を受けてから三年余り過ぎた現在でも、グーグル検索で債権者の住所(省略)と氏名を入力すると、検索結果のうち四九個のウェブサイト(本件検索結果)には、債権者の上記逮捕歴を示す記事(記事内容は前記第二の一(2)のとおり)の全部又は一部が、表題ないしスニペットに表示される。
 表示される記事の内容は概ね事実であり、記事には債権者が逮捕された日と当時の住所、氏名、職業、年齢が摘示されているため、本件検索結果を全体として読めば、債権者の知人であれば、上記のとおり児童買春により債権者が逮捕されたという過去の逮捕歴を知ることができる。
 債権者は、(省略)以後、罪を犯すことなく、妻と幼い子らと共に平穏な生活を送っており、政治的、社会的な団体等に所属するなど社会に特段の影響を与えるような活動はしていない。
 上記認定事実によれば、債権者は、既に罰金刑で処罰されたにもかかわらず、児童買春の罪で逮捕されたという過去の逮捕歴に関する記事が、逮捕・処罰後三年余り過ぎた現在でも、債権者の住所(省略)と氏名を入力して検索するだけでグーグル検索の検索結果として表示され、インターネット上で誰でも簡単に閲覧できる状態で公開されていることになる。
 刑事事件の被疑者として逮捕されたという事実は、逮捕された者の名誉あるいは信用に直接かかわる事項であるから、その者は、みだりに当該事実を公表されないことにつき法的保護に値する利益を有するところ、更に債権者は、既に罰金刑の処罰を受けており、一市民として社会に復帰することが期待されるから、過去に逮捕されたという事実の公表によって新しく形成している社会生活の平穏を害されその更生を妨げられない利益を有する。
 ところが、グーグル検索を利用すれば債権者の逮捕歴に関する記事がインターネット上で誰でも簡単に閲覧することができ、債権者の知人が検索結果として表示される表題やスニペットから記事を読むだけで、逮捕された者が債権者であることも知られてしまう。
 今日、インターネットを通じた情報の取得は社会生活において重要な位置を占め、そのインターネット上の膨大な情報の中から利用者が自ら欲する情報を取得するためには、検索エンジンが不可欠である。このことは債務者の自認するところである。そして数ある検索エンジンの中でも債務者が提供するグーグル検索は、一般に有用性が認められ日常生活で広く利用されている。
 日常的に利用される検索エンジンで、債権者の住所(省略)と氏名を入力して検索するだけで、三年余り前の逮捕歴が、インターネット利用者にいつでも簡単に閲覧されてしまう状況にあれば、債権者にとって、社会生活の平穏を害され更生を妨げられない利益が、著しく侵害され、あるいは容易に侵害されるおそれがあるといえる。
 この点、債務者は、本件検索結果が表示されていることをもって更生が妨げられているという具体的な事実はなく、むしろ債権者は現在平穏な日常生活を送っているため、具体的な人格権侵害は生じていないと主張する。
 しかし、過去の逮捕歴など最も他人に知られたくないプライバシーである。債権者が、幼い子や妻などの家族と共に社会生活を送っていくためには、必然的に新たな知人と人間関係を結び広げていく必要がある。そのような知人が、日常的に簡単に利用できるインターネットのグーグル検索で、債権者の住所と名前で情報を検索する可能性は決して小さいとはいえない。
 知人がグーグル検索で債権者の逮捕歴を一度知ってしまえば記憶を消すこともできず、その知人と円滑な人間関係を結ぶことは、もはや極めて困難となるであろう。いまだそのような事態が現実化していなくても、グーグル検索の検索結果で逮捕歴が公表されないようにすることは、社会の一員として復帰して平穏な生活を送り続けるために極めて重要であるといえる。その意味で、債権者には、更生を妨げられない利益について、回復困難かつ重大な侵害が生ずるおそれがある。
 債権者の氏名だけでは、逮捕歴を含む検索結果がそれほど多数表示されないとしても,茫漠とした検索結果を絞り込むために検索キーワードを追加することは日常頻繁にされることである。利用者が債権者の住所(省略)を加えて検索する可能性を小さいとみることはできず、その検索結果が意図的に限定された検索条件によってのみ表示されるものと評価することはできないし、検索結果にアクセスする者がかなり限定されると推論するのも相当でない。
