児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

三鷹女子高生刺殺、被告が控訴

 同時訴追義務違反は納得できないでしょうね。
 現実に、児童ポルノ公然陳列罪は、差し戻し前には起訴されてないのに裁かれ、改めて起訴されて裁かれているわけです
 

中野目善則「二重危険の法理」p181
だが「同一犯罪行為」を理由とする再訴追や細切れ訴訟は、被告人にかかる不利益を再度もたらし、被告人の生活の安定を害し、被告人に嫌がらせを加え、無事の者を有罪にする危険を高める。二重危険禁止条項はかかる不利益、弊害をもたらす政府の活動=圧政を阻止することをねらうものである。再度裁判に巻き込まれれば被告人の側は右にみたような重大な不利益を負わされることになるので、 一度で裁判を終了してもらう重要な利益がある。別の面からいえば、国の側は一度で訴追しうるものは、同時に起訴し一度で訴追を終らせる義務を負うのである。
。。。
このように、社会的行為が数個あるときでも、少なくとも、同一人により同種犯行が行われた場合には、既に訴追機関に判明している犯行については、憲法三九条の二重危険禁止条項により、訴追併合の義務(同時訴追の義務)を負うとみるべきであ

http://www.yomiuri.co.jp/national/20160323-OYT1T50105.html
東京都三鷹市で2013年、高校3年の女子生徒(当時18歳)が刺殺された事件で、殺人罪と児童買春・児童ポルノ禁止法違反などに問われ、東京地裁立川支部での差し戻し審で懲役22年(求刑・懲役25年)の判決を言い渡された被告(23)が23日、東京高裁に控訴した。
 弁護側は「判決に不服な点があり、上級審の判断を仰ぎたい」とのコメントを出した。

住居侵入,殺人,銃砲刀剣類所持等取締法違反被告事件
東京地方裁判所立川支部判決平成26年8月1日

       主   文

 被告人を懲役22年に処する。
 未決勾留日数中200日をその刑に算入する。
 押収してあるペティナイフ1丁(平成26年押第27号の2)を没収する。

 理   由
(犯行に至る経緯)
 被告人は,平成23年7月頃,インターネット上の交流サイトで被害者と知り合い,同年12月頃に交際を開始した。被告人は,次第に,被害者に過度に依存していると感じるようになり,また実際には無職であったところを大学生と被害者に身分を偽っており,その発覚をおそれたことなどから,平成24年9月の渡米を契機に被害者との関係を自然消滅させようと考え,渡米先では別の女性と交際するなどした。しかしながら,結局,同年11月末頃に帰国した後も関係が完全に切れることはなく,被告人は,平成25年1月頃,気になる男性ができたなどと被害者から別れ話を切り出されると,やはり別れたくないなどと思うようになった。そこで,被告人は,同年2月頃から,交際中に入手していた被害者の裸の画像等を流出させることをほのめかして関係継続を迫るようになり,同年3月頃には,来れば被害者の裸の画像等を消去し別れるが,来なければ流出させるなどと言って被害者を大阪の被告人宅に呼び出し,無理やり性行為に及ぶなどしたが,被害者の態度から関係修復は困難であることを悟った。一方で,被害者の裸の画像等についてはこの時被害者の面前で一部を消去したものの,残りは手元に残しておいた。
 被告人は,その後も被害者に対する未練を断てず,残しておいた被害者の裸の画像等を流出させるなどと言って被害者に連絡を強要していたところ,同年6月2日に,被害者から相談を受けた被害者の父親から直接注意を受けるに至った。被告人は,その後,被害者への連絡をあきらめたものの,被害者に対する思いを断てず,次第に,自分の存在を全否定され拒絶されたなどとして苦痛を感じると共に,被害者に対する恨みや怒りの感情を抱き,また,被害者が他の男性と交際することに強い嫉妬心を覚えて,上記恨み等を募らせるなどした結果,同年7月頃には,被害者の殺害を企図するようになった。さらに,被告人は,同年8月頃までには,被害者を殺すだけでは飽き足らない,被害者がこれまで築いてきたすべてを壊してやろうなどと考えて,被害者の裸の画像等をインターネット上の動画サイトに投稿し,殺害当日に公開することも考えた。
