児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

性犯罪・福祉犯(監護者わいせつ罪・強制わいせつ罪・児童ポルノ・児童買春・青少年条例・児童福祉法)の被疑者(犯人側)の弁護を担当しています。専門家向けの情報を発信しています。

強姦場面を隠し撮りしたビデオを没収した事例(宮崎地裁h27.12.1)

 2号の密接関連物件でしょうか。
 177後段と児童ポルノ製造罪については、姦淫と撮影は社会見解上別個の行為だという判例がいくつかありますが、没収の場合はくっつけて考えるようです。
 こういう理由だと、単に、後で見て楽しむというよくあるハメ撮り事例の場合に没収できなくなります。

女性被害のビデオ没収 強姦などの罪、懲役11年 宮崎地裁判決 【西部】2015.12.02 朝日新聞
 ビデオについて判決は、被害者とトラブルが生じたときに被告が自分に有利な証拠になり得るという認識があった、と指摘。「映像を確保することで犯行を心理的に容易にした」と判断し、没収を認めた。

刑法
第19条(没収)
次に掲げる物は、没収することができる。
一 犯罪行為を組成した物
二 犯罪行為の用に供し、又は供しようとした物
三 犯罪行為によって生じ、若しくはこれによって得た物又は犯罪行為の報酬として得た物
四 前号に掲げる物の対価として得た物
・・・
判例コンメンタール
犯罪の実行行為自体を遂行する手段として使用し、又は使用しようとした物がこれに該当することは明らかであるが、犯罪の実行行為に密接に関連する行為に使用するなどした物も供用物件に該当する。これらの物も犯罪行為の朋に供したといい得るからである。例えば、実行行為の着手前又は実行行為の終了後において、実行行為を容易にしたり、逃走を容易にするため、逮捕を免れるため、その他犯罪の成果を確保するためになされた行為に使用し、又は使用しようとした物などがこれに該当する。窃盗の事案において、起訴されていない住居侵入に使用された平角鉄棒について、窃盗の手段としてその用に供したとして没収を認めたもの(最判昭25 ・9 ・14 刑集4 ・9 ・1646) 、鶏を窃取した後、その現場ないし現場付近で当該鶏を運搬しやすいようにするため首を切るのに使用lしたナイフを供用物件と認めたもの(東京高判昭26 田6. 18 刑集6 ・7 田848) などがある。

住居侵入,強盗強姦,強姦致傷,強姦未遂,窃盗被告事件
東京高等裁判所
平成22年6月3日第12刑事部判決
なお,原判決は,原判決主文掲記のビデオテープ2本について,原判示第3あるいは第6の強盗強姦の犯行によって生じた物であるとして,刑法19条1項3号を適用して没収している。しかし,同号の「犯罪行為によって生じ」た物とは犯罪行為によって作り出された物をいうものと解されるのであって,上記各ビデオテープには強盗強姦の犯行がなければ撮影されなかった画像が記録されているものの,ビデオテープ自体は強盗強姦の犯行によって生じた物ではなく,同号に該当する物とはいえないから,原判決には法令適用の誤りがある。もっとも,上記各ビデオテープは,各強盗強姦の犯行を撮影したもので,犯罪遂行の手段として用いられたものといい得る。したがって,犯行に供した物として刑法19条1項2号を適用して没収することが可能であり,かつ,没収するのが相当であるから,上記法令適用の誤りが判決に影響を及ぼすものではない。

福嶋一訓・研修759号23頁
住居侵入,強盗強姦の犯行において,姦淫の際の様子を記録したビデオテープは,刑法19条1項2号の犯罪行為の用に供した物に該当するが,同項3号の犯罪行為によって生じた物には該当しないとされた事例〈新判例解説〉
安田拓人・ジュリスト臨時増刊1440号151頁
〔平成23年度重要判例解説〕強盗強姦の様子を撮影記録したビデオテープと没収の客体
只木誠・新・判例解説Watch(法学セミナー増刊)10号137頁
住居侵入、強盗強姦の犯行において、姦淫の際の様子を記録したビデオテープは、刑法19条1項2号の犯罪行為の用に供した物に該当するが、同項3号の犯罪行為によって生じた物には該当しない〈とされた事例〉