 住所(省略)と氏名という債権者の周囲の者であれば入力することが十分に想定される検索キーワードでグーグル検索を利用したときに本件検索結果を表示し閲覧可能な状態にしていること自体が、債権者の新しく形成している社会生活の平穏をまさに害しているのであり、債権者の周囲の者との関係でこそ深刻な人格権侵害が生ずるのであるから、具体的な人格権侵害が生じていないとか、人格権の侵害が軽微であるとは到底いえない。債権者の不利益を意図的な検索の方法により生ずる抽象的な不利益と評することはできず、人格権の侵害が生じていないとか、極めて軽微なものとの評価はできない。 
(2)検索結果において逮捕歴を表示する意義及び必要性について
 債務者が提供する検索サービスであるグーグル検索などの検索エンジンは、インターネット上の情報流通において重要な役割を果たし、インターネット上の膨大な情報を効率的に利用するために欠くことのできないものとして、知る権利に資する公益的、公共的役割を果たしていること、また、このような検索エンジンの果たす公共的役割が、検索結果の表示になるべく人為的な操作が介在しないことによって基礎付けられることも、一般論としては、債務者の主張するとおりである。
 しかし本件で問題となるのは、債権者が過去三年余り前に児童買春の罪で逮捕されたという逮捕歴に関する記事を、グーグル検索の検索結果として、今後も表示し続けることに、どれだけの公益性があるかということである。
 たしかに債務者の主張するように、児童買春のような未成年に対する性犯罪は、未成熟で判断能力に乏しい児童を自己の性的欲求を満たすために利用する悪質な犯罪であって、国内のみならず国際的にも社会的批判の極めて大きい犯罪である。かかる犯罪の犯罪歴は、潜在的な被害者となりえる子を持つ親など、社会一般の関心が高いことも事実である。そのような情報に接することを可能とするという公共の利益に寄与する検索エンジンの機能にも配慮が必要であり、債権者の逮捕歴も、インターネット上の無数のウェブサイトに点在する情報を収集して検索結果として表示することに、社会一般の知る権利に資する面があるとして公益性がないとはいえない。
 しかし他方で、債権者は、罰金刑を受けてから三年以上罪を犯すことなく妻子と共に平穏な生活を送っている。債権者が犯した罪そのものは、略式命令手続で五〇万円の罰金刑で処理されるような類型的に比較的軽微なものであり、検索結果を見ても、平成△年△月に債権者が逮捕された事実を記述した当時の記事があるばかりで(第二の一(2))、別紙検索結果一覧(省略)を見ても逮捕後の事件の経過を伝えるものは全く見あたらない。債権者は、逮捕の当時も現在も社会に特段の影響を与えるような活動をしておらず、事件の背景に債権者の社会的地位が影響したものでもない。これらの点からみると、債権者が逮捕された事実を今後とも検索結果として表示し続けることに歴史的又は社会的な意義があるとは考えられない。とりわけ、債権者が過去に逮捕された事実を実名で逮捕当時の債権者の住所や年齢と併せて公表し続ける公益的な意義ないし必要性は、極めて乏しいと考えられる。
 なお、債務者は、児童買春の罪については、潜在的に被害者となりえる子を持つ親など社会一般の関心が高く、また、公訴時効期間(五年)も経過していない本件の事件に関する情報に接する機会を有するという公共の利益は特に大きいとも主張する。
 しかし、犯罪類型としてその情報を公表することに公益性が高いということが一般論として言えるとしても、具体的な本件事件は、一定の判断能力を有する年代である女子高校生に金銭を渡してわいせつな行為を行ったという児童買春の事案であって、粗暴な要素はなく、特殊な事案でもなく、簡易な略式命令手続で罰金刑に処せられた比較的軽微な事案であって、一般的抽象的に犯罪の種類やその犯罪の公訴時効期間のみをもって、その情報の公益性を高く評価すべきものではない。
(3)受忍限度の判断について
 刑事事件で逮捕されたという逮捕歴にかかわる事実は、その者の名誉あるいは信用に直接にかかわる事項であるから、その者は、みだりにその事実を公表されないことにつき、法的保護に値する利益を有し、その者が有罪判決を受けた後あるいは服役を終えた後においては、一市民として社会に復帰することが期待されるのであるから、その者は、逮捕歴にかかわる事実の公表によって、新しく形成している社会生活の平穏を害されその更生を妨げられない利益を有する。