 そして,被告人は,同年7月頃以降,見張り等を手伝わせるために友人に上京を誘い,凶器を購入し,体を鍛え,動画サイトのアカウントを作成するなどして犯行の準備を進め,同年9月28日に同友人と共に上京し,上記凶器が母親によって取り上げられていたため新たに凶器(ペティナイフ)を購入し,その後は連日同友人と共に被害者方付近で待ち伏せするなどして殺害の機会をうかがった。被告人は,同年10月1日,被害者とすれ違った際に動揺して殺害を決行できなかったことから,自分を追い詰めようなどと考えて,被害者の友人に被害者の裸の画像等の投稿先URLを伝えるなどし,手伝わせていた友人が同月2日に帰阪した後は,一人で殺害の機会をうかがっていたところ,同月7日,被害者が翌8日に警察に相談に行くことを察知したため,同日に殺害を決行することとした。
(罪となるべき事実)
 上記の経緯で,被告人は,
第1 殺人
第2 ナイフ所持
(量刑の理由)
 犯行の態様は,被害者方家屋内に侵入して少なくとも6時間以上にわたり被害者の帰宅を待ち伏せた上,逃げる被害者を追いかけ,急所をねらって,頸部や胸部,腹部等を鋭利な刃物で多数回突き刺すなどしたという,強固な殺意に基づく執拗で残忍なものである。また,被告人は,犯行の2か月以上前に被害者の殺害を決意すると様々な準備を重ね,上京後は,同行した友人に途中で翻意するよう説得されながらも殺害の決意を変えることなく,1週間以上にわたって殺害の機会をうかがっていた。本件は高い計画性の認められる犯行であり,被告人が犯行の直前等に葛藤の気持ちを抱いていたとしても,被害者殺害の犯意は非常に強いものであったといえる。
 犯行の経緯は判示のとおりであるが,被告人が被害者に強く執着していた背景には,臨床心理学等の専門家であるE証人が証言するとおり,被告人が幼少期から母親によるネグレクトや母親の交際相手による暴行等の深刻な虐待を受けていたことに起因して,自己感の形成不全や愛情欲求飢餓の状態といった心理学的問題点を抱えており,被害者との関係において自己感に類似する感覚を抱いていたことがあることなどを否定できず,この意味で,被告人の成育歴が犯行動機に一定程度影響を与えていたと考えられる。しかし,この点を考慮しても,被告人への対応につき被害者に落ち度はなく,犯行動機は余りに一方的かつ身勝手であって,同情の余地はごく乏しいというほかない。さらに,被告人が,被害者の裸の画像等の流出を材料にするなどして長期間にわたり被害者に恐怖を与えていた点も悪質である。
 加えて,被告人は,本件犯行後,インターネット上の掲示板に画像の投稿先URLを書き込んで,広く閲覧,ダウンロードできる状態にしており,その後被害者の裸の画像等は広く拡散し,インターネット上から完全に削除することが極めて困難な状況になっている。被告人が,被害者の生命を奪うのみでは飽き足らず,社会的存在としても手ひどく傷つけたことは極めて卑劣というほかなく,この点は,殺害行為に密接に関連し,被告人に対する非難を高める事情として考慮する必要がある。被告人は,画像の公開に当たり,被告人と被害者が交際していた事実を社会に知らしめたいという自己の存在証明の目的を持っていた旨述べるが,同供述を前提としても,画像の拡散行為の悪質性が減じるとはいえない。
