児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

児童は実在する必要があるが、姿態は実在でなくてもいい(東京地裁h28.3.16)

 弁護団の速記能力による判決メモが届いた。
 法2条3項「3 この法律において「児童ポルノ」とは、写真、電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。以下同じ。)に係る記録媒体その他の物であって、次の各号のいずれかに掲げる児童の姿態を視覚により認識することができる方法により描写したものをいう」の「児童の姿態」について、「実在する児童の実在しない姿態」を含むとするのは、保護法益名誉毀損罪と混同していますよね。
 姿態をとらせて製造罪にしても、盗撮製造罪にしても、「実在する児童の実在する姿態」を問題にしているのに、どうしてここだけ「実在する児童の実在しない姿態」を含むとするのか。
 私事性的画像記録の提供等による被害の防止に関する法律(リベンジポルノ法)でも、実在する姿態の場合には(人は誰でも服の下は裸だから実在する裸を晒されても社会的評価は下がらないので)名誉毀損罪が成立しにくいから特別法を作ったんですよ。
 理屈担当弁護人としては、こういう法令適用の誤りを控訴理由で指摘すべきだと考えています。

判決メモ
東京地裁h28.3.16
児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律違反被告事件
三 事実認定の補足説明
第1 争点等
1 本件において,被告人がコンピュータグラフィックス(以下「CG」という。)集「s」及び同「s2」(以下併せて「本件CG集」という)の各画像データを作成したこと,被告人が,判示第2のサーバコンビュータに本件CG集の各画像を送信して,記憶,蔵置させるとともに,インターネット通信販売サイト運営会社に本件CG集の販売を委託したこと,同サイトを閲覧した者らが,本件CG集を購入し,インターネットを通じて同人ら使用のパーソナルコンピュータのハードディスク内に本件CG集をダウンロードしたことに争いはなく,証拠上も明らかである(以下,本件起訴対象となっている,本件CG集のうちの合計34枚のCG画像を「本件CG」とし、い,そのうちの「s」に係る18点のCG画像を「本件18点」といい,「s2」に係る16点のCG画像を「本件16点」という。)。
2 検察官は,本件18点の画像データが記録されたハードディスクが児童ポルノ法2条3項柱書の「電磁的記録に係る記録媒体」に当たり,本件CGの画像データが同法7条4項後段の「電気通信回線を通じて第2条第3項各号のいずれか(本件では3号)に掲げる児童の姿態を視覚により認識することができる方法により描写した情報を記録した電磁的記録」に当たると主張し,弁護人はこれらを否定している。
また,本件では,期日間整理手続きが行われ,同手続きにおいて,
?本件CGあるいはその各画像データと検察官がその画像の基としたとする写真とが同一であるか否か(同一性)及び本件CGの画像データの女性(以下「CG女性」という。)が実在したか否か(実在性),
?CG女性が18歳未満であるか否か(児童性),
?本件CGの各画像が「性欲を興奮させ又は刺激する」ものか否か,?被告人は,株式会社m(以下「m」という。)に本件CG集を販売委託したが,客をして本件CGを含む本件CG集をダウンロードさせる行為は,被告人が,同社(従業員)を利用した間接正犯として,児童ポルノ法7条4項の「提供」を行ったのか否か,
?本件において,児童ポルノ製造罪又は児童ポルノ提供罪が成立するには,本件CGの基となった写真の被写体の女性が,製造行為時あるいは提供行為時に18歳未満である必要があるか否か,
?本件においてT,児童ポルノ製造罪文は児童ポルノ提供罪が成立するには,同被写体の女性が児童ポルノ法施行日に18歳未満であったことを要するか否か,
において,検察官と弁護人との間で争いがあることが確認され,弁護人は,上記?ないし?のいずれをも否定し,被告人は無罪であると主張している。
第2 検察官の立証構造(特に上記第1の2?ないし?について)
・・・
第3 本件18点の画像データが記録されたハードディスクが法2条3項の「電磁的記録に係る記録媒体」として児童ポルノに当たり得るか否か(本件公訴事実第1),また,本件CGの画像データが同法7条4項後段の「電磁的記録」(本件公訴事実第2)に当たり得るか否か
1本件CGが児童ポルノ法2条3項3号の要件該当性を満たすものか否かは後に検討するが,そもそも写真ではなく,本件18点の画像データに係る記録媒体であっても法2条3項の「児童ポルノ」に当たるか否か,また,本件CGの画像データが同法7条4項後段の「電磁的記録」に当たるか否か,そして,それが,実在の児童を直接見ながら描かれたものではなく,写真を基に描かれたもので、あってもそれらに当たり得るか否かを検討する。