 そして、インターネットの検索エンジンによる検索結果において、逮捕歴に関する記事が表示されることにより、このような更生を妨げられない利益が侵害されるとして、人格権に基づく妨害排除又は妨害予防の請求として、検索エンジンの管理者に対して検索結果の削除を求めることの可否は、検索結果の表示によって被るとされる被害が、社会生活を営む上において受忍すべきものと考えられる程度、すなわちいわゆる受忍限度を超えるものかどうかによって決せられるべきであり、これを決するについては、侵害行為の態様と程度、被侵害利益の性質と内容、侵害行為の公共性の内容と程度、被害の防止又は軽減のため加害者が講じた措置の内容と程度についての全体的な総合考察を必要とするものである。
 この点で、逮捕歴にかかわる事実は、それが刑事事件という社会一般の関心あるいは批判の対象となるべき事項にかかわるものであるから、事件それ自体を公表することに歴史的又は社会的な意義が認められるような場合には、事件の当事者についても、その実名を明らかにすることが許されないとはいえない。また、その者の社会的活動の性質あるいはこれを通じて社会に及ぼす影響力の程度などのいかんによっては、その社会的活動に対する批判あるいは評価の一資料として、逮捕歴にかかわる事実が公表されることを受忍しなければならない場合もあり、その者が選挙によって選出される公職にある者あるいはその候補者など、社会一般の正当な関心の対象となる公的立場にある人物である場合に、その者が公職にあることの適否などの判断の一資料として事実が公表されることを受忍しなければならないこともある。
 そして、インターネットの検索エンジンの検索結果として逮捕歴にかかわる事実が実名等の個人情報と共に表示されている場合に、以上の諸点を判断するためには、その検索エンジンの目的、性格等に照らし、実名等の個人情報まで表示されることの意義及び必要性を併せ考えることを要する。なお、刑事事件に関する社会一般の関心は、犯人の逮捕後、起訴、有罪判決による処罰と各段階を経ることによって次第に希薄になるのが通常であるから、このような時の経過も考慮する必要がある。
 したがって、前記のような更生を妨げられない利益が侵害されるとして、人格権に基づき、検索エンジンの管理運営者に対し、逮捕歴に関する記事が表示される検索結果の削除を求める請求については、その者のその後の生活状況を踏まえ、検索結果として逮捕歴が表示されることによって社会生活の平穏を害され更生を妨げられない利益が侵害される程度を検討し、他方で検索エンジンにおいて逮捕歴を検索結果として表示することの意義及び必要性について、事件後の時の経過も考慮し、事件それ自体の歴史的又は社会的な意義、その当事者の重要性、その者の社会的活動及びその影響力について、その検索エンジンの目的、性格等に照らした実名表示の意義及び必要性をも併せて判断し、その結果、逮捕歴にかかわる事実を公表されない法的利益が優越し、更生を妨げられない利益について受忍限度を超える権利侵害があると判断される場合に、検索結果の削除請求が認められるべきである。
 上記観点から検討すれば、前記のとおり、グーグル検索で債権者の住所(省略)と氏名を検索キーワードとして検索をした場合に債権者の逮捕歴に関する記事が検索結果として表示されることで、債権者は、既に罰金刑に処せられて罪を償ってから三年余り経過した過去の児童買春の罪での逮捕歴が、インターネット利用者であれば誰でも簡単に閲覧されるおそれがあり、そのため知人にも逮捕歴を知られ、平穏な社会生活が著しく阻害され、更生を妨げられない利益が侵害されるおそれがあって、その不利益は回復困難かつ重大なものであると認められる。
 他方で、検索結果を表示する意義及び必要性についてみると、逮捕歴は、一般的には社会一般の関心事である刑事事件にかかわる事実であるものの、本件の事件自体に歴史的又は社会的意義があるわけでもなく、債権者に社会的活動等からみた重要性や影響力等が認められるものでもなく、債権者が公職等の公的活動を営んでいるものでもない。
 また児童買春という犯罪に対する社会的関心を考慮したとしても、既に罪を償って三年余り経過した過去の債権者の逮捕歴を債権者の氏名等の個人情報と共にインターネットの検索エンジンで検索結果として表示し続けることの公益性は、それほど大きいとはいえない。
 本件事件に対する社会一般の関心が、逮捕歴に関する記事がインターネット上に掲載された後も続いているとはいえないことは、前記の検索結果の内容からも明らかで、債権者が逮捕され刑の執行を終えてから三年以上の時が経過した現在において、本件検索結果を今後とも表示すべき意義や必要性は特段認められない。