 このような被告人の行為に対する責任は,上記の犯行態様,高い計画性,強固な犯意,犯行の経緯や動機の点に加え,特に被害者の裸の画像等の拡散により被害者の名誉をも傷つけたという悪質な事情を伴っている点で,男女関係のトラブルによる刃物を用いた被害者1名の殺人事件の類型の中では,量刑傾向の幅の上限付近に位置付けられる重いものといえる。もっとも,裸の画像等を拡散させて被害者の名誉を傷つけた被告人の行為は,それ自体が起訴されていたとしても名誉毀損罪を構成するにとどまるから,その法定刑も踏まえると,本件の悪質性が,刃物を用いた被害者1名の殺人事件全般の量刑傾向に照らし,有期懲役刑と質的に異なる無期懲役刑の選択を基礎づけるものとまではいいがたい。本件については,判示第1の罪について有期懲役刑を選択し,併合罪の加重をした上限の刑を基本とするのが相当である。
 そして,被告人は,事実自体は認めているが,前述の成育歴の影響による共感性の欠如が背景にあることが否定できないとはいえ,反省を深めているとは認められず,被害者やその遺族に対する謝罪の言葉すら述べていない。当然のことながら,遺族の処罰感情は極めて厳しく,被告人に対して極刑を求めている。また,画像拡散を含む被告人の行為が社会の耳目を集めたことからすれば,量刑に当たっては一般予防の観点も考慮すべきといえる。一方,被告人が若年であり,前科前歴もなく,母親が帰りを待つ旨述べるとともに,犯行前から被告人の相談相手であった母親の知人が今後も被告人と手紙のやり取りを続ける旨述べているなどの,更生可能性に関わる事情もある。
 これらの情状事実を検討すると,前述の併合罪加重後の有期懲役刑の上限の刑から刑期を減じせしめるべきものとはいえず,本件については,有期懲役刑の上限の刑を科するのが相当である。
 よって,主文のとおり刑を量定した。
(求刑 無期懲役 ペティナイフの没収,弁護人の意見 懲役15年)
  平成26年8月1日
    東京地方裁判所立川支部刑事第2部
        裁判長裁判官  林 正彦
           裁判官  諸徳寺聡子
           裁判官  前澤利明

住居侵入,殺人,銃砲刀剣類所持等取締法違反被告事件
東京高等裁判所判決平成27年2月6日
       主   文
 原判決を破棄する。
 本件を東京地方裁判所に差し戻す。
       理   由
 本件控訴の趣意は,主任弁護人山下太郎及び弁護人米村哲生連名作成の控訴趣意書に記載されたとおりであり,論旨は,要するに,訴訟手続の法令違反及び量刑不当の主張である。これに対する答弁は,検察官神田浩行作成の答弁書に記載されたとおりである。
第1 訴訟手続の法令違反の論旨について
 1 原判決が認定した犯行に至る経緯及び罪となるべき事実の要旨は,「被告人は,元交際相手であった被害者に対する恨みや怒りの感情を募らせ,平成25年10月8日,?被害者を殺害する目的で,被害者方に無施錠の窓から侵入した上,同日午後4時54分頃,その敷地内等において,被害者に対し,殺意をもって,その右頸部及び腹部等を持っていたペティナイフ(刃体の長さ約12.7センチメートル)で多数回突き刺すなどし,よって,同日午後6時49分頃,被害者を右側頸部刺突に基づく右総頸動脈損傷による失血により死亡させ,?その際,業務その他正当な理由による場合でないのに,前記ペティナイフ1丁を携帯した」というもの(以下「本件殺人等」という)であり,これらの事実は関係証拠から明らかに認められ,被告人及び弁護人も争っていない。