岡田志乃布検事「強制わいせつ及び強姦の犯行状況を隠し撮りしたデジタルビデオカセットを犯行供用物件として没収した事例(宮崎地裁h27.12.1)研修813号

第1 はじめに
最近,強制わいせつや強姦等のいわゆる性犯罪の事件において,犯人がわいせつ行為等の状況をデジタルビデオカメラや携帯電話・スマートフォン等で撮影し,その画像が保存されているケースが多く見られるようになっている。
そのような事件の性犯罪の被害者から,被害に遭ったことによる精神的なダメージだけでも大変な苦しみを感じているにもかかわらず,その被害状況が映像として保存され,犯人の手元に残っていることによって,更に大きな精神的苦痛を負わされているといった訴えを受けたことのある捜査官も少なくないと思われる。
本判決は,強制わいせつ及び強姦事件の犯人がその犯行状況を隠し撮りしたデジタルビデオカセットを,刑法第19条第1項第2号の「犯罪行為の用に供した物件」として没収した事例である。
従来の運用では,このような犯行状況を隠し撮りしたビデオ等について,検察官が没収を求刑することが少なかったものと思われるが,前述のような近時の状況に鑑みると,今後の捜査・公判に参考となるものと思われるため,ここに紹介するものである。
なお,本稿中,意見にわたる部分は,もとより私見である。
2本判決の要旨等
事案の概要
本件は,アロマサロンを経営していた被告人による,マッサージの指導を受けに来ていた女性1名に対する強姦未遂事件,アロママッサージの施術を受けに来た女性3名に対する強制わいせつ事件3件,同じくアロママッサージの施術を受けに来た女性1名に対する強姦事件1件の合計5件の事案である。

・・・

5 また,本件では,「被告人による隠し撮りは, Bら4名に対する実行行為そのものではなく,もとより被告人がこうした隠し撮りを行ったことをもって訴追されたわけでもない。」とされているとおり,撮影行為自体は実行行為の一部となっているものではない。しかし,被害者を裸にして写真を撮る行為はわいせつ行為に当たるとした裁判例(東京地判昭和62年9月16日・公刊物未登載,判例評釈として松下裕子「警察公論第58巻第1号」59頁がある。)や,被害者の寝姿をビデオ撮影しながら自慰行為を行い射精して着衣に精液をかけた一連の行為をわいせつ行為と認めた裁判例(福岡地判平成13年10月17日・公刊物未登載,判例評釈として前掲松下)などからすれば,事案によっては, わいせつ行為や姦淫行為を撮影する行為自体も,強制わいせつ等の実行行為の一部として評価し,公訴事実に含めることも可能である場合もあると思われる。そして,撮影行為自体が実行行為の一部と認められる場合,録画したビデオテープ等の記録媒体は,刑法第19条第1項第3号の「犯罪行為により生じた物」に該当すると考えることも可能であるように思われる(前記平成22年東京高判の事例では,撮影行為自体は実行行為の一部となっていなかったものと思われる。)。
第4おわりに
本判決は,性犯罪の犯行状況を隠し撮りした記録媒体を,刑法第19条第1項第2号の「犯罪行為の用に供した物」に該当するものとして没収したという意味で,重要な意義を有するものとともに,被害者保護の観点からも,重要な判決であると思われる。
もっとも,刑法第19条により没収することができるのは,犯行の際に撮影された記録媒体の原本のみであると解されるため,犯人が犯行後に作成した複製物等がある場合には,没収のみでは被害者の保護として十分なものとならない場合もあると思われる。また,被害者が事件が公になることを望まないため公訴提起に至らなかった事件においては,没収という方法を採ることができない。
このような場合には,民事訴訟による解決が必要となる場合もあると思われる。高松高判平成17年12月8日判例時報1939号36頁は,刑事事件としては不起訴処分となった事件の被害者の裸体を撮影したフイルムについて,被害者が写真撮影に同意していたものではなく,存在すること自体が被害者のプライバシーを侵害し又は侵害するおそれのある物であるとして,人格権に基づく妨害排除ないし妨害予防請求としてフイルムの廃棄を認めたものであり,参考になるものと思われる。
本稿が,今後の実務の参考となれば幸いである