 したがって、インターネットの情報検索の重要性や知る権利に寄与する検索エンジンの公益性に照らしても、本件検索結果が表示されることにより家族と共に平穏な社会生活を営むことが阻害され、更生を妨げられない利益が侵害されるという債権者が受ける不利益の程度は、児童買春の罪への社会的関心や知る権利に寄与する検索エンジンの公益性を考慮したとしても、検索結果として氏名等の個人情報と共に表示し続けることの意義及び必要性をもって受忍すべきものとはいえないと評価するのが相当である。
 債務者は、検索エンジンの公共的役割は、検索結果の表示に人為的な操作が介在しないことによって基礎付けられるところ、検索結果の削除は、検索エンジンの管理者に検閲にも等しい役割を行わせて、ウェブページの管理者の表現の自由やインターネット利用者の知る権利を侵害する危険が高く、安易に削除義務が認められてはならないと主張する。債務者はまた、一見して人格権侵害が受忍限度を超えることが明らかな検索結果以外の削除義務を裁判所が認めることになれば、検索エンジンは、以後、差止請求及び損害賠償請求等において違法と判断されることを事前に回避するため、検索結果の内容を積極的に判断しなければならなくなり、その結果、検索結果に対する自己検閲の危険が生じ、情報発信者の表現の自由や公衆の知る権利にも制約が生じることとなるとも主張する。
 しかし、検索エンジンは、インターネット上の膨大な情報を収集し、あらかじめ一定の方法を定めて自動的に検索結果として表示するようにしているのであるから、そのような検索エンジンを管理運営するにあたっては、検索結果として個人情報が表示されることで必然的に権利の侵害を受ける可能性がある個人の利益保護にも配慮すべきは当然である。
 そして、検索エンジンがそのような方法で管理運営される結果として表示される検索結果により、他人の人格権が侵害され、それが検索エンジンの公共的役割ないし情報の「媒介者」としての中立的性格や検索結果を表示する意義ないし必要性を踏まえても、受忍限度を超える権利侵害と判断される場合に、そのような権利侵害への個別的な対応として権利侵害にあたる一部の検索結果のみを削除することは、これにより検索結果の中立性が損なわれ、情報発信者の表現の自由や公衆の知る権利が著しく損なわれるとはいえないから、検索エンジンの公共的役割が損なわれるとはいえない。
 また、その限度で、既に表示されている検索結果について事後的に削除請求を受け、裁判所の判断により削除が命じられたからといって、検索エンジンの管理者に検閲にも等しい役割を行わせるものともいえない。検索エンジンの管理者が、違法と判断されることを事前に回避するため、検索結果の内容を積極的に判断し、その結果、検索結果に対する自己検閲の危険が生ずるとの主張についても、そのような事前回避的な対応をするか否かは、検索エンジンの管理者が、自ら、インターネットの検索エンジンの公共性、公益性を踏まえて適切に判断すべき事柄である。検索エンジンによる権利侵害を理由として、検索結果について、個人からの削除請求を受け、裁判所から削除を命じられるからといって、直ちに検索エンジンの管理者に対する萎縮的な効果が生じ、自己検閲の危険が生ずるというものではない。
 世界中で広く利用される検索エンジンを運営している債務者の事業規模の大きさ等から考えれば、権利侵害を理由とする個人等からの削除請求が多数寄せられたとしても、必要に応じて裁判所等の第三者の判断を経るなどして、事案に応じた適切な対応をすることが困難とは考えられず、これによる萎縮的な効果や自己検閲の危険が生ずる具体的なおそれは認められない。
 債務者は、債権者の救済手段は検索結果に表示されるウェブサイトの管理者への削除請求を原則とすべきであり、かかる救済手段が何らかの理由で困難である場合に限り、かつ、一見して検索結果に表示される内容により債権者の権利が社会的に許容されないほど大きく侵害されている場合にのみ、検索エンジンに対する削除請求が認められるべきであるとも主張する。
 しかし、インターネット上の情報は、複写が簡単に一瞬で出来るため、同じ内容の情報が多数のウェブページに転載され、掲載されるウェブサイトの管理者が多数に上ることがしばしばであり、ウェブサイトの管理者に対する削除請求は、必ずしも容易でない。これに対し、膨大なインターネット上の情報は、検索エンジンを利用しなければ、その情報に接することは容易ではなく、検索結果に表示されるウェブページが削除されなくても、検索エンジンに検索結果が表示されないようにすることで実効的な権利救済が図られる面もある。