 また,関係証拠によれば,被告人は遅くとも同年9月末頃までに,被害者の裸の画像等(被害者が交際中,被告人の求めに応じて送信するなどしていた写真や動画のデータ)をインターネット上の画像投稿サイトに投稿し,当初は被告人のみがこれらを閲覧できる状態に設定していたものの,同年10月1日頃一般に公開する設定に変更した上,前記サイトのURLを被害者の友人らに送信し,さらに,本件殺人等を行った当日の午後6時29分頃,前記URLをインターネット上の交流サイトの掲示板にも投稿し,より不特定多数の者が閲覧できる状態にしたことが認められ,そうすると,被害者の裸の画像等を一般に公開する設定に変更した時点なのか,被害者の友人らに前記URLを送信した時点なのか,あるいは,これを前記交流サイトの掲示板に投稿した時点なのかについては検討の余地があるものの,その画像の内容にも照らせば,被告人は,遅くとも前記交流サイトの掲示板に投稿した時点までには,刑法230条1項に該当する行為を行ったことが認められる(原判決は後記のとおり,前記交流サイトの掲示板に投稿した行為のみを名誉棄損行為と捉えている。以下,これを「本件投稿行為」という)。
 そして,本論旨は,原判決は本件投稿行為を犯情の一つとして考慮し,起訴されていない名誉棄損罪について実質的に処罰するに等しい結果となっており,憲法31条に違反する訴訟手続の法令違反がある,というのである。
 当裁判所は,本件投稿行為に関して,起訴された各罪の審理に必要な範囲を超えた主張・立証がされている上,原判決の説示内容を検討すると,本件各罪の犯情及び一般情状として考慮できる範囲を超え,実質的にはこれをも併せて処罰するかのような考慮をして被告人に対する刑を量定した疑いがあり,原審の訴訟手続には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令違反があると判断した。
 以下,その理由を述べる。
 2 原審の審理経過をみると,本件投稿行為に関わる部分は,概ね次のとおりである。
 まず公判前整理手続についてみると,検察官は証明予定事実記載書に,被告人が被害者の裸体の画像データをインターネット上に公開したこと,本件殺人等の犯行後このデータを更に多数の者が閲覧できる状態にした事実を記載し,被告人がインターネット上に投稿した被害者のわいせつ画像の流出経緯等を立証趣旨とする捜査報告書(甲63,第1回公判で「統合捜査報告書」と訂正されている),本件殺人等の犯行前後に被害者の裸体の画像等をインターネット上に公開したこと等を立証趣旨とする被告人の検察官調書抄本(乙11)の取調べのほか,被告人が投稿した被害者のわいせつ画像の拡散状況及びその削除が困難であること等を立証趣旨とする警視庁生活安全部サイバー犯罪対策課に所属する警察官の証人尋問を請求した(当初の打ち合わせ時は,その事実を報告書で立証する予定であるとしていたものを,人証で立証することとしたものである)。これに対し弁護人は,甲63及び乙11について一部の取調べに同意し,前記証人については「しかるべく」との意見を述べ,原裁判所は,甲63の同意部分及び前記証人を取り調べる旨決定した。その後争点の結果確認が行われ,争点は量刑事実であるとされた上で,検察官の主張として「犯行後に被害者の裸体の画像をインターネット上に公開するなど犯行後の行動が悪質であること」が挙示された。審理の予定についても確認が行われているが,前記証人の尋問予定時間(休憩を除く)は合計55分間とされている。なお関係記録によれば,公判前整理手続では,これらの点について主張・立証を行うことの当否,その範囲や程度等が議論された形跡は見当たらない。
 次に公判手続についてみると,第1回公判で,検察官は冒頭陳述において,「被告人の犯行準備状況」として,殺害するだけでは飽き足らず,被害者が築き上げたすべてを壊し侮辱する目的で,被害者の裸の画像をインターネットに公開することを決意し,動画サイトのアカウントを作成して,被告人しか見られない設定で裸の画像を投稿した旨を指摘し,「犯行後の状況等」として,インターネット交流サイトの掲示板に,メッセージとともに前記動画サイトのURLを書き込み,被害者の裸の画像を掲示板閲覧者が誰でも見られる状態にした旨を指摘した(これらの部分は,裁判員を含む裁判体に配付されたとみられる冒頭陳述メモでは,目立つように青色で表示されている)。