2児童ポルノ法は,18歳未満の者である「児童」に対する性的搾取及び性的虐待が児童の権利を著しく侵害することの重大性に鑑み,あわせて児童の権利の擁護に関する国際的動向を踏まえ,児童買春,児童ポルノに係る行為等を処罰するとともに,これらの行為等により心身に有害な影響を受けた児童の保護のための措置等を定めることにより,児童の権利を擁護することを目的としている(同法1条)。そして,児童ポルノ法7条は,児童ポルノに描写された児童の,心身に有害な影響を及ぼし続けるだけではなく,このような行為が社会に広がるときには,児童を性欲の対象としてとらえる風潮を助長することになるとともに,身体的及び精神的に未熟である児童寸交の心身の成長にも重大な影響を与えるため,児童ポルノを製造,提供するなどの行為を処罰するものである。こうした目的趣旨に照らせば,「適用に当たっては,国民の権利を不当に侵害しないように留意しなければならない」(同法3条)ものの,同法2条3項各号のいずれかに掲げる児童の姿態を視覚により認識することができる方法により描写したと認められる物については,CGの画像データに係る記録媒体であっても児童ポルノ法2条3項にいう「児童ポルノ」に当たり得,また,同画像データは同法7条4項後段の「電磁的記録」に当たり得るというべきである(なお,実在の児童を描写した絵であっても,同法2条3項柱書の「その他の物」として児童ポルノに当たり得るというべきである。)。そして,このような児童ポルノ法の目的や同法7条の趣旨に照らせば同法2条3項柱書及び同法7条の「児童の姿態」とは実在の児童の姿態をいい,実在しない児童の姿態は含まないものと解すべきであるが,被写体の全体的な構図,CGの作成経緯や動機,作成方法等を踏まえつつ,特に,被写体の顔立ち,性器等(性器肛門又は乳首),胸部や臀部といった児童の権利擁護の観点からしても重要な部位において,当該CGに記録された姿態が,一般人からみて,架空の児童の姿態ではなく,実在の児童の姿態を忠実に描写したものであると認識できる場合には,実在の児童とCGで描かれた児童とが同ーである(同一性を有する)と判断でき,そのような意味で同ーと判断できるCGの画像データに係る記録媒体については,児童ポルノ法2条3項にいう「児童ポルノ」あるいは同法7条4項後段の「電磁的記録」として処罰の対象となると解すべきである。
そして,このことは,実在の児童を直接目で見ながらCGを描いた場合でなくても,実在の児童を写した写真(写真撮影時には,架空の児童でなく被写体の児童が存在していることが前提である。)を忠実に描き,上記の意味において同写真と同ーと判断できるCGについても同様と解すべきである。
3また,本件CGの中には,複数の写真を利用して作成したと認められるものが桐生するところ,合成写真,疑似ポルノあるいはコラージュが児童ポルノに該当するかという問題がある。
この点,合成写真であれば,およそ「児童ポルノ」に当たらず,例えば,Aという児童の顔及びその身体の大部分が写されている写真に,他の者の手足の写真が合成された場合であっても,それを一律に実在の児童ではないとして児童ポルノ法の規制が及ばないと解するのは前記児童ポルノ法の目的や趣旨に照らして相当ではないというべきである。さらに,Aという児童の顔にBという児童の裸の身体の写真を合成した場合で、あっても,Bという児童が実在する限り,それは「実在の」児童と解すべきである。
もっとも,CGや絵の場合には,それが稚拙なためにモデルとした実在の児童を描こうとしても同児童とはおよそ認識できず,そこにおいて一般人からみてモデルと出来上がった物とが同ーとは認められない場合や,モデルとした1名の児童と顔の同一性及び身体の全体の輪郭の同一性が認識あるいは判断できる物であっても,胸部や陰部に加工するなどして(一般人をして児童ではなく成人であると認識されるほどに加工する場合などは典型である。),同部位においてモデルの児童との同ー性が認められず,同児童を描いたとはいえなくなる可能性があることに留意する必要がある。また,昨今のカメラやコンビュータ・ソフト等の機能向上に伴い,写真や画像データに改変を加えることが容易となっていることにも留意する必要があり,その観点からすると,CGとその基となった写真の被写体との構図等が異なる場合には,CGの作成経緯や動機,作成方法等を踏まえて,元になった写真との同ー性の有無や他の写真とを合成して描かれたものではないかなどを慎重に判断する必要がある。したがって,出典が不明で,画像データのみが存在する場合,そのデータ画像のみから合成の有無や実在性を判断することは相当に困難である。