 したがって、検索エンジンに対する削除請求よりも、検索結果に表示されるウェブサイトの管理者への削除請求を原則とすべきであると一概にいうことはできないし、検索エンジンに対する削除請求について、一見して検索結果に表示される内容により債権者の権利が社会的に許容されないほど大きく侵害されている場合に限るべきであるともいえない。
 よって、債権者は、グーグル検索で逮捕歴に関する記事を含む本件検索結果が表示されることによって、社会生活の平穏を害され更生を妨げられない利益が社会生活において受忍すべき限度を超えて侵害されているといえるから、その検索結果を表示している検索エンジンを管理運営する債務者に対し、人格権に基づく妨害排除又は妨害予防の請求として、検索結果の削除を求めることができる。
二 保全の必要性について
 本件検索結果は、グーグル検索において債権者の住所(省略)と氏名を検索キーワードとして検索しさえすれば、インターネット上に表示されて常に閲覧可能な状態であるところ、それを閲覧した者との関係では、後にいかなる方法によっても閲覧しなかった状態に戻すことができないから、いったん生じた損害の回復は極めて困難である上、時の経過により債権者の周囲の者がこれを閲覧する可能性は高まり、生じうる損害はむしろ拡大するといえる。
 ところが、本案訴訟となれば、米国法人である債務者に対する訴状送達の手続だけでも相当の時間を要することは明らかである。他方、本件の仮処分手続は、審尋期日を三回経るなど既に双方の主張立証を尽くし慎重な審理を経ている。
 したがって、本件検索結果の削除請求権の有無という争いがある権利関係について、債権者に生ずるおそれがある上記のような回復困難で著しい損害を避けるために、仮の地位を定める仮処分により、検索結果の削除を命ずる必要があると認められる。
 債務者は、検索結果として表示されるウェブページの管理者に対する削除請求もしていない状況で、検索エンジンである債務者に先んじて削除を命ずる必要性はないと主張する。
 しかし、本件検索結果には、前記第二の一(2)のとおり元となる四つの記事が転写されているに過ぎないのに、それにもかかわらず合計四九個ものリンク先のウェブページがあり,リンク先のウェブサイトの管理者が多数に及んでいる。したがって、債権者がその管理者を特定した上で個別にウェブページの記載の削除を請求しなければならないとすると、早期に実効性のある権利救済を得ることが困難である。
 これに対し、本件検索結果を削除することは、債務者において情報処理システム上の対処が必要なだけであって、仮処分命令によって債務者に実質的な損害を生じさせるものではない。本件の仮処分によって、検索結果の削除を命ずることは、当事者双方の負担も少なく、迅速かつ効果的な権利救済に資するものといえる。 
 更に、インターネット上に、債務者が提供するグーグル検索以外にも、多数の検索サービスが存在するということでも、保全の必要性についての上記判断は左右されない。数ある検索サービスの中でも、債務者が提供するグーグル検索が、今日のインターネット利用者から主たる検索サービスとして広く利用されていることは、検索エンジンの公共性を主張する債務者が自認するところであろう。そうであれば、グーグル検索の検索結果から削除されるだけでも、上記の債権者の権利侵害を未然に防ぐために相当高い効果があると認められるからである。
三 結論
 以上によれば、グーグル検索の検索結果として債権者の逮捕歴に関する記事が表示されるという本件検索結果の表示により、債権者は、更生を妨げられない利益が受忍限度を超えて侵害され、人格権に基づく妨害排除又は妨害予防の請求権に基づき、検索エンジンの管理者である債務者に対し、検索結果の削除を求めることができ、債権者は検索結果が今後表示し続けられることにより回復困難な著しい損害を被るおそれがあるため、その争いがある権利関係について債権者に生ずる著しい損害を避けるため、仮の地位を定める仮処分として、債務者に対し、本件検索結果を仮に削除することを命ずる仮処分を発する必要がある。
 よって、仮処分によって債務者に具体的な損害が生じないなどの事情を考慮して担保を立てさせないで、主文のとおり本件検索結果を仮に削除することを命ずることとする。
(裁判長裁判官 小林久起 裁判官 遠藤貴子 浅江貴光)

別紙(省略)