また,この期日では,甲63の同意部分を含む書証の取調べがされたほかは,人証として前記証人が取り調べられただけで審理を終了している。同証人は,画像がアップロードされた場合の拡散状況や削除の困難性等を一般的に説明した後,本件について同証人が調査した被害者の画像のアップされていたサイト数やその推移,サイト上のカウント数から推定されるダウンロード数等を詳細に証言している。第2回公判では,被害者の父親が証言し,遺族の心情を述べる中で,本件投稿行為により被害者の両親が第三者から受けた嫌がらせなどの状況にも言及し,娘を殺害されたことに加え,生前及び殺害後に画像を流布されたことから極刑を望むとの証言をしている。そして,第4回公判では,乙11の同意部分が取り調べられ,この期日で,検察官は論告において,「犯罪行為に近い事情」のうち「犯行後の行動が極めて悪質」な事情として,被告人が被害者の裸の画像等をインターネット上に公開し,被害者は死後も名誉を傷付けられ,侮辱され続けることになったところ,これは殺害行為に密接に関連しており重視すべき旨を指摘したほか,両親は被害者を殺されたこともさることながら,裸の画像等をインターネットに公開されたことや本件後に受けた嫌がらせなどの影響で,現在も心療内科に通院していることを指摘し,無期懲役の求刑意見を述べる際にも,特に被害者の裸の画像等を公開した事実をも指摘して,相当に重い刑罰を科すべきと主張した。
 原裁判所は,こうした審理を終えた後,評議の上被告人を懲役22年に処し,判決書の「量刑の理由」の項で,本件殺人等の犯行態様が執拗,残忍であり,高い計画性と犯意の強固さが認められることなどの犯情に関わる事情を摘示するとともに,被告人が本件殺人等の後,インターネット上の掲示板に画像の投稿先URLを書き込んで,広く閲覧,ダウンロードできる状態にしたこと,被害者の裸の画像等が広く拡散し,インターネット上から完全に削除することが極めて困難な状態になっていることを摘示した上,被告人が,被害者の生命を奪うのみでは飽き足らず,社会的存在としても手ひどく傷付けたことは極めて卑劣であり,この点は殺害行為に密接に関連し,被告人に対する非難を高める事情として考慮する必要がある旨説示し,このような被告人の責任は,本件殺人等の犯情に関わる事情に加え,特に被害者の裸の画像等の拡散によりその名誉をも傷付けたという悪質な事情を伴っている点で,男女関係のトラブルによる刃物を用いた被害者1名の殺人事件の類型の中では,量刑傾向の幅の上限付近に位置付けられる重いものといえるが,裸の画像等を拡散させた行為が起訴されたとしても名誉棄損罪を構成するにとどまり,その法定刑も踏まえると,無期懲役刑の選択を基礎付けるものとまではいい難い旨説示した。
 3 ところで,起訴されていない犯罪事実については,これをいわゆる余罪として認定し,実質上処罰する趣旨で量刑資料に考慮し,このために被告人を重く処罰することは許されないが,被告人の性格,経歴,犯罪の動機,目的,方法等の情状を推知するための資料として考慮することは許されるものである。すなわち,起訴された犯罪との関係でその違法性や責任非難を高める事情であればその犯情として考慮され,そうでなければ,再犯可能性等の一般情状として斟酌できるにとどまるのである(それ自体は余罪には当たらない行為についても同様である)。また,処罰の対象となっておらず,前述した限度で考慮できる事情については,その点に関する証拠調べも自ずと限定され,起訴された事実と同等の証拠調べをすることは許されないというべきである。
 この点原判決は,前記2のとおり,本件投稿行為とその結果について,被告人に対する非難を高める事情として考慮する必要がある旨説示しているところ,確かに被告人も,捜査段階及び原審公判で,本件投稿行為を行った理由について,被害者を殺すだけでは飽き足らず,恨みがますます募ったため,被害者がこれまで築いたすべてを壊してやろうと思った,被害者の尊厳を傷付けたいと思った旨供述しているのであって,本件投稿行為は,被害者に対する恨みの感情などという本件殺人等と同じ動機に基づくもので,その恨み,憎しみの深さ,動機の強固さや犯行の計画性の高さを示しており,その限りでは殺人の犯情として考慮でき,また,殺害行為後に計画どおり投稿したことは,自己顕示欲や身勝手な正当性の主張を示すもので,被告人の共感性の乏しさ,自己中心性を表したものとして,一般情状としても非難の程度を強めるものであるといえる。また,何ものにも代え難い家族を奪われたばかりか,その社会的評価まで貶められた遺族の被害感情を高めるものでもあるといえる。そうすると,本件投稿行為も,あくまでもこのような被告人の情状を推知するための資料の限度であれば,量刑に当たって考慮することが許されることは当然である。
 しかしながら,本件は,いわゆるリベンジポルノに関する殺人事件として世間から注目を浴びていた事案で,本件投稿行為が量刑上過大に影響しかねないおそれがあることが明らかであったにもかかわらず,前記2でみたところによれば,原裁判所は,公判前整理手続における争点確認で,本件投稿行為に関する検察官の主張について,単に「犯行後に被害者の裸体の画像をインターネット上に公開するなど犯行後の行動が悪質であること」とのみ整理し,この犯行後の事情が,量刑の中心となる人の生命を奪う犯罪である殺人との関係においてどのような量刑要素をどの程度推知させるものかについて検討していないばかりか,この点に関する適切な証拠調べの範囲,方法等についても検討した形跡は見当たらない。公判においても,やはりその点を明確にしないまま,検察官が冒頭陳述や論告で重い求刑を導く事情の一つとして主張するに任せている。その立証に関しても,前記2のとおり,本件投稿行為の動機,目的,画像等のアップロードなどの具体的行為,その結果や影響など,起訴された犯罪と同様に,証拠書類及び証人による積極的かつ詳細な立証を許している。被害者の父親が娘の殺害に加え本件投稿行為によって受けた被害,影響について証言するのは当然許されることとしても,殺人に関する情状を推知するための資料とする趣旨で,本件投稿行為に関する証拠調べをするのであれば,その証言やアップロードに関する書証のみでも立証は足りるはずであるのに,原裁判所は,本件投稿行為の結果や影響を具体的に調査した警察官の証人を人証のトップに据え,その結果や影響の詳細を証言させるなどの立証を許しているのであって,このような立証は殺人の情状として許される立証の範囲を超えているといわざるを得ない。さらに,原判決が「量刑の理由」の項で説示しているところも前記2でみたとおりであるが,それによれば,原判決は要するに,犯行態様や動機等の一般的な犯情とは別に,名誉棄損罪に該当する本件投稿行為について,被告人の刑事責任を無期懲役刑にまで導くほどのものではないが,同一の事件類型(男女関係のトラブルによる刃物を用いた被害者1名の殺人事件)における量刑の幅の上限付近にまで導く事情として考慮した旨を説示するものと理解するほかない。そうすると,こうした審理の経過及び内容,量刑理由に関する判文を総合すれば,原判決には,前記の限度を超え,起訴されていない余罪である名誉棄損罪に該当する事実を認定し,これをも実質上処罰する趣旨で量刑判断を行った疑いがあるといわざるを得ない。
 なお,原判決は,既にみたように,本件投稿行為により被害者の社会的存在を手ひどく傷付けた行為は,殺害行為に密接に関連する旨説示し,当審検察官も,本件投稿行為は殺害行為と密接に関連するものであって殺人の犯情に属する事情にほかならず,原判決は起訴されていない別罪を実質的に処罰する趣旨で量刑をしたものではない旨主張している。しかしながら,本件投稿行為が殺害行為と密接に関連しその犯情にも関連するということと,それを実質的に余罪として認定し処罰する趣旨で量刑をすることとはそもそも別個の事柄であって,たとえ前者が認められるとしても,当然に後者に該当しないということにはならないというべきである(例えば,保険金目的の殺人について,詐欺罪では起訴されていないにもかかわらず,保険金詐欺の実行行為や利得額,その費消状況等が明らかになる証拠を採用して保険会社にも被害を与えているとの立証を許し,保険金を詐取したこと自体を殺人の刑を加重する要素として考慮することが許されないことは明らかであり,単に密接に関連していれば併せて考慮してよいということにはならない)。本件投稿行為は,それがどのように殺人の量刑要素に影響するのかという視点から考慮すべき事情であって,単に殺害行為と密接に関連するという理由のみで直ちに刑を加重できる事情であると捉えるべきではない。被告人は,被害者に対する恨みの感情から,本件殺人等の何日も前に被害者の裸の画像等をインターネット上に投稿するなどしておき,本件殺人等の約1時間半後に,これらをより不特定多数の者が閲覧できる状態にしたというのであって,本件投稿行為は,殺人の実行行為とは,生命と名誉という被害法益も異なる全く別個の加害行為であり,これを異なる機会に行ったのであるから,本来的には殺人とは別個の評価の対象となる犯罪行為である(これが起訴されれば,殺人とは併合罪の関係になる)。単に時期的に近接しているとか,被害者への復讐という同じ目的で行われている点を捉えて,本件投稿行為を殺人罪の刑の加重要素として評価することは正当でない。
 4 以上の次第で,原審の訴訟手続には判決に影響を及ぼすことが明らかな法令違反があり,原判決はこの点において破棄を免れないというべきである。
 論旨は理由がある。
第2 破棄差戻し
 よって,量刑不当の論旨について判断するまでもなく,刑訴法397条1項,379条により原判決を破棄することとする。
 なお,本件は,原審において取り調べた証拠によって直ちに判決をすることも可能な状態にあると認められ,一般的には訴訟経済の見地からはそうすることが望ましいとされているが,当裁判所は,本件については原則どおり原審に差し戻すのが相当であると判断した。すなわち,裁判員制度は,国民の中から選ばれた裁判員が加わって裁判官と協働し,国民の視点や感覚,健全な社会常識などを量刑に反映させていくことが望ましいとして導入されたものである。そうであるのに,本件のような適正な量刑のみが審理対象となる裁判員対象事件において,もともと職業裁判官のみで決定する第1審の審理手続に瑕疵があり,その結果として評議の結論も瑕疵を帯びるに至ったような場合に,職業裁判官のみで構成する控訴審が独自に正当と考える刑を量定することは,たとえ原判決で示された本件投稿行為に関する部分を除く情状に関する判断を尊重し,それを量刑の前提としたとしても,実質的には裁判員が関与することなく量刑をしたことにならないかという疑念を生じかねない。とりわけ,本件は,異性関係のトラブルから生じた殺人の事案の中でも犯情がかなり悪い事案であることは原判決も指摘するとおりであり,社会的にも耳目を集めた事件であって,類似の事例が多いような事案ではないことからすれば,再度裁判員の参加する合議体によりこれを審理し,本件投稿行為も含め,被告人の一連の行為を量刑の中心となる殺人罪との関係でどのように評価すべきであるのか,被告人の刑事責任の重さをどの程度のものと位置付けるのかを,適正な量刑資料を基に改めて評議し,その上で適切な刑を量定することが,前記のような裁判員制度の本旨にかなうものといえる。そこで,刑訴法400条本文により本件を東京地方裁判所に差し戻すこととして,主文のとおり判決する。
  平成27年2月6日
    東京高等裁判所第8刑事部
        裁判長裁判官  大島隆明
           裁判官  加藤 学
           裁判官  安藤祥一郎